(3)49%出資という合弁ならではの制約
KLTの出資比率は、LT Foodsが51%、亀田製菓が49%だった。亀田製菓にとっては連結子会社ではなく持分法適用会社であり、価格政策や販売チャネルへの追加投資を単独で決められる立場にはなかった。現地パートナーの販売網を活用できるのは合弁の利点だが、立て直しを急ぐ局面では、意思決定の速さが制約されやすい。亀田製菓が今回の発表で「単独株主体制のもとでの成長」を理由に挙げているのも、この点を踏まえたものと読める。
今回の判断は、2025年から続く北米事業の構造改革の延長線上にある。亀田製菓は2025年4月、2012年に買収した米国のグルテンフリークラッカー会社Mary’s Gone Crackersを、カナダの菓子大手Dare Foods傘下の企業に譲渡した。同年6月には、1989年から出資してきた米TH FOODSを完全子会社にしている。TH FOODSは「CRUNCHMASTER」ブランドのグルテンフリークラッカーを展開しており、2026年3月期の調整後営業利益は3200万ドルと、過去最高に迫る水準だった。
同社は2031年3月期に連結売上高1600億円、海外事業比率43%を目標に掲げており、北米については2030年代前半に売上高745億円という数字を示している。アジアでは、ベトナムの「ICHI」ブランドや中国での自社ブランド事業が好調な一方、タイやカンボジアのOEM事業は苦戦している。
こうして並べてみると、KLTの年間売上高は1億4000万ルピー程度で、TH FOODS1社が1年間に稼ぐ利益と比べても桁が違う。赤字の合弁に追加で資金と人材を投じるよりも、利益を出している北米と、ブランドが育ちつつある東南アジアに集中する。亀田製菓自身も、今回の株式譲渡が「KLTの成長と当社グループの中長期成長戦略の実行に資する」と説明している。
「企業が見るべきなのは市場の大きさではなく、自社がその市場で勝てるかどうか、そしてそれがいつになるかです。インド市場の潜在力が高いことは誰も否定しません。ただ、黒字化の見通しが立たない事業に経営陣の時間を割き続ければ、伸びている事業の意思決定が遅れます。持分法の損失よりも、そうした見えにくいコストのほうが大きいことが多いのです」(同)
(1)「撤退=失敗」という発想から離れる
日本企業の海外事業では、「ここまで投資したのだから」という理由で赤字事業が延命されるケースが少なくない。KLTの設立は2017年で、インド出身のジュネジャ・レカ・ラジュ氏(現・代表取締役会長)が亀田製菓に入社する2020年より前に決まっていた。経営トップの出身地という話題性のある事情があっても、判断は業績の数字に沿って行われた。経営陣の属人的な思い入れではなく、数字に基づいて事業を評価できるかどうかは、ガバナンスの質を測るひとつの目安になる。
(2)清算ではなく、事業を続けられる相手への譲渡
今回は会社を清算するのではなく、事業を続ける意思を持つ合弁相手に株式を引き渡す形をとった。LT Foodsの開示によると譲渡対価は1120万ルピー。亀田製菓は譲渡価額を開示していないが、連結業績への影響は「軽微」としている。ブランドや工場、従業員はLT Foodsのもとで事業を続けられ、亀田製菓は追加の資金負担から解放される。双方にとって落としどころのある形だ。
「新興国の合弁を清算しようとすると、許認可や雇用、債権者との調整に数年かかることも珍しくありません。事業を引き継ぐ意思のあるパートナーがいて、その相手に持ち分を売れるのは、撤退の方法としてはもっとも負担が小さい部類に入ります。合弁を組む段階で、撤退時の株式の買い取り条件をどれだけ具体的に決めておくかで、出口の難しさは大きく変わってきます」(同)