では、EVの急速充電器を置けば解決するのか。話はそう単純ではない。
「急速充電は設備投資と電力の契約容量にかかる負担が大きいわりに、1回あたりの売上は給油より小さく、利用台数が読みにくい。充電器単体で採算を取るのは、現状では難しい。充電の数十分をどう過ごしてもらうか、つまり飲食や物販、洗車などとの組み合わせで設計しないと、設備が遊んでしまいます」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
地域インフラとしての役割も見落とせない。国は災害時に停電しても給油を続けられるよう、自家発電設備を備えた「住民拠点SS」の整備を支援してきた。過疎地では、自治体が廃業したスタンドを引き継ぎ民間に運営を任せる「公設民営」の例も生まれている。民間の採算だけでは維持できない地域があることも、また事実だ。
スタンドが持つ資産を並べてみると、幹線道路沿いの広い敷地、危険物を安全に扱う管理のノウハウ、地域の常連客との日常的な接点、そして災害時に頼られる拠点としての信頼がある。ガソリンの販売量が減っても、これらの価値がすぐに消えるわけではない。
「スタンド業界は、売上の大半を一つの商品に依存してきた典型的な成熟産業です。自社の強みを『燃料を売ること』と定義している限り、需要減に合わせて縮むしかない。立地と設備と顧客接点を持つ『地域の拠点』と定義し直せば、組み合わせられる事業の幅は大きく変わります」(同)
もちろん、どの事業を組み合わせれば成り立つかは立地によってまったく異なる。都市部の幹線沿いと山間部の町とでは、答えは同じにならない。万能の処方箋はないと考えたほうがいい。
それでも、主力商品の需要が構造的に減っていく局面で、手元の資産を棚卸しし、事業の定義から見直すという作業は、ガソリンスタンドに限った話ではない。デジタル化や脱炭素の波を受ける多くの業種にとって、スタンドの模索は身近な参考事例になるはずだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)
【主な参照データ・出典】
日本経済新聞(モビリティ・グローバルのデータに基づく2026年上半期の動力別世界販売)、Electrek(2026年10月5日、同データの内訳)
IEA「Electric car markets in a time of uncertainty」(2026年上半期の世界EV販売)
Hürriyet Daily News(EU 2026年1〜8月の動力別販売、ACEAデータ)
共同通信(2026年9月9日、ガソリン価格と補助金)
読売新聞・共同通信(2026年上半期の国内EV販売、1〜7月の登録車EV販売)
MONOist(サクラ・eKクロスEV累計生産、ヤマト運輸の会見)
共同通信・Car Watch(BYD「ラッコ」発売)
Kyodo(トヨタ2026年上半期世界販売)
資源エネルギー庁「令和6年度末揮発油販売業者数及び給油所数」
くるまのニュース(SS過疎地381市町村、資源エネルギー庁資料に基づく)
帝国データバンク(2024年ガソリンスタンド倒産・休廃業)
ENEOS「SS過疎地研究会」資料(2022年)、「新たな地域燃料流通に関する研究会」資料(2025年12月)
LOGISTICS TODAY(ENEOS・三菱商事のLife Hub Network、ENEOS×SORABITO実証)