外資の日本企業買収、9カ月で前年超え…なぜ「地味な優良企業」が狙われる?

狙われるのは「地味」な素材・部材メーカー

 象徴的なのが太陽ホールディングスだ。プリント基板向けの保護膜インキで世界トップの化学メーカーだが、一般の知名度は高くない。米KKRは2026年3月、同社の非公開化を前提としたTOBで合意したと発表した。自己株取得を含めた買収総額は約4906億円。筆頭株主のDICは保有株を売却し、非公開化後には積水化学工業が9.99%を出資する。

 太陽ホールディングスは理由として、短期的な成果に過度にとらわれず中長期の戦略を遂行できる体制づくりを挙げた。物言う株主との対立が続いていたことも、背景にあるとみられている。米アポロ・グローバル・マネジメント系ファンドによる日本板硝子の非公開化(企業価値約5900億円、9月30日に手続き完了)も、成熟した素材産業に外資が値段をつけた例だ。

 こうした企業に共通するのは、技術や顧客基盤は強いのに、市場の評価がそれに見合っていない点だ。ファンドの価値向上策は、魔法ではない。製品ごとの採算を洗い出して価格を見直す。主力と関係の薄い事業や資産を整理する。海外の販路や追加のM&Aで規模を取りにいく。いずれも教科書に載っている施策だ。違いは、株主と経営が一体になり、数年という期限を切って実行するところにある。

 では、なぜ企業自身ではできなかったのか。値上げを切り出せば、長年の取引関係に響く。不採算事業を畳めば、社内の雇用や地元への配慮が要る。大株主や取引先との株の持ち合いが、資本の入れ替えを遅らせる。経営者個人の怠慢というより、合意形成を重んじる仕組みが生んだ結果と見るほうが実態に近い。

「日本の中堅メーカーには、品質では勝っているのに価格決定権を握れていない企業が少なくありません。外部株主の規律が入ると、意思決定の優先順位が変わる。価値向上の多くは、新しい技術よりもその優先順位の変化から生まれます」(同)

規制は強まっているのに止まらない理由

 国も手をこまねいているわけではない。2026年6月には改正外為法が公布された。日本企業の株を持つ外国法人を買収し、間接的に支配する行為も審査対象に加えるなど、対内直接投資の審査を一段と細かくした内容だ。

 ただ、財務省は改正の目的を「我が国経済の健全な発展に寄与する対内直接投資を一層促進」しつつ、安全保障上のリスクに対応することだと説明している。外資を一律に締め出す仕組みではなく、守るべき領域を絞り込んだうえで、それ以外の投資は受け入れる設計なのだ。規制の強化と買収の増加は、矛盾しているようで実は両立している。

 もう一つの理由は、国内に大型案件の買い手が少ないことだ。国内の投資会社も数千億円規模のファンドを組むようになったが、海外大手が一度に集める資金とはなお桁が違う。数千億円の非公開化に、エクイティで単独で応じられる国内勢は限られる。事業会社による同業買収も選択肢だが、独占禁止法や統合後の調整を考えると、どの案件にも使えるわけではない。

「外資規制を、経営改革を先送りする理由に使う企業もあります。ただ、それで企業価値が上がらなければ、株主の不満は別の形で出てきます。問われているのは資本の国籍ではなく、その資本をどう生かすかです」(同)

これから起きる3つの変化

(1)非公開化は「例外」ではなくなる
 レコフデータによると、M&Aやグループ内再編で上場廃止を前提とした案件は2025年に142件。前年から51%増え、新規上場の66件を76件上回った。うちMBOは30件で、上場企業数は2023年をピークに減少に転じている。上場を続ける意味を問い直す企業は、今後も増えるだろう。一方で、東証の施策が企業をMBOへ追い込んでいるという指摘もある。少数株主の保護や買収価格の公正さは、引き続き議論の焦点になる。