外資の日本企業買収、9カ月で前年超え…なぜ「地味な優良企業」が狙われる?

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●この記事のポイント
2026年1〜9月の日本企業M&Aは3883件で過去最多となり、海外勢による買収額は約6.2兆円と、9カ月で前年1年分を超えた(レコフデータ)。円安に加え、東証の資本コスト要請と、後継者不在率50.1%が示す事業承継の需要が重なり、KKRによる太陽HDの非公開化など中堅素材メーカーの買収が続いている。改正外為法のもとでも進む再編の構造と、働く人への影響を解説する。

 日本企業が関わるM&Aが、また過去最多を更新した。レコフデータによると、2026年1〜9月の件数は3883件。前年同期から5.0%増え、同期間としては3年連続の最多だ。

 目を引くのは、海外勢による日本企業の買収(OUT-IN)である。件数は326件で21.2%増。日本経済新聞の報道によれば、金額は約6兆1957億円に達し、わずか9カ月で2025年の年間実績を上回った。

「円安で日本が安く買われている」。そう片付けるのは簡単だ。ただ、数字を追っていくと、為替だけでは説明しきれない部分が残る。買い手は何を見て、どこに値段をつけているのか。その構造を整理すると、日本企業とそこで働く人がこれから向き合う変化の輪郭が見えてくる。

●目次

円安、東証、事業承継――3つが同時に効いている

 まず為替だ。ドル円は10月中旬時点で1ドル=157〜158円台と、円安水準が続く。ドル建てで資金を集める海外ファンドにとって、円建ての資産は割安に映る。資金も厚い。日経の報道によれば、スウェーデンのEQTは4月に156億ドル規模のアジア太平洋ファンドを組成。米ベインキャピタルは5月、105億ドル規模のアジアファンドのおよそ半分を日本に投じる方針を示した。

 ただし、円安は2022年から続いている。今になって案件が積み上がっている理由は、ほかの2つの要因にある。

 1つは東京証券取引所の動きだ。東証は2023年3月、プライムとスタンダードの全上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請した。規則による義務ではなく、PBR(株価純資産倍率)1倍割れもあくまで「目安」だ。それでも効果は大きかった。2026年8月末にはプライム市場の94%が対応を開示し、PBR1倍割れの比率もプライムで50%(22年7月)から27%(26年3月)へ下がった。

 ただ、中身はまだ追いついていない。東証の調査では、事業ポートフォリオの見直しを「実施している」企業は28%にとどまる。一方、投資家の73%はそこを課題とみている。開示は進んだが、事業の組み替えまでは手が回らない。このギャップに、非公開化を前提とした買収提案が入り込む。

 もう1つが事業承継だ。帝国データバンクによると、2025年の後継者不在率は50.1%。7年連続で下がり、過去最低を更新した。注目したいのはその中身で、事業承継の経緯に占める「M&Aほか」は20.6%と、前年の19.2%から伸びた。後継者問題は、M&Aという出口を通じて解消されつつあるとも言える。日経によれば2026年1〜9月の事業承継目的のM&Aは833件で2007年以来の多さだった。2027年分から強化される高所得者向けの追加課税(いわゆるミニマムタックス)を前に、売却を急ぐオーナーもいるという。

「円安はきっかけにすぎません。買い手が見ているのは、資本効率を上げる余地がどれだけ残っているか。東証の要請をきっかけに、その余地が開示資料の数字で見えるようになった。買い手にとっては、以前より探しやすい市場になっています」(証券アナリスト・堀野剛志氏)