「海外からの観光客からよく聞くのは、風景の話よりも、むしろ『道中で何も困らなかった』という感想です。給油も休憩も食事も、計画どおりに運ぶ。その安心感があるから、運転そのものを楽しめるのだと思います」(同)
地方にとって、この動きは小さくない意味を持つ。インバウンドの恵みは、まだ大都市に偏っているからだ。
政府が2026年3月に閣議決定した第5次観光立国推進基本計画の資料によると、2025年の訪日客の延べ宿泊者数のうち、三大都市圏が約66%を占め、地方部は約34%(6056万人泊)にとどまる。計画は2030年に地方部を1.3億人泊とし、三大都市圏と同等の水準に引き上げる目標を掲げた。ざっと2倍の規模だ。
新幹線や飛行機は、「点と点」を結ぶ。その便利さと引き換えに、あいだにある山間の集落や宿場町は、窓の外を流れていくだけの風景になりがちだ。自動車の旅は、この構図を変える。給油、昼食、写真を撮るための寄り道。「線」の上に立ち寄る理由が生まれ、地元の食堂や酒蔵、旧街道の町並みが消費の場になりうる。
「数」より「質」という観点でも、筋は悪くない。観光庁の資料では、着地消費が1人100万円以上のいわゆる「高付加価値旅行者」は、2019年に訪日客全体の約1%に過ぎないが、消費額の約11.5%を占めた。ただし、その消費は地方では少ないとされる。少人数で大きな消費を生む層を地方に導ければ、混雑を招かずに地域へお金を落とす道が広がる。
マクロの数字も、この方向を後押しする。JNTOの推計では、2026年1~9月の訪日客数は3073万200人で、前年同期比2.9%減となった。JNTOは直近9月の減少要因として、中東情勢による航空券価格の上昇や減便、台風による欠航などを挙げている。一方、7~9月期の旅行消費額は2儆2076億円で前年同期比3.2%増、1人当たり支出は6.1%増だった(いずれも速報値)。人数が伸び悩む局面で、単価をどう上げるか。その問いに対するひとつの答えが、「道」にある。
「小さな町では、人数で勝負すると宿も駐車場もすぐに足りなくなります。一日に数台でも、食事と宿泊でしっかりお金を使ってくれるお客が来てくれるなら、生活への影響も少なく、住民の理解も得やすい。ただ、訪れてもらうための情報発信は、まだ種まきの段階です」(同)
この市場は、参入する側にとって決して楽な商売ではない。高額な車両を保有し、保険を手当てし、言葉も交通ルールも異なる利用者に貸し出す。一つの事故が、事業そのものを揺るがしかねない。
先の rentmejp は2025年に誕生したブランドだ。日本で約30年楽器ビジネスに携わってきたパオリ氏と、アジアのラグジュアリー分野で経験を積んだ共同創業者が立ち上げ、フェラーリやポルシェ、アストンマーティンなどを揃える。同社サイトによれば、運転者は26歳以上。日本の免許のほか、1949年ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証、一部の国・地域は公的な日本語翻訳文が必要とし、保険は料金に含めている。利用の条件を細かく設けることが、そのまま商品の信頼性になっている。
地域との組み合わせも始まった。同社は2026年9月、長野県白馬村の「ホテル ラ ネージュ」と組み、東京と白馬をスーパーカーで往復する2泊3日の「The Alpine Grand Tour」を発表した。宿泊、地元食材を使うコースディナー、地元の居酒屋ダイニングでの夕食、ゴンドラチケットをセットにし、春から秋に限って販売する。世界的なスキーリゾートに、雪のない季節にも訪れる理由をつくる。ホテルを運営する白馬ホスピタリティグループのCEOは、白馬へ向かう「道のり」そのものも旅の体験にしたいと語っている。レンタカーが「足」ではなく、季節の偏りを平準化する「集客装置」として使われている点は興味深い。