もちろん課題もある。国土交通省によると、国際免許または外国免許を持つ外国人運転者のレンタカー事故は、2020年の47件から2025年には212件へ増えた。2020年はコロナ禍で訪日客自体が極端に少なかった年であり、倍率だけを取り出して議論するのは控えたいが、利用が広がれば安全への投資が欠かせないことは確かだ。同省は2026年7月、新千歳・福岡・那覇の各空港周辺で、右折の進路を示すカラー舗装や誤進入を防ぐラバーポールといった対策を本格導入すると発表している。沿道の住民にとっては、エンジン音や駐車マナーも気になるところだろう。事業者と地域が、走り方のルールや推奨ルートを一緒につくれるかどうかが、この市場の息の長さを決める。
「高額車両を訪日客に貸す場合、車両損害だけでなく、事故後の言語対応や帰国後の示談までを見越した設計が求められます。年齢や運転歴の条件、走行距離の上限など、リスクを細かく切り分けて管理できる事業者ほど、保険も組みやすいのが実情です」(同)
スーパーカーで日本を走る旅は、今のところごく一部の富裕層に限られた市場だ。市場規模を示す公的な統計も、筆者が確認した範囲では見当たらない。この動きだけで地方の課題が解決するわけではないし、そう期待するのも無理がある。
それでも、この事例から読み取れることは多い。新しい施設を建てたわけでも、新しい名所を発見したわけでもない。既にある道と景色、既にある宿と食。それを「移動」という切り口で編集し直しただけで、新しい商品が生まれている。今後、運転手付きの高級車ツアーや、旧街道を巡るサイクリングなど、「道の体験」を売る商品は形を変えて広がっていくだろう。
ビジネスに携わる人にとって、これは観光に限らない話だ。自社が「コスト」や「当たり前」として扱っているものが、別の顧客から見ればお金を払う理由になっていないか。成熟したと言われる市場にも、そういう余白はまだ残っている。
リスクを取って新しい体験を設計する移動事業者と、それを受け止める地域の宿や店、そして安全な道を支える行政。三者がそれぞれの役割を果たしたとき、「通り過ぎるだけだった道」は、訪れる理由のある道に変わる。その変化がどこまで広がるのか、引き続き注目したい。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト)
【主な参照データ・出典】
日本経済新聞(日経MJ)「フェラーリ1日レンタル30万円、訪日客に人気 移動が旅の醍醐味に」2026年9月25日
白馬ホスピタリティグループ(PR TIMES)「ホテル ラ ネージュとrentmejpが「THE ALPINE GRAND TOUR」をスタート」2026年9月10日
rentmejp「東京でフェラーリをレンタル」(利用条件・FAQ)
観光庁「インバウンド消費動向調査2026年7-9月期(1次速報)」2026年10月21日
日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年9月推計値)」2026年10月21日
トラベルボイス「訪日外国人数、2026年9月は5%減の310万人」2026年10月21日(1~9月累計の数値)
観光庁「観光立国推進基本計画」および概要資料(PDF)、2026年3月27日閣議決定
国土交通省「訪日外国人レンタカーの交通安全対策を空港周辺地域で本格展開」2026年7月17日
日本経済新聞「道を地域の観光資源に 日本風景街道147ルート」2026年2月27日
公益財団法人日本交通公社「「高付加価値旅行者」をどう捉えるか?」2026年9月7日