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1巻

1-3

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「なるほど……」

 それならば、あの驚きようも納得だ。少しばかり迂闊うかつだったと反省しつつ、この世界の食事情について考える。
 地球とは違うわけだから、砂糖以外の調味料も貴重な可能性は低くない。俺の知らない調味料類がたくさんあっても変ではないし、予想もつかぬような食文化が浸透しんとうしているかもしれないわけだ。

「……メグルさん?」
「ああ、すみません! ぼーっとしてまして。グラノールさん達にはお世話になったので、この砂糖はぜひ受け取ってください」
「いいんですか?」
「もちろんです」

 そう頷くと、喜色をあらわにするグラノールさん。

「ありがとうございます!! そうだ、こんなに良い物をいただいたのですから……」

 彼は隣のフレジェさんに目配せし、カバンから何かを取り出させる。何だろうと思っていると、重そうな見た目の布袋を渡された。

「貴重な砂糖をいただいたお礼です。一日分くらいの食費にはなると思いますので、好きなように使ってください」

 袋の口からは、たくさんの貨幣かへいのぞいている。

「そんな……砂糖はお礼の品なのに、悪いですよ」

 一日分の食費とは言われたが、どう考えてももらいすぎだ。この国の貨幣価値はわからないが、布袋にはかなりの重さがあるように見える。

「砂糖をお礼に貰っては、こちらのほうが貰いすぎですよ。それにメグルさんは、お金を持っていないでしょう?」
「お金は……ないですけど」

 笑いながら言うグラノールさんに図星をつかれ、一瞬言葉を失う。
 結局は押し切られる形で、お金を受け取ることになった。

「メグルさん、今日は楽しい時間をありがとうございました。私達は明日の午前までこの街に滞在するので、何かあれば訪ねてください」

 グラノールさんにそう言われた後、フレジェさんから小さな紙切れを渡される。それは彼らの泊まる宿の名前と住所が書き込まれたものだった。
 この世界の言語のようだが、普通に読めるのは神様のサポートのおかげだろうか?
 ふとそんなことを考えつつ、俺は馬車から降りる。

「ありがとうございました! 王都に行ったら絶対店に行きますから!」
「ええ、お待ちしております。その際はまた、エッセンの話をしましょう」

 グラノールさんの言葉と共に、ゆっくり馬車が動き出す。
 俺は深く頭を下げ、彼らの馬車が角を曲がるまで見送った。馬車の姿が見えなくなると、少しだけさびしい気持ちになる。
 王都には絶対行こう――そう決意し、拳を握る俺。
 周りを見回せば、活気にあふれる街の様子が目に入った。
 この世界に来て初めての街。俺にとって本当の意味で、新たなスタートとなる場所だ。
 静かに深呼吸をした俺は、人生を紡ぐ大きな一歩を踏み出した。




 第三話 恩人と異世界料理


 異世界初めての街、フォレット。
 街に入る前に聞いた説明によると、王国北部にある中規模の街ということだ。人口に対して小さめな街なのでにぎわいがあり、良質な飲食店が比較的多いと言っていた。
 軽く見た感じ、中世ヨーロッパの街に似ている印象だ。以前ヨーロッパ遠征に行った際、どこかの旧市街で似たような街並みを見たことがある。
 そして異世界ならではの光景が、通りを歩く人々の姿。
 獣耳が生えた人や腕をうろこに覆われた人、身長の低いドワーフのような人等がいて、街娘風やよろい姿等、その格好も様々だ。空想世界の住人達が歩く光景に、この場所がもう地球ではないのだと実感する。

「さてと……」

 そんな様子を眺めながら俺が目指すのは、グラノールさんにおすすめされたレストラン。
 街を説明するついでと言って、知人の店を教えてくれたのだ。かつては王都で店を構えていた実力者が開いた店で、料理の味は間違いないらしい。
 馬車を降りた場所から、大通りを歩くこと数分。教えられた裏路地を曲がると、壁全体が赤い小洒落こじゃれた店が目に入る。
 看板に書かれた店名は『フォレットの森』。グラノールさんにすすめられた店で間違いない。
 赤い壁にえる水色の扉から中に入ると、こちらに気付いた給仕の女性が席まで案内してくれた。席に着いた俺は、さきほど貰った布袋の中身を女性に見せる。

「すみません……この国のお金に詳しくないのですが、これで足りるでしょうか?」
「えーと……」

 袋を覗き込んだ女性の目が見開かれる。

「十分ですよ! これだけあれば十皿……二十皿食べても平気な額がありますね!」

 念のため確認した結果、やはり結構な額だったらしい。
 グラノールさんはたいした額じゃないと言ったが、追加のお礼をしなければいけないな。
 俺はそう思いつつ、おすすめのメニューを尋ねる。初めて訪れるレストラン、それも異世界のレストランとなれば、自分で選ぶより店のおすすめを出してもらうのが安心だろう。

「当店のおすすめは『タウルスの塩煮込み』です。フォレットの郷土料理でして、当店が王都にあった時から人気のメニューだったんですよ!」
「では、それを一皿お願いします」

 厨房ちゅうぼうに向かう彼女を見送った俺は、店内の様子を観察する。
 外観と同じく洒落た内装で、ヨーロッパ風のカフェといったおもむきだ。客層も落ち着いた感じで、居心地の良い静かな空気が流れている。

「タウルスの塩煮込み……どんな料理なんだろう?」

 タウルスと聞くとケンタウロスやミノタウロス等が思い浮かぶが、牛系の動物か何かだろうか? その肉を塩で煮込んだ料理なのだろうが、味は全くの未知数。まずタウルスの味を知らないし、この世界の調味料事情もわからない。
 王都で活躍かつやくするグラノールさんのお墨付すみつきなので期待はできるが、これほど情報のない中で食べる料理は初めてだ。果たしてどのような味がするのか……あれこれ想像をふくらませていると、深皿を手にした給仕の女性がやってきた。

「タウルスの塩煮込みです。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」

 女性に礼を言い、置かれた深皿に視線を落とす。
 スープ系の料理で、淡い茶色のスープにブロック状の肉が沈んでいる。
 タウルスのものと思われる肉は牛肉に似ていて、スプーンですくうといくつか筋のようなものが見える。
 他にもニンジンのような野菜、ブロッコリーのような野菜等、俺の知るものとは少しずつ違う野菜類が入っていて、スープの表面には刻みハーブが散らされていた。そのためなのか、顔を近づけるとバジルのようなにおいがする。

「……いただきます」

 周りに聞こえない音量で呟き、静かに手を合わせる。まずはベースのスープから飲んでみよう。

「……!!」

 口にした瞬間、予想外の味に驚く。
 塩ベースのあっさりスープと思っていたが、想像以上に味が深い。タウルスの骨か何かで出汁だしを取ったのか、塩味に加えて独特な風味を感じる。初めての味だが嫌な感じは全然なく、さわやかなハーブの香りもあって飲みやすい味だ。
 何度かスープを味わった後、メインの肉を口に運ぶ。見た目通り牛肉のような食感と味だが、スープにも感じた独特の風味が含まれている。やはりスープにはタウルスの出汁が使われていたのだろう。肉とスープの風味が綺麗に調和していて普通に美味い。
 野菜もしっかり煮込まれていて、スープの味がよく染みている。肉に負けない確かな存在感があり、味のバランスに貢献こうけんしていた。

「うん、美味いな」

 たしかにこれは、王都で人気だったのも頷ける一杯だ。
 濃厚なわけではないのだが不思議と満足感があり、食べ終える頃には心地よい満腹感があった。
 これまでに食べてきたトップレベルの料理には及ばないが、文化の異なる地球の料理と比べるのはフェアではない。いずれにしても完成度の高い料理であることは確実で、俺はその味に満足した。

「ごちそうさまでした」

 胸の前で手を合わせた俺は、給仕の女性に会計をお願いする。
 お金の価値がわからないため、計算は全て彼女任せ。銀貨二枚を渡して銅貨三枚のお釣りを貰った。ずっとこうするわけにもいかないので、後ほど貨幣の価値を調べる必要がある。

「ふぅ……食った食った」

 店をあとにした俺は、息を吐きながら呟く。
 初めての異世界料理は独特の魅力があり、興味深い経験になった。


 フォレットの森を出た俺は、近くにある雑貨屋を探す。砂糖を売る準備のためだ。
 グラノールさんによれば、料理人ギルドと呼ばれる場所で食材を買い取ってもらえるらしい。
 砂糖は貴重みたいだし、高値で売れる可能性が高い。そう考えた俺は、砂糖を詰める用の袋を買うことにしたのだ。

「おっ、あそこはどうかな」

 大通りに良さげな雑貨屋があったので、とりあえず入店してみる。
 店主のおばちゃんに布袋が欲しいと言うと、銅貨二枚で五つの袋を購入できた。本来は四つ分の値段ということだが、この街が初めてと伝えた俺におまけしてくれたのだ。

「あの、ついでに少しきたいことがあるんですが」

 人の良さそうな店主だったので、思い切って貨幣のことを尋ねてみる。追加で二枚の布袋を買うと伝えたところ、快く教えてくれた。
 曰く、アピシウス王国の通貨単位は『パスト』と呼ばれ、最小単位の貨幣は鉄貨。
 鉄貨一枚が一パスト、小銅貨一枚が十パスト、銅貨一枚が百パスト、銀貨一枚が千パスト、金貨一枚が一万パスト……という風に、各桁に対応した硬貨があるらしい。
 金貨のさらに上の大金貨、そのさらに上の白金貨もあるようだが、あまり使われないとのこと。大金貨以上を使うのは貴族等の上流階級がメインだそうだ。

「銅貨一枚で、安いパンが一、二個買えるくらいだよ」

 店主はそう言っていたので、日本の感覚で言うと銅貨一枚が百円程度。銅貨一枚は百パストに相当するため、大まかな計算だが一パスト=一円と考えて問題ない。
 グラノールさんから受け取った袋には金貨も数枚入っていたので、少なく見積もって数万円はある計算だ。改めて、とんでもなく親切な人だと思う。
 また、お金の話を聞きがてら、この世界のこよみについても聞いておいた。
 空や太陽の感じから地球と似ているとは思っていたが、一年の長さはほとんど同じ三百六十日らしい。一週間の長さは六日で、一カ月が五週間。全ての月が三十日なので、地球よりも単純な形だ。スキルの使用時もSFっぽいウィンドウが表示されるし、ゲームのようにシステマチックな世界なのだろうと思った。
 実際、お金の計算もかなり日本と近いから、ゲームを参考に作られた世界だとしてもおかしくない。

「ありがとうございました」

 約束通り布袋二枚を購入し、俺は雑貨屋をあとにした。
 頭上の空が少しだけ赤みがかっている。暗くなってしまう前に、今夜の宿を探したほうがいいだろう。
 雑貨屋からしばらく歩いたところで、宿街のような場所に出た。至る所にベッドマークの看板があり、二階建ての建物が連なっている。

「お兄さーん! 宿をお探しですか?」

 左右を見ながら歩いていると、犬耳の少女に話しかけられた。
 ホテルの従業員のようだが、今日は客が少ないのだろうか。
 尻尾しっぽを振りながら必死に呼び止める様子が微笑ましく、聞いてみたところ角部屋も空いていると言うので、泊まらせてもらうことにした。
 宿の料金は、一泊あたり千五百パスト。銀貨一枚と銅貨五枚を支払い、二階の角部屋に通される。
 五じょうほどの簡素な部屋だが、ベッドとテーブルは清潔せいけつで、泊まるだけなら十分だった。

「【味覚創造】」

 テーブル前の椅子に座った俺は、【味覚創造】を発動する。


【味覚創造】→タップで創造開始
【作成済みリスト】3件→タップで表示
【残存魔力】348/391


「魔力が結構増えてるな……」

 キュウリの漬物や砂糖を作ったことで、魔力量の最大値が当初から百以上増えている。残っている魔力量も思ったより多い。自然回復のペースからすると数値が大きい気がするし、食事の栄養で回復した可能性があるな。

「なんにせよ好都合だ」

 俺がスキルを発動したのは、グラノールさん達へのお礼のため。
 数万円分のお金まで貰っているのだから、貴重とはいえ砂糖だけでは忍びない。三百五十ほど魔力があれば、ちょっとした食事を作成することができるはずだ。

「んー、何を作ろうか……」

 食事と言っても、何でも渡せるわけではない。お礼として渡す以上は、保存が利いて袋に入る物が前提になる。生物なまものや湿り気を帯びた食べ物は全てNGだ。

「保存が利いて乾燥かんそうした物……クッキーなんかはどうだろう?」

 お菓子なら手軽に食べられるし、砂糖が貴重な世界では甘味が喜ばれるのではないか。
 我ながら名案だと思いながら、【味覚創造】のボタンをタップする。
 頭の中にイメージするのは、かつて焼き菓子の名店で買った絶品クッキー。シンプルな味でありながらバターの香りが上品で、そのクオリティに感動したのを覚えている。


 味覚名:バタークッキー
  要素1【生地きじ】→タップで調整
  要素2【バター】→タップで調整
  要素3【砂糖】→タップで調整
  要素4【塩】→タップで調整
 消費魔力:121
   →タップで【味覚チェック】
   →タップで【味覚の実体化】


 切り替わった画面に表示されたのは、【生地】【バター】【砂糖】【塩】の四要素。
 小麦粉ではなく【生地】となり、お茶の時のような【甘味】ではなく【砂糖】となってしまうあたりが、スキルの素晴らしい柔軟性じゅうなんせいを示している。
 俺はさらに【牛乳】をイメージして付け足すと、各要素の調整に入った。
 いろいろと細かく弄ってみるが、元の繊細せんさいなテイストを再現するのは難しい。パティシエの方が試行錯誤しこうさくごして作り上げた味なのだから、そう簡単に再現できないのは当たり前だ。
 パティシエの方に敬意を表しつつ、俺は俺なりに最高の味を探っていく。
 スキル特性からして多層的な味作りに向いているため、一要素の調整にとらわれすぎないことが大切だ。
【香ばしさ】や【牛乳のコク】等、徐々に要素を重ねていき、【味覚チェック】で適宜てきぎその味を確認する。

「お、かなりいい感じなのでは?」

 味覚チェックを行うこと数十回、ついに納得の味が出来上がった。
 当初のシンプルなイメージとはだいぶ異なるが、バターと牛乳のコクが際立ち、これはこれで最高の味だ。消費魔力は三百三十とギリギリになってしまったが、それに見合うだけのクオリティに仕上がっている。
 実体化ボタンを押すと全身からごっそり魔力が抜け、バタークッキーの小山が生まれた。

「ふぅ、さすがにかなり疲れるな」

 魔力不足の倦怠感を我慢しながら、クッキーを袋詰めしていく。
 ポケットに入れるのもどうかと思ったので、詰め終えた袋を手にしたまま部屋を出た。
 受付の犬耳少女に懐のメモを見せ、グラノールさん達が泊まるアピトという宿の場所を尋ねてみる。有名な高級宿だったらしく、少女はすぐに教えてくれた。
 それから走ること十分ほどでアピトに着いたが、グラノールさん達は出かけている最中だった。フロント係に布袋を渡した俺は、言伝ことづてを頼んでアピトを出る。
 自分の宿に戻ってきたのは、すっかり辺りが暗くなった時のことだった。




 第四話 料理人ギルド


 その翌朝、俺はベッドに伏せた状態で目を覚ました。
 アピトからの帰着後、倒れ込むように寝落ちしてしまったらしい。異世界生活初日で単純に疲れていたのと、大部分の魔力を消費したのが原因だろう。
 ベッドのへりに腰かけた俺は、まどろみの中で今日の予定を考える。

「まずはお金だよな……」

 この世界に来て間もないこともあり、王都を目指す以外の目標は特にない。
 当然今日の予定もないが、ひとまずは〝自分のお金〟を用意したいという気持ちがある。
 現在手元にあるお金はあくまで貰い物のため、使わずに済むならそのほうがいい。
 そうなるとまずは、買取をしている料理人ギルドに行くべきか。すっかり目が覚めた俺は机に移動し、砂糖の生成を始める。

「いやあ、楽だなぁ」

 生成と言っても調整する必要はなく、【作成済みリスト】から砂糖を選択するだけだ。
 睡眠で魔力が回復したので五回分の砂糖を生成し、まとめて一つの袋に詰める。リュック等はないためポケットに突っ込み、チェックアウトを済ませてから街に出た。
 料理人ギルドは、フォレットのメインストリートにあったはずだ。馬車を降りた大通りの先に、コック帽の描かれた巨大看板が覗いていたのを覚えている。さきほど受付で聞いたギルドマークと一致するため、あれが料理人ギルドで間違いない。記憶を頼りにそちらを目指す。

「そういえば……」

 マークと言えば、王国貨幣にもナイフとフォークが描かれていたことを思い出す。砂糖の生成後に袋の残金を確認し、その際に初めて気付いたことだ。
 料理特化のギルドといい、貨幣の紋章もんしょうといい、この国が料理に注ぐ情熱は本物である。今歩いている大通りにもたくさんの飲食店が並んでいて、早い時間帯にもかかわらず賑わっている。
 それから十分ほど歩いたところで、例の巨大看板に辿り着いた。
 コック帽の下に『料理人ギルド』と書かれている。周囲より一回り大きい二階建ての建物が、この国におけるギルドの地位を表しているようだ。

「これが料理人ギルドか……」

 つばを呑み込み、恐る恐る扉を開ける。
 天井が吹き抜けになっており、外からの見た目以上に広く感じる。
 入り口付近は飲食スペースらしく、長テーブルで食事する人々の姿があった。正面奥にはカウンターが設けられており、壁際には二階へ続く階段がある。
 俺は砂糖を売るべく、奥のスペースへと向かう。近くに行くと、端のほうに『買取』のカウンターを見つけた。他のカウンターと違って、今は誰も並んでいない。

「こんにちは」

 カウンターにいたギルドじょうが、俺を見てにこやかに挨拶あいさつする。

「こんにちは。買取をお願いしたいのですが」
「ギルドカードはお持ちですか?」
「いえ、持っていません」
「買取の前にカードの発行をお願いしています。発行手数料として二百パストいただくことになりますが、よろしいでしょうか?」
「はい、問題ありません」

 銅貨二枚を支払いながら理由を尋ねると、セキュリティのためだと答えてくれた。買取でトラブルを起こした人間を、カードで把握しているらしい。
 さすがは美食の都を抱える国。食に関しての安全対策に抜かりがない。

「料理人として働きたいなら、その時にもギルドカードが使えますよ」
「そうなんですか?」
「ええ」

 どうやら辺境の村など一部の例外を除き、王国内で料理人になるにはギルドへの加入が必須らしい。
 買取の時と同じく、料理人の情報を把握しておくためだろうか。
 そう思っていると、ギルド嬢は続けて説明する。

「ただ、街によっては追加で審査が必要になることもあります。特に王都では、審査に合格して星を貰った人しか料理人と認められません」
「厳しい世界なんですね……」

 苦笑いを浮かべて答えながら、砂糖の袋を取り出す俺。

「ところで、買取のほうなんですが」
「ああ! すみません! すぐにカードを作りますね」

 渡されたカードに名前を記入した後、魔力登録のための装置に手を置かされる。
 元地球人なのでエラーが出ないか不安だったが、何事もなく登録は終わり、ギルドカードが発行された。

「お待たせいたしました。それで、本日お持ちいただいた食材は?」
「この袋の中に入っている砂糖です」

 ポケットにしまい直していた袋をカウンターに載せながら言う。

「はい、砂糖ですね――砂糖!?」

 大きな声を出し、はっと口をふさぐギルド嬢。
「本当に砂糖ですか?」と詰め寄られたので、気圧けおされるように首肯しゅこうする。

「まさか本当に砂糖だなんて……でも、ここで味見するわけにはいかないし――」

 ぶつぶつと呟く彼女を見ながら、予想以上の反応に困ってしまった。
 驚かれるかもしれないとは思っていたが、まさかここまで驚くとは。お金のためとはいえ砂糖を出したのはまずかったか?

「しょ、少々お待ちください……!」

 慌てた様子のギルド嬢は、袋を持ってカウンターを出ていく。二階へ上がる姿を見て不安になったが、数分もせずに戻ってきた。


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