捨てられた悪役令嬢は、自由を買いたい!

萩月

文字の大きさ
24 / 28

24

しおりを挟む
 王宮の最深部、玉座の間。

 かつては贅を尽くした儀礼の場であったそこは、今や巨大な魔導演算機が唸りを上げ、壁一面にリアルタイムの国家統計データが流れる「中央制御室」へと変貌していた。

「……計算通りですわね」

 スゥは、カイルが開発した最新型の『全領域統合デバイス』を操作しながら、満足げに呟いた。
 画面には、ミィナの地下労働によって供給されたエネルギーが、王都の魔導街灯を完全に灯し、さらに余剰電力が新興産業の工場へと分配されていく様子がグラフ化されていた。

「ああ。あんたの言った通り、あの『無駄に大きい悲鳴』を周波数変換して蓄電したら、王都の三日分の電力を賄えちまったぜ。……効率化の女神様、恐れ入ったよ」

 カイルが、スゥの隣で自身の端末を確認しながら笑う。
 二人の立ち位置は、もはや「令嬢と技術者」ではなく、この国の屋台骨を支える「共同統治者」のそれだった。

 そこへ、足元をおぼつかせたリュカ王太子が、国王と共に現れた。
 リュカの手には、ようやく全問正解を果たした『算数ドリル(上級)』が握られている。

「スゥ……。ドリル、終わったぞ。……それと、陛下からもお話があるそうだ」

 国王が、重い口を開いた。
 その目は、自分の娘のように接していたスゥへの畏怖と、同時に一縷の望みに揺れている。

「スゥ・ル・ブリリアント……。貴女の功績により、わが国の財政赤字は解消され、民の暮らしはかつてないほど安定した。……だが、民からは不安の声も上がっている。『心のない数字が国を支配しているのではないか』と。……リュカとミィナをあそこまで追い詰める必要は、本当にあったのかね?」

 静寂が玉座の間を支配する。
 スゥが口を開こうとしたその時、カイルが一歩前に出た。

「陛下。……それは大きな間違いですよ」

 カイルの落ち着いた、しかし力強い声が響く。

「彼女が数字にこだわるのは、心が無いからじゃない。……誰よりも、この国の『未来』を具体的(リアル)に見ているからだ。曖昧な『愛』や『情』でごまかして、結局は国を滅ぼしかけていたのは誰ですか? 彼女の計算の一行一行には、国民一人の一食分、一秒の平和が刻まれているんですよ」

「カイル卿……」

 スゥが驚いたように彼を見上げる。
 カイルは、スゥの肩に手を置き、国王を真っ直ぐに見据えた。

「彼女の計算は、この国の安寧を守るための『最強の防壁』です。俺は、その論理の美しさに惚れ込んだ。……これ以上の誠実さが、統治者に必要ですか?」

 スゥは、眼鏡の奥で少しだけ目を細めた。
 自身の論理を「誠実さ」と呼び、肯定してくれる存在。
 それは、彼女のこれまでの計算人生において、最も「期待値を超えるバグ」であり、最高のパートナーシップの証明だった。

「……陛下。カイル卿の言う通りですわ。私は感情を排したのではなく、感情という名の『不純物』を計算式から取り除き、真に守るべき利益を抽出しただけです」

 スゥは再び画面に向き直った。

「私が守りたいのは、気まぐれな王子の寵愛ではなく、一リブラの誤差もなく運営されるこの国の『平穏』。……それが理解できないのであれば、再び赤字の泥沼に沈む覚悟をなさい」

 国王は、スゥとカイルの並び立つ姿を見て、深く、深く頷いた。

「……わかった。わが国の平和は、貴女たちの論理に委ねよう。……リュカ。お前も、彼女たちの爪の垢でも煎じて飲むがいい」

「……はい。八の段、もう一度復習してきます……」

 リュカは、もはや反論する力もなく、すごすごと退散していった。

 二人きりになった玉座の間。
 カイルが、スゥに向かって不敵に微笑んだ。

「……かっこよかったぜ、スゥ。……さて、王宮の最適化も最終フェーズだ。仕上げに、俺たちの『共同研究の契約更新(プロポーズ)』、もう一度検討してくれるか?」

「検討は済んでいます。……貴方の先ほどの『援護射撃』による心理的寄与度を、資産価値に換算した結果……」

 スゥは、自身の胸元にある魔導ブローチの数値をカイルに見せた。

「……心拍数の上昇が止まりません。……これは、もはや『合理的判断』だけでは説明のつかない、重度のシステムエラーですわね」

「ははっ! そのエラー、俺が一生かけてデバッグしてやるよ」

 二人の「効率的な愛」が、最適化された王宮の夜に、静かに、しかし確かな熱を持って灯り始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

悪役令息の婚約者になりまして

どくりんご
恋愛
 婚約者に出逢って一秒。  前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。  その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。  彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。  この思い、どうすれば良いの?

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

処理中です...