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王宮の最深部、玉座の間。
かつては贅を尽くした儀礼の場であったそこは、今や巨大な魔導演算機が唸りを上げ、壁一面にリアルタイムの国家統計データが流れる「中央制御室」へと変貌していた。
「……計算通りですわね」
スゥは、カイルが開発した最新型の『全領域統合デバイス』を操作しながら、満足げに呟いた。
画面には、ミィナの地下労働によって供給されたエネルギーが、王都の魔導街灯を完全に灯し、さらに余剰電力が新興産業の工場へと分配されていく様子がグラフ化されていた。
「ああ。あんたの言った通り、あの『無駄に大きい悲鳴』を周波数変換して蓄電したら、王都の三日分の電力を賄えちまったぜ。……効率化の女神様、恐れ入ったよ」
カイルが、スゥの隣で自身の端末を確認しながら笑う。
二人の立ち位置は、もはや「令嬢と技術者」ではなく、この国の屋台骨を支える「共同統治者」のそれだった。
そこへ、足元をおぼつかせたリュカ王太子が、国王と共に現れた。
リュカの手には、ようやく全問正解を果たした『算数ドリル(上級)』が握られている。
「スゥ……。ドリル、終わったぞ。……それと、陛下からもお話があるそうだ」
国王が、重い口を開いた。
その目は、自分の娘のように接していたスゥへの畏怖と、同時に一縷の望みに揺れている。
「スゥ・ル・ブリリアント……。貴女の功績により、わが国の財政赤字は解消され、民の暮らしはかつてないほど安定した。……だが、民からは不安の声も上がっている。『心のない数字が国を支配しているのではないか』と。……リュカとミィナをあそこまで追い詰める必要は、本当にあったのかね?」
静寂が玉座の間を支配する。
スゥが口を開こうとしたその時、カイルが一歩前に出た。
「陛下。……それは大きな間違いですよ」
カイルの落ち着いた、しかし力強い声が響く。
「彼女が数字にこだわるのは、心が無いからじゃない。……誰よりも、この国の『未来』を具体的(リアル)に見ているからだ。曖昧な『愛』や『情』でごまかして、結局は国を滅ぼしかけていたのは誰ですか? 彼女の計算の一行一行には、国民一人の一食分、一秒の平和が刻まれているんですよ」
「カイル卿……」
スゥが驚いたように彼を見上げる。
カイルは、スゥの肩に手を置き、国王を真っ直ぐに見据えた。
「彼女の計算は、この国の安寧を守るための『最強の防壁』です。俺は、その論理の美しさに惚れ込んだ。……これ以上の誠実さが、統治者に必要ですか?」
スゥは、眼鏡の奥で少しだけ目を細めた。
自身の論理を「誠実さ」と呼び、肯定してくれる存在。
それは、彼女のこれまでの計算人生において、最も「期待値を超えるバグ」であり、最高のパートナーシップの証明だった。
「……陛下。カイル卿の言う通りですわ。私は感情を排したのではなく、感情という名の『不純物』を計算式から取り除き、真に守るべき利益を抽出しただけです」
スゥは再び画面に向き直った。
「私が守りたいのは、気まぐれな王子の寵愛ではなく、一リブラの誤差もなく運営されるこの国の『平穏』。……それが理解できないのであれば、再び赤字の泥沼に沈む覚悟をなさい」
国王は、スゥとカイルの並び立つ姿を見て、深く、深く頷いた。
「……わかった。わが国の平和は、貴女たちの論理に委ねよう。……リュカ。お前も、彼女たちの爪の垢でも煎じて飲むがいい」
「……はい。八の段、もう一度復習してきます……」
リュカは、もはや反論する力もなく、すごすごと退散していった。
二人きりになった玉座の間。
カイルが、スゥに向かって不敵に微笑んだ。
「……かっこよかったぜ、スゥ。……さて、王宮の最適化も最終フェーズだ。仕上げに、俺たちの『共同研究の契約更新(プロポーズ)』、もう一度検討してくれるか?」
「検討は済んでいます。……貴方の先ほどの『援護射撃』による心理的寄与度を、資産価値に換算した結果……」
スゥは、自身の胸元にある魔導ブローチの数値をカイルに見せた。
「……心拍数の上昇が止まりません。……これは、もはや『合理的判断』だけでは説明のつかない、重度のシステムエラーですわね」
「ははっ! そのエラー、俺が一生かけてデバッグしてやるよ」
二人の「効率的な愛」が、最適化された王宮の夜に、静かに、しかし確かな熱を持って灯り始めた。
かつては贅を尽くした儀礼の場であったそこは、今や巨大な魔導演算機が唸りを上げ、壁一面にリアルタイムの国家統計データが流れる「中央制御室」へと変貌していた。
「……計算通りですわね」
スゥは、カイルが開発した最新型の『全領域統合デバイス』を操作しながら、満足げに呟いた。
画面には、ミィナの地下労働によって供給されたエネルギーが、王都の魔導街灯を完全に灯し、さらに余剰電力が新興産業の工場へと分配されていく様子がグラフ化されていた。
「ああ。あんたの言った通り、あの『無駄に大きい悲鳴』を周波数変換して蓄電したら、王都の三日分の電力を賄えちまったぜ。……効率化の女神様、恐れ入ったよ」
カイルが、スゥの隣で自身の端末を確認しながら笑う。
二人の立ち位置は、もはや「令嬢と技術者」ではなく、この国の屋台骨を支える「共同統治者」のそれだった。
そこへ、足元をおぼつかせたリュカ王太子が、国王と共に現れた。
リュカの手には、ようやく全問正解を果たした『算数ドリル(上級)』が握られている。
「スゥ……。ドリル、終わったぞ。……それと、陛下からもお話があるそうだ」
国王が、重い口を開いた。
その目は、自分の娘のように接していたスゥへの畏怖と、同時に一縷の望みに揺れている。
「スゥ・ル・ブリリアント……。貴女の功績により、わが国の財政赤字は解消され、民の暮らしはかつてないほど安定した。……だが、民からは不安の声も上がっている。『心のない数字が国を支配しているのではないか』と。……リュカとミィナをあそこまで追い詰める必要は、本当にあったのかね?」
静寂が玉座の間を支配する。
スゥが口を開こうとしたその時、カイルが一歩前に出た。
「陛下。……それは大きな間違いですよ」
カイルの落ち着いた、しかし力強い声が響く。
「彼女が数字にこだわるのは、心が無いからじゃない。……誰よりも、この国の『未来』を具体的(リアル)に見ているからだ。曖昧な『愛』や『情』でごまかして、結局は国を滅ぼしかけていたのは誰ですか? 彼女の計算の一行一行には、国民一人の一食分、一秒の平和が刻まれているんですよ」
「カイル卿……」
スゥが驚いたように彼を見上げる。
カイルは、スゥの肩に手を置き、国王を真っ直ぐに見据えた。
「彼女の計算は、この国の安寧を守るための『最強の防壁』です。俺は、その論理の美しさに惚れ込んだ。……これ以上の誠実さが、統治者に必要ですか?」
スゥは、眼鏡の奥で少しだけ目を細めた。
自身の論理を「誠実さ」と呼び、肯定してくれる存在。
それは、彼女のこれまでの計算人生において、最も「期待値を超えるバグ」であり、最高のパートナーシップの証明だった。
「……陛下。カイル卿の言う通りですわ。私は感情を排したのではなく、感情という名の『不純物』を計算式から取り除き、真に守るべき利益を抽出しただけです」
スゥは再び画面に向き直った。
「私が守りたいのは、気まぐれな王子の寵愛ではなく、一リブラの誤差もなく運営されるこの国の『平穏』。……それが理解できないのであれば、再び赤字の泥沼に沈む覚悟をなさい」
国王は、スゥとカイルの並び立つ姿を見て、深く、深く頷いた。
「……わかった。わが国の平和は、貴女たちの論理に委ねよう。……リュカ。お前も、彼女たちの爪の垢でも煎じて飲むがいい」
「……はい。八の段、もう一度復習してきます……」
リュカは、もはや反論する力もなく、すごすごと退散していった。
二人きりになった玉座の間。
カイルが、スゥに向かって不敵に微笑んだ。
「……かっこよかったぜ、スゥ。……さて、王宮の最適化も最終フェーズだ。仕上げに、俺たちの『共同研究の契約更新(プロポーズ)』、もう一度検討してくれるか?」
「検討は済んでいます。……貴方の先ほどの『援護射撃』による心理的寄与度を、資産価値に換算した結果……」
スゥは、自身の胸元にある魔導ブローチの数値をカイルに見せた。
「……心拍数の上昇が止まりません。……これは、もはや『合理的判断』だけでは説明のつかない、重度のシステムエラーですわね」
「ははっ! そのエラー、俺が一生かけてデバッグしてやるよ」
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