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第8章

聖女見習いから女官見習いに

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 テッドとセアラは息子のジョセフィの出迎えに、慌ててほとんど開いていない荷物をまとめ、馬車に飛び乗った。
 そして、テッドの縁者を頼り、アソシアシオンのアーティスの荷物を一旦、ラインハルトの領地に送って貰うことにした。

 そしてもう一つ、

「ど、どういうこと? スカーレット? 何故、女官見習いなんて……」
「あ、あのね……」

言いかけたスカーレットを止めたジェイクは、

「セアラ。スカーレットは聖女を辞めたいという。そうなれば仕事が必要だ。一応、この国の聖女であられるフェリシア様程優秀で優雅な令嬢ではないが、スカーレットもある程度マナーも身につけているし、何ヶ国かの言語を理解できる。こちらには現在、静養中のフェリシア様と、アルフレッド殿下の姫様のアルフィナ様という二人の聖女がおられる。フェリシア様はスカーレットよりも年上でマナーもできるが、5歳のアルフィナ様はまだ身体がお小さい。それに力は暴走する。だから、アルフレッド殿下やアマーリエ様方は心配していた」

娘夫婦を見る。

「今日も力が暴走して、抱いていたアーティス様が力を抑え込んでも逆流を始めた。今はフェリシア様は体調がお悪い。それにアルフィナ様は力が暴走すると、2週間は寝込んで起き上がれないらしい。すると、アーティス様がスカーレットを呼んで、アルフィナ様の力を感じて受け止めて、逆に送り返しなさいとおっしゃった。スカーレットは元々攻撃主体の力が多いけれど、回復の力がある。それを自分の内部で感じなさいと……そして、時間はかかったけれど、アルフィナ様のお力を受け止め、循環して送り返すことができるようになったよ」
「まぁ! 何て素晴らしいの!」

 セアラは目を輝かせる。
 お転婆で、攻撃の術ばかりレベル上げに勤しむ娘を心配して、いつも無事に怪我をしないようにと武道場に送り出すのですら嘆いていた。
 そんな娘が、攻撃ではなく回復や力の循環といった癒しの能力を使えるようになったのだという。

「でもね。スカーレットを聖女のままここに置けないだろう? だから、女官見習いとしてまずは挙式を数ヶ月後に迫るフェリシア様の側で、そしてその後、アルフィナ様やその妹のアンネリ様の女官として、仕えるのはどうだろうかと兄上に言われたんだよ。それに一応、私はアーティス様の執事。セアラはアーティス様付きの女官。ジョセフィ。お前は、明日からベルンハルド殿下付きの執事見習いだ。いいね?」
「えっ? じょ、上司は?」
「ベルンハルド殿下には基本的に執事はおられなかった。姪であるアンネリ様付きの騎士のイザーク殿とその奥方リリアナ殿が女官。そのお二人が殿下もお守りしていた。けれど、殿下も成人。執事をと考えられたアマーリエ様がお前に白羽の矢を立てた。まだ幼いが、見習いとしてベルンハルド殿下を宜しく頼むとのことだ」
「えぇぇぇ! ぼ、僕がですか?」

 大役に絶句する。

「まぁ、ジョセフィはまだ子供だから、そんなに仕事を任せることはない。けれど、ベルンハルド殿下はとても真面目でお優しい方だと伺っている。だから、仕事をしすぎないようにとか、休憩を取って下さいと言うようにして欲しいそうだ。それ以外はお前もマナーレッスンと、勉強があるからね」
「は、はい! が、頑張ります!」
「では、挨拶に行こう。いいね?」



 服を着替え向かった家族は、この屋敷の大奥様であるアマーリエとその夫のバルナバーシュ、長男のアルフレッドとその嫁のキャスリーン、その二人の娘のアルフィナとアンネリに、次男のベルンハルドがお茶を飲んでいた。
 ジョセフの長兄イーリアスと次兄ジョンにその夫人で女官長のミーナに息子のガイ、副女官長のセラ、そして双子の可愛らしいリリ、エリと言う女官が微笑んでいた。

「あら、お久しぶりね。ジェイク。兄上の名前でおイタはしてなくて?」

 お腹の大きいアマーリエは、コロコロと笑う。

「それに、セアラは大きくなったのね。お久しぶりね」
「アマーリエ王女殿下……お久しぶりでございます」

 セアラはお辞儀をする。

「本当にご尊顔を拝することができ、嬉しゅうございますわ……」
「そんなに拝むようなものじゃなくてよ。貴方こそ、本当に昔からとても美人でジェイクってば『セアラに手を出す奴は殺す! 絶対、俺以上じゃないと許さん!』って。素敵な旦那様ね」
「あ、紹介致します。夫のテッドと申します。アーティス様付きの専用調理人でしたの。そして、娘のスカーレットと息子のジョセフィです。突然二人が参りまして、本当に申し訳ございませんでした」
「いいのよ。本当に、スカーレットにはアルフィナを守って貰って、それにジョセフィには、つまらなそうなアンネリの面倒を見て貰って……」

 アマーリエは微笑む。

「アルフィナ? いらっしゃい。覚えているわね? アーティスお祖父ちゃんの側にいるジェイクじいじと、その娘のセアラお姉ちゃんととテッドお兄ちゃん。そして……」
「しゅかーれっとおねえしゃま! じょしぇふぃーおにいしゃま! こんにちわ~の! ジェイクじいじ~! 抱っこ!」
「姫様は抱っこお好きですね~。可愛いですね」
「きゃきゃっ」

 喜んでいる娘に苦笑する。

「アルフィナはジョンとイーリアスが大好きなんだ。だから、ジェイクも好きなんだと思う」
「あの、アルフレッド様……本当に構いませんの?」
「逆にお願いするよ。それに、聖女のスカーレットと枢機卿の伯父上もここに亡命しているのだから、一緒に居るべきだと思うよ」
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

 テッドは頭を下げる。

「すぐにと言うのは無理かもしれませんが、一日でも早くこのお屋敷に馴染んで、皆様の為になるよう努力致します」
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