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第5部分 檜風呂
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できる限り他の者に見られぬよう、急ぎ足で向かったそこは、とても立派な屋敷だった。
「こっちだ」
町を囲む柵よりも、ずっと立派な木の壁に囲まれたその屋敷。
裏口だろう小さな入り口から通された俺は、庭の隅にある離れへと連れていかれて気がついた。そこが、先ほど森の方から見下ろした時に見えていた、一際大きな屋敷なのだと。
煙が立ち昇っている……誰かいるのか……?
男が躊躇いもなくそこに入っていくので、俺もそれに続いて中に入ると
「俺は……急いでやらなければならないことがあるから出かけるが……もし体が大丈夫なら、そっちに風呂があるから入るといい」
なるほど、あの煙は風呂を焚いているものか。
「あぁ、ありがたい」
体の痛みはだいぶ取れたものの、完全回復にはもう少しかかりそうだし、湯の力は回服の助けになりそうだ。
「着替えはすぐに持ってこよう」
「色々と……助かる」
遠目で伺っていたところ、パンツ一丁の者も多くいたが、普通に着物らしき物を着ている者もいたから多分大丈夫だと思うが……何故だか少し不安な気がして伝えることにする。
「あの……すまないが」
「なんだ?」
もう戸に手をかけていた男は、振り向き俺の顔を見て聞いた。
別にな。それがここの普通だと言うならそれでも構わないとは思うんだが……
「羽織る物も頼んで良いか……?」
「……了解した」
少し驚いたような顔をした後、男は笑いながらそう答えた。
灯りの元で見る男の目の色は、少し違う色に見えて、また少し印象が違っている。その揺らぐ色が美しいな、とか思っていたら礼も言いそびれ、名前も聞き逃してしまった。
また後でちゃんと礼をすれば良いか。アイツが信用できる者かどうか、一応まだ警戒はしておかないといけないだろうし……。
本当はゆっくり湯に浸かってる場合でもないのかもしれないが……こんな事態だ。疑ってばかりいては前には進めまい。そう考え、俺は風呂だと言われた戸を開いた。
そこにはカゴの置かれた脱衣所があり、奥にまた引き戸がある。ボロボロになった服を一応カゴに入れ戸を開けると、元々誰かが風呂に入る予定だったのか、そこには湯気の上がっている浴槽があった。
先ほど離れに入る前に見えた煙は、この風呂用だったのだろう。
「この香り……檜か……? 良い香りだな……」
檜の香なんて、サンプルでしか知らなかったが、すぐにわかった。研究職という事もあって、何度か嗅いだことがあるから。
「こりゃ……人間達が鬼に渡したくないはずだ……」
自分の身体中に何かが染み渡るような心地よさを感じ、思わずそう呟く。
自然界の資材はとても貴重で、そうそう鬼の所には回ってこない。檜もそうだが白檀とかいう香物も人間達のそれも上流階級だけでやり取りがなされているらしい。
まぁ……鬼にはそういった『精神力に関わる物品』は必要ないから、ということもあるからだろうが。
しみる擦り傷に耐えながら湯に入ろうとしていたところ、男は着替えを持ってやってきて、またすぐに出て行った。
俺は先程言いそびれたお礼をちゃんと言って、檜風呂を堪能させてもらった。
「こっちだ」
町を囲む柵よりも、ずっと立派な木の壁に囲まれたその屋敷。
裏口だろう小さな入り口から通された俺は、庭の隅にある離れへと連れていかれて気がついた。そこが、先ほど森の方から見下ろした時に見えていた、一際大きな屋敷なのだと。
煙が立ち昇っている……誰かいるのか……?
男が躊躇いもなくそこに入っていくので、俺もそれに続いて中に入ると
「俺は……急いでやらなければならないことがあるから出かけるが……もし体が大丈夫なら、そっちに風呂があるから入るといい」
なるほど、あの煙は風呂を焚いているものか。
「あぁ、ありがたい」
体の痛みはだいぶ取れたものの、完全回復にはもう少しかかりそうだし、湯の力は回服の助けになりそうだ。
「着替えはすぐに持ってこよう」
「色々と……助かる」
遠目で伺っていたところ、パンツ一丁の者も多くいたが、普通に着物らしき物を着ている者もいたから多分大丈夫だと思うが……何故だか少し不安な気がして伝えることにする。
「あの……すまないが」
「なんだ?」
もう戸に手をかけていた男は、振り向き俺の顔を見て聞いた。
別にな。それがここの普通だと言うならそれでも構わないとは思うんだが……
「羽織る物も頼んで良いか……?」
「……了解した」
少し驚いたような顔をした後、男は笑いながらそう答えた。
灯りの元で見る男の目の色は、少し違う色に見えて、また少し印象が違っている。その揺らぐ色が美しいな、とか思っていたら礼も言いそびれ、名前も聞き逃してしまった。
また後でちゃんと礼をすれば良いか。アイツが信用できる者かどうか、一応まだ警戒はしておかないといけないだろうし……。
本当はゆっくり湯に浸かってる場合でもないのかもしれないが……こんな事態だ。疑ってばかりいては前には進めまい。そう考え、俺は風呂だと言われた戸を開いた。
そこにはカゴの置かれた脱衣所があり、奥にまた引き戸がある。ボロボロになった服を一応カゴに入れ戸を開けると、元々誰かが風呂に入る予定だったのか、そこには湯気の上がっている浴槽があった。
先ほど離れに入る前に見えた煙は、この風呂用だったのだろう。
「この香り……檜か……? 良い香りだな……」
檜の香なんて、サンプルでしか知らなかったが、すぐにわかった。研究職という事もあって、何度か嗅いだことがあるから。
「こりゃ……人間達が鬼に渡したくないはずだ……」
自分の身体中に何かが染み渡るような心地よさを感じ、思わずそう呟く。
自然界の資材はとても貴重で、そうそう鬼の所には回ってこない。檜もそうだが白檀とかいう香物も人間達のそれも上流階級だけでやり取りがなされているらしい。
まぁ……鬼にはそういった『精神力に関わる物品』は必要ないから、ということもあるからだろうが。
しみる擦り傷に耐えながら湯に入ろうとしていたところ、男は着替えを持ってやってきて、またすぐに出て行った。
俺は先程言いそびれたお礼をちゃんと言って、檜風呂を堪能させてもらった。
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