異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

文字の大きさ
79 / 107
第二部 第三章 対決

79・ロデム、変身

しおりを挟む
 ロデムは不定形生命体でした。
 スマホのアプリを生命体と呼んでいいのかは分かりませんが、自らの意志で動く事も出来る、神様の分身です。
 その姿を何にでも変える事が出来て、大きさも自由自在です。
 私の言う事も理解をしていて、言った通りのものに変形しました。

「やっぱりスライムじゃないの。この神様」
「あんな下等生物と一緒にしないで下さい」

 一度サーラの魔法で蒸発させられましたが、アプリの使用で何度でも生き返るようです。
 ただ、この黒い犬には活動限界があって――

「あっ、もう一分経った」

 たった一分で、消えてしまうのでした。

「本当に使えないわね、この神様ロデム
「だから、ここに神ジダルジータ様の分身がある事自体が奇跡だと、何度言えば――」
「分かった、分かったからそんなにむきにならなくてもいいわよ、カーマイル」

 時間制限があってもどんな形にでもなれるのは、いざと言う時にはピンポイントで使えるかも知れませんね。
 ただ、充電も一分掛かるみたいなので、消えたらまた一分待たなくてはならないようです。

「そろそろ出発しましょうか。夕方になっても次の街が見えてこなかったら、今日も野営になるわね」

 今度は御者台にはニナが座りました。
 フォウとニナが二人で交代して御者役をしているのです。
 他の連中はというと、ラフィーはそもそも馬を操る事が出来ませんし、カーマイルは出来るのかも知れないけれども、やる気がありません。
 サーラはお気持ちだけ受け取って、こちらからお断りしています。

 一度だけ、サーラが「わたしも……お役に、立ちたいです」と言うので御者台を任せたのですが、馬車の速度が歩くそれと変わらなくなってしまったので、それ以降は遠慮してもらっています。
 サーラののんびり気質が馬にも伝わってしまうのか、馬が走らずに歩いてしまうのです。
 
 私も御者台に座ってみたいのですが、表に居ると標的になりやすいとの理由で、フォウに止められています。
 馬車には防護魔法も掛かっているのですが、念のためだそうです。

 ですがたった今、そのフォウの忠告を無視する形になりますが、試してみたい事が出来てしまいました。

「私、ちょっとロデムに試乗してみるから、先に馬車を出してちょうだい」

 形も大きさも自在なのですから、乗って走る事も出来そうな気がしたのです。
 しかし、私のこの提案にすぐさま待ったを掛けた天使が、約一名居ました。

「何をふざけた事を言っているのですか? 馬鹿ですか? 畏れ多くも神に跨ろうなどというその行為、万死に値しますよ?」

 私はカーマイルの言葉を右から左に流し、スマホからロデムを召喚して命じました。

「ロデム、変身! 私が乗れるくらいの大きさになって!」

 すぐさま変形したロデムは、大型犬くらいのサイズになりました。
 私が乗ると命じたためか、ロデムのたてがみの部分が後ろにハの字に伸びて、掴みやすいように束になって固くなっています。
 横腹の部分にはステップのような突起も作られ、足を掛けるのに丁度良い位置にありました。
 跨ってたてがみを掴みステップに足を乗せると、私のポジションはオートバイに乗っているような感じになります。

「こ、こ、この罰当たり! 神に代わって私が天罰を――」
「サーラ、カーマイルがちょっとうるさいから、結界に閉じ込めて」
「は、は、はい……サオリ様」

 サーラの魔法は天使よりも強力な魔力で展開されるので、カーマイルと言えどそれを破る事は出来ません。
 
「こ、この! 極悪人! 人でなし! 外道! 地獄に堕ちろ!」
「じゃあ先に出て」

 結界に閉じ込められたカーマイルを乗せた馬車は軽快に走りだし、その後を追うように私もロデムに乗って発進しました。
 ロデムバイクは、走れと念じただけで、それを読み取って走り出してくれました。
 右や左に曲がるのも、体重移動をする前から私の意志を読むため、思考から動作へと移行するタイムラグが一切無く、人馬一体とも言えるようなその操作性は、とても気持ちの良いものでした。

「うーん、この。……バイクに乗る姿勢なのにそのバイクが四足走行とか……」

 乗馬と違って完全に前傾姿勢の私は、まんまバイク乗りの恰好なのです。
 命じればロデムの足も車輪になったのかもと思いながらも、その乗り心地の快適さにどうでも良くなります。
 ちなみにワンピース姿のまま跨ってしまいましたが、ロデムの能力なのか風の抵抗はほとんど受けずに済んでいるので、捲れて下半身が露わになるという事もありませんでした。

「かなり良い感じね」

 一方の馬車の方はニナの意外とも言える優れた操縦能力が、馬車の高性能を見事に活かして砂利道も苦にせず徐々に速度を上げて行き、周りの景色がもの凄い勢いで後ろに流れて行きます。
 それに付いて行くロデムは、まだまだ余裕のようです。

「時速何キロ出てるのかしら、かなり速いかも」

 風の抵抗が無いとは言え視点がかなり低く地面に近いため、それなりの疾走感を体感しています。
 流れる景色の速さから、時速百キロは出てるのではと思ったその時――
 私は肝心な事を忘れていた事に、が起きてしまってから気付きました。
 ――ロデムの活動限界は一分と、とても短かかったのです。
 
「きゃあああぁぁぁぁ!」

 一分の活動限界を迎えたロデムがパッと消えた瞬間、私は地面に放り出されて砂利の上を激しく転がり――

「おねーちゃん!」

 ラフィーが私の事をそう呼ぶのを、久しぶりに聞いたと喜ぶ余裕などなく、地面の上を何回転か転がって体の痛みが激痛に変わった瞬間、気を失いました。

 私の不運は、回復魔法と結界魔法を持つサーラがカーマイルに結界を張っていてそちらに集中していた事と、同じく回復魔法が使えるニナが御者台に座っていて後ろを走る私から離れていた事、さらに結界を展開出来るフォウはラフィーにねだられておやつを出そうと袖口ポケットに手を突っ込みまさぐっていたために、私の方を見ていなかった事でした。

 通常でしたら私が怪我をする前に、天使たちの神速のフォローが入っていたはずの所を、タイミングが悪かったためにかなりの怪我を負いました。――後で聞いた所フォウの魔法による診断では、全身数十か所を骨折していた程の、重傷だったようです。

 電光石火の速さでラフィーが馬車から飛び出して私をキャッチしてくれたので、体の一部が欠損したり、内臓が飛び出したりと、悲惨な事にはならなかったようですが、ラフィーのそれすらも遅れていたなら、私は既に死んでいたのではないでしょうか。

 カーマイルが転がる私を見て、どういう顔をしていたのかは、想像したくありません。
 気が付くと私は、停車した馬車の横の地面に横たわり、サーラの回復魔法を受けていました。

「し、死んだかと思った……」
「くくく、天罰が下りましたね」
「その顔止めて、カーマイル。気持ち悪い」

 案の定、人が死に掛けたというのに、カーマイルは薄笑いを浮かべていました。

「おねーちゃん、だいじょぶ?」
「ああ、ラフィー。あなたがそう呼んでくれるだけで、お姉ちゃんは幸せよ。体の方はサーラが魔法で治してくれたから、大丈夫よ」

 とは言え気絶する直前に、体に走った激痛は忘れていません。
 回復魔法で完治したとしても、幻肢痛のように体がまだ痛みを覚えているのです。
 
「今日は危ない目にばかり遭うなぁ……しばらく大人しくしてようかな」

 カーマイルが、「天罰じゃ、天罰じゃ」と、小躍りしているのを見ると、ちょっと腹も立ちますが、今日はもう馬車の中でじっとしていようと思います。

「サオリ様、まだ油断は出来ないようです」
「え!?」

 フォウのその言葉に一瞬、サーラでも回復出来ないような深刻な怪我が残っているのかと思いましたが、そうではありませんでした。
 フォウが私ではなくどこか遠くを見つめて、真剣な顔をしています。

「何が見えるの?」
「感じます」

 フォウは遠くの見えない何かを見つめたまま静かに、覚悟を感じさせる重みを持たせながら、ゆっくりと答えました。

が、……来ました」

  
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...