同居離婚はじめました

仲村來夢

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VERSUS

未央と優斗

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このままじゃ皆のこと傷つけちゃうよ。

隣で寝息を立てている優斗をよそに、今日めぐちゃんに言われた言葉を何度も思い出して眠れなくなっている。

…あたしは既に本城さんのことも傷付けてしまったし、めぐちゃんのことも知らぬ間に傷付けていた。

それから、佳江さんのことも。

もうあたしのことは考えなくていいから、好きなことして生きて、幸せになるのよ。

佳江さんにあんな言葉を言わせてしまったことは今でも悔やまれる。けれど最近は、大好きな佳江さんが最後に残した言葉通りに生きていくこと…それが弔いになる様な気もしてきている。

いつか死ぬ時が来て、現実味のない話ではあるけれどその先で佳江さんに会うことが出来たとして、胸を張って会えるかというと今のままでは無理だと思う。

やりたいことをやって、好きに生きることが出来ました。そう言える自分になりたい。その為には自分が変わらなくちゃいけない。

あたしの周りにいる人達はどうだろうか。

好きに生きているわけではないけれど、皆自分の気持ちに素直で、それを伝えることが出来る。

まだ一緒にいて欲しいと言った優斗。離婚して俺と結婚してと言ってくれた佐伯くん。本当に本気で好きだと言ってくれた本城さん。佐伯くんのことが好きだ、あたしがいなきゃよかったのに、と言っためぐちゃん。

あたしは佐伯くんに何も伝えていない…

佐伯くんはあたしのことを好きと言ってくれたけれど、これからどうするつもりでいるのかとか疑問を投げかけられたことはなかった。だから何も言わずに過ごしてきた。

聞かれたから、言わなかった。なんて考え方は子供の言い訳だ。…あたしは十分大人だ。

思いを伝えてくれた佐伯くんに今のあたしのことを、今のあたしの気持ちを話したい。

好きだと言われて、結婚してと言われて困惑した。けれどその気持ちは嬉しかった。佐伯くんから旦那さんと離婚してと言われた時は既に離婚していて、でも理由があってそれを言い出せなかった。

自分が辛い時、好きだと言ってくれた佐伯くんのことを利用するかの様に家に遊びに行って気持ちを和らげてしまっていた。何も聞かずにただ一緒に過ごしてくれていた佐伯くんに甘えてしまっていた。

めぐちゃんに悠登とまだしてるよと言われて凄くショックを受けてしまったこと。あたしが佐伯くんに対して何も思っていなければこんな気持ちにならない。…きっと、ううん、あたしは佐伯くんが好きだ。

…自分でも身勝手な言い分だと思うけれど、今みたいに言葉をあまり交わさなくなってしまった分、思っていることを、本当のことを伝えたい。今更遅いかもしれないけど、自分の気持ちを話したい。

もちろん、嘘をついていたことを伝えるのはあたしの一存では出来ない。口外するのは契約違反になってしまう。だから優斗にもお願いをしなければならない。

気持ちを伝えたい相手がいます。勝手だけれど、どうかその人に本当のことを話させて下さい。契約終了までまだ時間はあるし、今言うことではない、言ってはいけないことを十分わかっているけれど今言わなきゃいけないんです…と。

***

「…そっか」

翌日あたしは優斗に自分の思いをぶちまけ佐伯くんに本当のことを話させて欲しい、とお願いした。

「勝手なことは十分わかってます。一度契約破ったのに、また契約破ろうとしてるなんて最低だって、それもわかってるけど、もうこれ以上嘘をつきたくないの…お願いします!」

「ちょっと、やめて」

同居離婚の提案をされた時にあたしが発したのと同じ言葉を今は優斗が言っている。あたしは優斗に土下座をしていた。

「勝手言ってごめんなさい、お願いします」

「未央、顔上げてお願い!」

困惑する優斗の声。あたしは顔を上げて優斗の目をじっと見つめた。

「わかった。その人に本当のこと話して欲しい」

「いいの…?」

「だって、普段は自分のしたいこととか言わない未央がそれだけ言ってるんだから…止める権利なんてないよ。恋愛は自由にって契約だから、いつかこの日が来るのかなって薄々思ってたから…」

「ありがとう…優斗。ほんとにごめんね」

「謝らないで、未央。元々俺が全部悪いし色々迷惑かけてきたから…こっちこそごめん」

意外にもあたしの気持ちを優斗はすんなりと受け入れてくれた。けれど…

「でも、未央…10月まで一緒にいてくれるんだよね…?」

「え…」

そう言われてしまうのか…。確かに10月までの契約だ。ただでさえまた一つ契約内容を破ろうとしているのはあたしだ。同居離婚を解消してくれ、とお願いしたわけでもないけれどこの流れでそうなると思ってしまっていたあたしは優斗の言葉に辟易した。

「だって10月までって契約だよ…今日話してくれたことで、俺も気持ちに整理をつける決心はついた。けど…いきなり出ていくって言われるのは困るよ…すぐに気持ち切り替えられないよ」

「…そっか…だよね…ごめんね、わかった。ありがとう、話聞いてくれて。お風呂入ってくるね」

咄嗟に言葉が出てこず、優斗の意見に同調するしかなかった。

これがあたしの弱いところだ。出ていく、って強引に言えなかった。

でも、今すぐ出ていくなんて言ってもあたしには行くところが無いし…お母さんの家に行くにしても会社からは遠すぎる。…というよりこの年になって出戻りなんて、お母さんも困るだろうし。

どうしよう。とにかく、契約終了までに家を決めなきゃ…
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