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彼に隠れて彼女の彼と1

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「あー!いおりたん遅いよぉぉ!」

「伊織くん、お疲れ様です」

「杏奈ちゃんこんばんは。って紗夜!お前またそんなに顔真っ赤にして!」

「ええ!杏奈、紗夜そんなに顔赤い!?」

「そうだね、かなり赤いんじゃないかな?」

あたしはとぼけたように首を傾げた。伊織くんは呆れた様に溜息をつき、辺りを見回した。

「んで、翼は…」

「えっと…寝てます」

「だよなぁー」

あたしの彼氏の翼くんがソファでだらんと横たわり寝息を立てているのを見てまた、伊織くんが溜息をついた。

今日は翼くんと、あたしの友達の紗夜と紗夜の彼氏の伊織くんと4人で翼くんの家に集まって宅飲みをする予定だった。

あたし達は全員社会人1年目だ。皆の仕事が終わる19時頃から集まって日の変わらないうちに帰るはずだったけれど、何やかんやで集まるのが遅くなり飲み始めたのは21時前だった。

更に伊織くんは残業で遅くなるから今日は行けないかも、と紗夜に連絡が入ったのだけれど紗夜が拗ねてしまったこと、それを見兼ねた翼くんが伊織が来るまで待とう!俺の家に皆泊まっていけ!と言い始めたので3人で伊織くんを待っていた。

そして日が変わる直前に伊織くんが来たのだけれど、その前にかなり飲んでしまったせいで翼くんは寝落ちしてしまい、紗夜は潰れかけている。

「ねぇねぇ、いおりたんも早く飲もうよぉ」

「あーもう、くっつくなって!スーツくらい脱がせろよ!」

紗夜はかなりの絡み酒だ。伊織くんが来るまでの間に何度か頬にキスをされた。女のあたしが。その上、伊織くんにあまり会えない寂しさでかなりいじけていた。そこから更にお酒を煽り、現在は伊織くんと会えたこともあってかかなりテンションが高い。顔も伊織くんが言う通り真っ赤だ。

翼くんは自分の家だからって気が抜けて寝ちゃうし…。

翼くんと伊織くんは小中高と同じ学校で、いわゆる幼なじみだ。

それから、翼くんと紗夜が大学の同級生。あたしと紗夜が学生時代のアルバイト先で仲良くなって、紗夜が翼くんを紹介してくれてあたしと翼くんは付き合って半年ちょっと。

紗夜も翼くんから紹介されて、あたし達が付き合うよりずっと前から伊織くんと付き合っている。

4人で飲みに行ったり、遊びにはよく行くし仲はいいのだけれど、あたしは3人の輪の中に入ってもいいのかな、なんて思うことがある。

あたし以外の3人の付き合いの長さに比べるとあたしだけ皆と知り合って日が浅いし…

特に伊織くんはまだ慣れない。いい人だけれど、あたしからすれば一番知らない人だ。だからこそ翼くん、紗夜に比べると気を遣うのは当然で。

伊織くんもあたしには気を遣っている感じがする。

「いおりたぁん、紗夜寂しかったんだよ?だから飲み過ぎたんだもんっ」

紗夜が伊織くんに抱きついた。

「ちょっ…紗夜お前絶対こぼすなよ!赤ワインとかかかったら終わりだからな!ハイハイ、かんぱーい」

伊織くんが缶ビールを開け、紗夜がさっきからずっと持っているワイングラスに軽くぶつけた。

「伊織くん、乾杯…」

「乾杯!」

伊織くんが紗夜を宥めているところ邪魔して悪いな、なんて思いつつグラスを差し出すと、伊織くんが紗夜にするのと同じ様に缶ビールを軽くぶつけた。

「翼もかんぱーい」

寝ている翼くんの方に向かって伊織くんが乾杯するポーズをとった。

「いおりたんっ、いおりたん~」

「はいはい何ですか」

「いおりたぁん!何でそんなに冷たいのぉっ」

「冷たくないって!」

「つめたいよぉ~!!」

「普通だろ!なぁ杏奈ちゃん」

「うん、普通だよ」

元々紗夜は甘え上手なタイプだけれど、普段から伊織くんには特別甘えている。そこが可愛いんだけど…残業疲れか、酔っ払って体を揺らしてくる紗夜に伊織くんはあまり反応しない。

「う…」

「おい紗夜?」

「きもちわるい…」

「マジかよお前、こっち来い!」

「うっ…」

「勘弁してくれよ、もー!」

伊織くんの体を揺さぶって自分まで揺れたのか、気分が悪くなった紗夜を伊織くんがトイレに連れていった。

「…」

ということであたしは寝ている翼くんと共に部屋に取り残されてしまった。

「翼くん、伊織くん来たよ…」

…近くに行って声を掛けたけど…やっぱり翼くんは寝ている。

***

「うっ、うっ」

しばらくして、伊織くんに連れられて紗夜が目を擦りながら戻ってきた。

「お帰り、紗夜大丈夫…?」

「大丈夫じゃないい、恥ずかしいよぉ…」

「仕方ないだろお前が飲みすぎたんだから!っていうか1回や2回じゃないだろこんな事。ほら水」

席に着くと伊織くんが自分で買ってきた水のペットボトルを開けて紗夜に渡した。

「ありがとう…」

…まぁ、とりあえず何とかなったみたいでよかった。ここ、翼くんの家だしね…

「いおりたん~」

「あーもう揺らすなって!!次気持ち悪くなっても知らねぇからな!」

「じゃあぎゅっとしてよぉ、いつもしてくれるじゃんっ」

「ちょっ…恥ずかしいこと言うな!」

紗夜は伊織くんに抱きついて離れない。

いつもしてくれる、ってどんな感じなんだろ…案外伊織くんの方が甘えるのかな。

子供の面倒を見るように紗夜を宥める伊織くんしか見たことが無いけれど、普段はそうでもないのかな。ちょっと見てみたいかも。

「紗夜?紗夜ー。もう寝ろ!」

抱きついたままうとうとし始めた紗夜に伊織くんが声を掛けた。紗夜はうぅん…と唸り目を閉じたままだ。

「翼悪い、ベッド借りるぞ。ほら紗夜、こっち」

伊織くんが紗夜をベッドに寝かせてすぐ、紗夜が寝息を立て始めた。

「はぁ」

溜息をついて伊織くんがこちらに戻ってきて座椅子に腰掛けた。

「ごめんね杏奈ちゃん、騒がしくて」

「ううん!全然大丈夫だよ」

…ていうか今起きてるのあたしと伊織くんだけじゃん…

今まで伊織くんと2人で話したことなんかない。喋らないのも変だし、でも間が持つかな…

どうしよう。何話そう…
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