鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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第一部

14.公爵夫妻

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 ルキウスがまだ笑っているので、私はこの隙に先程の鞭の痕を回復し、寝衣に着替えて寝ようと思った。



 笑いたければ、ずっと笑っていろ。
 そして、そのまま笑い死ね、ふんっ。



「こら、待て。何故、服を着るのだ?」
「もう疲れたから、私は寝る。其方はパーティーの続きにでも顔を出して来い」



 ルキウスは私の言葉を無視して、私の手から寝衣を取り上げ、口付けながら、私をベッドに沈めた。
 私があっという間の事に目を瞬いていると、突然脚に手が来たので、私は慌てて、その手を止めた。



「っ! 今朝までしていただろう! 何故、またしようと思えるのだ?」
「鞭で打たれ、耐え忍んでいる顔を見ていると、次は其方のよく啼く声を聞きたくなったのだ」



 そう言って、下半身を押し当ててくるルキウスに、私は変態と叫んだが、ルキウスは全く気にしていないようだ。



 私が絶望した瞬間、部屋にノックの音が響き、ファビアーニ公爵夫妻の訪問が知らされた。




「ファビアーニ公爵? ああ、ルイーザの養い親か……何の用だ?」
「大方、この度の場で其方を利用価値があると踏み、付き合っておこうと思ったのだろうな」



 ああ、成る程。
 どうせ、名目上養い親にはなったが、ルキウスの気紛れで簡単に殺されると思っていたので関わらなかったのだろうな。



 それが、今回ルキウスにしがみつき、ルキウスに大切にされている……ように見える私を見て、親として振る舞った方が得だと思ったのだろう。



「私はどうすれば良いのだ。ルイーザにも、あやつらの記憶などないし……」
「好きにすれば良い。親子の茶番を演じたければ、そうすれば良いし。取り立てるのも利用するのも、其方の自由だ。好きにしろ」
「取り立てると言っても公爵家なのだろうから、既にこの国において、充分な程に権力を握っていると思うが……」




 だが、私は養い親になど興味がないのだ。そりゃ、ヴェンツェルの子孫と縁戚を結んでいるのだから、あの者たちもヴェンツェルの子孫であり、マルクスの子孫でもあるのだろうが……。




「何だか……変な気分だな……戦友たちの子孫に会うとは……」
「……忘れていると思うが、私もそうだが?」
「………………わ、忘れてなどいない」



 ルキウスは、マルクスに似ているから……つい子孫という感じではなく、マルクスを重ねて見てしまうのだ……。まあ、マルクスはルキウスのようにクズではないが……。





 私は寝衣を着て、ベッドへと入り、ヘッドボードにもたれ、ベッドに腰掛けているルキウスの手に己の手を絡めた。



「……どうした? やれなかったのが残念だったのか? 安心しろ。あとで気がすむまで犯してやる」
「違う! 先程の雰囲気を出すなら、其方に引っ付いていた方が良いと思っただけだ」
「ふむ」



 ルキウスは私の手を握り返し、入室を許可したので、私は深呼吸し、姿勢を正した。
 すると、品の良いご夫婦が入ってきて、ルキウスと私に礼を取ったあと、私の側に近づいてきたので、私は慌ててルキウスの背に隠れた。




「ルイーザは、其方らを頭では親だと分かってはいても、親だという意識はない。そこを踏まえた上で発言しろ」
「承知致しております、殿下」



 公爵が、ルキウスに頭を下げた。ルイーザの髪の色に似ている。目の色や雰囲気は、夫人のほうか……。
 ふむ、だから選ばれたのだろうか? ルイーザの容姿だと、この人たちの子だと言われても、普通に信じてしまいそうだ。




「ルイーザ、とても立派になりましたね。皇室から望まれたとは言え、生まれたばかりの貴方を手放してしまった事を、ずっと後悔していたのです。1日だとて思わない日はなかったのですよ……」



 涙をそっと流しながら、私に優しい声音で話しかける夫人に、私は心の中で溜息を吐いた。



 大したものだ。まるで、子を想う親のような声音と雰囲気だ。ルイーザなら、騙されていただろうな……。




「公爵夫人……」
「お母様と呼んで頂戴。それとも、わたくし達の事はもう父母だとは思えないかしら?」
「そんな事は……」



 白々しい。
 だが、公爵家との繋がりや後見は、あったほうが私の……そしてルイーザの為にもなるのだろうな。



 ふむ、此処は一つ逃げるまでの間は、親子ごっこでもしておくか……。



「わたくし……愛されていないと思っていたのです……勿論、殿下の事は愛しています。殿下の側にいられるのは、わたくしにとっての幸福です。けれど、お父様とお母様は、わたくしがいらない子だから……遠ざけたのかと思っていたのです」
「そのような事はないのです。もっと早く会いに来て、話すべきでした。ルイーザ、これからは今までの時間を取り戻したいわ。愛しているのよ」
「嬉しいです、お母様」



 おぇっ。私がルイーザを真似ながら、夫人と話していると、ルキウスがニヤニヤしながら、私達を見ている。



 …………これは絶対にあとで揶揄からかうつもりだな。




 その後、一通りの茶番を終えると公爵夫妻は退室して行ったので、私は大仰に溜息を吐き、ベッドに寝転がった。



 ルキウスの馬鹿にするような笑みに反応しては負けだ。無視だ、無視。



「もう疲れた。寝る」
「意外だったな。其方は退けると思うたが?」
「私にはどうでも良い相手だが……、ルイーザの事を考えれば、安易に切り捨てるより、繋がりを持っていたほうが良いだろう? 公爵家の後見はないよりはあった方が良い」
「其方でも、多少は考えられるのだな」




 そのように率直に驚かれると、凄く腹が立つのだが……。



「どうせ、私は浅慮で頭の回らない愚か者だ」
「そこまでは言っていないが、よく己の事が分かっているのだな」




 うぐぐ……ムカつく、ムカつくぞ。
 私が頬を膨らませながら、寝具に潜り込むと、ルキウスは拗ねるなと言って私の頭を撫でたから、とても驚いた。



 ルイーザの時には表面上優しくはされても、私の時は暴力をふるわれた記憶しかないからだ。




「私はルイーザではないぞ」
「私だとて、鬼ではない。良くやれれば褒めてやるぞ」



 鬼だろう? どう考えても鬼だろう?
 私が訝しげな顔でルキウスを見つめていると、ルキウスに頭を叩かれた。



「その目は何だ?」
「やはり鬼ではないか! 私には暴力ばかりだ!」
「それは其方の態度が悪いからだ。オモチャはオモチャらしく従順でいろ」
「私がルイーザのように、しおらしくしていれば、其方は優しくなるとでも言うのか?」




 私がルキウスを睨むと、ルキウスは私を鼻で笑ったので、私は凄く腹が立ち、もうふて寝をしてやる事にした。




「もう良い。暴力も優しさも、全てルキウスの気分ひとつだという事がよく分かった! 私は気紛れに振り回されたくはない。もう寝る」
「何だ? 優しくされたいのか?」
「別にされたくなどない!」
「なら、乱暴にされたいのか?」



 何だ、此奴……。私がルキウスをゴミを見るような目で見つめると、ルキウスは私に嘲笑を浮かべた。
 本当にムカつく奴だ。一体何がしたいのだ……。



「返事がないという事は乱暴にされるのが好きだと受け取るぞ。やはり変態だったのだな」
「っ! 違う! では、優しくしろ! 出来るものなら優しくしてみろ! 一度くらい殴らず蹴らず、鞭を振らず、剣を出さずにいてみろ!」
「先に剣を出すのは、いつも其方だがな……」




 むっ、それはそうだが……。
 私がばつの悪そうな顔でルキウスを見ると、ルキウスが私に覆い被さってきたので、私は叫んだ。



「やめろ! 寝ると言っただろう? 優しく出来るのなら、私をそっと寝かせておいてやろうとは思わぬのか?」
「何を言っている? 優しくや乱暴は交わりの話だろう?」
「は?」



 私が首を傾げると、ルキウスが今日は優しく抱いてやるから大人しくしていろと言い出したので、私はふざけるなと喚いた。



「大人しくせぬと、鞭でいう事を聞かせる事になるが良いのか? やはり乱暴にされるのが好みか?」
「違う!」
「ならば、大人しくしていろ」
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