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前世編
前世の事故
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私はあの紬さんの事件から部屋で塞ぎ込む事が増えた。外に出ると、紬さんが鬼の形相で立っている気がして、どうしても外出する気になれなかったのだ。
けど、私はかねてよりイタリア旅行を計画していたので、それを諦めたくなかった。それにイタリアから帰ってきたらコミケもある。イベント事が盛り沢山なのに、紬さんに怯えて全てを諦めるなんて絶対に嫌だと思った私は、拳を握り締め決意を込めて立ち上がった。
夏休みに入る前から、ずっと計画してたんだもん。絶対に行きたい。奮い立つのよ、里奈!
「怖がっていたって仕方ない! 梢さん! ううん、梢大伯母さん! どうか、私を守って下さい!」
私は部屋から出て、仏壇がある部屋まで向かう。そして仏壇の前で土下座しながら、梢さんに守ってもらえるようにお願いした。
梢さんと紬さんは親友だったらしいし、きっと大丈夫。きっと親友の言葉なら止まってくれる。考え直してくれる。
私はそう信じて、梢さんに守って下さいと何度もお願いした。
◆
「里奈ちゃん、くれぐれも気をつけるんだよ。里奈ちゃんはお馬鹿さんだから、好きな事に夢中になると周りが見えなくなるだろう? 人の話も聞かなくなるし……。信号を渡る時は、ちゃんと右見て左見て」
「あーはいはい。分かった分かった。ちゃんと気をつけるよ」
私がイタリア旅行に行く日、おばあちゃんは何度も心配そうにそう言った。正直なところ、耳にタコなので……私はその言葉を遮って、立ち上がり玄関に向かう。
すると、おばあちゃんが「本当に余所見をしながら歩かないでおくれ」と言ったから、どれだけ信用ないんだと思いつつ、「はいはい」と気のない返事をした。
「大体……私、馬鹿じゃないんだよ。これでもロシアで首席だったんだからね! そ・れ・に! ロシア語、日本語、英語、イタリア語をあやつる天才だもん! どこに心配する要素があるの? お土産買ってくるから大船に乗った気持ちで待っていてよ」
「泥舟の間違いじゃないかい? 第一、勉強が出来る馬鹿ほどタチの悪いものはないよ。己の愚かさに中々気づけないんだから」
「え? ひどくない?」
「己を天才という者は、愚か者と紙一重だよ」
え? え? 何?
それが可愛い可愛い孫に言う言葉?
「ひどーい。お土産を買って来てやらないからね!」
私はフンと鼻を鳴らし、おばあちゃんに背を向け、「いってきます」と家を出た。
私は……この時のおばあちゃんの言葉をもっと、しっかり聞いておくべきだった。本当に帰れなくなるなんて……、この時には予想すらしなかったのだ。
◆
「わぁ! 凄い! 凄い!」
ああ、此処に住みたい!
私はイタリアについて、まずヴェネツィア共和国時代のドージェ宮、ドゥカーレ宮殿に来ていた。
運河に面して建つこの壮麗な建物は、7世紀末期から1000年以上にわたって栄華を誇ったヴェネツィア共和国の総督邸兼政庁だ。
内部の煌びやかな部屋の数々は "最も高貴な国" と呼ばれた当時の繁栄ぶりを物語っている。
私は大興奮でドゥカーレ宮殿を見つめる。
ああ! 素敵!
それに共和国時代からヴェネツィアを象徴する有翼の獅子! ああ、かっこいい! 素敵!
やばい、今の私、語彙力死ぬレベルで興奮してる!
私はこの時には、既におばあちゃんの忠告など忘れていた。それくらい目の前の事に夢中で興奮していたのだ。
「あっ! これがため息橋か!」
私は、イストリアの石で造られた、ため息橋に近寄り、更に興奮した。
此処は尋問室と古い牢獄を結んでいる橋で、独房に入れられる前に窓の外から、ヴェネツィアの美しい景色を見られるのが最後という事で、囚人が溜息を吐くというのが名前の由来らしい。
分かる、分かる! 美しいよね! 溜息が出るほど美しいよね!
私は興奮しながら、うんうんと頷き共感する。
「あぁ、イストリアにも行ってみたいなー」
イストリアとは、アドリア海の奥に位置する三角形の半島で、イタリア、スロベニア、クロアチアに跨る半島である。
実はずっと憧れていたので、いつかは行ってみたいなと思いを馳せてみる。
「美しきイストリア……。ああ! 行けるなら死んでもいい!」
でも、今回の旅行の日程では、そこまで周れない。うーん。次かな。次は、イストリアの観光に費やそう。
イタリアはヨーロッパの中でも特に見どころが多く、『観光』を一つの目的として駆け足で周っても最低10日はかかってしまう国だ。
私は時計とガイドブックを見ながら、溜息を吐く。
「ああ、やっぱりいいな、イタリア。住みたい」
調理師専門学校卒業したら、イタリアに修行に来ようかな……。ずっと憧れてたけど、今日初めて来て、その憧れは確信に変わった!
私は此処に骨を埋める覚悟で、シェフになる!
そう心に決めて、うふふと心の中で笑う。
実は私、オタクだ。コスプレしたり同人誌をこそこそ作っちゃうタイプのオタク。
ある日、国が擬人化されている作品にどハマりして、そこからイタリア……特に北イタリアが気になって気になって仕方がなく、今に至るという訳だ。
「ああ! やっとだよ! やっと! 私、今推しに入国してる! 推しの上に立ってる!」
私はアドリア海のほうに体を向け、思いを馳せる。
アドリア海に面した美しき水の都、ヴェネツィア。
かつて『アドリア海の女王』という名を欲しいままにしたヴェネツィア共和国……。
あぁ、素晴らしい国だったんだろうな。過去に行けるわけないけど、この目で見てみたかったな。
そう思いながら胸の上で手を組んだ。
そして、私は思いっきり頭の中をヴェネツィア共和国に染めた後、スキップをしながら国立マルチャーナ図書館へと向かった。
「ふふん♪ 下調べはバッチリだもんねー」
この図書館は、ドゥカーレ宮殿と向き合った建物ではあるけど、コッレール博物館と繋がっているので、コッレール博物館から入場し、国立考古学博物館を通ってこの図書館に行くルートが一番良い。
イタリアでも最も古い図書館の一つで、世界的に見ても随一の古い文献コレクションを保管している図書館に、私は更に興奮度が増す。
「えっと……図書館の次は、サン・マルコ大聖堂に行ったでしょ……あ! パンテオン神殿にも行きたいな。あーでも、ローマだしな……北イタリア周ってからのローマも難しいか……うーん。こっちも次回以降かな?」
いいもん、いいもん、次は冬休みにイタリアに遊びに来るから! その後はイタリアに修行に来ちゃうもんね!
私はヴェネツィアからミラノにLE FRECCEで移動し、頭の中で色々と計画を立てながら、はやる気持ちをおさえつつ、ガイドブックに目を落とした。
「えーっと、次は……」
私はガイドブックに、かじりつくように歩く。
「……さん、こっちよ」
「あー、待って。今これ見てるから……」
「梢さん……こっちに来て」
「は? だから、梢じゃないってば」
バッと顔を上げた瞬間、目の前には紬さんが立っていた。
その瞬間、自分を取り巻く時間が止まった気がして、嫌な汗が伝う。
「え?」
「さようなら」
え? と思った瞬間、私の真横には車が来ていて、もう避けられなかった。
そう。私は車に轢かれた。轢かれてしまったのだ。
どうやらガイドブックに夢中な私は前をちゃんと見ずに道路にフラフラと侵入していたようだ。そこを紬さんにつけ込まれたのだと思う。
こうして、私は19歳で命を落とした。
◆
「あーあ。だから、年長者の忠告はちゃんと聞かないと」
意識がゆらゆらと揺れる。その揺れる意識の中で、誰かの声を聞いた気がした。
目を瞑っていても、眩しいと分かる場所に、私は目を擦りながら、ゆっくりと目を開ける。
「チャオ! チャオ! 元気? あ! 死んでるから元気じゃないか! 残念!」
「え? 誰?」
目の前にはおさげ姿の少女が立っていた。服装は紬さんと同じ、戦時中のような格好だ。
「えー、誰だと思う? まあ、そんな事どうでも良いじゃん。これから、貴方は生まれ変わるんだから」
「は?」
なんか、めちゃくちゃ軽いなこの人。
なんとなく、人を小馬鹿にしてる気がするし、なんかムカつくのは気のせいだろうか?
そう思い、私は目の前にいる彼女をジロッと睨んだ。
でも、今この人……生まれ変わるって言わなかった?
「……生まれ変わる?」
「ご名答!」
いやいや、今貴方がそう言ったんじゃない。何この人……疲れる……。
そう思い、深い溜息を吐いても、彼女は気にも留めずにケラケラと笑っている。
「今、流行りの異世界転生ってやつだよ。ついでに、信心深い里奈ちゃんにはイタリアに良く似た世界に転生させてあげるってオプション付き! どう? 嬉しい?」
「あー、どうも」
「気のない返事だねー。嬉しくないなら、このまま死んどく?」
「嬉しいです! 嬉しいから!」
私は慌てて彼女の手を握って、「嬉しい」と告げる。すると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「異世界に転生したら、きっと紬ちゃんはついて来れないよ。まあ、神様からの御配慮ってやつよ。貴方の神様からの」
「え? 神様ってイイスス・ハリストス様?」
「それから、貴方の記憶は消えます! 消えるけど、20歳を越えて生きられるように頑張るんだよ」
いやいや、質問に答えて欲しい。
「え? ちょっと待って……。20歳? という事は、やっぱり私……紬さんに呪われてるの?」
「まあ、記憶ないから無理だと思うけど、何かあったら、呼んでよ。梢さま、助けてって」
だから、質問に答え……ん? 今、梢って言った?
私は目を大きく見開き、目の前の彼女を見た。
「え? 貴方がおばあちゃんのお姉さん? 私の大伯母さん?」
「じゃあ、いってらっしゃーい! 今回は良い人生を送ってね! また19歳で死んじゃ駄目だよ」
「だから、質問に答えてよ!」
私の叫びも虚しく、あれだけ明るかったのに突如、暗転した。
ってか、また19歳で……なんて変なフラグ立つような事言わないで欲しい、と独り言ちりながら、フワフワと意識が遠のいていくのを感じた。
だけど、この呪いは思ったより根深かったようだ。
私はこの梢さんの言葉を、その時にまた思い出す事になる。
けど、私はかねてよりイタリア旅行を計画していたので、それを諦めたくなかった。それにイタリアから帰ってきたらコミケもある。イベント事が盛り沢山なのに、紬さんに怯えて全てを諦めるなんて絶対に嫌だと思った私は、拳を握り締め決意を込めて立ち上がった。
夏休みに入る前から、ずっと計画してたんだもん。絶対に行きたい。奮い立つのよ、里奈!
「怖がっていたって仕方ない! 梢さん! ううん、梢大伯母さん! どうか、私を守って下さい!」
私は部屋から出て、仏壇がある部屋まで向かう。そして仏壇の前で土下座しながら、梢さんに守ってもらえるようにお願いした。
梢さんと紬さんは親友だったらしいし、きっと大丈夫。きっと親友の言葉なら止まってくれる。考え直してくれる。
私はそう信じて、梢さんに守って下さいと何度もお願いした。
◆
「里奈ちゃん、くれぐれも気をつけるんだよ。里奈ちゃんはお馬鹿さんだから、好きな事に夢中になると周りが見えなくなるだろう? 人の話も聞かなくなるし……。信号を渡る時は、ちゃんと右見て左見て」
「あーはいはい。分かった分かった。ちゃんと気をつけるよ」
私がイタリア旅行に行く日、おばあちゃんは何度も心配そうにそう言った。正直なところ、耳にタコなので……私はその言葉を遮って、立ち上がり玄関に向かう。
すると、おばあちゃんが「本当に余所見をしながら歩かないでおくれ」と言ったから、どれだけ信用ないんだと思いつつ、「はいはい」と気のない返事をした。
「大体……私、馬鹿じゃないんだよ。これでもロシアで首席だったんだからね! そ・れ・に! ロシア語、日本語、英語、イタリア語をあやつる天才だもん! どこに心配する要素があるの? お土産買ってくるから大船に乗った気持ちで待っていてよ」
「泥舟の間違いじゃないかい? 第一、勉強が出来る馬鹿ほどタチの悪いものはないよ。己の愚かさに中々気づけないんだから」
「え? ひどくない?」
「己を天才という者は、愚か者と紙一重だよ」
え? え? 何?
それが可愛い可愛い孫に言う言葉?
「ひどーい。お土産を買って来てやらないからね!」
私はフンと鼻を鳴らし、おばあちゃんに背を向け、「いってきます」と家を出た。
私は……この時のおばあちゃんの言葉をもっと、しっかり聞いておくべきだった。本当に帰れなくなるなんて……、この時には予想すらしなかったのだ。
◆
「わぁ! 凄い! 凄い!」
ああ、此処に住みたい!
私はイタリアについて、まずヴェネツィア共和国時代のドージェ宮、ドゥカーレ宮殿に来ていた。
運河に面して建つこの壮麗な建物は、7世紀末期から1000年以上にわたって栄華を誇ったヴェネツィア共和国の総督邸兼政庁だ。
内部の煌びやかな部屋の数々は "最も高貴な国" と呼ばれた当時の繁栄ぶりを物語っている。
私は大興奮でドゥカーレ宮殿を見つめる。
ああ! 素敵!
それに共和国時代からヴェネツィアを象徴する有翼の獅子! ああ、かっこいい! 素敵!
やばい、今の私、語彙力死ぬレベルで興奮してる!
私はこの時には、既におばあちゃんの忠告など忘れていた。それくらい目の前の事に夢中で興奮していたのだ。
「あっ! これがため息橋か!」
私は、イストリアの石で造られた、ため息橋に近寄り、更に興奮した。
此処は尋問室と古い牢獄を結んでいる橋で、独房に入れられる前に窓の外から、ヴェネツィアの美しい景色を見られるのが最後という事で、囚人が溜息を吐くというのが名前の由来らしい。
分かる、分かる! 美しいよね! 溜息が出るほど美しいよね!
私は興奮しながら、うんうんと頷き共感する。
「あぁ、イストリアにも行ってみたいなー」
イストリアとは、アドリア海の奥に位置する三角形の半島で、イタリア、スロベニア、クロアチアに跨る半島である。
実はずっと憧れていたので、いつかは行ってみたいなと思いを馳せてみる。
「美しきイストリア……。ああ! 行けるなら死んでもいい!」
でも、今回の旅行の日程では、そこまで周れない。うーん。次かな。次は、イストリアの観光に費やそう。
イタリアはヨーロッパの中でも特に見どころが多く、『観光』を一つの目的として駆け足で周っても最低10日はかかってしまう国だ。
私は時計とガイドブックを見ながら、溜息を吐く。
「ああ、やっぱりいいな、イタリア。住みたい」
調理師専門学校卒業したら、イタリアに修行に来ようかな……。ずっと憧れてたけど、今日初めて来て、その憧れは確信に変わった!
私は此処に骨を埋める覚悟で、シェフになる!
そう心に決めて、うふふと心の中で笑う。
実は私、オタクだ。コスプレしたり同人誌をこそこそ作っちゃうタイプのオタク。
ある日、国が擬人化されている作品にどハマりして、そこからイタリア……特に北イタリアが気になって気になって仕方がなく、今に至るという訳だ。
「ああ! やっとだよ! やっと! 私、今推しに入国してる! 推しの上に立ってる!」
私はアドリア海のほうに体を向け、思いを馳せる。
アドリア海に面した美しき水の都、ヴェネツィア。
かつて『アドリア海の女王』という名を欲しいままにしたヴェネツィア共和国……。
あぁ、素晴らしい国だったんだろうな。過去に行けるわけないけど、この目で見てみたかったな。
そう思いながら胸の上で手を組んだ。
そして、私は思いっきり頭の中をヴェネツィア共和国に染めた後、スキップをしながら国立マルチャーナ図書館へと向かった。
「ふふん♪ 下調べはバッチリだもんねー」
この図書館は、ドゥカーレ宮殿と向き合った建物ではあるけど、コッレール博物館と繋がっているので、コッレール博物館から入場し、国立考古学博物館を通ってこの図書館に行くルートが一番良い。
イタリアでも最も古い図書館の一つで、世界的に見ても随一の古い文献コレクションを保管している図書館に、私は更に興奮度が増す。
「えっと……図書館の次は、サン・マルコ大聖堂に行ったでしょ……あ! パンテオン神殿にも行きたいな。あーでも、ローマだしな……北イタリア周ってからのローマも難しいか……うーん。こっちも次回以降かな?」
いいもん、いいもん、次は冬休みにイタリアに遊びに来るから! その後はイタリアに修行に来ちゃうもんね!
私はヴェネツィアからミラノにLE FRECCEで移動し、頭の中で色々と計画を立てながら、はやる気持ちをおさえつつ、ガイドブックに目を落とした。
「えーっと、次は……」
私はガイドブックに、かじりつくように歩く。
「……さん、こっちよ」
「あー、待って。今これ見てるから……」
「梢さん……こっちに来て」
「は? だから、梢じゃないってば」
バッと顔を上げた瞬間、目の前には紬さんが立っていた。
その瞬間、自分を取り巻く時間が止まった気がして、嫌な汗が伝う。
「え?」
「さようなら」
え? と思った瞬間、私の真横には車が来ていて、もう避けられなかった。
そう。私は車に轢かれた。轢かれてしまったのだ。
どうやらガイドブックに夢中な私は前をちゃんと見ずに道路にフラフラと侵入していたようだ。そこを紬さんにつけ込まれたのだと思う。
こうして、私は19歳で命を落とした。
◆
「あーあ。だから、年長者の忠告はちゃんと聞かないと」
意識がゆらゆらと揺れる。その揺れる意識の中で、誰かの声を聞いた気がした。
目を瞑っていても、眩しいと分かる場所に、私は目を擦りながら、ゆっくりと目を開ける。
「チャオ! チャオ! 元気? あ! 死んでるから元気じゃないか! 残念!」
「え? 誰?」
目の前にはおさげ姿の少女が立っていた。服装は紬さんと同じ、戦時中のような格好だ。
「えー、誰だと思う? まあ、そんな事どうでも良いじゃん。これから、貴方は生まれ変わるんだから」
「は?」
なんか、めちゃくちゃ軽いなこの人。
なんとなく、人を小馬鹿にしてる気がするし、なんかムカつくのは気のせいだろうか?
そう思い、私は目の前にいる彼女をジロッと睨んだ。
でも、今この人……生まれ変わるって言わなかった?
「……生まれ変わる?」
「ご名答!」
いやいや、今貴方がそう言ったんじゃない。何この人……疲れる……。
そう思い、深い溜息を吐いても、彼女は気にも留めずにケラケラと笑っている。
「今、流行りの異世界転生ってやつだよ。ついでに、信心深い里奈ちゃんにはイタリアに良く似た世界に転生させてあげるってオプション付き! どう? 嬉しい?」
「あー、どうも」
「気のない返事だねー。嬉しくないなら、このまま死んどく?」
「嬉しいです! 嬉しいから!」
私は慌てて彼女の手を握って、「嬉しい」と告げる。すると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「異世界に転生したら、きっと紬ちゃんはついて来れないよ。まあ、神様からの御配慮ってやつよ。貴方の神様からの」
「え? 神様ってイイスス・ハリストス様?」
「それから、貴方の記憶は消えます! 消えるけど、20歳を越えて生きられるように頑張るんだよ」
いやいや、質問に答えて欲しい。
「え? ちょっと待って……。20歳? という事は、やっぱり私……紬さんに呪われてるの?」
「まあ、記憶ないから無理だと思うけど、何かあったら、呼んでよ。梢さま、助けてって」
だから、質問に答え……ん? 今、梢って言った?
私は目を大きく見開き、目の前の彼女を見た。
「え? 貴方がおばあちゃんのお姉さん? 私の大伯母さん?」
「じゃあ、いってらっしゃーい! 今回は良い人生を送ってね! また19歳で死んじゃ駄目だよ」
「だから、質問に答えてよ!」
私の叫びも虚しく、あれだけ明るかったのに突如、暗転した。
ってか、また19歳で……なんて変なフラグ立つような事言わないで欲しい、と独り言ちりながら、フワフワと意識が遠のいていくのを感じた。
だけど、この呪いは思ったより根深かったようだ。
私はこの梢さんの言葉を、その時にまた思い出す事になる。
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