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本編
28.ルカ様の挑発
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……このままでは駄目です。
駄目なのです。
わたくしは殿下のお部屋のベッドで寝具に包まりながら、悩んでおりました。
「………………」
でも、腰が怠くて……指一本動かせそうにないので……周りから見るとベッドでダラけているだけに見えるかもしれませんが、これでも真剣に悩んでいるのです。
わたくし……授業はちゃんと出たいのです。
お友達にも会いたいですし……。
いえ、元はと言えば……授業中に考え事をしていて、お仕置きを受けたわたくしが悪いのですけれど……夕食前のアレは、わたくしは悪くないと思うのです……。
あの後、いくら泣いて休ませてとお願いしても、殿下はずっとわたくしを舐めていました。全身余すところなく味わうというのは、こういう事を言うのかなと思う程に沢山舐められて、体は重くて辛いのに感じてしまって、沢山泣かされてしまいました。
…………。
殿下はとても体力があるのですね……。
ですが、わたくしは体力がないので、もう少し体力をつけなければならないのかもしれません。そうすれば、交わりの後でも、このように寝込まずに殿下のようにお仕事が出来るのでは?
まあ、わたくしの場合お勉強ですけれど……。
体力……どうやってつけましょう?
そんな事を寝転びながら考えていると、次第にうとうとしてしまって、わたくしは眠ってしまいました。
◆
「……ふあ、ぁ、よく寝たのです」
「それは良かったよ」
わたくしが目を擦りながら体を起こすと、殿下が寝ているわたくしの横に座って本を読んでいました。
「殿下……お仕事は終わったのですか?」
「ああ、そうだね。それより、昨日から何も食べていないだろう? 何か食べるかい?」
「は、はい……」
わたくしが頷くと、殿下はわたくしにパニーニが乗ったお皿を手渡しました。
「ありがとうございます」
チーズやハム……トマトも挟まっていて、とても美味しいのです。
このように、普段は優しく気遣って下さって……、些細な事かもしれませんが、それがとても嬉しいのです……。
殿下との日々は些細な事でも幸せだと思ってしまうのです。それは、好きだという理由にはなりませんか?
「美味しいです」
「それは良かったよ。そちらのサーモンとパンチェッタの物も食べてみると良いよ」
殿下が指を差したもう片方の中身を覗くと、サーモンとパンチェッタ、他にスライスされたゆで卵やグリル野菜などが入っていました。
「バジルソースがとても合っていて、とても美味しいです!」
「それは良かった。僕も一口貰おうかな」
「はい! どうぞ!」
わたくしがニコニコとパニーニを差し出すと、殿下はパニーニではなく、わたくしの口の端を舐めました。
「っ!!?」
「ああ、本当に美味しいね」
い、今のは? 今のは何ですか?
わたくしが顔を真っ赤にさせ、口をパクパクさせていると、殿下が「ああ、すまないね」と仰ってクスッと笑いました。
「口の端についていたものだから……ここから味見をさせて貰おうと思ってね」
「っ……」
何ですか? 何ですか、それ?
一言仰って下されば良いのに……恥ずかしいのです。
「シルヴィアはまるで茹で蛸のようだね」
「だ、だって……殿下が……」
「いつも、もっと凄いことをしているのに、これくらいでまだ恥ずかしいのかい?」
「そ、それとこれとは違います! で、殿下は慣れているかもしれませんが、わたくしは……」
い、いつもだって、本当は恥ずかしいのですよ……殿下。そ、それに、本当にこれとそれとは違うと思いませんか?
殿下は女性とのアレやコレやに慣れているかもしれませんけれど、わたくしは男性と共に過ごしたり、お食事をご一緒するのは殿下が全て初めてなのに……。
「そのように困った顔をしていると犯すよ?」
「え?」
「ふっ、冗談だよ。早く食べたまえ」
あ……冗談だったのですね。良かった……。
わたくし、これ以上は体力がもちません。
「そのように安堵の顔を浮かべられると、縋りつかせたくなるな……」
「え? 何か仰いましたか?」
……? よく聞こえませんでした……。
「殿下、もう一度仰って下さいませんか? 聞こえなかったのです……」
お返事を疎かにした訳でないのです。
本当に聞こえなかったのです……叱られてしまうでしょうか?
「別に今のは独り言だから気にしなくて良いよ。食べ終わったら執務室においで。勉強を教えてあげるよ」
「は、はい……ありがとうございます……」
わたくしは首を傾げながら、退室していく殿下を眺めつつ、お皿の上のパニーニを手に取り食べ始めました。
出来れば、食べ終わるまで側にいて欲しいと思うのは、わたくしのワガママですか?
その後、食べ終わり執務室に行くと侍従の方々が、お菓子やお茶を用意して下さいました。
殿下とのお勉強は美味しいお菓子付きなので、実はとても楽しみだったりするのです。
「では、始めようか。二度と忘れないように、しっかりその頭に叩き込んであげるよ」
「……いえ、ですから……あれは……」
他に考え事をしていて……。
もしかして、全部分からなかったと嘘をついてしまった事を根に持っているのですか?
「シルヴィア。たとえ寝ていても理解が出来るようになれと言っているのだよ」
「そ、そんな……」
求める水準が厳しすぎて……泣きそうです……けれど、わたくしが真面目に授業を受けなかったからなのです。
……頑張って殿下に許して頂かないと。
「殿下は厳し過ぎますよ。昨日の試験で満点を取ったなら、それを褒めて差し上げましたか? 締めつけてばかりでは、人材は育ちませんよ」
ルカ様……。
わたくしは、庇って下さったルカ様に感動致しました。
「褒める必要なんてないよ。シルヴィアは、ボーッとし過ぎだからね、締めつけるくらいが丁度良いよ」
「いえ、駄目です。女性は花ですよ。愛情と優しさをたっぷり注いで差し上げないと枯れますよ。良いのですか? いつかシルヴィア様に嫌いと言われて逃げられても」
「逃がすつもりはないよ」
「そういう自信が、いつか殿下の身を滅ぼすのです」
ど、どうしましょう。
殿下とルカ様は笑顔で話されていますが、後ろでは火花が散っているように見えます。
何だか怖いのです……。
わたくしがオロオロしていると、他の侍従の方々が気にせず、お菓子でも食べていて下さいねと微笑んでおられます。
皆様、慣れているのでしょうか?
「大体、シルヴィア様のような女性は慈しんでこそです。気も弱そうで、オドオドしていますし、普通なら庇護欲そそられると思うのですが……。虐めてどうするのですか?」
気も弱そうでオドオド?
わたくしは、その言葉がグサッと心に刺さりました。
分かっております。
わたくしに貴族らしさが足りない事くらい……。
「大丈夫だよ。シルヴィアは虐められるのが好きだから」
「殿下? わたくしは……」
わたくしは、出来るなら虐められたくありません。優しくして欲しいです。
わたくしが殿下のお召し物の裾を引っ張っても、殿下はわたくしを見て下さいません。
殿下……ルカ様を牽制するのではなく、そういう事はわたくしと話して欲しいのです……。
「シルヴィアは虐めてあげると、とても良い顔をするのだよ。君には分からないだろうね。まあ、分かって欲しくなどないけどね」
「シルヴィア様も、この際にこの勘違い馬鹿に、ハッキリ仰ったほうが良いですよ。お前は間違えてるって」
え?
そ、そのような事言ったら、あとで何をされるか……。
で、ですが、少しなら許されるのでしょうか?
少し優しくしてってお願いするくらいなら、怒りませんか?
「わ、わたくしは……優しい殿下のほうが好きです……虐められるよりは優しく愛して頂きたいです」
「ほら、シルヴィア様もそう仰っておられますよ。好きな子を虐めたいなんて、殿下はまだまだ子供なのですよ。女性はこの手で大輪の花へと咲かせてこそ、楽しいというものです。それを分からないなんて、殿下はまだまだ青いですね」
い、言い過ぎです。
そのような事を言ってしまったら、あとで絶対わたくしが酷い目に……。
心なしか、ルカ様の言葉で、殿下の眉間に皺が深く刻まれた気が致しますし……。
「はぁ、もう良いよ。シルヴィア」
「は、はい!」
「うるさい侍従など放っておいて、あちらで勉強をするよ」
「は、はい……」
殿下が立ち上がったので、わたくしは皆様にペコっと頭を下げて、慌てて殿下について行きました。
「あんなのじゃ、いつかシルヴィア様に捨てられますね。賭けても良いですよ」
ルカ様の挑発に何かを返す事もなく、殿下はわたくしの手を掴み、お部屋に入られました。
ただドアを閉める音が大きく響いて……殿下が怒っているのだけは分かりました……。
ど、どうしましょう……。
ルカ様……もう少しオブラートに包んで下さいませ。
どうしたら、殿下は機嫌を直して下さいますか?
駄目なのです。
わたくしは殿下のお部屋のベッドで寝具に包まりながら、悩んでおりました。
「………………」
でも、腰が怠くて……指一本動かせそうにないので……周りから見るとベッドでダラけているだけに見えるかもしれませんが、これでも真剣に悩んでいるのです。
わたくし……授業はちゃんと出たいのです。
お友達にも会いたいですし……。
いえ、元はと言えば……授業中に考え事をしていて、お仕置きを受けたわたくしが悪いのですけれど……夕食前のアレは、わたくしは悪くないと思うのです……。
あの後、いくら泣いて休ませてとお願いしても、殿下はずっとわたくしを舐めていました。全身余すところなく味わうというのは、こういう事を言うのかなと思う程に沢山舐められて、体は重くて辛いのに感じてしまって、沢山泣かされてしまいました。
…………。
殿下はとても体力があるのですね……。
ですが、わたくしは体力がないので、もう少し体力をつけなければならないのかもしれません。そうすれば、交わりの後でも、このように寝込まずに殿下のようにお仕事が出来るのでは?
まあ、わたくしの場合お勉強ですけれど……。
体力……どうやってつけましょう?
そんな事を寝転びながら考えていると、次第にうとうとしてしまって、わたくしは眠ってしまいました。
◆
「……ふあ、ぁ、よく寝たのです」
「それは良かったよ」
わたくしが目を擦りながら体を起こすと、殿下が寝ているわたくしの横に座って本を読んでいました。
「殿下……お仕事は終わったのですか?」
「ああ、そうだね。それより、昨日から何も食べていないだろう? 何か食べるかい?」
「は、はい……」
わたくしが頷くと、殿下はわたくしにパニーニが乗ったお皿を手渡しました。
「ありがとうございます」
チーズやハム……トマトも挟まっていて、とても美味しいのです。
このように、普段は優しく気遣って下さって……、些細な事かもしれませんが、それがとても嬉しいのです……。
殿下との日々は些細な事でも幸せだと思ってしまうのです。それは、好きだという理由にはなりませんか?
「美味しいです」
「それは良かったよ。そちらのサーモンとパンチェッタの物も食べてみると良いよ」
殿下が指を差したもう片方の中身を覗くと、サーモンとパンチェッタ、他にスライスされたゆで卵やグリル野菜などが入っていました。
「バジルソースがとても合っていて、とても美味しいです!」
「それは良かった。僕も一口貰おうかな」
「はい! どうぞ!」
わたくしがニコニコとパニーニを差し出すと、殿下はパニーニではなく、わたくしの口の端を舐めました。
「っ!!?」
「ああ、本当に美味しいね」
い、今のは? 今のは何ですか?
わたくしが顔を真っ赤にさせ、口をパクパクさせていると、殿下が「ああ、すまないね」と仰ってクスッと笑いました。
「口の端についていたものだから……ここから味見をさせて貰おうと思ってね」
「っ……」
何ですか? 何ですか、それ?
一言仰って下されば良いのに……恥ずかしいのです。
「シルヴィアはまるで茹で蛸のようだね」
「だ、だって……殿下が……」
「いつも、もっと凄いことをしているのに、これくらいでまだ恥ずかしいのかい?」
「そ、それとこれとは違います! で、殿下は慣れているかもしれませんが、わたくしは……」
い、いつもだって、本当は恥ずかしいのですよ……殿下。そ、それに、本当にこれとそれとは違うと思いませんか?
殿下は女性とのアレやコレやに慣れているかもしれませんけれど、わたくしは男性と共に過ごしたり、お食事をご一緒するのは殿下が全て初めてなのに……。
「そのように困った顔をしていると犯すよ?」
「え?」
「ふっ、冗談だよ。早く食べたまえ」
あ……冗談だったのですね。良かった……。
わたくし、これ以上は体力がもちません。
「そのように安堵の顔を浮かべられると、縋りつかせたくなるな……」
「え? 何か仰いましたか?」
……? よく聞こえませんでした……。
「殿下、もう一度仰って下さいませんか? 聞こえなかったのです……」
お返事を疎かにした訳でないのです。
本当に聞こえなかったのです……叱られてしまうでしょうか?
「別に今のは独り言だから気にしなくて良いよ。食べ終わったら執務室においで。勉強を教えてあげるよ」
「は、はい……ありがとうございます……」
わたくしは首を傾げながら、退室していく殿下を眺めつつ、お皿の上のパニーニを手に取り食べ始めました。
出来れば、食べ終わるまで側にいて欲しいと思うのは、わたくしのワガママですか?
その後、食べ終わり執務室に行くと侍従の方々が、お菓子やお茶を用意して下さいました。
殿下とのお勉強は美味しいお菓子付きなので、実はとても楽しみだったりするのです。
「では、始めようか。二度と忘れないように、しっかりその頭に叩き込んであげるよ」
「……いえ、ですから……あれは……」
他に考え事をしていて……。
もしかして、全部分からなかったと嘘をついてしまった事を根に持っているのですか?
「シルヴィア。たとえ寝ていても理解が出来るようになれと言っているのだよ」
「そ、そんな……」
求める水準が厳しすぎて……泣きそうです……けれど、わたくしが真面目に授業を受けなかったからなのです。
……頑張って殿下に許して頂かないと。
「殿下は厳し過ぎますよ。昨日の試験で満点を取ったなら、それを褒めて差し上げましたか? 締めつけてばかりでは、人材は育ちませんよ」
ルカ様……。
わたくしは、庇って下さったルカ様に感動致しました。
「褒める必要なんてないよ。シルヴィアは、ボーッとし過ぎだからね、締めつけるくらいが丁度良いよ」
「いえ、駄目です。女性は花ですよ。愛情と優しさをたっぷり注いで差し上げないと枯れますよ。良いのですか? いつかシルヴィア様に嫌いと言われて逃げられても」
「逃がすつもりはないよ」
「そういう自信が、いつか殿下の身を滅ぼすのです」
ど、どうしましょう。
殿下とルカ様は笑顔で話されていますが、後ろでは火花が散っているように見えます。
何だか怖いのです……。
わたくしがオロオロしていると、他の侍従の方々が気にせず、お菓子でも食べていて下さいねと微笑んでおられます。
皆様、慣れているのでしょうか?
「大体、シルヴィア様のような女性は慈しんでこそです。気も弱そうで、オドオドしていますし、普通なら庇護欲そそられると思うのですが……。虐めてどうするのですか?」
気も弱そうでオドオド?
わたくしは、その言葉がグサッと心に刺さりました。
分かっております。
わたくしに貴族らしさが足りない事くらい……。
「大丈夫だよ。シルヴィアは虐められるのが好きだから」
「殿下? わたくしは……」
わたくしは、出来るなら虐められたくありません。優しくして欲しいです。
わたくしが殿下のお召し物の裾を引っ張っても、殿下はわたくしを見て下さいません。
殿下……ルカ様を牽制するのではなく、そういう事はわたくしと話して欲しいのです……。
「シルヴィアは虐めてあげると、とても良い顔をするのだよ。君には分からないだろうね。まあ、分かって欲しくなどないけどね」
「シルヴィア様も、この際にこの勘違い馬鹿に、ハッキリ仰ったほうが良いですよ。お前は間違えてるって」
え?
そ、そのような事言ったら、あとで何をされるか……。
で、ですが、少しなら許されるのでしょうか?
少し優しくしてってお願いするくらいなら、怒りませんか?
「わ、わたくしは……優しい殿下のほうが好きです……虐められるよりは優しく愛して頂きたいです」
「ほら、シルヴィア様もそう仰っておられますよ。好きな子を虐めたいなんて、殿下はまだまだ子供なのですよ。女性はこの手で大輪の花へと咲かせてこそ、楽しいというものです。それを分からないなんて、殿下はまだまだ青いですね」
い、言い過ぎです。
そのような事を言ってしまったら、あとで絶対わたくしが酷い目に……。
心なしか、ルカ様の言葉で、殿下の眉間に皺が深く刻まれた気が致しますし……。
「はぁ、もう良いよ。シルヴィア」
「は、はい!」
「うるさい侍従など放っておいて、あちらで勉強をするよ」
「は、はい……」
殿下が立ち上がったので、わたくしは皆様にペコっと頭を下げて、慌てて殿下について行きました。
「あんなのじゃ、いつかシルヴィア様に捨てられますね。賭けても良いですよ」
ルカ様の挑発に何かを返す事もなく、殿下はわたくしの手を掴み、お部屋に入られました。
ただドアを閉める音が大きく響いて……殿下が怒っているのだけは分かりました……。
ど、どうしましょう……。
ルカ様……もう少しオブラートに包んで下さいませ。
どうしたら、殿下は機嫌を直して下さいますか?
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