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第一章 First love

マラソン大会

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 高校に入学してから知ってショックを受けたことにマラソン大会というものがあった。

 運動の基本は走ること。
 それはわかるけど、運動をするつもりのない生徒まで走らせるとは何事か。

 野球部で走り込んでいる裕二ははりきって「5位以内には入る」と宣言をした。
 蜜と同じ文科系の太一はサポート係のエイドをやりたいと立候補したが、それは先生のやることだからと却下されていた。
 太一が許されたら蜜も便乗するつもりだったのに。

 くそう。走るしかないのか。

 それに伴い体育も散々だった。
 マラソン大会に向けたマラソンというカオスな授業になっている。
 
「熱出したい……」
 頭を抱える蜜に裕二は意味が分からないと首を傾げている。
「なんでそんなに嫌なんだ?」
「だって、苦しいのに走り続けなきゃいけないって拷問じゃん」
「でも走ればゴールに着くからなあ」
 これだから運動の得意な奴は嫌いだ。できない人のことを理解できないし、気持ちをわかってくれない。

「太一はわかるよな」
「わかる~。俺、腹痛が痛くなってきたわ」
「それ、頭痛が痛いと同じな」

 どんなに嫌がろうと頭を抱えようと学校行事はなくならず、最終手段の天候の崩れもなく、曇天でマラソン大会当日を迎えた。

 大会は何故かバスで1時間のドライブを経た観光名所の湖畔で行われる。
 美しい名所を横目に一周14キロのロング走。
 というか人の走る距離ではないと思うのは蜜だけではないはずだ。

 バスでの移動中は誰もがこの先に待ち受ける地獄を思い、グッタリとしていた。元気なのは運動部の面々だけだ。
「勉強もしないで観光がてら走って終わりなんて最高!」らしい。
 意味が分からない。

 そしてもう一人。
 バリッバリにジャージの似合う男、周防がいた。
 はりきってマイクを持ち出し、バスガイドのように前に立った。

「え~おはようございます」
 キーンとハウリングさせながら爽やかに挨拶をしている。
 音声低めでお願い……と生きる屍が頼んだ。
 ゴッゴッっとマイクを叩いて、もう一度挨拶をする。

「今日は素晴らしいマラソン日和。晴天では暑く、雨では走りにくいですが、曇天。素晴らしい天気がみんなを応援してくれています」
 おおーっという歓声とブーイングが半々。

「さて到着までに時間もあるので、やっちゃうよな、アレ!」
 おおーっというどよめきと、沈黙がまたもや半々。

 蜜としては静かに執行を待ちたい。ここで余計な体力を使うわけにはいかない。

 だけど楽しそうな周防はカラオケアプリを作動させると突然音楽をかけだした。
「周防。一番手、行きます」
 マジか! というクラスメイトの叫びは聞こえなかったのか。

 聴き慣れた前奏が始まり、町中で耳にするあの歌。
 サビの部分「ガッパ~ナ♪」と気持ちよさそうに発音している。
 絶対それを口にしたかっただけだ。

 蜜としては勘弁してほしい。
 それどころではないのだ。
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