異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編

22.話し合いはとても大事なことです

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「はぁ…………。嫌な予感はしてたけど、本当に来るとは……」

 ギルド長のルーベックさんに一部屋貸して貰い、四人で話す場を設けた俺達は、それぞれに疲れた顔をして溜息を吐いた。
 この場で疲れてないのは多分、ラスターだけだ。それを思うと目の前のソファに腰かけているイケメンの顔に張り手の一つでも喰らわせたかったが、やっと沈静化したのにさっきの険悪なムードを蒸し返したくはない。

 しかし、喧嘩にならなくて本当に良かったよ……。

 ――ブラックと鉢合わせしたあの後、冒険者ギルドで喧嘩をされてはかなわんと思い、俺はとにかくギルドの奥へと三人を押し込んだのだが……出くわした直後は、本当に殺傷沙汰になるかと思って怖かった。

 だって、俺が取り押さえているにもかかわらず、ブラックは「何故ここにラスターが居るんだ」とわめき、そしてどこで出会ったかを執拗に問い質して来たんだからな。
 もちろん、俺とクロウの態度をめっちゃ凝視しながら!

 ……これが世に言うヤンデレのかんという奴なのか……怖い……とは思ったけど、後ろ暗い事をしたのは俺達の方なのだから仕方がない。

 大いにあせった俺だったが、隠していても仕方ないので洗いざらい全部白状して、ラスターがここに現れた経緯も本人から聞いたとおりに話した。
 そりゃもう、何もかも……。

 するとブラックは、問答無用でクロウを五六発本気で殴ったが(止めたけど振り切られた)、意外とそれだけで治まってくれた。ラスターの戯言にも激怒するのではとヒヤヒヤだったが、そちらはそう怒る事は無かったんだよな。

 ブラックもあの言葉を覚えていたみたいだが、それにしても妙だな。
 普段のブラックなら怒らないまでも不機嫌にはなるだろうに、完全に素面しらふとは。もしかしてクロウを殴って発散したとか言わないよな。
 さすがにそれは俺も怒るぞ。

「まあ、この若造の戯言はさておくとして……もし領主に謁見するとなると、色々面倒臭い事になるな……どうにかして避けたいところだけど、スポーン・サイトの事は重要そうだし……ああ、嫌な予感がするなあ」

 百戦錬磨の冒険者のブラックも、そうなる確率は高いと思っているらしい。
 もしかして、さっき憂鬱ゆううつそうな表情だったのはそのせいかな?
 なんだ、だったら言ってくれても良かったのに……。領主の件を説明したら、俺が怖がると思ったのかな。気を使ってくれたのは嬉しいけど、別に話してくれても構わなかったのに。まあ、ブラックって変な所で繊細だから仕方ないか。

 だけど、ラスターは何が気に入らないのかムスッとして、俺の左隣にぴったりと座っているブラックを睨み付けた。あ、ちなみにクロウは右隣です。

「嫌な予感とはなんだ。領主にまみえる事をほまれと思えんとは、本当にお前は不潔な上に粗野で阿呆だな。発見についても、褒美が貰える事は考えんのか?」
「はあ? 人にはそれぞれ事情があるって、温室育ちの低能お坊ちゃんには解らないのかな? そもそも貴族なんて知り合いにもなりたくないんだけどね。それに、お前は知ってるはずじゃないのか? ツカサ君の力の事」

 面倒臭いという態度を隠しもせずに、迷惑そうな声を荒げてブラックは頭をガシガシと掻き乱す。その言葉にラスターはハッとして、バツが悪そうに俺を見た。

「……そうだったな。ツカサの話ではだいぶ力の制御が出来るようになったらしいが、それでもその能力の価値は未知数だ。ツカサの場合、いつどこでボロが出るか解らん……確かに、権力のある奴に会せるのは心配だな」

 おい。おいコラ。なに当たり前のように俺をディスってんだ。
 でも反論できないっ、くやしい!
 俺自身もなんかポカやらかしそうって思っちゃって嫌なんですよほんと!
 チクショウ、さっきまで険悪だったのに冷静に話し合いしやがって。

「お前はこの国の貴族なのだろう? ならば、この領地の貴族に掛け合う程度の事は出来んのか」

 相変わらずラスターに対しては敵意が漏れているクロウが問う。
 その態度に相手は眉をぴくりと動かしたが、俺が慌ててとりなした。うーむ……ブラックはラスターの態度に耐性が有るから冷静でいられるみたいだけど、クロウは初対面だからなあ……そらイライラするよな。ごめんなクロウ、お仕置きされた上にイライラさせられるなんて……。

 後でアイスをあげようねと思いつつ、俺はラスターにぎこちない笑顔で重苦しい雰囲気をどうにか誤魔化しつつ、クロウの語気をやわらげるために言葉を継いだ。

「えっと……ラスターは一等権威……だっけ? かなりの地位に居るんだし、どうにか出来ないかな……?」

 たしか、この国の貴族にも等級が有って、一番下が四等権威って名称だった気がする。もちろんラスターの一族であるオレオール家は、一番上の貴族だ。
 だから、多少なら他の貴族にも顔が効くのではないかと思ったのだが……。

「ツカサ、一等ではない。だ。……むう……俺としても、妻になるお前の頼みはなるべく聞いてやりたいのだが、自分の領地ではない場所だと、何の理由も無く関わってはいかんと言う決まりがあってな……」
「おい調子にのんなよ紋切型もんきりがた美形」
「それに、モンスターに関する情報は重要なものだ。普通なら、他の領地の者には話さん。だがまあ……俺が執成とりなしてやれる案がないでもないが……」
「無視すんな」

 ブラックおだまり。ハウス!
 頬を軽く引っ張ってブラックに何も言わせないようにしながら、俺はラスターの案とやらを知るために笑顔で話を続けた。

「そ、その案って?」
「簡単な事だ。その書類に『俺が途中で合流した』と書けばいい。そうすれば、俺も付いて行くことが出来る。この領地はファンラウンドの物だし、俺はあいつとは親交がある。多少の御目こぼしはして貰えるはずだ。……ただ、その場合、相手に会う前に俺もその【亡者ヶ沼】という所に行き、様子を見ておかねばならんが」

 なるほど、途中……まあ、戦闘が終わった後にでもラスターと出会ったって事にすれば、一応はラスターも目撃者にカウントされるよな。
 相手は貴族だしなにより最高権威だ。報告書に書いてもなんの怪しさも無い。
 むしろ、こちらの報告を証明してくれる相手にもなりうる。

 ラスターは傲慢自己中だけど、敵じゃないし、俺達の事も多少は考えてくれる。
 だったら、変なポカをやらかさないためにも保険として付いて来て貰う方がいいよな。……でも、本当に領主に会う事なんて有るのかな?

「なあラスター、マジで領主に会うことなんてある?」
「ああ。必ず会う事になるだろう。他の地域の領主は知らんが、ここの領主であるセルザ・ファンラウンドは、元は王国騎士団の一員だ。故に、危険には目ざとい。亡者ヶ沼の事もきっと詳しく聞こうとするだろう」
「あ……そっか、どっかで聞いた事有ると思ったら、容疑者の人か……!」

 セルザ・ファンラウンド。なんかだ聞き覚えのある有る名前だと思ってたけど、そうか、あの宴会の時に挨拶あいさつした容疑者の一人だ!
 たしかラスターの直属の部下で、意外と気の良い兄ちゃんだったはず。
 そうか、セルザさんって今は領主なのか。

「…………ん……? でも、だったら……余計に俺、説明し辛くない……?」

 あの時の俺は、セルザさんに“ラスターの客人”として紹介されたのだ。なのに、今は中年二人を引き連れて冒険者をやってるなんて……どう考えても変だろう。
 しかし、ラスターはその事は心配するなと俺に掌を見せた。

「お前の事は、貴族達に“研究者見習い”という事にして話してある。見習いならば冒険者をやっていてもおかしくないし、ただの冒険者よりも俺と接する機会があると周囲は思ってくれるからな。だから、その点に関しては心配するな。……まあ、とにかく……書類を修正して、話はそれからだな」
「なに僕達に同行する気マンマンになってんだお前」

 勝手に話を進めるなと睨むブラックとクロウに、ラスターはビクリともせずに、俺だけをみて頼もしそうに笑った。

「当然だろう、俺はツカサを迎えに来たんだぞ? 折角の長い休暇だし、焦る事は無い。じっくりと説得して必ず連れ帰る。……まあ、今日はセイフトの街長の家に泊まるから、何か有ったら言いに来い」

 …………多分、いけないです……。
 両隣のオッサンが殺気だだもれさせてるから無理です……。

 まあ行く用事も無いので良いんだけど、とにかくラスターも挑発するような事を言うのはやめてください。後で困るのは俺なんですよ。

 色々と思う事はあったが、まずは書類に加筆修正することが最優先だろう。

 どのみち領主に呼ばれるというのなら、出来る事はしておかねば。

 そこだけはブラック達も拒否出来なかったのか、先程の俺のように深い溜息を吐き出すと、観念したように頷いたのだった。












※さすがに同じ展開二連発はアレかなと思って省略しました(;´Д`)
 ブラックとラスターの喧嘩はあとでまたやります。ちなみにクロウの怪我は
 ツカサが回復薬でちゃんと治療しました。次はいちゃいちゃ
 
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