異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編

25.手がかりは掴みにくい1

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   ◆



「なるほどずるい。オレも混ぜて欲しかったぞツカサ」
「いやクロウ、話聞いてた?」

 おかしいな。ブラックとえっちした下りはサラッと流したはずなんだが。
 今話しているのはもっと重要な事なのに、どうしてそこに着地するのだろうか。

 ブラックとベッドでうだうだしてい時から数時間後。
 夕食の時間になり、やっと姿を見せて食堂にやって来たクロウに、ブラックには先に話しをしておいた【六つの神の書】のことや、キュウマに関することを懇切こんせつ丁寧ていねいに説明した……というのが今の状況なのだが……どうして開口一番がそんな感想になるのだろうか。俺そこの話数秒で飛ばしたつもりだったんだけどな。

 夕食をたっぷり食べて幸せな気持ちになってるからか。いやむしろ草食系の料理ばっかりで不満だったから、こんなにフンスフンスしてるのかもしれない。

 どちらにせよ、俺の左隣から肩を思いっきり押し付けて俺の髪のニオイを嗅ぐのはやめてほしい。本当にやめてほしい。今は食後の時間でいやらしい時間ではないんですよクロウさん。エーリカさんには下がって貰ってるけど、いつ扉がノックされるか解らない状況なんだから、頼むからニオイ嗅がないで!

「おいコラクソ駄熊!! てめえ昨日の今日で調子に乗ってんなよ!!」

 そんな俺とクロウを見て、当然ブラックはご立腹だ。
 右隣から俺を引き寄せてクロウを牽制しようとしているが、クロウが俺の頭に顔を突っ込んでいるので大した効果は無い。

 それをブラックも解っているのか、クロウの頭を引っ掴んで引き剥がそうとするが、クロウはと言うとここぞとばかりに獣人の力強さを利用して意地でも俺から離れようとしなかった。

 …………これが三十路のオッサンと三十路後半に足を突っ込んだオッサンのやる事か……。何故だろう、とても虚無感が湧いてくるんだが……。

「ツカサ、俺にもえっちなことをさせてくれ」
「調子に乗るなっつってんだろうがあ゛ぁん!?」
「頼むからちゃんと話聞いて……頼むから……」

 もう俺ブラックに昨日今日と掘られて精も根も尽き果ててるんですってば。
 頼むから真面目に話をしてくれと本気で疲れた感じで言うと、ブラックとクロウは顔を見合わせて渋々喧嘩は止めてくれた。
 ……喧嘩はやめただけで、以前としてブラックに抱き寄せられているし、クロウには手を握られているのだが、そこはもうとやかく言うまい。

 俺は疲れた。早く話を終えて眠りたいのだ。

「……っていうか、そういえばクロウとの話、ブラックにちゃんと全部話したっけ」

 昨日はとんでもない抱かれ方をされてすぐに失神してしまったので、クロウとの事は色々と説明不足だったはずだ。
 そちらは話さなくて良いのかと問うと、ブラックとクロウはなんだか歯切れの悪い返答を返しながら俺から目をらした。なに、なんだよその態度。
 ……もしかして、俺が寝てる間に何かあったのか?

 でも二人ともいつも通りの態度だしなと思っていると、ブラックが何とも妙な顔で「その辺りはもう終わったからいい」としか言わなかった。
 よく解らないけど、俺とクロウが挿れる寸前まで行ってしまった事とか、俺の体に「曜気を奪われる時の衝撃を快楽に変換出来るという謎設定」があるのも、クロウに教えて貰っていてちゃんと知っているらしい。

 ブラックがそれを聞いたら、怒ってクロウを殺すんじゃないかと俺は心配していたんだが、意外にもブラックはそこまで怒らなかったようだ。
 俺が気絶している間にどんな事を話したのかは教えてくれなかったけど、とにかく解決した事だと二人に押し切られたので、俺は黙ってうなずくしかなかった。

 ……もしかして、クロウが今日一日眠っていたのって……それ絡みなのか?
 怪我とかは……してるっぽくはないけど、でも、それを聞いて改めてクロウの顔を見ると、確かに疲れているような感じがしないでもない……。

 大丈夫なのかと思わず心配になると、クロウは無表情ながらもうっすらと嬉しそうに笑い、俺の頭をポンポンと叩いた。
 心配するなってことだろうけど……本当に大丈夫かな。
 こういう時って、ブラックもクロウも何も話してくれないからなあ……。

 俺だってちゃんと話に参加したかったのに、なんで二人で解決しちまうんだろ。
 そりゃ、俺達の関係って結構特殊だけど、それでも仲間には変わりないのに。

「…………」
「あっ、ツカサ君むくれないで……」

 むくれてなんかない、と言いたかったのだが、ブラックの手が俺のほおを抑えると、頬が少しだけ膨らんでいるのが自分でも解ってしまい、子供染みたみっともない表情をしていたんだと思うと、恥ずかしくなってしまった。

 だけど、ブラックはそんな大人げない俺に何を言うでもなく、ただ抱き締めて髪の毛に顔を埋めて来る。クロウも俺の手をぎゅっと握り、親指で手の甲をさすっていた。

「ごめんね、ツカサ君をないがしろにして。……でもさ、こう言うのってツカサ君には見せたくないんだよ。……だって、格好悪い話になりそうだし、このクソ駄熊のやった事について話してる時の僕を、ツカサ君には見せたくなかったし……」
「オレも……ブラックと同意見だ。こういう格好悪い所は、見せたくない」
「…………気持ちは、分かるけど……」

 そりゃ、そうだよな。
 俺だってブラック達には情けない所なんて見せたくない。
 自分のアホな失態を正座して懇々こんこんと説教されてる所なんて、未熟者だと言われているのも同じだ。好きな奴の前では格好いい自分でいたいのは、男なら誰だってそうだろう。無様に嫉妬してる所も、感情に任せて怒ってる所も、見せたくなんてない。

 好きな人の前では、格好良くて強くて優しい、人間の模範みたいな奴でいたい。
 好きな人にはずっと好かれていたいんだ。
 俺だって、出来る事ならいつでも格好良い自分になりたかった。

 だから、ブラック達が俺を気絶させた時に話をしたのは解る。でもやっぱり、仲間という意識を大事にしている心の一部分では、分かっていても納得できなくて。
 ガキくさいって思うけど、やっぱりちょっと悲しかった。

 自分達のプライドのためだけじゃなくて、喧嘩する姿を見せたくないって言う二人の優しさもあるんだってことは、分かってるんだけど……。

「ツカサ君にナイショで解決しちゃったけど、でも何もなかったから。ね?」
「そうだぞ。オレが今こうしてツカサの傍に居るのがその証拠だ。もう解決した事だ、気に病まないでくれ」
「う……うん……」

 二人がそう言うなら、俺は頷くしかないけど……。
 いや、終わった事なんだから、いつまでも俺がグチグチ言ってたって仕方がない。
 それよりもブラックとクロウの関係がこじれなかった事を喜ぶべきだろう。

 俺がグダグダ気にしてても仕方ないもんな。よし、切り替えよう。
 ブラックもクロウも本当に気にしてないみたいだし、結果オーライだ。
 ……なんか自分がズルい感じがするけど、二人の前でグダグダと悩んだって仕方がない。今度からはしっかり参加すればいいんだ。うん。

 それよりも今日あった事について話さねば。

「まあ、その……それより、今日の事なんだけど……クロウ、わかった?」
「ウム。先代の黒曜の使者のことも、その使者の石碑が有ることも理解したぞ。……しかし、遥か昔にこの浮島がそんな危機に陥っていたなんてな」

 良かった、話はちゃんと聞いてくれていたようだ。
 思わずホッとした俺の頭に、ブラックは顔をぐりぐりとなすりつけながら言う。

「でもさあ、あの女の発言以外今は関係ないことだよね。そりゃ黒曜の使者のことは重要だし、ツカサ君は知らなきゃ行けないのかも知れないけど……でも今は、それを気にするよりカスタリアの一件を解決しなきゃいけないんじゃない?」
「そりゃ、まあ……そうだけど……」
「でしょ? だから、神の書やらなんやらは後回しにした方が良いよ。それより、僕はあの女が言う“プレインが関係ある”って所が気になるんだけど」

 そう、それは俺も疑問に思っていた。
 一見全く関係が無いように思えるが、体感としては何か繋がっているんじゃないかという感じがして、彼女の言葉をブラフだとは言い切れない。
 だけど、いまだに何が関係しているのか俺には分からなかった。

「今回の犯人がプレインでの事に関係してるということなのか、それとも犯人の目星を付けるためのヒントが存在するってことなのか……」
「意図があっての発言というのは分かるが、どう繋がるのかはさっぱりだな」

 クロウの言葉に、俺は頷く。
 あまりにも範囲が広すぎて、特定が出来ない。彼女の様子からすると、嘘を言っているワケでは無いと思うのだが……。

「…………まあ、一気に思い出すと収拾がつかなくなる事も有るし……ツカサ君にとっては辛い過去だし……今日の今日ですぐ思い出せるワケも無いんだから、今は目の前の事に集中しよう。とりあえず……明日はシアンに会えるんだろう?」
「う、うん……」
「あの毒舌女が何か情報を持って帰って来てる可能性も無くはないし、シアンに今日の話をしたら別の視点から見えて来る事も有るかも知れない。だから……」
「だから?」

 途中で言葉を切ったブラックを見上げると、相手はニンマリと笑った。

「今日はとりあえず、一緒に寝て英気を養おっか!」
「ずるいぞ。今度はオレも一緒に寝るからな」

 うん。うん?
 待て待て待て、今そんな話をしてたかな?

 ていうか君達、なぜ俺を抱えながら席を立っているのかな?

「お、おい」
「一緒に寝るとか冗談じゃないぞ、お前は床で寝てろ」
「ム。この姿だからか。なら熊の姿になれば一緒に寝て良いか」
「ベッド壊れるわ。やめろ」
「いやいやいやお前ら待てっ、なんで俺を抱えて平然と会話してるんだ!!」

 このまま部屋に連れ込む気か、つーか俺の意思はどうしたんだ、などと抗議をするが、二人は聞く耳を持たない。
 それどころか俺がギャンギャン言う度に、歩く速度を速めて部屋に近付いて行ってしまう。逃がすまいとするかのようなその動きに、俺は自分を捕えている腕を必死に解こうと頑張ったのだが……結局、振りほどけず。
 そんなわけで、俺はオッサン二人にくっつかれて夜を明かす事になってしまった。

 …………お前ら、なんでこういう時だけすっごく仲良いの……。













※申し訳ない、疲れ果てて寝てしまってました_| ̄|○
 
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