【壱】バケモノの供物

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四ノ巻

頁29

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「ね、ネオ、待って下さ…んっ、…ふぁっ?!」


唇を離そうと、抱擁してくる彼の大きな胸板を押すが力では向こうが勝る。僕のか弱い腕を避けると、ネオは口内に舌を捻じ込ませ、器用に舌の裏や喉の奥近くを舐め始める。息をするタイミングが見つからなくて抵抗しようとするが、次の瞬間彼の舌が口内で長くなり、更に混乱する。


「ネオっ、舌ぁっ……んっ……~っ…!」


ダメだ。
舌が長過ぎて声も出せない。
ピチャピチャとはしたない音を出しながら舌を這わせる彼に僕も何とか必死になって応えようとする。どうしていきなり口付けをしてきたのか、何で何も言ってくれないのかなど、色々聞きたい事はあったが今は…


「気持ち良ぃ…」


ようやく離れたと同時にツー…と糸を引く唾液。
キスをした事が今迄一度たりとも無いとはいえど、感じる筈が無いのに。ガクッと崩れ落ちる僕をふわっと片腕で支える彼。いつの間にか先程迄の人間の姿はいつもの龍神の姿に戻っていた。


「ネオ…どうしていきなり口付けを……」


息を小さく吐きながら途切れ途切れに問う。
グッと堪える様に僕を見つめた彼は「…すまない」と申し訳無さそうに頭を下げた。支えられたままの僕はサーッと青褪めていく。もしかして、僕との口付けを後悔しているのだろうか。無かった事にされるのではないかと、思わず「ネオ」と着物の袖を掴んだ次の瞬間ーー…バッと彼の着物が舞ったかと思いきや、僕はネオに先程よりもずっと強く抱き締められていた。「え…」と目を丸くする僕の耳元で「すまない」ともう一度彼が囁く。


「どうしても耐えられなかった。お前と居ると私が私を抑えられない」

「ネ…」

「愛おしい。お前の言動全てがひたすらに」


ギュッと抱き締める手に力を込める彼の言葉に頭の中が真っ白になる。ネオがとんでもないくらいに嬉しい事を言ってくれている気がする。だって今、僕を抱き締めながら僕の事を「愛おしい」って…。恐る恐る半信半疑でネオをもう一度見て、息が詰まりそうになる。ネオは泣きそうだった。今にも涙が溢れそうな程、青い瞳が揺れていた。「ネオ」と思わず目尻の涙を拭うと、彼は僕の手に頬を擦り寄せ、そっと口付けをする。

「ーー……思えばあの時こうして触れさせて貰った時からだろうか。私はお前と居るのを心地良く感じ始めていたんだ」


そう言っている間も、彼は掌から手首に掛けて唇を這わせる。くすぐったくて無意識に変な声が小さく喉の奥から漏れ出る。彼はその最中も僕に真剣な眼差しを向け、逸さずに続ける。


「遠ざけようとも思った。あの時突き放したりもした。だが本心は、お前が愛おしくて仕方なかった。お前を私のモノに…抱きたくてしょうがなかった」

「……?!だっ……?!」
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