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第十四章
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しおりを挟む「せめてデートが終わってからにしてよ…」
「………」
服の袖を摘みながら、思わずといった感じで口から零す。歩きながら、ふと彼の反応が無い事を不審に思い、「伊織さん?」と顔を上げると……彼は何故か、嬉しさを堪える様な表情で、ぷるぷると震えながら必死に口を閉じていた。
「………何、その顔」
変な顔、と付け加えながら嗜めると、伊織さんは照れた様子で「いやぁ…」と濁した様な言い方をする。何も言おうとしないので、慌てて「何かあるなら言ってよ」と顔を覗き込むと、彼は、嬉しさキャパオーバーという感じでハートを撒き散らせながら言う。
「シユン君も、デートだって思ってくれているのが嬉しくて……つい、ね」
「……?……そっ!それは伊織さんがデートって言ったから……!」
「ふふ、ごめん、なんか恥ずかしいの、俺も移ったかも」
あ……
伊織さんの照れた顔。
ピタッと動きを止めて凝視する。普段クールで、仕事をしている時は勿論大人で、それ以外の表情は出さない彼が。自分の何気無い言葉で、一喜一憂して、こんな顔をするなんて。
「あー、恥ずかし。絶対俺、顔真っ赤だ」
早坂伊織の照れ顔、オフショット。滅多に見ない、恥ずかしくて仕方ないみたいな表情を、心のカメラでシャッターを切る。ファンの人達、こんな表情見たら、失神してしまうだろうな。……カッコいいのもだけど、今のは何だか可愛……
「ん?どうしたの、シユン君」
「…………」
そして、切り替えも早い。既にいつものキラキラスマイルを貼り付けている彼が何だか癪で、無言の圧を通す。そのまま何も言わずに歩き出すと、伊織さんは困った様な笑顔を向けながら「待ってよ、シユン君」と追いかけてきた。あんな表情が出来るなら、もっと出せばいいのに。
「わぁ~、可愛い~、俺こんなの初めて食べるなぁ」
たまたま入った園内のカフェに足を踏み入れた自分達。芸能人やアイドルだからといって、本日は一般人として来ている為、勿論先に入れて貰うなんて事はしない。待っている間も醍醐味なんだよね、と頬を緩める彼の言葉を思い出す。
「シユン君のイチゴムースパフェも美味しそうだね」
「こういうキラキラした所で食べるパフェって、普段のと変わらないと思っていたけど、遊園地内だからか、色々凝っていて可愛い」
園内のキャラクターがマカロンに描かれていて、それらはムースの上にバランス良く盛り付けられている。甘いイチゴシロップをどっぷり掛けた上には、パラパラと粉雪の様にスパンコールチョコが振り掛けられている。普段でもこんなのは食べないので、素直に言うと、めちゃくちゃ嬉しい。
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