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本編~4ヶ月目~
第75話~マウロの術~
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~???~
視界が、何故かとても明るい。
自分が目を閉じていることに気がつくまで少しかかった。
ゆっくりとまぶたを持ち上げると、そこは先程までの空間とは、全く異なる場所だった。
「う……?」
事態を飲み込むまでに時間がかかる。おかしい、先程まで自分はノーティスにいて、真っ暗闇の中でゴフィムに「境門界通」を施されていたはずなのに。
今自分がいるのは、眼下に大地が広がり、頭上には青い空が広がる、どこかの惑星の大気圏中としか言いようのない場所だった。身体が、横たわったまま宙に浮かんでいる。
目を白黒させてあたりを見回す僕の耳に、先程までしょっちゅう聞いていた声が届く。
「気が付きましたか、マウロさん」
声のした方に顔を向けると、そこにはにこやかに笑うゴフィムがいた。僕と同じように宙に浮かんでいた。とはいえ戸惑う僕とは異なり、すっかり落ち着いた様子で僕を見ている。
「……ゴフィムさん?」
「はい。心配しましたよ、それまでずっとしっかり意識を保っていたのに、急にかくんと意識を失われましたから」
こちらに向かって、空気を蹴るようにして近づいてきながら、ゴフィムが僕の肩に手を置いた。確かに施術中、僕はなんとか意識を保ち続けていたが、緊張の糸が切れたのだろうか。
そしてゴフィムが、だらんと垂れ下がっていた僕の手を取った。
「拘束はもう解いてあります。起き上がって結構ですよ」
「はい……ええと、それで、何がどうなったんですか?」
彼に優しく手を引かれて、僕はゆっくり身体を起こす。その反動で足が下に向き、自然と空中に立つ姿勢になった。
そのまま、彼に質問をぶつける。状況が分からないから説明が欲しい。すると彼は、笑顔を見せたままでとんでもないことを言い出した。
「『チェルパ』への転移が行われたんですよ」
「えっ」
その言葉に大きく目を見開く僕だ。
チェルパへの転移が行われた。その口ぶりから察するに、僕がそれを起こしたと見て間違いないだろう。ゴフィムがそうする理由がない。
ということは、つまり。
僕が何を言うより早く、ゴフィムが僕の手を両手で握った。
「成功です。おめでとうございます。マウロさんの身体には、無事に『内なる穴』が開きました。世界転移術も知識を送り込みましたので、もう使えます」
その言葉に、喜びと同時に驚きがこみ上げてきた。
成功した。生き延びた。そして僕が、世界転移術を身につけることにも成功した。
これで、ようやく故郷に帰る手段を手に入れたのだ。いや、術の方向性によってはジーナのように、帰るには適さないものの可能性もあるけれど。今こうしてチェルパにいるのなら、きっと望みはあるだろう。
だが、それよりもだ。僕が今いるのがチェルパなのなら、エティもパスティータもアンバスもシフェールも、ノーティスにいるままなのではないか。
「え……っ、いや、あの、それはいいんですけど、どうするんですかこれ!? ノーティスに皆を置き去りにしていますよね!?」
ゴフィムの肩を掴んでまくしたてる僕に、苦笑しながらゴフィムは首を振った。指を一本顔の前に立てながら、優しく話す。
「ご心配なく。その場で手をかざして、ノーティスのワールドコードを思い浮かべて下さい」
「え……0でしたよね? えぇと……」
言われるがまま、彼の肩から手を離して右手を横方向にかざした。そのまま、頭の中で数字の0を、ノーティスのワールドコードを思い浮かべる。
すると。手をかざした先の空間がぐにゃりと歪み、ぽっかりと穴が空いた。穴だ。
「あっ」
「はい、開きましたね。世界間の移動も、これで大丈夫です」
あっさりと穴を開けたことに驚く僕の横で、ゴフィムが満足そうに頷く。こんなにあっさりと使えるようになるなんて、拍子抜けもいいところだ。しかし、これで面倒なことは考えなくていい。
穴の前に立つゴフィムが、微笑みながら口を開く。
「他の世界に移動する際には、アース基準のワールドコード、もしくは世界の名前を頭に思い浮かべながら穴を開いて下さい。基本的にはこうして前方に手をかざす感じで開けますが、やり方はお任せします」
「は……はい」
そう話しながら、彼はこちらに手を差し出してきた。その手を恐る恐る握り返すと、ゴフィムはそのまま前に歩き出す。そのまま僕の身体は、自分で開いた穴をくぐっていった。
~ワールドコード0「ノーティス」~
僕とゴフィムが再び姿を現したノーティス。そこは施術のために張った結界のすぐ外だった。
そして戻ってきてすぐに、僕は自分の身に起きた変化を実感する。
めがねをかけていないのに、他の世界が見えるのだ。ノーティスから見ることの出来る、様々な世界が。四方八方に広がる無数の世界、それらが、僕の目には映っていた。
あまりの変化に僕が立ち尽くしていると、四人が僕に気付いたらしい。こちらを指差しながら声を上げた。
「あっ!」
「マウロ!!」
エティとパスティータが上ずった声を上げながらこちらに駆け寄ってきた。僕のシャツの裾を握り、手を握り、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら再会を喜んでいる。あとからやってきたアンバスとシフェールも、目に涙を浮かべていた。
「皆……」
「よかった……本当に良かった……」
「くそ……心配したんだからな、お前……」
シフェールが目元を潤ませながら僕に賛辞を贈り、アンバスも目を拭って鼻をすすっている。二人も二人で、僕の帰還を喜んでくれていた。
よかった。四人にまた、僕の元気な姿を見せることが出来た。こうして喜んでもらうことが出来た。
「ありがとう……」
だから素直に、僕は皆にお礼を言った。待っていてくれたことに。信じていてくれたことに。
そして皆の涙が落ち着き、全員がちゃんと話せるようになった頃。シフェールが僕の顔を見ながら言った。
「それで、どうなんだ。『内なる穴』は開いたとして、お前の使えるようになった世界転移術は」
その問いかけに、自然と僕の眉尻が下がる。
そう、確かに僕は世界転移術を使えるようになったけれど。その術の特性がどうとか、制限がどうとか、何も知らないのだ。
「それが、僕もまだ説明を受けていなくて……ゴフィムさん、どうなんですか?」
困ったようにゴフィムを見ると、彼も一つ頷きながら僕に声をかけてきた。
術の知識を送り込んだゴフィムのこと、その辺りのこともすべて把握しているかと思いきや、そうではないらしい。
「確認いたしますね。マウロさん、手を出して下さい、まっすぐ。そしてアースへの穴を開いて下さい」
「はい……」
彼に言われるがままに再び手を伸ばし、ワールドコード1を頭に浮かべる。
そして音もなく開かれる穴。きっとこの穴は、陽羽南歌舞伎町店の店内に繋がっていることだろう。
ゴフィムは、その穴に手を突っ込んだ。そのまま目を閉じ、何かを読み取るようにしている。
と。
「……ふむ」
「ど、どうなんですか? 僕のは……」
穴に手を入れたままのゴフィムが小さく声を上げた。僕が思わず彼に声をかけると、穴から手を引き抜いた彼が、面白そうに口角を持ち上げた。
「……ほう。これはまた、ジーナさんとは別の形で面白いですね」
「えぇっ」
その含みのある言い方に、小さくのけぞる僕だ。何と言うか、そんな言い方をされるとすごく不安になる。
だが、ゴフィムは僕の内心など気にも留めない様子で、指を一本一本折り曲げながら説明を始めた。
「開ける場所にも、接続できる世界にも、制限はありません。自分の繋ぎたい世界に、いくらでも繋げられます。維持時間の制限もありません。ただ……」
「ただ?」
と、そこまで話して言葉を区切った彼に、僕達五人が揃って首を傾げた。
話を聞いている限りでは、特に制限や問題などなさそうな感じだ。随分万能で、逆にいいのだろうか、という気になってくる。それだけに、この後のゴフィムの言葉が怖い。
僕達が生唾を飲み込むと、彼は目を細めながら口を開いた。
「マウロさんの穴をくぐった人は、向かった先の世界で『なにか一つ、物を食べるか飲むかしないと帰れない』という条件があります。ノーティスはそうしたものが一切無いですし、世界の狭間なので、条件の対象外ですけれどね」
その言葉に、揃って僕達は目を見開いた。
穴をくぐったら、くぐった者が何かしらその先の世界で飲食をしないとならない。
それはまた、確かに面白い、というか、変わった条件だ。穴の開通や維持に制限がかかるのではなく、穴をくぐった存在に制限をかけるとは。
話を聞いていたパスティータが、さっと手を上げてゴフィムに問う。
「つまり、あたし達がどっか別の世界に行ったら、その世界のものを何か食べたり飲んだりしないといけないし、よその世界の人がマウロの穴で地球に来たら、何か地球のものを食べたり飲んだりしないといけない、ってこと?」
「そうなりますね」
彼女の問いかけにゴフィムは頷いた。その表情は殊の外に穏やかだ。
ぽかんとする僕の肩を、アンバスが力強く叩く。
「いいじゃねぇか、居酒屋店主らしい術でよ」
「そうね。お店の中で営業時間内に開けば、制限なんてあってないようなものだわ」
僕の隣でエティも嬉しそうに笑う。
彼女の言う通りだ。この穴を陽羽南店内に開け、異世界からの客を呼び込めば、その客に何かしら食べてもらうことが必然的に発生する。そうすれば、きっとお店の評判がどんどん広まっていくはずだ。
それに、この穴ならいろんな世界の、いろんな場所に行ける。そして現地の料理や酒を味わうことも出来る。そうすれば、異世界に陽羽南の支店を出すことも夢じゃない。
これは、先が楽しみだ。心配も少しはあるけれど。
「うん……とりあえず、週明けに新宿区役所に行ってみるよ。クズマーノさんに説明しなきゃならない」
皆の顔を見回して、僕は小さく笑いながら頷いた。
やり遂げた。成し遂げた。その喜びが、ようやく僕のむねをいっぱいにした。
~第76話へ~
視界が、何故かとても明るい。
自分が目を閉じていることに気がつくまで少しかかった。
ゆっくりとまぶたを持ち上げると、そこは先程までの空間とは、全く異なる場所だった。
「う……?」
事態を飲み込むまでに時間がかかる。おかしい、先程まで自分はノーティスにいて、真っ暗闇の中でゴフィムに「境門界通」を施されていたはずなのに。
今自分がいるのは、眼下に大地が広がり、頭上には青い空が広がる、どこかの惑星の大気圏中としか言いようのない場所だった。身体が、横たわったまま宙に浮かんでいる。
目を白黒させてあたりを見回す僕の耳に、先程までしょっちゅう聞いていた声が届く。
「気が付きましたか、マウロさん」
声のした方に顔を向けると、そこにはにこやかに笑うゴフィムがいた。僕と同じように宙に浮かんでいた。とはいえ戸惑う僕とは異なり、すっかり落ち着いた様子で僕を見ている。
「……ゴフィムさん?」
「はい。心配しましたよ、それまでずっとしっかり意識を保っていたのに、急にかくんと意識を失われましたから」
こちらに向かって、空気を蹴るようにして近づいてきながら、ゴフィムが僕の肩に手を置いた。確かに施術中、僕はなんとか意識を保ち続けていたが、緊張の糸が切れたのだろうか。
そしてゴフィムが、だらんと垂れ下がっていた僕の手を取った。
「拘束はもう解いてあります。起き上がって結構ですよ」
「はい……ええと、それで、何がどうなったんですか?」
彼に優しく手を引かれて、僕はゆっくり身体を起こす。その反動で足が下に向き、自然と空中に立つ姿勢になった。
そのまま、彼に質問をぶつける。状況が分からないから説明が欲しい。すると彼は、笑顔を見せたままでとんでもないことを言い出した。
「『チェルパ』への転移が行われたんですよ」
「えっ」
その言葉に大きく目を見開く僕だ。
チェルパへの転移が行われた。その口ぶりから察するに、僕がそれを起こしたと見て間違いないだろう。ゴフィムがそうする理由がない。
ということは、つまり。
僕が何を言うより早く、ゴフィムが僕の手を両手で握った。
「成功です。おめでとうございます。マウロさんの身体には、無事に『内なる穴』が開きました。世界転移術も知識を送り込みましたので、もう使えます」
その言葉に、喜びと同時に驚きがこみ上げてきた。
成功した。生き延びた。そして僕が、世界転移術を身につけることにも成功した。
これで、ようやく故郷に帰る手段を手に入れたのだ。いや、術の方向性によってはジーナのように、帰るには適さないものの可能性もあるけれど。今こうしてチェルパにいるのなら、きっと望みはあるだろう。
だが、それよりもだ。僕が今いるのがチェルパなのなら、エティもパスティータもアンバスもシフェールも、ノーティスにいるままなのではないか。
「え……っ、いや、あの、それはいいんですけど、どうするんですかこれ!? ノーティスに皆を置き去りにしていますよね!?」
ゴフィムの肩を掴んでまくしたてる僕に、苦笑しながらゴフィムは首を振った。指を一本顔の前に立てながら、優しく話す。
「ご心配なく。その場で手をかざして、ノーティスのワールドコードを思い浮かべて下さい」
「え……0でしたよね? えぇと……」
言われるがまま、彼の肩から手を離して右手を横方向にかざした。そのまま、頭の中で数字の0を、ノーティスのワールドコードを思い浮かべる。
すると。手をかざした先の空間がぐにゃりと歪み、ぽっかりと穴が空いた。穴だ。
「あっ」
「はい、開きましたね。世界間の移動も、これで大丈夫です」
あっさりと穴を開けたことに驚く僕の横で、ゴフィムが満足そうに頷く。こんなにあっさりと使えるようになるなんて、拍子抜けもいいところだ。しかし、これで面倒なことは考えなくていい。
穴の前に立つゴフィムが、微笑みながら口を開く。
「他の世界に移動する際には、アース基準のワールドコード、もしくは世界の名前を頭に思い浮かべながら穴を開いて下さい。基本的にはこうして前方に手をかざす感じで開けますが、やり方はお任せします」
「は……はい」
そう話しながら、彼はこちらに手を差し出してきた。その手を恐る恐る握り返すと、ゴフィムはそのまま前に歩き出す。そのまま僕の身体は、自分で開いた穴をくぐっていった。
~ワールドコード0「ノーティス」~
僕とゴフィムが再び姿を現したノーティス。そこは施術のために張った結界のすぐ外だった。
そして戻ってきてすぐに、僕は自分の身に起きた変化を実感する。
めがねをかけていないのに、他の世界が見えるのだ。ノーティスから見ることの出来る、様々な世界が。四方八方に広がる無数の世界、それらが、僕の目には映っていた。
あまりの変化に僕が立ち尽くしていると、四人が僕に気付いたらしい。こちらを指差しながら声を上げた。
「あっ!」
「マウロ!!」
エティとパスティータが上ずった声を上げながらこちらに駆け寄ってきた。僕のシャツの裾を握り、手を握り、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら再会を喜んでいる。あとからやってきたアンバスとシフェールも、目に涙を浮かべていた。
「皆……」
「よかった……本当に良かった……」
「くそ……心配したんだからな、お前……」
シフェールが目元を潤ませながら僕に賛辞を贈り、アンバスも目を拭って鼻をすすっている。二人も二人で、僕の帰還を喜んでくれていた。
よかった。四人にまた、僕の元気な姿を見せることが出来た。こうして喜んでもらうことが出来た。
「ありがとう……」
だから素直に、僕は皆にお礼を言った。待っていてくれたことに。信じていてくれたことに。
そして皆の涙が落ち着き、全員がちゃんと話せるようになった頃。シフェールが僕の顔を見ながら言った。
「それで、どうなんだ。『内なる穴』は開いたとして、お前の使えるようになった世界転移術は」
その問いかけに、自然と僕の眉尻が下がる。
そう、確かに僕は世界転移術を使えるようになったけれど。その術の特性がどうとか、制限がどうとか、何も知らないのだ。
「それが、僕もまだ説明を受けていなくて……ゴフィムさん、どうなんですか?」
困ったようにゴフィムを見ると、彼も一つ頷きながら僕に声をかけてきた。
術の知識を送り込んだゴフィムのこと、その辺りのこともすべて把握しているかと思いきや、そうではないらしい。
「確認いたしますね。マウロさん、手を出して下さい、まっすぐ。そしてアースへの穴を開いて下さい」
「はい……」
彼に言われるがままに再び手を伸ばし、ワールドコード1を頭に浮かべる。
そして音もなく開かれる穴。きっとこの穴は、陽羽南歌舞伎町店の店内に繋がっていることだろう。
ゴフィムは、その穴に手を突っ込んだ。そのまま目を閉じ、何かを読み取るようにしている。
と。
「……ふむ」
「ど、どうなんですか? 僕のは……」
穴に手を入れたままのゴフィムが小さく声を上げた。僕が思わず彼に声をかけると、穴から手を引き抜いた彼が、面白そうに口角を持ち上げた。
「……ほう。これはまた、ジーナさんとは別の形で面白いですね」
「えぇっ」
その含みのある言い方に、小さくのけぞる僕だ。何と言うか、そんな言い方をされるとすごく不安になる。
だが、ゴフィムは僕の内心など気にも留めない様子で、指を一本一本折り曲げながら説明を始めた。
「開ける場所にも、接続できる世界にも、制限はありません。自分の繋ぎたい世界に、いくらでも繋げられます。維持時間の制限もありません。ただ……」
「ただ?」
と、そこまで話して言葉を区切った彼に、僕達五人が揃って首を傾げた。
話を聞いている限りでは、特に制限や問題などなさそうな感じだ。随分万能で、逆にいいのだろうか、という気になってくる。それだけに、この後のゴフィムの言葉が怖い。
僕達が生唾を飲み込むと、彼は目を細めながら口を開いた。
「マウロさんの穴をくぐった人は、向かった先の世界で『なにか一つ、物を食べるか飲むかしないと帰れない』という条件があります。ノーティスはそうしたものが一切無いですし、世界の狭間なので、条件の対象外ですけれどね」
その言葉に、揃って僕達は目を見開いた。
穴をくぐったら、くぐった者が何かしらその先の世界で飲食をしないとならない。
それはまた、確かに面白い、というか、変わった条件だ。穴の開通や維持に制限がかかるのではなく、穴をくぐった存在に制限をかけるとは。
話を聞いていたパスティータが、さっと手を上げてゴフィムに問う。
「つまり、あたし達がどっか別の世界に行ったら、その世界のものを何か食べたり飲んだりしないといけないし、よその世界の人がマウロの穴で地球に来たら、何か地球のものを食べたり飲んだりしないといけない、ってこと?」
「そうなりますね」
彼女の問いかけにゴフィムは頷いた。その表情は殊の外に穏やかだ。
ぽかんとする僕の肩を、アンバスが力強く叩く。
「いいじゃねぇか、居酒屋店主らしい術でよ」
「そうね。お店の中で営業時間内に開けば、制限なんてあってないようなものだわ」
僕の隣でエティも嬉しそうに笑う。
彼女の言う通りだ。この穴を陽羽南店内に開け、異世界からの客を呼び込めば、その客に何かしら食べてもらうことが必然的に発生する。そうすれば、きっとお店の評判がどんどん広まっていくはずだ。
それに、この穴ならいろんな世界の、いろんな場所に行ける。そして現地の料理や酒を味わうことも出来る。そうすれば、異世界に陽羽南の支店を出すことも夢じゃない。
これは、先が楽しみだ。心配も少しはあるけれど。
「うん……とりあえず、週明けに新宿区役所に行ってみるよ。クズマーノさんに説明しなきゃならない」
皆の顔を見回して、僕は小さく笑いながら頷いた。
やり遂げた。成し遂げた。その喜びが、ようやく僕のむねをいっぱいにした。
~第76話へ~
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