極悪な悪役貴族に転生したが、最弱設定の操作魔法を過剰な努力で極めて作中最強になる~俺を断罪するヒロインを助けたら、全員ヤンデレ化して離れない

青空あかな

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第51話:ボクの師匠(Sideルカ①)

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 “キタルの森”での試験を終え、ボクは寮に帰宅した。
 ベッドに座り深呼吸しても、しばらく胸の動悸を抑えることができなかった。
 目を閉じると鮮明に顔が思い浮かんでしまう。
 眩しい金髪に澄んだ碧眼の、誰よりも強い男子生徒。
 そう……ギルベルト・フォルムバッハだ。
 入学試験で戦って以来、ギル師匠を思うたびボクの心は揺らぐようになってしまった。

 ボクは学園から遠く離れた地方の村、“ユグファイズ”出身だ。
 魔族圏と近いこともあり、日々魔物や魔族の脅威に怯えている。
 大事にしてくれる村の皆が怯える様子を見るのは、子どもの頃から本当に辛かった。
 だから……。

 ――ボクは……“魔王”を倒したい。

 使命と言ってもいい自分の目標を思うと、自然と顔が強張る。
 少しでも早く魔族の親玉を倒して、人類の平穏を取り戻さなければ。
 “魔王”討伐を強く願ったとき、奇跡が起きた。
 天より大変希少な光魔法を授かったのだ。
 大げさかもしれないが、運命だと思った。
 ボクは人類に平和をもたらす人間なのだと、実感できるようだった。
 でも、"魔王"を倒すには厳しい鍛錬を積まなければならない。
 そこで、数々の優秀な人材を輩出してきた、国一番の“ルトハイム魔法学園”に入学することを決めた。
 懸命な勉強や努力を重ねに重ね、試験に備える日々を送るのは、大変だけど充実していた。
 ところが……。

 ――今から一年ほど前、事故で村の秘薬<転換ポーション>をかぶり、女の子になってしまった。

 村長の怪我を治すため<回復ポーション:E>を取ろうとしたら、間違えて<転換ポーション>を取ってしまい、床に落ちていたバナナの皮を踏んで、頭からかぶってしまった。
 結果、ボクは女の子になった。

 ――あのときポーションではなく光魔法を使っていれば……。

 今でも自分のミスを思うと、歯がゆい気持ちになる。
 <転換ポーション>の効き目は、最低でも四年間。
 男の子に戻るには、本人の戻りたいという強い意志が必要だ。
 ただ待つしかできないのは辛い。
 とはいえ、悔やんでもしかたがない。
 過去は変えられないのだから。
 "ルトハイム魔法学園”に入学すれば、もっと早く元の身体に戻れる可能性が見つかるかも……。
 そう思うと、より修行に身が入った。

 一年後、入学試験を迎え……ボクはギル師匠に出会った。
 "極悪貴族"ことギルベルト・フォルムバッハ。
 地方の村にさえ悪名が轟くほどの悪い人間だ。
 緊張しながらも、ボクはあることを思った。

 ――ギル師匠とは……初めて会った気がしない。

 悪名の数々は聞いていたものの、もちろん会ったのは入学試験が初めてだ。
 でも不思議なことに、学園入学前から知っていたような気がする。
 例えるなら、古い友人みたいな感覚……。
 互いに十五歳前後のはずなのに、もう何十年も一緒に旅をした歴戦の相棒のようにも思えた。
 でも、相手が誰であろうと、ボクは全力を出す。
 そう決心したのに……模擬戦闘ではあっさり負けてしまった。
 まるで歯が立たなかった。
 圧倒的な実力差を感じる。
 これまでの努力が通用しなかった事実に、ボクは打ちひしがれた。
 しかも、あの悪名高い“極悪貴族”に負けた……。
 そのショックは大きく、悔しさに震える中、ギル師匠はボクを見下した。
 いったい何を言われるのだろうか……。
 緊張と不安で胸がいっぱいになったとき……。

(君…………才能あるよ)

 あろうことか、ギル師匠はボクを褒めてくれた。
 その言葉はボロボロになったボクの自信を、繭玉のように優しく包み込んで癒してくれた。
 自分の中で“極悪貴族”という悪評は完全に消えたわけではないけど、“ルトハイム魔法学園”への入学をより強く願うようになった。

 その後学園生活が始まり、“キタルの森”でボクはギル師匠の実力を目の当たりにする。
 あのB級魔物、森林タイガーを倒したのだ。
 たった一人で……。
 上空から見ていたけど、王国騎士団にいてもおかしくないほどの剣捌きに、ボクは目が離せなかった。
 ティナの傷を治した回復魔法だって、ボクなんかよりずっと強かった。

 森林タイガーと戦ったときの真剣な顔、ティナの傷を治すときの真摯な顔を見て、ボクは確信を持った。
 ギルベルト・フォルムバッハ……ギル師匠は悪人、ましてや“極悪貴族”などではない。
 聖人にも負けないくらいの善人だ。
 そして、ギル師匠を想うたびボクの胸は淡い嬉しさでいっぱいになった。
 もしかして、この気持ちは……。

 ――…………恋?

 ギル師匠のことを考えると、居ても立っても居られなくなってしまう。
 だ、だめだ、考えては……。

 ――ボクは“魔王”を討伐しに来たんだ!

 淡い気持ちを打ち消すように頭を振り、部屋に飾った黄色い花を眺める。
 これは<微サンダー草>。
 強く擦るとピリピリと電流が走る不思議な草だ。
 可愛いから、学園の庭に生えていたものを少し採ってきた。
 まだ蕾の花もあるので、これから咲くのが楽しみだった。
 <微サンダー草>を眺めていると気持ちが落ち着いていく。

(君…………才能あるよ)

 聞き心地のよい低音の声とともに入学試験の一件が思い出され、自然と蕾に手が伸びてしまう。
 擦り上げるたび電流が走り、身体が痺れる。
 しばし夢中で擦った後、ふと我に返った。
 急いで指を離して、自分に強く言い聞かせる。

 ――ボクは"魔王"を討伐するためにこの学園に入学したんだ! こんなことをしている場合じゃないだろ!

 ふしだらな自分が恥ずかしくなり、急激に後悔した。
 もう何回目だ。
 勉強しないと!
 ベッドから跳ね上がり机に向かう。
 深呼吸して気持ちを抑えるも、目を閉じるたびギル師匠の顔が思い浮かび、ボクの決心を揺らす。

(君…………才能あるよ)

 ――ボクはこのままでも……いいかもしれない。
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