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第21話:みじめなガーデニー家(Side:ダーリー④)

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 私が部屋で宝石を整理していると、急に屋敷の前が騒がしくなった。

――何よ、うるさいわねぇ。

 外から、誰かが怒鳴る声が聞こえてくる。

「おい! ガーデニー家の者ども! さっさと出てこい!」
「てめえらのせいで、この国はもうおしまいなんだぞ!」
「この国賊が!」

――はぁ? 者ども? てめえら? 国賊ぅ? 貴族の私たちに向かって、こんな暴言を吐くなんて! どこの無礼者かしら!?

 私が外に出ようとすると、お義父様とお母様もやってきた。
 二人とも、いったい何事かと驚いている。

「ダーリー、これは何の騒ぎだ!?」
「私たちに対して、あの口のきき方はなに!?」

 お義父様たちは、とても怒っていた。

「さぁ、私にもわかりませんわ。いきなり騒ぎ始めたんですもの」

――きっと、庶民の貧乏人が私たちに嫉妬してわめいているんだわ。

 すると、立派な身なりに身を包んだ人達がぞろぞろ入ってきた。
 貴族の人達かと思ったが、みな槍や剣などの武器を持っている。 
 王宮の衛兵たちだ。それを見ると、お義父様は安心したように言った。

「あぁ、良かった。王宮の方々でしたか。外で騒いでいる奴らがおるんですが、捕まえてくださいませんか? たぶん汚い庶民だと思うのですが……」
「バカ者! それは私たちだ! お前らは自分が何をしたのか、わかっていないのか!?」

――……え? ちょっと、なに。どうしたの?

 お義父様たちも何のことかわからず、ポカーンとしている。
 衛兵たちは構わず怒鳴り続けた。

「お前たちが雇ったヘンリックとかいう執事は、ゼノ帝国の密偵だったのだ! 密偵を招き入れたお前たちは、王国への反逆罪に問われている! すぐに王宮へ来い!」

――ヘンリックが密偵? ゼノ帝国の? 私たちが王国へ反逆ですって? この人たち、頭は大丈夫かしら。

「す、すみません。わしには何が何だかさっぱりわからないのですが……」
「ええーい! このバカどもをひっとらえろ!」

 衛兵が全員がかりで、私たちを縄で縛り始める。

「きゃっ、痛いじゃない! 私はルドウェン様の婚約者なのよ! やめてって!」

 私は縛られるようなことはしていない。
 何がどうなっているのか、誰か教えて欲しいくらいだ。

「ちょっと、やめなさい! こんなことして許されると思うの!」

 お母様が大声を上げる。

「うるせえ! この汚ねえババア! 大人しくしやがれ!」
「やめろ! この無礼者! 私はガーデニー家当主のエドワールだぞ!」

 お義父様も必死に暴れている。

「当主がお前みたいなバカだから、こんなことになっちまったんだよ!」

 私たちは抵抗する間もなく、全員縛り上げられてしまった。
 ぎちぎちに締め付けられていて、全身が痛い。

「お前たちはこのまま王宮に連れて行く! もし逃げようとしたら、ぶち殺してやるからな!」

 そのまま三人とも、乱暴に馬車へ押し込まれた。
 すぐに馬車は走って行く。猛スピードで走るので、ガタガタして縛られている体が痛む。
 私たちに何の配慮もなかった。

――そうだ、王宮に行けばルドウェン様がいるわ! ルドウェン様に助けてもらえばいいのよ! 私たちのこんなところを見たら、きっとこの衛兵たちは処刑ね。当然よ、命で償ってもらわなきゃ割に合わないわ。


 王宮に着くと、王様と王妃様の前に投げ出された。
 しかし、なぜかルドウェン様がいない。

――おかしいわね、ルドウェン様はどうしたのかしら。

「よくもやってくれたな、この国賊どもが」

 王様たちは汚物を見るような目で、こちらを見ていた。
 そして、王様まで私たちを国賊と言ってくる。

「お、王様……わしらには何のことか全くわからないのですが……」

 お義父様が恐る恐る聞いた。
 ひどく疲れてしまい、喋るので精一杯といった感じだ。

「貴様らが雇ったヘンリックという執事は、調査の結果ゼノ帝国の密偵だと判明した。ルドウェンも上手く嵌められ、アトリス王国のダイヤモンド鉱山は全て奪われてしまった」

 いきなり、王様は意味不明なことを言い始めた。

――……王様は何を言っているの? ルドウェン様がなに?ダイヤモンド鉱山が奪われたですって?

「申し訳ございません、王様。わ、わしにはおっしゃられている意味が……。それに奪われたのなら他国と強力して……」
「抗議しようにも、国同士の正式な契約なので抗議しようがない。どうやら、ゼノ帝国は武力だけの国ではなかったようだ」

――だから、私たちはなんでこんな目にあっているのよ!?

「お、王様、それでわしらはどうして縛られ……」
「貴様らが密偵を野放しにしていたと言っているのだ! 奴が来たとき、素性もろくに確認しなかったそうだな!」

 王様に怒鳴られ、私たちは震えあがる。

「や、奴はちゃんと前に勤めていたリンドグレン家からの手紙を持っておりました。わしもこの目で、リ、リンドグレン家の印を見ております」
「そのリンドグレン家とやらに、お前たちはちゃんと確認を取ったのか?」
「いや、そ、それは……」

 お義父様は下を向いて黙ってしまった。

――ちょっと、お義父様! 黙っちゃまずいでしょ!

「この愚か者ども! 王子の婚約者がいる家に、身元がはっきりしない人間を雇う者があるか! しかも、ルドウェンと共謀してロミリア嬢の婚約を破棄し、家から追放していたと聞いた! ルドウェンは今、ダーリー嬢と婚約しているそうだな……これは立派な詐欺だぞ!」

「お待ちください! そ、それはダーリーが……」
「なによ、お義父様! 私のせいにするつもり!」

 私はお義父様を睨みつけて叫んだ。
 お母様は何も喋らず、存在感を消している。

――自分だけ逃げようとしてえ、この……。

「王国への反逆と私たちに対する詐欺……。この罪は重いな、ガーデニーの者達よ」
「お待ちください、王様! わ、わしは……」

 お義父様の言葉を遮って、私は大きな声を出した。

「あ、あの! ルドウェン様はどうしたのですか?」
「ルドウェンは地下牢に投獄した。生涯外に出ることはない」

――え? 投獄? まさか、そんな……。

 呆然としている私など相手にせず、王様は話を続ける。

「お前たちの財産は全て没収する。もちろん、爵位も剥奪だ。しかし、ロミリア嬢が行っていた長年の奉仕活動に免じて、国外追放で手を打ってやる」

――国外追放……。これからどうやって生きていけばいいのよ……。

 私はもう、何もわからなくなってしまった。
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