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第6話:お世話係の方
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「奥様、失礼いたします。お世話係を務めさせていただきます、バーチュと申します」
「あ、はい! ど、どうぞお入りください。鍵はかけていませんので」
カチャリと静かに扉が開いて、背の高い女性が入ってきた。
私と同じ黒髪黒目で、少し親近感がわいた。
メイド服をきっちり着こなしていて頼りがいがありそうだ。
「初めてお目にかかります。私は辺境伯様より奥様のお世話係を賜りました、バーチュでございます」
「こ、こちらこそ初めまして。キュリティです」
バーチュさんはすごく丁寧にお辞儀をする。
両手はお腹の前で組んでいて、お辞儀の角度は大変に美しい。
まるで、メイドのお手本のようだ。
「奥様、さっそくでございますが、動きやすいお洋服をご用意いたしました。まずはこちらにお着替えくださいませ。その間、私は簡単なお食事をご用意いたします」
「ありがとうございます。それはまたお心遣いを……」
バーチュさんは着替えを置くと、部屋の奥に行ってしまった。
どうやら、ここにはキッチンもあるようだ。
お洋服はゆったりしていて、肌触りも柔らかくて安心した。
「奥様、お食事でございます」
「あ、はい」
着替え終わったときピッタリに、お食事が用意されていた。
蒸し鶏が入ったスープにふんわりとしたパン、色とりどりの茹で野菜だ。
良い匂いを嗅いでいると、お腹が空いてきた。
「うわぁ……美味しそうですね」
「お口に合うとよろしいのですが」
「合うに決まってますよ。匂いだけでこんなに美味しいのですから。それではいただきます……美味しい……」
久しぶりに何か食べたような気がする。
色々なことがあって、食事どころではなかった。
「こんなに美味しいご飯を食べたのは初めてかもしれません」
喜んで食べていたら何か視線を感じる。
顔をあげたらバーチュさんが、じっ……と私を見ていた。
「あ、あの、どうかされましたか?」
「お口に合いましたでしょうか」
「ええ、とても美味しいですよ」
「それは良かったでございます」
会話を終えても、バーチュさんはじっ……と私を見てくる。
気にしないようにしたけどやっぱり気になる。
「バ、バーチュさん、どうしてそんなに私を見るんですか?」
「辺境伯様より奥様をしっかり見ておくように、と伝えられておりますので」
「そうなんですか……それなら仕方ありませんね」
相変わらず、じっ……と見られる中、気まずい感じで食事を続けた。
□□□
「それでは、私はそろそろ失礼いたします。おやすみなさいませ、奥様」
「おやすみなさい、バーチュさん。色々ありがとうございました」
その後、あっという間に日が暮れた。
今や、お部屋はかなり快適な空間になっている。
バーチュさんが諸々整えてくれたからだった。
「何かあればベッド脇にありますベルを鳴らしてください。すぐに参りますゆえ」
バーチュさんがベッドの方を指す。
いつの間にか、小さな銀色のベルが置かれてあった。
「お気遣いありがとうございます。でも、たぶん大丈夫かなと思います。夜遅いときに起こしてしまうと悪いのでっ……!」
「いいえ、奥様」
言い終わる前に、バーチュさんがズンズンズンッ! と近寄ってきた。
キリッとした表情で見てくる。
「あ、あの~、バーチュさん」
「どうか、ご遠慮はなさらないようにお願いいたします」
そう言うと、バーチュさんは静かに出て行った。
ほのかに残ったラベンダーの香水が香る。
明かりを消して、ベッドに横たわった。
「なんか……未だに信じられないな」
本当に私がディアボロ様の御子を宿したのだろうか。
もう一度お腹を軽く撫でてみたけど、特に変わりはなかった。
でも、医術師のオールドさんが言うのだから間違いないだろう。
ただ、確かなことが一つだけあった。
――もしかしたら、ディアボロ様はそれほど怖い方ではないかもしれない。
私は安らかな気持ちで眠りについた。
「あ、はい! ど、どうぞお入りください。鍵はかけていませんので」
カチャリと静かに扉が開いて、背の高い女性が入ってきた。
私と同じ黒髪黒目で、少し親近感がわいた。
メイド服をきっちり着こなしていて頼りがいがありそうだ。
「初めてお目にかかります。私は辺境伯様より奥様のお世話係を賜りました、バーチュでございます」
「こ、こちらこそ初めまして。キュリティです」
バーチュさんはすごく丁寧にお辞儀をする。
両手はお腹の前で組んでいて、お辞儀の角度は大変に美しい。
まるで、メイドのお手本のようだ。
「奥様、さっそくでございますが、動きやすいお洋服をご用意いたしました。まずはこちらにお着替えくださいませ。その間、私は簡単なお食事をご用意いたします」
「ありがとうございます。それはまたお心遣いを……」
バーチュさんは着替えを置くと、部屋の奥に行ってしまった。
どうやら、ここにはキッチンもあるようだ。
お洋服はゆったりしていて、肌触りも柔らかくて安心した。
「奥様、お食事でございます」
「あ、はい」
着替え終わったときピッタリに、お食事が用意されていた。
蒸し鶏が入ったスープにふんわりとしたパン、色とりどりの茹で野菜だ。
良い匂いを嗅いでいると、お腹が空いてきた。
「うわぁ……美味しそうですね」
「お口に合うとよろしいのですが」
「合うに決まってますよ。匂いだけでこんなに美味しいのですから。それではいただきます……美味しい……」
久しぶりに何か食べたような気がする。
色々なことがあって、食事どころではなかった。
「こんなに美味しいご飯を食べたのは初めてかもしれません」
喜んで食べていたら何か視線を感じる。
顔をあげたらバーチュさんが、じっ……と私を見ていた。
「あ、あの、どうかされましたか?」
「お口に合いましたでしょうか」
「ええ、とても美味しいですよ」
「それは良かったでございます」
会話を終えても、バーチュさんはじっ……と私を見てくる。
気にしないようにしたけどやっぱり気になる。
「バ、バーチュさん、どうしてそんなに私を見るんですか?」
「辺境伯様より奥様をしっかり見ておくように、と伝えられておりますので」
「そうなんですか……それなら仕方ありませんね」
相変わらず、じっ……と見られる中、気まずい感じで食事を続けた。
□□□
「それでは、私はそろそろ失礼いたします。おやすみなさいませ、奥様」
「おやすみなさい、バーチュさん。色々ありがとうございました」
その後、あっという間に日が暮れた。
今や、お部屋はかなり快適な空間になっている。
バーチュさんが諸々整えてくれたからだった。
「何かあればベッド脇にありますベルを鳴らしてください。すぐに参りますゆえ」
バーチュさんがベッドの方を指す。
いつの間にか、小さな銀色のベルが置かれてあった。
「お気遣いありがとうございます。でも、たぶん大丈夫かなと思います。夜遅いときに起こしてしまうと悪いのでっ……!」
「いいえ、奥様」
言い終わる前に、バーチュさんがズンズンズンッ! と近寄ってきた。
キリッとした表情で見てくる。
「あ、あの~、バーチュさん」
「どうか、ご遠慮はなさらないようにお願いいたします」
そう言うと、バーチュさんは静かに出て行った。
ほのかに残ったラベンダーの香水が香る。
明かりを消して、ベッドに横たわった。
「なんか……未だに信じられないな」
本当に私がディアボロ様の御子を宿したのだろうか。
もう一度お腹を軽く撫でてみたけど、特に変わりはなかった。
でも、医術師のオールドさんが言うのだから間違いないだろう。
ただ、確かなことが一つだけあった。
――もしかしたら、ディアボロ様はそれほど怖い方ではないかもしれない。
私は安らかな気持ちで眠りについた。
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