12 / 41
第12話:仲たがい(Side:ボーラン③)
しおりを挟む
俺たちはミラージュトロールのいる、“ジャラスンデの森”に来た。
ここは難易度Aランクだが、俺たちなら楽勝だ。
「ねえ、リーダー。ギルドの連中が話しているのを聞いたんだけどさ。アイトの奴、本当にグレートウルフを倒したらしいよ」
「私も聞いた。真実らしいぞ。信じられないがな」
「だとすると、どうやってそんなに強くなったのでしょう」
メンバーどもはああだこうだ話す。
いったい何を言っているんだ、こいつらは。
「は? お前らはバカか? あいつがモンスターを倒せたことあったか?」
否定しつつも内心、俺は少し不安になった。
まさか、ケビンや冒険物どもが言っていたことはマジだったのか?
アイトがスライムに殺されそうになっていた光景を思い出す。
スライムごとき倒せないヤツがグレートウルフを倒せるわけがない。
ハッ、ウソに決まってんだろ。
『ギィイイッツ!』
突然、モンスターの鳴き声が聞こえた。
とっさに、俺たちは戦闘態勢に入る。
俺は剣を抜き、ルイジワは弓を構え、イリナは魔法の発動を準備し、タシカビヤは回復魔法を用意する。
さすがはAランクの冒険者たちだ。
のろまなアイトとはまるで違うな。
警戒する中、正面の木陰からモンスターが現れた。
『ギギギッ!』
Bランクモンスターのマンイーターだ。
長い蔦と強力な酸の溶解液を使った、広範囲の攻撃を仕掛けてくる。
Bランクとは名ばかりに結構強い。
油断してると、簡単に丸かじりされてしまうだろう。
こいつと戦うには、接近戦より遠距離戦の方が安全だ。
とりあえず、イリナとルイジワに牽制させるか。
「おい! イリナ、ルイジワ!」
「わかってるよ!」
「命令しないで!」
支持を出すや否や、二人に怒鳴り返された。
チッ、もっと素直に返事できないのかよ。
こいつらはホントにイライラさせてくるな。
「《ウォーター・アローズ》!」
イリナお得意の鋭い水魔法がマンイーターを襲う。
一瞬で全ての蔦を打ち落とした。
あっという間に、マンイーターは丸裸だ。
「ほら、ルイジワ! さっさと仕留めな! お前はいつも狙いをつけるのが遅いんだよ!」
イリナが偉そうに指図する。
ルイジワは意外と慎重なタイプで、速攻を仕掛けることはなかった。
「うるさい! 黙れ!」
ルイジワが弓を引きしぼる。
矢の先端が少しずつ光り、魔力が溜まる様子がわかった。
シュパッ! と勢いよく放たれるが、ルイジワの矢は逸れて後ろの木に刺さった。
「何やってんだ! 外してんじゃないよ!」
イリナが怒り、ルイジワを責め立てる。
「アンタがうるさいから狙いがずれたんだ!」
ルイジワも負けじと言い返す。
だんだんと空気がギクシャクしてきた。
クソッ、またかよ。
俺と違ってメンバーどもは気性が荒い上に性格が悪く、クエスト中は空気が悪いことが多かった。
「おい! 喧嘩すんなよ、お前ら! 早くしねえと再生しちまうぞ!」
厄介なことに、マンイーターの蔦は再生する。
俺はこんなところで、余計な手間と時間はかけたくなかった。
目標の敵じゃねえんだよ。
「だから静かにして!」
ルイジワは再度狙いを定め矢を放つ。
今度はちゃんとマンイーターに当たった。
急所の心臓を貫いている。
よし、いいぞ、ルイジワ。
せっかくだから魔石と素材の一部は回収していくか……。
そう思ったとき、いきなりマンイーターが溶解液を飛ばした。
最後の力を振り絞って攻撃したに違いない。
「うわあ! あぶねえ!」
俺は慌てて避けるが、俺の後ろにいたイリナにひっかかった。
「うぎゃあああっ!」
イリナの腕が焼け、肉が焦げるような嫌な臭いがした。
「お、おい、大丈夫か!?」
「いってええ! アタシの腕があああ! ウ、《ウォーター・フロー》!」
イリナは慌てて水魔法で洗い流す。
だが、腕の皮膚はただれて、ひどい火傷を負っていた。
マンイーターの溶解液は強力だ。
喰らってしまうと、皮膚が焼ける痛みに襲われる。
「アハハハ! 私のことをバカにするからだ! ざまーみろ!」
ルイジワは心配する素振りすら見せず高笑いする。
「てめえ! なに笑ってんだよ! アタシの腕が焼けちまったんだぞ!」
「なに? 私とやるっての?」
イリナはルイジワにキレ、今にも殴り合いそうな雰囲気となった。
「お、おい、お前らやめろよ。喧嘩している場合じゃないだろ」
俺は二人の仲裁に入る。
まだクエストの半分も進んでいないんだぞ。
「リーダー! 元はと言えば、アンタが避けたせいで、アタシに溶解液があたったんだよ! どうしてくれんだ!」
「イリナの言う通り。ボーランが悪い」
……は?
なぜか俺が悪いことにされ怒りが湧き上がる。
「なんで俺のせいなんだ! 関係ないだろうが!」
「リーダーなら、まずメンバーの盾になるのが普通でしょうが!」
「ボーランに<勇者>の資格はない」
わざわざ気を遣ってやったのに、散々な言われようだった。
ここまで言われたら、いくら高尚な俺でも我慢できない。
こいつらをぶちのめしてやる。
「好き放題言いやがって! ぶっ殺してやる!」
「はぁ、みっともない」
遠目で見ていたタシカビヤが、わざと聞こえるようにため息をついた。
声だけで心底ウンザリしたような様子が伝わる。
俺は怒りの矛先をタシカビヤに向けた。
「なんだよ! 言いたいことあるんならハッキリ言えよ!」
「どうして私はこんな人たちとパーティーを組んでしまったのかと思いましてね。これほどまでに凶暴で自制心のない人たちはなかなかいませんよ」
「てめえ……!」
タシカビヤに掴みかかろうとするが、イリナが小声で話す。
「リーダー。タシカビヤの機嫌を損ねちゃまずいよ。貴重な回復役なんだからさ」
「……チッ、そうだな」
イリナは保身が関わると、とたんに素直になる。
まったく調子のいいヤツだ。
「なぁ、悪かったよ、タシカビヤ。すまないけどアタシの火傷を治してくれないかい? 痛くてしょうがないんだよ」
「あなたの傷なんて治したくありませんわ。疲れますもの」
タシカビヤはあっさりと断った。
相変わらず、見下したような顔だ。
すかさずタキンは怒号を上げる。
「んだと、コラァ! てめえは回復役だろうがよ! アタシの腕がどうなってもいいってのかよ!」
「アラ、怖い。あなたみたいな凶暴な人に、使って差し上げるような魔法はありませんよ。回復薬でも使われたらどうですか?」
「……クソッ、やってられるか!」
イリナはキレながら俺に近づく。
「リーダー、回復薬くれよ」
無論、俺はそんなものは用意していない。
「持ってきてねえぞ。というか、準備しないでクエストに来たじゃねぇかよ」
「リーダーのくせに何やってんだよ!」
「し、知らねーよ! お前こそ薬くらい自分で持って来いよ!」
ルイジワとタシカビヤは、我関せずと言った感じでくつろいでいた。
こ、こいつら、ホントに仲間なのか?
「リーダー! 何とかしてくれよ!」
イリナは痛みと怒りで大変に恐ろしい顔だ。
さすがの俺も少々尻込みしてしまった。
――ど、どうして、今日はこんなに仲が悪いんだ。ずっと、上手くいっていたのに……。
そこで、俺はあることに気がついた。
そうだ! アイトがいなくなったからだ!
今まであいつでストレス解消してたから、こいつらの仲の悪さが表面化しなかったんだ!
「ボーランさん、いい加減にしてください。イリナさんがかわいそうじゃないですか」
「ボーラン、アンタのせいで皆が困っている」
あろうことか、俺がストレス解消要員となりつつあった。
もうめちゃくちゃだ。
――ふ、ふざけんな! なんで俺が!
そして、俺たちは周囲に何かが集まっていることを、その時はまだ気づいていなかった。
ここは難易度Aランクだが、俺たちなら楽勝だ。
「ねえ、リーダー。ギルドの連中が話しているのを聞いたんだけどさ。アイトの奴、本当にグレートウルフを倒したらしいよ」
「私も聞いた。真実らしいぞ。信じられないがな」
「だとすると、どうやってそんなに強くなったのでしょう」
メンバーどもはああだこうだ話す。
いったい何を言っているんだ、こいつらは。
「は? お前らはバカか? あいつがモンスターを倒せたことあったか?」
否定しつつも内心、俺は少し不安になった。
まさか、ケビンや冒険物どもが言っていたことはマジだったのか?
アイトがスライムに殺されそうになっていた光景を思い出す。
スライムごとき倒せないヤツがグレートウルフを倒せるわけがない。
ハッ、ウソに決まってんだろ。
『ギィイイッツ!』
突然、モンスターの鳴き声が聞こえた。
とっさに、俺たちは戦闘態勢に入る。
俺は剣を抜き、ルイジワは弓を構え、イリナは魔法の発動を準備し、タシカビヤは回復魔法を用意する。
さすがはAランクの冒険者たちだ。
のろまなアイトとはまるで違うな。
警戒する中、正面の木陰からモンスターが現れた。
『ギギギッ!』
Bランクモンスターのマンイーターだ。
長い蔦と強力な酸の溶解液を使った、広範囲の攻撃を仕掛けてくる。
Bランクとは名ばかりに結構強い。
油断してると、簡単に丸かじりされてしまうだろう。
こいつと戦うには、接近戦より遠距離戦の方が安全だ。
とりあえず、イリナとルイジワに牽制させるか。
「おい! イリナ、ルイジワ!」
「わかってるよ!」
「命令しないで!」
支持を出すや否や、二人に怒鳴り返された。
チッ、もっと素直に返事できないのかよ。
こいつらはホントにイライラさせてくるな。
「《ウォーター・アローズ》!」
イリナお得意の鋭い水魔法がマンイーターを襲う。
一瞬で全ての蔦を打ち落とした。
あっという間に、マンイーターは丸裸だ。
「ほら、ルイジワ! さっさと仕留めな! お前はいつも狙いをつけるのが遅いんだよ!」
イリナが偉そうに指図する。
ルイジワは意外と慎重なタイプで、速攻を仕掛けることはなかった。
「うるさい! 黙れ!」
ルイジワが弓を引きしぼる。
矢の先端が少しずつ光り、魔力が溜まる様子がわかった。
シュパッ! と勢いよく放たれるが、ルイジワの矢は逸れて後ろの木に刺さった。
「何やってんだ! 外してんじゃないよ!」
イリナが怒り、ルイジワを責め立てる。
「アンタがうるさいから狙いがずれたんだ!」
ルイジワも負けじと言い返す。
だんだんと空気がギクシャクしてきた。
クソッ、またかよ。
俺と違ってメンバーどもは気性が荒い上に性格が悪く、クエスト中は空気が悪いことが多かった。
「おい! 喧嘩すんなよ、お前ら! 早くしねえと再生しちまうぞ!」
厄介なことに、マンイーターの蔦は再生する。
俺はこんなところで、余計な手間と時間はかけたくなかった。
目標の敵じゃねえんだよ。
「だから静かにして!」
ルイジワは再度狙いを定め矢を放つ。
今度はちゃんとマンイーターに当たった。
急所の心臓を貫いている。
よし、いいぞ、ルイジワ。
せっかくだから魔石と素材の一部は回収していくか……。
そう思ったとき、いきなりマンイーターが溶解液を飛ばした。
最後の力を振り絞って攻撃したに違いない。
「うわあ! あぶねえ!」
俺は慌てて避けるが、俺の後ろにいたイリナにひっかかった。
「うぎゃあああっ!」
イリナの腕が焼け、肉が焦げるような嫌な臭いがした。
「お、おい、大丈夫か!?」
「いってええ! アタシの腕があああ! ウ、《ウォーター・フロー》!」
イリナは慌てて水魔法で洗い流す。
だが、腕の皮膚はただれて、ひどい火傷を負っていた。
マンイーターの溶解液は強力だ。
喰らってしまうと、皮膚が焼ける痛みに襲われる。
「アハハハ! 私のことをバカにするからだ! ざまーみろ!」
ルイジワは心配する素振りすら見せず高笑いする。
「てめえ! なに笑ってんだよ! アタシの腕が焼けちまったんだぞ!」
「なに? 私とやるっての?」
イリナはルイジワにキレ、今にも殴り合いそうな雰囲気となった。
「お、おい、お前らやめろよ。喧嘩している場合じゃないだろ」
俺は二人の仲裁に入る。
まだクエストの半分も進んでいないんだぞ。
「リーダー! 元はと言えば、アンタが避けたせいで、アタシに溶解液があたったんだよ! どうしてくれんだ!」
「イリナの言う通り。ボーランが悪い」
……は?
なぜか俺が悪いことにされ怒りが湧き上がる。
「なんで俺のせいなんだ! 関係ないだろうが!」
「リーダーなら、まずメンバーの盾になるのが普通でしょうが!」
「ボーランに<勇者>の資格はない」
わざわざ気を遣ってやったのに、散々な言われようだった。
ここまで言われたら、いくら高尚な俺でも我慢できない。
こいつらをぶちのめしてやる。
「好き放題言いやがって! ぶっ殺してやる!」
「はぁ、みっともない」
遠目で見ていたタシカビヤが、わざと聞こえるようにため息をついた。
声だけで心底ウンザリしたような様子が伝わる。
俺は怒りの矛先をタシカビヤに向けた。
「なんだよ! 言いたいことあるんならハッキリ言えよ!」
「どうして私はこんな人たちとパーティーを組んでしまったのかと思いましてね。これほどまでに凶暴で自制心のない人たちはなかなかいませんよ」
「てめえ……!」
タシカビヤに掴みかかろうとするが、イリナが小声で話す。
「リーダー。タシカビヤの機嫌を損ねちゃまずいよ。貴重な回復役なんだからさ」
「……チッ、そうだな」
イリナは保身が関わると、とたんに素直になる。
まったく調子のいいヤツだ。
「なぁ、悪かったよ、タシカビヤ。すまないけどアタシの火傷を治してくれないかい? 痛くてしょうがないんだよ」
「あなたの傷なんて治したくありませんわ。疲れますもの」
タシカビヤはあっさりと断った。
相変わらず、見下したような顔だ。
すかさずタキンは怒号を上げる。
「んだと、コラァ! てめえは回復役だろうがよ! アタシの腕がどうなってもいいってのかよ!」
「アラ、怖い。あなたみたいな凶暴な人に、使って差し上げるような魔法はありませんよ。回復薬でも使われたらどうですか?」
「……クソッ、やってられるか!」
イリナはキレながら俺に近づく。
「リーダー、回復薬くれよ」
無論、俺はそんなものは用意していない。
「持ってきてねえぞ。というか、準備しないでクエストに来たじゃねぇかよ」
「リーダーのくせに何やってんだよ!」
「し、知らねーよ! お前こそ薬くらい自分で持って来いよ!」
ルイジワとタシカビヤは、我関せずと言った感じでくつろいでいた。
こ、こいつら、ホントに仲間なのか?
「リーダー! 何とかしてくれよ!」
イリナは痛みと怒りで大変に恐ろしい顔だ。
さすがの俺も少々尻込みしてしまった。
――ど、どうして、今日はこんなに仲が悪いんだ。ずっと、上手くいっていたのに……。
そこで、俺はあることに気がついた。
そうだ! アイトがいなくなったからだ!
今まであいつでストレス解消してたから、こいつらの仲の悪さが表面化しなかったんだ!
「ボーランさん、いい加減にしてください。イリナさんがかわいそうじゃないですか」
「ボーラン、アンタのせいで皆が困っている」
あろうことか、俺がストレス解消要員となりつつあった。
もうめちゃくちゃだ。
――ふ、ふざけんな! なんで俺が!
そして、俺たちは周囲に何かが集まっていることを、その時はまだ気づいていなかった。
応援ありがとうございます!
159
お気に入りに追加
373
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる