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第12話:仲たがい(Side:ボーラン③)

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 俺たちはミラージュトロールのいる、“ジャラスンデの森”に来た。
 ここは難易度Aランクだが、俺たちなら楽勝だ。

「ねえ、リーダー。ギルドの連中が話しているのを聞いたんだけどさ。アイトの奴、本当にグレートウルフを倒したらしいよ」
「私も聞いた。真実らしいぞ。信じられないがな」
「だとすると、どうやってそんなに強くなったのでしょう」

 メンバーどもはああだこうだ話す。
 いったい何を言っているんだ、こいつらは。

「は? お前らはバカか? あいつがモンスターを倒せたことあったか?」

 否定しつつも内心、俺は少し不安になった。
 まさか、ケビンや冒険物どもが言っていたことはマジだったのか?
 アイトがスライムに殺されそうになっていた光景を思い出す。
 スライムごとき倒せないヤツがグレートウルフを倒せるわけがない。
 ハッ、ウソに決まってんだろ。

『ギィイイッツ!』

 突然、モンスターの鳴き声が聞こえた。
 とっさに、俺たちは戦闘態勢に入る。
 俺は剣を抜き、ルイジワは弓を構え、イリナは魔法の発動を準備し、タシカビヤは回復魔法を用意する。
 さすがはAランクの冒険者たちだ。
 のろまなアイトとはまるで違うな。
 警戒する中、正面の木陰からモンスターが現れた。

『ギギギッ!』

 Bランクモンスターのマンイーターだ。
 長い蔦と強力な酸の溶解液を使った、広範囲の攻撃を仕掛けてくる。
 Bランクとは名ばかりに結構強い。
 油断してると、簡単に丸かじりされてしまうだろう。
 こいつと戦うには、接近戦より遠距離戦の方が安全だ。
 とりあえず、イリナとルイジワに牽制させるか。

「おい! イリナ、ルイジワ!」
「わかってるよ!」
「命令しないで!」

 支持を出すや否や、二人に怒鳴り返された。
 チッ、もっと素直に返事できないのかよ。
 こいつらはホントにイライラさせてくるな。

「《ウォーター・アローズ》!」

 イリナお得意の鋭い水魔法がマンイーターを襲う。
 一瞬で全ての蔦を打ち落とした。
 あっという間に、マンイーターは丸裸だ。

「ほら、ルイジワ! さっさと仕留めな! お前はいつも狙いをつけるのが遅いんだよ!」

 イリナが偉そうに指図する。
 ルイジワは意外と慎重なタイプで、速攻を仕掛けることはなかった。

「うるさい! 黙れ!」

 ルイジワが弓を引きしぼる。
 矢の先端が少しずつ光り、魔力が溜まる様子がわかった。
 シュパッ! と勢いよく放たれるが、ルイジワの矢は逸れて後ろの木に刺さった。

「何やってんだ! 外してんじゃないよ!」

 イリナが怒り、ルイジワを責め立てる。

「アンタがうるさいから狙いがずれたんだ!」

 ルイジワも負けじと言い返す。
 だんだんと空気がギクシャクしてきた。
 クソッ、またかよ。
 俺と違ってメンバーどもは気性が荒い上に性格が悪く、クエスト中は空気が悪いことが多かった。

「おい! 喧嘩すんなよ、お前ら! 早くしねえと再生しちまうぞ!」

 厄介なことに、マンイーターの蔦は再生する。
 俺はこんなところで、余計な手間と時間はかけたくなかった。
 目標の敵じゃねえんだよ。
 
「だから静かにして!」

 ルイジワは再度狙いを定め矢を放つ。
 今度はちゃんとマンイーターに当たった。
 急所の心臓を貫いている。
 よし、いいぞ、ルイジワ。
 せっかくだから魔石と素材の一部は回収していくか……。
 そう思ったとき、いきなりマンイーターが溶解液を飛ばした。
 最後の力を振り絞って攻撃したに違いない。

「うわあ! あぶねえ!」

 俺は慌てて避けるが、俺の後ろにいたイリナにひっかかった。

「うぎゃあああっ!」

 イリナの腕が焼け、肉が焦げるような嫌な臭いがした。

「お、おい、大丈夫か!?」
「いってええ! アタシの腕があああ! ウ、《ウォーター・フロー》!」

 イリナは慌てて水魔法で洗い流す。
 だが、腕の皮膚はただれて、ひどい火傷を負っていた。
 マンイーターの溶解液は強力だ。
 喰らってしまうと、皮膚が焼ける痛みに襲われる。

「アハハハ! 私のことをバカにするからだ! ざまーみろ!」

 ルイジワは心配する素振りすら見せず高笑いする。

「てめえ! なに笑ってんだよ! アタシの腕が焼けちまったんだぞ!」
「なに? 私とやるっての?」

 イリナはルイジワにキレ、今にも殴り合いそうな雰囲気となった。

「お、おい、お前らやめろよ。喧嘩している場合じゃないだろ」

 俺は二人の仲裁に入る。
 まだクエストの半分も進んでいないんだぞ。

「リーダー! 元はと言えば、アンタが避けたせいで、アタシに溶解液があたったんだよ! どうしてくれんだ!」
「イリナの言う通り。ボーランが悪い」

 ……は?
 なぜか俺が悪いことにされ怒りが湧き上がる。

「なんで俺のせいなんだ! 関係ないだろうが!」
「リーダーなら、まずメンバーの盾になるのが普通でしょうが!」
「ボーランに<勇者>の資格はない」

 わざわざ気を遣ってやったのに、散々な言われようだった。
 ここまで言われたら、いくら高尚な俺でも我慢できない。
 こいつらをぶちのめしてやる。

「好き放題言いやがって! ぶっ殺してやる!」
「はぁ、みっともない」
 
 遠目で見ていたタシカビヤが、わざと聞こえるようにため息をついた。
 声だけで心底ウンザリしたような様子が伝わる。
 俺は怒りの矛先をタシカビヤに向けた。

「なんだよ! 言いたいことあるんならハッキリ言えよ!」
「どうして私はこんな人たちとパーティーを組んでしまったのかと思いましてね。これほどまでに凶暴で自制心のない人たちはなかなかいませんよ」
「てめえ……!」

 タシカビヤに掴みかかろうとするが、イリナが小声で話す。

「リーダー。タシカビヤの機嫌を損ねちゃまずいよ。貴重な回復役なんだからさ」
「……チッ、そうだな」

 イリナは保身が関わると、とたんに素直になる。
 まったく調子のいいヤツだ。

「なぁ、悪かったよ、タシカビヤ。すまないけどアタシの火傷を治してくれないかい? 痛くてしょうがないんだよ」
「あなたの傷なんて治したくありませんわ。疲れますもの」

 タシカビヤはあっさりと断った。
 相変わらず、見下したような顔だ。
 すかさずタキンは怒号を上げる。

「んだと、コラァ! てめえは回復役だろうがよ! アタシの腕がどうなってもいいってのかよ!」
「アラ、怖い。あなたみたいな凶暴な人に、使って差し上げるような魔法はありませんよ。回復薬でも使われたらどうですか?」
「……クソッ、やってられるか!」

 イリナはキレながら俺に近づく。

「リーダー、回復薬くれよ」

 無論、俺はそんなものは用意していない。
 
「持ってきてねえぞ。というか、準備しないでクエストに来たじゃねぇかよ」
「リーダーのくせに何やってんだよ!」
「し、知らねーよ! お前こそ薬くらい自分で持って来いよ!」

 ルイジワとタシカビヤは、我関せずと言った感じでくつろいでいた。
 こ、こいつら、ホントに仲間なのか?

「リーダー! 何とかしてくれよ!」

 イリナは痛みと怒りで大変に恐ろしい顔だ。
 さすがの俺も少々尻込みしてしまった。

 ――ど、どうして、今日はこんなに仲が悪いんだ。ずっと、上手くいっていたのに……。

 そこで、俺はあることに気がついた。
 そうだ! アイトがいなくなったからだ!
 今まであいつでストレス解消してたから、こいつらの仲の悪さが表面化しなかったんだ!

「ボーランさん、いい加減にしてください。イリナさんがかわいそうじゃないですか」
「ボーラン、アンタのせいで皆が困っている」

 あろうことか、俺がストレス解消要員となりつつあった。
 もうめちゃくちゃだ。

 ――ふ、ふざけんな! なんで俺が!

 そして、俺たちは周囲に何かが集まっていることを、その時はまだ気づいていなかった。
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