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第19話:救出

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「なに……アンタらが助けに行くって!?」
「ふざけたことをぬかすな!」
「お前ら自分が何を言ってるのかわかってんのか!?」

 村長や村人は怒気のこもった声で言う。
 子どもの戯言とでも思ったのだろう。
 だが、ふざけた気持ちなど少しもない。

「はい、俺たちはこれでも冒険者です。困っている人がいれば助けないと。それに、俺の冒険者ランクはAです」

 自分の等級魔石を取り出す。
 白い輝きを見て、室内の雰囲気が変わった。

「お、おい、魔石が白いぞ!」
「こいつ、Aランク冒険者だったのか」
「まさか、本当にこの子どもがグリズリー討伐を……」

 村人たちはとても驚き、先ほどまでの俺を疑うような空気は徐々に消えていった。

〔だから、マスターは強いと言っていますのに〕
〔全然、私たちの言うことを聞いてくれないんだから〕

 俺の等級魔石を見ると、村人たちはまた相談を始めた。

「村長、とりあえずあの者に追わせてみてはどうでしょうか?」
「最悪時間稼ぎだけでもしてくれれば」
「男たちもそろそろ戻ってくるでしょう」

 マーヨーさんはしばし考え、結論を出した。

「……いいだろう。お前たちにソンレイの救出を頼むとしようか。ただし、ソンレイを救えなかったら、どうなるかわかってるだろうね?」

 相変わらず、マーヨーさんの俺たち見る目は鋭い。
 まだ完全には信用していないようだ。
 それでもチャンスをくれただけでありがたい。

「ありがとうございます、マーヨーさん。絶対に救ってみせます。それで、ソンレイさんはどのあたりで攫われたんですか?〕
「ここから東にある森だよ。ソンレイはその森がお気に入りだからね」
「わかりました。よし、行こう、二人とも」

 俺は家を出て森へ向かおうとしたが、エイメスはついてこない。
 家の前で静かに佇んでいる。

「エ、エイメス?」
〔エイメスさん、どうしたのですか?〕
〔私の雷に乗った方が速いよ〕
「雷?」

 エイメスの身体から激しい稲妻があふれ出た。
 稲光をあげながら徐々に何かの形を作り、なんと雷のドラゴンが現れた。

〔これに乗って行きましょう。早い方がいいでしょ?〕
「す、すごい……。エイメスにこんなことができるなんて」
〔さすがは元Sランクダンジョンですね〕

 俺もコシーもこんな技を見るのは初めてだ。
 村人やマーヨーさんも驚きを隠せていない。
 エイメスはまるで大したことないように、さっそうと雷ドラゴンに乗った。

〔ほら、アイトたちも早く乗って〕
「い、いやでも……」
〔稲妻が……〕

 エイメスの電撃攻撃の凄さは嫌と言うほど知っている。
 もし、感電でもしたら大変だ。

〔だから、平気だって〕

 俺とコシーの心配をよそに、エイメスは平然とする。
 いつまでも、こうしているわけにはいかない。

「よ、よし、乗るぞ!」
〔それっ!〕

 俺はコシーを持ったまま、えいや! とドラゴンに飛び乗った。
 強烈な稲妻が全身を駆け巡りとんでもない激痛に襲われる! ……ことはなかった。

「……あ、あれ? 何ともない」
〔大丈夫ですね〕

 身体は痺れることもなく、黒焦げになることもなかった。

〔私がアイトたちを傷つけるわけないでしょ〕
「たしかに」
〔そうでした〕

 俺たちはホッとする。

〔じゃあ、行くよ。落ちないようにちゃんと掴まっててね〕
「うん、わかった! って、うわっ!」
〔きゃああっ!〕

 雷ドラゴンはあり得ないほどの速さで飛ぶ。
 一瞬で、村人たちは見えなくなり、周りの風景さはぐんぐん後ろに流れる。
 そ、そうか。
 雷だからとんでもなく速いのか!
 もはや、光の速さといっても過言ではない。
 あまりの猛スピードで。俺はエイメスにギュッとしがみつくので精一杯だ。

〔アイトったらぁ、そんなにくっつくと苦しいよぉ〕
「そ、そんなこと言ったって」

エイメスはとにかく機嫌が良いみたいで、それもまたホッとした。

〔あ! あれじゃない? ソンレイさんとかいうの〕

 突然、雷ドラゴンが止まり、ガクンと大きく揺れる。
 反動で頭がぐわんぐわんするけど、どうにかして会話を続ける。
 人の命がかかっているのだ。
 
「ど、どこにいるの?」
〔ほら、あそこ〕

 エイメスが眼下の森を指す。
 目を凝らすと、数匹のグリズリーが女の人を抱えているのが見えた。
 ちょうど、俺たちの真下だ。
 あの女性がマーヨーさんの孫娘に違いない。

「そうだ! きっと、あの人がソンレイさんだよ!」
〔こんなところから見つけるなんて、エイメスさんすごいです!〕
〔じゃあ、助けるね〕
「え? ……って、うわっ!」

 直後、雷ドラゴンは真っ逆さまに落ちていった。
 あっという間に地面が目の前に迫る。
 激突の恐怖にかられ叫んでしまう。

「エイメス、何やってるの!?」
〔このままでは地面にぶつかってしまいます!〕
〔大丈夫だよ〕

 俺とコシーの言うことなどまるで聞いてくれず、どんどんスピードが上がる。
 ああ、ここで俺は死んじゃうんだ……。
 ガチで思う。
 あわや地面に激突! ……というところで、雷ドラゴンは急旋回した。
 水平になると、今度は正面のグリズリーへ向かう。
 猛スピードで。
 ソンレイさんは猛烈に近づく俺らを見ると、恐ろしいものでも見たような顔で悲鳴を上げた。
 当然だ。

「きゃああ! な、なに!?」
「エ、エイメス、ぶつかっちゃうよ!」
〔衝突します!〕
〔だから大丈夫だって〕

 俺たち三人は必死に叫ぶが、エイメスは何の躊躇もなくグリズリーに突っ込む。
 ここまで来たら逆に潔くて清々しい。
 稲光が煌めいて視界が真っ白になったかと思うと、俺たちは上空にいた。
 森が遥か下に見える。

「……え? あれ? さっきまで森にいたのに」
〔ど、どういうことですか?〕

 俺とコシーが唖然と森を見ていたら、エイメスはキョトンとして言った。

〔二人ともびっくりしすぎだよ。グリズリー倒して、ソンレイって人助けて、また空に昇ってきただけなのに〕
「グリズリーを倒したって? あっ!」

 気がついたら、俺の前のスペースにグリズリーの魔石が何個も乗っかっていた。
 あの一瞬で倒しちゃったのか……そうだ! ソンレイさんは!?
 ソンレイさんもまた、雷ドラゴンの背中にいた。
 しかし、気絶しているのか目がぐるぐるしてぐったりしている。
 俺とコシーは慌てて揺さぶった。

「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
〔ソンレイさん、目を覚ましてください!〕

 しばらく揺すると、ソンレイさんは目を覚ました。
 
「う、う~ん、私はいったい……きゃあああっ! なんで、こんなところにいるの!? 空の上、ドラゴン、不思議な人たち!」
「落ち着いてください。俺はアイトと言って、“鳴り響く猟団”から来ました。マーヨーさんに言われてあなたを助けに来たんです」
「……おばあちゃんが? それに“鳴り響く猟団”って、この辺りで一番大きいギルドじゃ……」

 事情を話すと、ソンレイさんは落ち着いた。

「……な、なるほど。すみません、取り乱してしまって……。グリズリーから救ってくれて本当にありがとうございました」
「いえいえ、当たり前のことをしただけですから。この雷ドラゴンは仲間のエイメスが出してくれたんですよ」
〔仲間じゃなくて奥さんね〕

 すかさず、エイメスのやや硬い声が飛ぶ。

「そ、そうだったね……ゴ、ゴホン。そして、こっちはコシーです。魔力を込めると大きくなります」
〔こんにちは。コシーです〕
「私はソンレイと申します。よろしくお願いします。この度はなんとお礼を言ったら……」

 ソンレイさんは青みがかった綺麗な髪をしており、なんとなくサイシャさんのような雰囲気がある。
 サイシャさんに少し似ているな。
 ふと視線がぶつかり、俺らはしばし見つめ合ってしまった。
 そっとエイメスの様子を窺うと消えていたね……光が。
 ま、まずい、この流れは!

〔ねえ、アイト…………どうしたの?〕
「きゃっ、何だかピリピリしだした!?」
「エイメス、ストーーーップ! 他意はないから! 魚の鯛じゃないくて隠し事の他意!」

 雷ドラゴンの輪郭が迸るかと思ったら治まった。
 エイメスの目にも光が戻る。

〔よかったぁ。黒焦げにするところだったよ……じゃあ、帰ろうか〕
〔「うわあああっ!」〕

 行きよりも数段早いスピードで、俺たちは村に帰った。


 □□□


 数分も経たずにマーヨーさんの家へ着き、よろよろと雷ドラゴンから降りる。
 そ、空を猛スピードで飛ぶのは、なかなかに疲れるな。

「あ、あのぉ、戻りました……」

 しょぼしょぼと家に声をかけると、大慌てで村人とマーヨーさんが出てきた。

「「村長! あのガキどもが帰ってきました!」」
「なに、もう帰ってきたのかい!? どうせ怖気づいて諦めたんだろうよ!? やっぱり、男たちが帰るのを待ってればよかったわい!」

 マーヨーさんたちは文句を言っていたけど、俺たちを見ると動きが止まった。
 ソンレイさんが真っ先に駆け出す。

「おばあちゃ~ん!!」
「ソンレイ!!」

 マーヨーさんは飛びつくように抱きついた。
 しきりに頭を撫でる。

「ちょっと、おばあちゃん。恥ずかしいわ」
「ソンレイ……! ソンレイ……! よかった、本当によかった……!」

 二人が抱き合っているのを見ると、俺も嬉しい気持ちになった。
 グリズリーに攫われたけど怪我がなかったのも幸いだ。

「よかった、無事に再会できて」
〔私も嬉しいです〕
〔よかったよかった〕

 しばらく抱き合った後、マーヨーさんがこちらに来た。
 初対面の時とは違って、穏やかな表情だ。

「アイトと言ったね。ソンレイを助けてくれて本当にありがとう。冷たい態度をとって本当に申し訳なかった」

 マーヨーさんが頭を下げると、村人たちも申し訳なさそうに頭を下げた。

「あ、頭を上げてください! 俺たちは当たり前のことをしただけですから!」
〔危ない目に遭っている人を見過ごすことはできません〕
〔ケガがなくて良かったねぇ〕

 攻撃的な態度を取られたことは、別に怒っていない。
 ソンレイさんが無事だったらそれでいいのだ。

「いいや、謙遜しないでおくれ。あんたらがいなかったら、今頃ソンレイはどうなっていたことか……いくらお礼を言っても足りないくらいさ。お前たち、おもてなしの準備だよ!」

 マーヨーさんは大きな声で号令をかける。
 断る間もなく、すぐに宴が始まってしまった。
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