上 下
33 / 41

第33話:聖剣テイム

しおりを挟む
 神剣に近づきながら思う。

 ――はたして、俺に触れるだろうか……。

 何人もの優秀な冒険者が、触ることすらできなかった“伝説の聖剣”だ。
 あのケビンさんでさえ無理だった。

 ――いや、自信を持て、アイト。俺ならできるはずだ。気持ちで負けてたら、その時点でダメだ。

 気持ちを強くして歩く。
 冒険者はみんな、じっと俺を見守った。
 森の中は張りつめた空気だ。
 天の神剣の前に着くと、その美しさに改めて目を奪われた。
 刀身は清廉潔白という言葉を体現したかのように純白で、柄の黄金は陽光に光り輝く。
 武器というよりは芸術品のごとく雰囲気から、持ち手は“選ばれる立場”なのだと伝わった。
 俺は目をつぶり深呼吸する。
 ……よし。
 静かに手を伸ばす。
 神剣は目の前にあるのに、手を伸ばすと遠ざかる錯覚があった。
 ……大丈夫だ。
 俺ならできる。
 手をさらに伸ばすと、黄金の柄に…………そっと指が当たった。
 緊張で心臓が拍動する。
 そのまま、ゆっくりと握り込むと、きちんと感触があった。
 俺は……天の神剣を触ることができた。

「や、やった! 触れた! 触れたよ、みんな!」

 俺はみんなの方を見る。
 ただ触れただけでも、大変に嬉しかったのだ。

〔マスター、やりましたね! お見事です!〕
〔さすが、私のアイトよ!〕

 コシーとエイメスの喜ぶ声が聞こえ、ストラ君たち冒険者のみんなも歓声を上げた。

「すげえ! 天の神剣を握っているぞ!」
「やっぱり、アイトさんが“選ばれし者”だったんですよ!」
「あなたが最高の冒険者です!」

 みんな自分のことのように喜んでくれる。
 嬉しいな。
 さて、聖剣はもう抜いちゃっていいのかな?
 地面から引き抜こうとした直後、俺の魔力が急速に吸い込まれていった。
 天の神剣にすごい勢いで魔力が注がれる。

 ――な、なんだ!? 魔力が勝手に……!

 俺の魔力を吸収するにつれ、天の神剣が輝きを増す。
 目の前に太陽があるかのように眩しくて、まともに見れないくらいだ。

〔マスター、どうしたんですか!?〕
〔アイト、何があったの!?〕
「わ、わからないんだ! 勝手に俺の魔力が……!」

 手を離そうとしても、なぜか柄に張り付いて取れない。
 何が起きているんだ……! と思ったとき、ボウンッ! と、白い煙がモクモクと広がった。
 この現象は前にも見たことがある。

 ――ま、まさか、これは……!

 そうだ、これはコシーやエイメスをテイムした時と一緒だ。
 俺は緊張して行く末を見守る。
 天の神剣の……テイム。
 少しずつ煙が消える。
 完全に消えると、目の前には……もの凄い美人が立っていた。
 腰くらいまである銀色の髪、スラリとした長身、切れ長の青い目、細長い手足。そして、かわいいというよりは、クールで凛とした雰囲気が漂う。

「おおおおお! 天の神剣が人間になったぞ!」
「こんなの見たことねえよ!」
「どうやったら、そんなことできるんですか!?」

 後方では、冒険者たちが大騒ぎする。
 天の神剣は全く動じず、俺に近寄った。

〔貴様がわらわの主か?〕

 俺のことを怖い目で見る。
 俺より背が高いので、上から睨まれている感じだ。

「え? 主?」
〔名は何というのだ?〕

 威圧感が強くて恐ろしい。
 ま、まさか、テイムされたくなかったのかな?
 少々不安になってしまう。

「ア、アイト・メニエンと言います」
〔わらわは、ミルギッカという名だ〕

 ミルギッカは俺のことを、頭の先からつま先まで舐めるように見た。
 まるで、武器屋で品定めされている剣になった気分だ。
 
「ミ、ミルギッカ、よろしくね」

 俺は握手しようと右手を出す。

〔……〕

 握手してくれないのか……。
 しかし、ミルギッカは手を出そうともしない。
 かなり無愛想な感じだ。
 差し出した右手の処理に困っていると、コシーとエイメスが走ってきた。
 ミルギッカは二人を見るや、ギロリと睨む。

〔貴様らはなんだ?〕
「ふ、二人とも俺の仲間だよ。コシーとエイメスね。な、仲良くしてくれると嬉しいなぁ」

 俺は慌てて紹介する。
 なんだか一触即発な雰囲気だから。

〔私はコシーと言います。私もマスターにテイムされたんです〕
〔エイメスよ。元Sランクダンジョン。あと言っとくけど、アイトは私の物だからね〕

 相変わらず、ミルギッカは機嫌が悪そうだ。
 怖い顔をしてはコシーたちを睨む。

「あ、あの、ミルギッカ……?」
〔ふんっ!〕

 彼女はプイッとそっぽを向いてしまった。

〔挨拶くらいしてくれても……〕
〔あんた、態度悪いわね〕

 な、なんか……コシーやエイメスの時と違うな。
 挨拶(……と言えるのだろうか)が終わったところで、冒険者たちも集まった。
 みんな、笑顔で俺を褒めてくれる。

「アイトさん、すごすぎます! まさか、“伝説の聖剣”をテイムするなんて!」
「俺、ギルドの連中に伝えるよ!」
「あなたみたいな人に出会えて、本当に良かったです!」

 少し話したけど、冒険者たちはみな、それぞれのギルドに帰るようだ。
 怪我も回復したので、自力で帰れると言っていた。
 みんな俺とコシー、エイメスにお礼を言い、手を振っては森の中に消える。
 最後に残ったのはストラ君たちで、彼らはガシッと力強い握手をしてくれた。

「アイトさん、本当にありがとうな!」
「またどこかで会いましょう! 今度、僕たちのギルドに遊びに来てください!」
「このご恩は一生忘れません!」

 ストラ君たちも、元気に彼らのギルドへ帰っていく。
 後ろ姿を見ながら思う。
 みんなを助けることができて本当によかった。

「……じゃあ、俺たちもギルドに戻ろうか。ケビンさん達に良い報告が出来そうだね」
〔ええ。でも、せっかくだから、ちょっと森を眺めてから帰りましょうよ〕
〔そうですね。こんなに大きな森はなかなかありません〕

 二人は大きな森に興味津々な様子だ。
 たしかに、これほどの大規模の森はなかなか見ない。

「それもそうか。じゃあ、ちょっとこの辺を見てから帰ろう」

 俺たちはこの辺りを観察してから帰ることにした。
 森へ向かって歩きだす。
 と、そこで、服の袖をグイッと何かに掴まれた。
 振り向くと、ミルギッカが俺の服を握っていた。

「ん? ど、どうした? 早く行かないと置いてかれちゃうよ」
〔……〕

 ミルギッカは離してくれない。
 コシーとエイメスは気づかず、森の中に行ってしまった。
 俺たちは二人っきりになる。

「ミルギッカ、早く手を……」
〔あんなヤツら、どうでもいいだろぉ~〕

 その途端、彼女の雰囲気が変わった。

「……え?」
〔貴様ぁ~、何で二人も女がいるのだぁ~。わらわという良い女がいるというのにぃ~〕

 ふにゃふにゃとまとわりつく。
 俺に。
 何がどうなっているのか、さっぱりわからない。

「へあ?」
〔撫でてくれなきゃ許さんぞぉ~〕

 ミルギッカはしきりに頭を俺に擦りつけてくる。

「え? ちょ、ちょっと、ミルギッカ?」

 さっきまでと打って変わって、温和な雰囲気になっているのだが。
 目つきも穏やかになり、とても笑顔。

〔あんなヤツら放っておいて、先に帰るぞぉ~〕
「いや、ちょっ」

 ミ、ミルギッカは、いったいどうしたんだ?
 傍目から見ると、ラブラブの恋人みたいだ。
 周りには誰もいないけど、恥ずかしくてしょうがない。
 何が起きているのか不明なものの、俺はホッと安心する。

 ――でも、エイメスがいなくて良かった……。もしいたら、どうなることやら……。

 もちろん、彼女の目から逃げられるわけはなかった。
 知らないうちに、エイメスが目の前にいる。
 その目は深淵のごとし暗かった。
 さ、さっきまで、向こうにいたのに!

〔……ちょっと、あんた。私のアイトに、何やってるの……?〕

 例のごとく、エイメスの身体から激しい稲妻が迸る。

〔なんだ、貴様は。わらわに勝てると思っているのか?〕

 エイメスを見た瞬間、ミルギッカは元のおっかない彼女に戻ってしまった。
 ……これはまずいよ?
 かつてない戦争が始まりそうだ。
 コシーが大急ぎで走って戻る。

〔ちょ、ちょっと、二人ともこんなところでやめてください!〕
「森が壊滅しちゃうから!」

 俺も必死に二人をなだめる。
 彼女らが騒ぐ中、ぼんやりと頭の中で考えた。

 ――も、もしかして、彼女はクーデレ……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

もふつよ魔獣さん達といっぱい遊んで事件解決!! 〜ぼくのお家は魔獣園!!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,640pt お気に入り:1,906

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,331pt お気に入り:17

お祭 ~エロが常識な世界の人気の祭~

BL / 連載中 24h.ポイント:532pt お気に入り:49

神子のオマケは竜王様に溺愛される《完結》

BL / 完結 24h.ポイント:7,866pt お気に入り:2,108

根が社畜の俺、取り急ぎ悪役令息やってみます

BL / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:1,291

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:4,199

処理中です...