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番外編 冷たい視線 その14
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本音ではすぐにでも了承したかった。けれど『結婚』となると慎重にならざるを得ない。私だけではなく、一ノ瀬君の人生をも左右する重大事項なのだから。
すぐに明確な返事はできないけれど、せめて私が求婚を嬉しく思っている事くらい伝えるべきだ。そう思って口を開いた。
「一ノ瀬君っ!あ…あ…。あ…あ…あ…。あ…あ…」
緊張のせいか、言葉が上手く出て来ない。一ノ瀬君は不思議そうに首を傾げた。
「今度は一体どうしたんです?アニメ映画のキャラのモノマネでも始めたんですか?……なかなか上手ですね。うん、とても似ていると思いますよ。どうせなら、もっと極めてみたらどうですか?あの珍妙なお面をかぶって黒装束着て。俺的には毎日その恰好で生活して欲しいくらいですけど。そしたら、他の男の目を惹かないですし…。それ名案ですね!」
……駄目だ。完全に違う意味で捉えられている。
何故ここで言葉が出て来ない!腹を括れ、私!
「あ…あ…。あ…あ…あ…ありがとう!」
「えっ?」
「本当に有難う。一ノ瀬君。求婚して貰えるだなんて思ってもなかったから、すごく嬉しい!」
私は隣に座る一ノ瀬君に勢いよく抱き着いた。
…そう。私はこの時、こんな至近距離で勢いよく抱きついたらどうなるか。深く考えていなかったのだ。 私が勢いよく抱きついた事で一ノ瀬君がベッドの上に倒れ、まるで私が押し倒したような形になってしまうことに。
「……今日は随分と積極的なんですね?これって、今まで貴女からの仕打ちに耐えてきた俺へのご褒美ですか?」
「ちがっ!」
「違うんですか?俺、結構我慢してきたと思うんですけど。真緒さんって、こちらから近付くとすぐ逃げ出すくせに、寂しくなると擦り寄って来る。人見知りの猫みたいなんですもん。俺、かなり振り回されましたよ?しかも、無自覚過ぎて危なっかしいし、ハラハラさせられっぱなしですよ」
一ノ瀬君はやはりとても器用な人なのだと思う。
今だって愛らしい笑みを浮かべているし、声色だってすごく穏やかなのに、何故か責められているように感じるのだから。
一ノ瀬君は唇を噛んで落ち込む私の頬をひと撫でした後、更に笑みを深めた。
「本当に悪いと思っているなら、真緒さんからキスして下さい。できるだけ濃厚なヤツが良いですね。…ほら、唇が傷付いちゃうから口を開けて?このままじゃキスができないでしょう?」
そう言いながら、一ノ瀬君は私の唇の間に親指を差し込んできた。そして、その親指に舌を押さえ込まれてしまう。
馬乗りに覆いかぶさっている私は、当然の事ながら下を向いているわけで。その状態で舌を押さえ込まれてしまうと、唾液を上手く嚥下する事ができない。
嚥下できなかった唾液が、一ノ瀬君の親指を伝い流れ落ちていく。
「エロッ!どうしてくれるんですか、真緒さん。俺の手が真緒さんの唾液でべとべとになっちゃったじゃないですか。綺麗に舐めとってくれます?」
そんな意地の悪い台詞を吐いた一ノ瀬君の瞳は、既に熱を帯びていた。逃げなければ喰らい尽くされる。そう本能が告げた。
私は急いで上体を起こすと、一ノ瀬君の親指を力尽くで口内から引っ張り出した。
「あれ?どうしたんですか?俺にご褒美をくれるんじゃなかったんですか?今までの事を反省しているなら、逃げちゃダメですよ」
一ノ瀬君は卑陋な笑みを浮かべながらゆっくりと起き上がった。そして見せつけるように、私の唾液で濡れた指と手首を舐め上げる。
「変態」
「ありがとうございます」
「褒めてないから」
私は一ノ瀬君を睨みつけたまま、ベッドの上を後ろ手に後退った。一ノ瀬君は私を追い詰めるように、膝立ちでじりじりと近付いてくる。
「本当に素直じゃないですよね、真緒さんって。どうせ本気で俺から逃げる気なんかないんだから、おとなしく捕まっておけばいいのに。まあ、本気で逃げようとしても、逃がしませんけどね?…そう言えば、今日はホワイトデーでしたね。じゃあ今日は日頃の感謝も込めて、いつもよりもサービスしなきゃいけませんね?」
「……ホワイトデーのお返しなんていらないから。いつも通りでいいから!」
「真緒さんったら本当につれないなぁ…。分かりました!じゃあ今日は、真緒さんから色よい返事がもらえるように、どれだけ俺が真緒さんの事を愛しているか、キッチリ体で教えてあげますね」
仔犬のような愛らしい笑みを浮かべながら、全く可愛げのない台詞を口にした一ノ瀬君は、その後、容赦なく私を貪りくしたのだ。
すぐに明確な返事はできないけれど、せめて私が求婚を嬉しく思っている事くらい伝えるべきだ。そう思って口を開いた。
「一ノ瀬君っ!あ…あ…。あ…あ…あ…。あ…あ…」
緊張のせいか、言葉が上手く出て来ない。一ノ瀬君は不思議そうに首を傾げた。
「今度は一体どうしたんです?アニメ映画のキャラのモノマネでも始めたんですか?……なかなか上手ですね。うん、とても似ていると思いますよ。どうせなら、もっと極めてみたらどうですか?あの珍妙なお面をかぶって黒装束着て。俺的には毎日その恰好で生活して欲しいくらいですけど。そしたら、他の男の目を惹かないですし…。それ名案ですね!」
……駄目だ。完全に違う意味で捉えられている。
何故ここで言葉が出て来ない!腹を括れ、私!
「あ…あ…。あ…あ…あ…ありがとう!」
「えっ?」
「本当に有難う。一ノ瀬君。求婚して貰えるだなんて思ってもなかったから、すごく嬉しい!」
私は隣に座る一ノ瀬君に勢いよく抱き着いた。
…そう。私はこの時、こんな至近距離で勢いよく抱きついたらどうなるか。深く考えていなかったのだ。 私が勢いよく抱きついた事で一ノ瀬君がベッドの上に倒れ、まるで私が押し倒したような形になってしまうことに。
「……今日は随分と積極的なんですね?これって、今まで貴女からの仕打ちに耐えてきた俺へのご褒美ですか?」
「ちがっ!」
「違うんですか?俺、結構我慢してきたと思うんですけど。真緒さんって、こちらから近付くとすぐ逃げ出すくせに、寂しくなると擦り寄って来る。人見知りの猫みたいなんですもん。俺、かなり振り回されましたよ?しかも、無自覚過ぎて危なっかしいし、ハラハラさせられっぱなしですよ」
一ノ瀬君はやはりとても器用な人なのだと思う。
今だって愛らしい笑みを浮かべているし、声色だってすごく穏やかなのに、何故か責められているように感じるのだから。
一ノ瀬君は唇を噛んで落ち込む私の頬をひと撫でした後、更に笑みを深めた。
「本当に悪いと思っているなら、真緒さんからキスして下さい。できるだけ濃厚なヤツが良いですね。…ほら、唇が傷付いちゃうから口を開けて?このままじゃキスができないでしょう?」
そう言いながら、一ノ瀬君は私の唇の間に親指を差し込んできた。そして、その親指に舌を押さえ込まれてしまう。
馬乗りに覆いかぶさっている私は、当然の事ながら下を向いているわけで。その状態で舌を押さえ込まれてしまうと、唾液を上手く嚥下する事ができない。
嚥下できなかった唾液が、一ノ瀬君の親指を伝い流れ落ちていく。
「エロッ!どうしてくれるんですか、真緒さん。俺の手が真緒さんの唾液でべとべとになっちゃったじゃないですか。綺麗に舐めとってくれます?」
そんな意地の悪い台詞を吐いた一ノ瀬君の瞳は、既に熱を帯びていた。逃げなければ喰らい尽くされる。そう本能が告げた。
私は急いで上体を起こすと、一ノ瀬君の親指を力尽くで口内から引っ張り出した。
「あれ?どうしたんですか?俺にご褒美をくれるんじゃなかったんですか?今までの事を反省しているなら、逃げちゃダメですよ」
一ノ瀬君は卑陋な笑みを浮かべながらゆっくりと起き上がった。そして見せつけるように、私の唾液で濡れた指と手首を舐め上げる。
「変態」
「ありがとうございます」
「褒めてないから」
私は一ノ瀬君を睨みつけたまま、ベッドの上を後ろ手に後退った。一ノ瀬君は私を追い詰めるように、膝立ちでじりじりと近付いてくる。
「本当に素直じゃないですよね、真緒さんって。どうせ本気で俺から逃げる気なんかないんだから、おとなしく捕まっておけばいいのに。まあ、本気で逃げようとしても、逃がしませんけどね?…そう言えば、今日はホワイトデーでしたね。じゃあ今日は日頃の感謝も込めて、いつもよりもサービスしなきゃいけませんね?」
「……ホワイトデーのお返しなんていらないから。いつも通りでいいから!」
「真緒さんったら本当につれないなぁ…。分かりました!じゃあ今日は、真緒さんから色よい返事がもらえるように、どれだけ俺が真緒さんの事を愛しているか、キッチリ体で教えてあげますね」
仔犬のような愛らしい笑みを浮かべながら、全く可愛げのない台詞を口にした一ノ瀬君は、その後、容赦なく私を貪りくしたのだ。
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