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番外編 逃がさないけどね ~一ノ瀬君side~ その20

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「俺はこの先、真緒さんとずっと一緒にいたいと思ってます。前にも言ったと思いますが。俺、貴女の事を一生逃がす気ないので、もうこの辺でおとなしく捕まっといてくれませんか?」

一世一代の求婚プロポーズなのだ。俺だってかなり緊張していた。それなのに彼女は銅像のように固まったまま、全く反応しない。

「あの…何か言ってもらえませんか?……今回俺なりにいろいろ考えたんです。散々悩んだ結果、『結婚』が最適解だな、と。結婚って形が、お互いの不安を払拭するにはもってこいだと思うんです。結婚すれば、そう簡単には別れられなくなりますし、関係を隠す必要性もなくなりますし」

最適解って……どう考えてもないだろ!他の言葉はなかったのかよ、俺!仕事じゃないんだからさ。もっとこうロマンチックに伝えたかったのに…。
自分の語彙力のなさが恨めしい。

「…最適解って………え!お互い?」

ですよ。実は俺も、ものすごく不安ですから。真緒さんを横から掻っ攫われるんじゃないかって。関係を隠したままだと、表だって牽制できませんしね。本当はだって名前書きたいくらいなのに」

プライベートの彼女は、危機管理能力がショートしているし、無自覚・無防備大魔王だから、名前を書いておいても安心できないかも知れないが…。
バレない追跡アプリでも探そうかと考えていると、彼女が「名前を書く?何処に?私の顔に?」と何やらブツブツ呟き始めた。


「え!ちょっと待って!もしかしてこれってドッキリ!?」

……あ、マジか。また斜め上に暴走し出した。これじゃあ話にならなくなるじゃん…。

「真緒さん。一旦落ち着きましょう。そんなあからさまに動揺している姿も可愛らしいんですけど、さすがにこの件については俺も譲れないんで。お願いですから、仕事の時の半分…いや10分の1でいいので、冷静になってもらえませんか?きちんと話し合いたいんです」

このまま有耶無耶にされて、求婚プロポーズ自体なかった事にされて堪るか!こっちは決死の覚悟で作戦を実行したっていうのに!
俺は彼女を落ち着かせるように、何度も何度も濡れ羽色の髪を優しく梳いた。

「少し落ち着きましたか?それじゃ、もう一度言いますね。真緒さん、俺は貴女を愛してます。貴女と結婚したい。生涯一緒にいたいんです。どうか俺と結婚してくれませんか?
因みに、この指輪の内側には刻印を入れてあるので返品は受付ません。もしいらなかったら、質屋にでも持って行って処分して下さい」

俺は大真面目に話しているというのに、彼女は未だに勘違いしたまま。「カメラは何処だ」と呟きながら、目を皿のようにして部屋中見回している。
……ちょっと待ってよ。今かなり重要な話しているんだよ?お願いだからちゃんと聞いてよ。

俺の真剣な想いが届いていないのが苦くもあったけれど、真顔でカメラを探し続けている間抜けな姿があまりにもおかしくて、俺は我慢しきれず、吹き出してしまった。どこまでも突き抜けている彼女のポンコ…豊かな発想力にある意味感心しながら、俺は笑うのを止められなかった。


「真緒さん。隠しカメラなんか何処にもありませんから安心して下さい。ドッキリなんかじゃありませんよ。これは俺の本気の求婚プロポーズですから」

俺が笑い過ぎて浮かんだ涙を拭いながら言うと、ようやく状況を理解したのか、彼女は顔を真っ赤に染めた。
そして、何度か口をパクパクさせた後、「一ノ瀬君っ!あ…あ…。あ…あ…あ…。あ…あ…」と謎にモノマネをし始めた。

……え?これってどう反応するのが正解?取り敢えず、褒めとけばいいの?

「今度は一体どうしたんです?アニメ映画のキャラのモノマネでも始めたんですか?……なかなか上手ですね。うん、とても似ていると思いますよ。どうせなら、もっと極めてみたらどうですか?あの珍妙なお面をかぶって黒装束着て。俺的には毎日その恰好で生活して欲しいくらいですけど。そしたら、他の男の目を惹かないですし…。それ名案ですね!」

自分で言っておいて何だが、なかなか名案に思えた。あの格好ならば、彼女の華奢な身体も、濡れ羽色の髪も全て隠す事ができる。あの格好で出歩いていたら、きっと周囲もドン引きするだろうから、そういう目で見られる事もなくなるし。ある意味鉄壁の防御では?
そんな馬鹿な事を考えていると、彼女が突然お礼の言葉を口にした。

「あ…あ…。あ…あ…あ…ありがとう!」

「えっ?」

「本当に有難う。一ノ瀬君。求婚プロポーズして貰えるだなんて思ってもなかったから、すごく嬉しい!」

そう言うと、彼女はとても嬉しそうに破顔して、勢いよく俺に抱き着いてきた。
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