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第22話 ちっぱい師匠クイナ参上
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ゾクリ。
急に、イスカは悪寒を感じた。
(こ、この感じ……まさか……⁉)
慌ててあたりを見回してみる。誰かにずっと見られている。それはどこからなのか、と目を凝らして観察していたイスカは、森のほうを見て、ギョッとして固まった。
木々の合間から飛び出してきた若い女性が、ズンズンと勢いよく、こちらへ向かって突き進んでくる。
男のような黒いショートヘア。キリッとした意思の強い目。身長はイスカと同じくらい。桜花国の着物を軽やかに着こなしている。腰には刀を差しており、見るからに女サムライ。
「し、師匠⁉」
「イスカあああ! 探したぞおおお!」
師匠と呼ばれた女性は、イスカにまっすぐ突っ込むと、ガシッ! と抱き寄せてきた。あまりにも熱い抱擁。濃厚な愛情を感じる。
「もおお! 絶対に離さない! 離さないからな!」
「し、師匠……! く、苦しい……!」
メキメキ、と肉や骨の軋む音が聞こえるほどに、強い力で、イスカは抱き締められている。信じられないほどの怪力だ。
「さあ、帰るぞ! 私達の家へ!」
やっとのことでイスカを離した女サムライは、無理やり手を引っ張り、この場から連れ出そうとする。
その前に、アイヴィーが立ちはだかった。
「おっと、待った! てめえ、何者だよ! いきなり現れて、イスカを連れ去ろうなんて」
「……貴様こそ、誰だ」
ギロリ、と女サムライは睨んでくる。
たちまち、すさまじい勢いの闘気が放たれてきた。怒濤の如く押し寄せてくる圧迫感に、アイヴィーはたまらず、二歩後退する。
「な……⁉ オレが、気合で押し負けた……⁉」
「まさか、貴様か。カジノで私の可愛い弟子をたぶらかして、こんな場所まで連れ込んで二人で暮らそうとしているという不届き者は」
「え⁉ はああ⁉ 違う、違う! オレは巻きこまれたほう! イスカを連れてきたのは、ニハルっていうバニーガールだよ!」
「だが、貴様も、仲良さそうに私の弟子と話をしていたな」
「ちょっとしたことだよ! 別に、変な関係じゃないって!」
こんなにもアイヴィーが焦っているのは、女サムライがずっと、腰の刀に手を置いているからだ。返答を誤れば、一瞬で斬られてしまいそうな恐ろしさがある。
自身もまたそれなりに腕に覚えのあるアイヴィーだからこそ、わかる。
この女サムライ、とてつもなく強い。
「師匠! この人の言っていること、本当だから! 僕やニハルさんに協力してくれている人で、いまはニハルさんの親衛隊」
「ほう。そのニハルとかいう女が、お前をたぶらかしたんだな」
冷ややかな目で、女サムライは、イスカのことを睨みつけてきた。
「しかも、バニーガールとかいう話だな。お前はいつから、そんな色情魔にだまされるようになってしまったんだ。まだまだ修行が足りないようだな」
「ニ、ニハルさんは、色情魔なんかじゃ……」
と言いかけて、イスカは言いよどんだ。
よくよく考えれば、ニハルはだいぶエッチな人だ。事あるごとにイスカに迫ってくる。処女だからか、意外と純粋でウブなところがあるが、それがストッパーになっているだけで、もし一線を越えたら、とんでもなくエロスに溢れている女性だ。
「ニハルを出せ、イスカ」
「師匠は、呼び出したら、どうするの?」
「無論、斬る」
簡潔に、物騒なことを言ってのける。
「じゃあ、やだよ! ニハルさんを斬らせたりなんかしない!」
「なぜだ! お前のことをだましている、悪い女だというのに!」
「だまされているなら、それでもいいよ! だって――」
ほんの一瞬、次の言葉を発するのをためらった。この言葉を出したら、確実に師匠は暴走する。
でも、言わずにはいられなかった。
「だって――僕は、ニハルさんのことが好きだから!」
ビシャーン! と雷が落ちた音が、聞こえたような気がした。
女サムライは衝撃を受けた表情で、ワナワナと震えている。
「い、いま、なんと言った……?」
「僕は、ニハルさんのことが、好き!」
「待て……! 待て、待て、待て!」
急に女サムライは、涙目になり、うろたえ始めた。
「え……? じゃ、じゃあ、私は……? 私はどうなる……ずっと私と一緒に、暮らしてくれるんじゃなかったのか……?」
「ご、ごめんなさい……一度は、そういう約束、したけど……」
「私のことを愛していないのか⁉」
「もちろん、師匠のことも好きだけど、それは、師匠としてであって……一人の女の人として、じゃないんです……ごめんなさい!」
いままさに、一人の女性が失恋した。
女サムライはガクンと力を失い、膝から崩れ落ちる。その目は虚ろで、心ここにあらず、といった様子だ。
「あー……なんというか、ご愁傷様……」
もはや脅威ではなくなった女サムライに近付き、アイヴィーは、彼女の肩をポン、と叩いた。
「あんた、名前は?」
「……クイナ」
「歳は? オレより若そうだけど」
「……十七歳」
「ニハルと同い年か。まあ、その年齢なら、いくらでも巻き返せるって」
「いやだ……! 私には、イスカしかいない……! イスカと一緒に生きられないんだったら……!」
クイナは、小さな刀を引き抜くと、着物の前をバッとはだけた。おっぱいまで露わになるが、そのサイズは小さい。Bカップ、といったところか。
そして、自分の腹に、小さな刀を突き刺そうとした。
桜花国に伝わる「切腹」というやつだ。
「おい! バカ! 何をしようとしてるんだよ! やめろ!」
「離せ! イスカが私のもとを去るのなら、死んだほうがマシだ!」
クイナの腕を押さえるアイヴィー。それに対して、クイナは必死で抵抗する。
そこへ、間の悪いことに、ニハルが邸の中から姿を現した。
「ねえ、みんなー? いつまで外にいるのー? そろそろ戻りなよー」
ニハルの姿を見た途端――
「お前かああああああ!」
クイナの怒りが爆発した。
急に、イスカは悪寒を感じた。
(こ、この感じ……まさか……⁉)
慌ててあたりを見回してみる。誰かにずっと見られている。それはどこからなのか、と目を凝らして観察していたイスカは、森のほうを見て、ギョッとして固まった。
木々の合間から飛び出してきた若い女性が、ズンズンと勢いよく、こちらへ向かって突き進んでくる。
男のような黒いショートヘア。キリッとした意思の強い目。身長はイスカと同じくらい。桜花国の着物を軽やかに着こなしている。腰には刀を差しており、見るからに女サムライ。
「し、師匠⁉」
「イスカあああ! 探したぞおおお!」
師匠と呼ばれた女性は、イスカにまっすぐ突っ込むと、ガシッ! と抱き寄せてきた。あまりにも熱い抱擁。濃厚な愛情を感じる。
「もおお! 絶対に離さない! 離さないからな!」
「し、師匠……! く、苦しい……!」
メキメキ、と肉や骨の軋む音が聞こえるほどに、強い力で、イスカは抱き締められている。信じられないほどの怪力だ。
「さあ、帰るぞ! 私達の家へ!」
やっとのことでイスカを離した女サムライは、無理やり手を引っ張り、この場から連れ出そうとする。
その前に、アイヴィーが立ちはだかった。
「おっと、待った! てめえ、何者だよ! いきなり現れて、イスカを連れ去ろうなんて」
「……貴様こそ、誰だ」
ギロリ、と女サムライは睨んでくる。
たちまち、すさまじい勢いの闘気が放たれてきた。怒濤の如く押し寄せてくる圧迫感に、アイヴィーはたまらず、二歩後退する。
「な……⁉ オレが、気合で押し負けた……⁉」
「まさか、貴様か。カジノで私の可愛い弟子をたぶらかして、こんな場所まで連れ込んで二人で暮らそうとしているという不届き者は」
「え⁉ はああ⁉ 違う、違う! オレは巻きこまれたほう! イスカを連れてきたのは、ニハルっていうバニーガールだよ!」
「だが、貴様も、仲良さそうに私の弟子と話をしていたな」
「ちょっとしたことだよ! 別に、変な関係じゃないって!」
こんなにもアイヴィーが焦っているのは、女サムライがずっと、腰の刀に手を置いているからだ。返答を誤れば、一瞬で斬られてしまいそうな恐ろしさがある。
自身もまたそれなりに腕に覚えのあるアイヴィーだからこそ、わかる。
この女サムライ、とてつもなく強い。
「師匠! この人の言っていること、本当だから! 僕やニハルさんに協力してくれている人で、いまはニハルさんの親衛隊」
「ほう。そのニハルとかいう女が、お前をたぶらかしたんだな」
冷ややかな目で、女サムライは、イスカのことを睨みつけてきた。
「しかも、バニーガールとかいう話だな。お前はいつから、そんな色情魔にだまされるようになってしまったんだ。まだまだ修行が足りないようだな」
「ニ、ニハルさんは、色情魔なんかじゃ……」
と言いかけて、イスカは言いよどんだ。
よくよく考えれば、ニハルはだいぶエッチな人だ。事あるごとにイスカに迫ってくる。処女だからか、意外と純粋でウブなところがあるが、それがストッパーになっているだけで、もし一線を越えたら、とんでもなくエロスに溢れている女性だ。
「ニハルを出せ、イスカ」
「師匠は、呼び出したら、どうするの?」
「無論、斬る」
簡潔に、物騒なことを言ってのける。
「じゃあ、やだよ! ニハルさんを斬らせたりなんかしない!」
「なぜだ! お前のことをだましている、悪い女だというのに!」
「だまされているなら、それでもいいよ! だって――」
ほんの一瞬、次の言葉を発するのをためらった。この言葉を出したら、確実に師匠は暴走する。
でも、言わずにはいられなかった。
「だって――僕は、ニハルさんのことが好きだから!」
ビシャーン! と雷が落ちた音が、聞こえたような気がした。
女サムライは衝撃を受けた表情で、ワナワナと震えている。
「い、いま、なんと言った……?」
「僕は、ニハルさんのことが、好き!」
「待て……! 待て、待て、待て!」
急に女サムライは、涙目になり、うろたえ始めた。
「え……? じゃ、じゃあ、私は……? 私はどうなる……ずっと私と一緒に、暮らしてくれるんじゃなかったのか……?」
「ご、ごめんなさい……一度は、そういう約束、したけど……」
「私のことを愛していないのか⁉」
「もちろん、師匠のことも好きだけど、それは、師匠としてであって……一人の女の人として、じゃないんです……ごめんなさい!」
いままさに、一人の女性が失恋した。
女サムライはガクンと力を失い、膝から崩れ落ちる。その目は虚ろで、心ここにあらず、といった様子だ。
「あー……なんというか、ご愁傷様……」
もはや脅威ではなくなった女サムライに近付き、アイヴィーは、彼女の肩をポン、と叩いた。
「あんた、名前は?」
「……クイナ」
「歳は? オレより若そうだけど」
「……十七歳」
「ニハルと同い年か。まあ、その年齢なら、いくらでも巻き返せるって」
「いやだ……! 私には、イスカしかいない……! イスカと一緒に生きられないんだったら……!」
クイナは、小さな刀を引き抜くと、着物の前をバッとはだけた。おっぱいまで露わになるが、そのサイズは小さい。Bカップ、といったところか。
そして、自分の腹に、小さな刀を突き刺そうとした。
桜花国に伝わる「切腹」というやつだ。
「おい! バカ! 何をしようとしてるんだよ! やめろ!」
「離せ! イスカが私のもとを去るのなら、死んだほうがマシだ!」
クイナの腕を押さえるアイヴィー。それに対して、クイナは必死で抵抗する。
そこへ、間の悪いことに、ニハルが邸の中から姿を現した。
「ねえ、みんなー? いつまで外にいるのー? そろそろ戻りなよー」
ニハルの姿を見た途端――
「お前かああああああ!」
クイナの怒りが爆発した。
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