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第61話 ニハル一派との邂逅

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「ん……」

 ユナは目をさました。寝転がっているのは、ベッドの上。ついさっきまで砂漠の上にいたと思っていたのに、どうして、こんなところにいるのか。

 わけがわからない。突然いきなりワープしたかのような感覚。

 ここはいったいなんなのか。落ち着いた装飾の室内は、普通の家の部屋というよりも、客を宿泊させるための部屋といった様子。規模からいってホテルの類だろうか。なぜ? どうして? 船の上から落下して、命を失ったものかと思っていたのに、こうして無事に生き延びている。

「誰かが、私を助けてくれた……?」

 ベッドから下りて、窓の側へ寄ってみる。外は太陽が上がっており、明るい。ひたすら青空と砂漠が広がっている。ここは砂漠のど真ん中にある建物なのだろう。オアシスの都市だろうか。

 不思議に思っていると、部屋のドアが開けられた。

 ターバンを巻いている女性だ。砂漠の民だろうか。肌は日焼けしており、色黒だ。露出度の低い格好をしているが、服の上からでもわかるほどグラマラスな体型をしている。この女性は何者なのかと、若干の警戒も交えながら、ユナはジッと様子を見守る。

「あの……ここは……?」
「お前、砂漠の上で倒れていた。放っておいたら、死んでいた。だから、助けた」
「えっと……それで、あなたは……?」
「私、ジャヒー。砂漠の民。このカジノに雇われてボディガードをやっている」
「カジノ……? ボディガード……?」

 ハッとなったユナは、窓に張りつくようにして、ますます警戒を強める。

 まさか、助けてくれたのは――あのカジノなのか⁉

 ガルズバル帝国に弓引いた、ニハルというバニーガールが占拠した、あのカジノ⁉

「な、なにを企んでいるんですか!」
「? よくわからない。私、お前、心配だから助けた。それだけ」
「だって、あなた達は――!」

 途中まで言いかけて、ユナは口をつぐんだ。

 迂闊に自分の正体を明かすわけにはいかない。相手は自分達の敵。いずれ騎士団と干戈を交える相手。

「どうした? 私達が、なんだ?」
「――カジノって、金もうけのためなら、なんでもする場所だと聞いているわ」

 少々強引ではあるが、話を切り替えた。不自然であったか、と思ったが、ジャヒーは納得してくれたようだ。

「そういうことか。平気だ。ここはもう、昔のカジノ、違う。だから、私、雇われた」
「あなたが雇われたのは、最近なの?」
「そうだ。私、砂漠の民でも、国持たない。差別されてきた。カジノ、私、受け入れてこなかった。それが、変わった」
「ボディガードとして……?」
「金払いもいい。ありがたい」

 ジャヒーはニコリともせず答える。

 そして、続けて、尋ねてきた。

「お前、なぜ、砂漠の上、倒れていた?」

 ユナは瞬時に理由を考えた。ここで回答を誤れば、正体がバレてしまう。どう答えるべきか。

「砂上船に乗っていたの……そうしたら、突然、変な男に襲われて……」

 自分の素性はできる限り隠して、しかし、事実を織り交ぜて話をする。

「変な男? なんだ、それは。盗賊か」
「ううん。あいつは、自分のことを『悪魔』と名乗ってた」
「『悪魔』……⁉」

 急に、ジャヒーは表情を険しくした。

 うん? とユナは首を傾げる。なぜ、ジャヒーは「悪魔」という単語に反応したのか。

「お前、いま、『悪魔』と言ったか!」
「え、ええ、うん」
「『悪魔』と出会ったのか!」
「そうだけど、それがどうかしたの?」

 いきなり、ジャヒーは、ユナの腕を掴むと、グイッと引っ張ってきた。

「え⁉ なに⁉ なに⁉ なに⁉」
「来い! 詳しく、話をしろ!」
「待って! 私、なにも悪いことしてないわ!」
「そうじゃない! お前の話、大事!」
「大事って⁉」
「いいから、来い!」

 ろくな説明もないまま、強引に、引っ張られて、部屋を出る。

 そのまま廊下を進んでいき、大広間へと連れ込まれた。

「ここで、待て! みんな、連れてくる!」

 そう怒鳴るように言って、ジャヒーは大広間を飛び出していった。

 ポツン、と一人取り残されたユナは、さて、どうしようかと戸惑う。いまなら逃げ出すことも可能だ。これ以上、このカジノにとどまり続けるわけにはいかない。

 だが、外は砂漠だ。しかもいまは昼間。灼熱の太陽に照らされて、干からびてしまうことだろう。

 ユナは覚悟を決めた。

 これは見方を変えれば、チャンスである。敵であるニハル一派の中へと潜り込み、その内情を探ることができる、貴重な機会。この機を生かさない手はない。

「連れてきたぞ!」

 ジャヒーは、バニーガール達を連れて戻ってきた。

 一番最後に入ってきたのは、身長三メートルはあろうかという巨大なバニーガール。

「あらあ、可愛い女の子ねえ。その格好、戦士かしらあ」

 胸鎧を装着しているユナを見て、巨人バニーはニコリと笑った。

 ユナは黙って頷いた。騎士だとバレていないのは助かる。

「私はネネ。このカジノを経営しているわぁ」
「えっと……私は……ユナ」

 この大陸ではありふれた名前なので、特に隠すことなく、本名を名乗った。下手に偽名を使えば、うっかりボロが出てしまう可能性もある。馴染みのある本名で載りきるしかない。

「それで、さっそく教えてほしいわあ。『悪魔』のことを」

 早くも、ネネは本題に入ってきた。
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