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第71話 猫獣人チェロ
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「いや、すごいな……まるで闘神だ」
離れたところで、ユナの暴れっぷりを目の当たりにしていたトールは、感嘆のため息をついた。
盗賊達は全員、死んではいない。ユナとしては命を奪う価値もない、と思っているので、全員、気絶させる程度で倒していたのである。
縄で縛られ、連行されながら、盗賊達は横目でユナのことをビクビクと眺めている。相当、彼女の強さは、トラウマになったようだ。
「ユナさん一人に任せてすまない。我々も、もっと働くべきだったが……」
「いいんですよ。戦闘慣れしていない人達を最前線に立たせるわけにはいかないですから」
頭を下げてくるトールに対して、ユナは両手を振って、気にしないで、の意を示した。
「それより、盗賊達が住んでいたから、ある程度住環境は整っています。すぐにでも引っ越しできそうですよ」
「助かった。まずは拠点が必要だ。ここを足がかりに、他の地も開放していこうと思う」
「どうします? 私は、あと五拠点くらいは潰せますけど」
「いや! いやいや! そんな無茶はしなくても! 一日一拠点くらいで十分だ!」
「全然、平気ですよ。私にとって、そんなの、無茶のうちに入らないですから」
平然と言ってのけるユナに対して、トールは苦笑した。もはやその強さ、規格外である。
「我々が、移住の準備が追いつかないので……やる気に溢れているところ、すまんが」
「わかりました! そうしたら、ちょっと息抜きに散歩してますね」
本当は、ユナとしてはさっさと自分の務めを果たして、騎士団へと戻りたいところであったが、この困っている民衆に寄り添いたい気持ちもあったので、ここはグッとこらえることにした。
しかし、そろそろ、アーフリードに自分の無事を知らせることをしなければならない。
さて、どうしよう……と思って、民家の間を歩いていると、目の前からトコトコと、猫耳の生えた獣人が歩いてきた。
(獣人。珍しい)
大陸にはモンスターや獣人が存在しているが、ガルズバル帝国ではあまり姿を見かけない。特に差別をしているわけではないのだけど、様々な社会的側面から、ガルズバル帝国は人外にとっては住みにくい土地となっているのである。だから、実に珍しい。
「あなた、どこから来たの?」
ユナが声をかけると、猫耳の獣人は、ニパッと満面に笑みを浮かべた。
「あたしはチェロだニャ。最近トールに仕えた、ウェアキャットだにゃ」
「そう、トールの仲間なのね」
「……というのは、表向きの姿で、実は……」
ニヤリ、とチェロは口元を歪める。
「トゥナ様の使い魔なんだニャ」
「え⁉ トゥナさんの⁉」
「そうだニャ。命令を受けて、君に接触しに来たんだニャ」
「よかった! 私のことを探していてくれたのね!」
「こっちこそよかったニャ。君が無事で」
ユナはチェロに駆け寄ると、その手を取った。
「お願いがあるの! アーフリード様に、私の無事を伝えてほしいの!」
「うーん、それは必要ないニャ」
「どうして⁉」
「あたしがトールの下についたのは、トゥナ様に命じられたからだニャ。それは、つまり、君が無事であることをすでにトゥナ様は知っている、ということニャ。当然、それは、アーフリード団長にも伝わっているニャ」
「そうなのね……! それなら、よかった……」
「で、君は、何をしてるのニャ?」
チェロは急に冷たい眼差しを向けてきた。
「え? 困っている民のために、盗賊退治を手伝っているところだけど……」
「それって、ニハル一派を手助けすることになってるんじゃないかニャ」
「ニハルとは関係ないわ。これは、ガルズバル帝国の民を守るための……」
「言い訳にしか聞こえないニャあ」
ジャキッ、と鋭い音が聞こえてきた。
見れば、チェロの指先から、爪が伸びている。
「な、なんなの……? どういうつもり……?」
「ニハル一派にくみすることは、ガルズバル帝国へ弓引くことと同じことだニャ」
「私を襲うつもり⁉ アーフリード様が黙ってないわよ!」
「知らないニャあ。あたしは、トゥナ様に仕えている使い魔だニャ。アーフリード団長のことはどうでもいいニャ」
ジャッ! と空を裂き、チェロは爪でユナの顔を切り裂こうと攻撃を仕掛けてきた。
素早く体をさばき、ユナは爪攻撃をかわすと、腰の剣を抜いた。
「そっちがその気なら、こっちだっておとなしくしてないわ!」
「あたしと勝負するつもりかニャ。人間のくせに」
「あなたこそ、私とまともに戦えると思ってるの!」
ユナは地面を蹴り、一瞬で、チェロの懐へと潜りこんだ。
「ニャ⁉ 速い⁉」
チェロはすかさずカウンターで爪攻撃を繰り出そうとしたが、それよりも早く、ユナの肘打ちがみぞおちへと叩き込まれた。
「あぐっ!」
呻き、下がり、よろめく。
なんとか体勢を立て直したチェロだったが、さらに追い打ちで間合いを詰めてきたユナは剣の腹で攻撃を仕掛けてきた。
バキッ!
横っ面を剣の腹で叩かれて、チェロは吹っ飛ぶ。民家にぶつかったことで、壁が崩れて、中へと体がめり込む。
「もう一回!」
三撃目を入れようと、剣を振りかぶったユナだったが、その腹部に裂け目が走った。
わずかコンマ数秒で跳ね起きたチェロが、反撃の爪で切り裂いてきたのだ。
「くぅ!」
なんとか深手は免れたユナは、数歩後退し、構え直した。
ユナとチェロは向かい合い、互いに攻撃の機会を窺っている。
数秒後、二人は同時に地面を蹴って、激突した。
お互いの攻撃がぶつかった結果――吹き飛ばされたのは、まさかのユナだった。
離れたところで、ユナの暴れっぷりを目の当たりにしていたトールは、感嘆のため息をついた。
盗賊達は全員、死んではいない。ユナとしては命を奪う価値もない、と思っているので、全員、気絶させる程度で倒していたのである。
縄で縛られ、連行されながら、盗賊達は横目でユナのことをビクビクと眺めている。相当、彼女の強さは、トラウマになったようだ。
「ユナさん一人に任せてすまない。我々も、もっと働くべきだったが……」
「いいんですよ。戦闘慣れしていない人達を最前線に立たせるわけにはいかないですから」
頭を下げてくるトールに対して、ユナは両手を振って、気にしないで、の意を示した。
「それより、盗賊達が住んでいたから、ある程度住環境は整っています。すぐにでも引っ越しできそうですよ」
「助かった。まずは拠点が必要だ。ここを足がかりに、他の地も開放していこうと思う」
「どうします? 私は、あと五拠点くらいは潰せますけど」
「いや! いやいや! そんな無茶はしなくても! 一日一拠点くらいで十分だ!」
「全然、平気ですよ。私にとって、そんなの、無茶のうちに入らないですから」
平然と言ってのけるユナに対して、トールは苦笑した。もはやその強さ、規格外である。
「我々が、移住の準備が追いつかないので……やる気に溢れているところ、すまんが」
「わかりました! そうしたら、ちょっと息抜きに散歩してますね」
本当は、ユナとしてはさっさと自分の務めを果たして、騎士団へと戻りたいところであったが、この困っている民衆に寄り添いたい気持ちもあったので、ここはグッとこらえることにした。
しかし、そろそろ、アーフリードに自分の無事を知らせることをしなければならない。
さて、どうしよう……と思って、民家の間を歩いていると、目の前からトコトコと、猫耳の生えた獣人が歩いてきた。
(獣人。珍しい)
大陸にはモンスターや獣人が存在しているが、ガルズバル帝国ではあまり姿を見かけない。特に差別をしているわけではないのだけど、様々な社会的側面から、ガルズバル帝国は人外にとっては住みにくい土地となっているのである。だから、実に珍しい。
「あなた、どこから来たの?」
ユナが声をかけると、猫耳の獣人は、ニパッと満面に笑みを浮かべた。
「あたしはチェロだニャ。最近トールに仕えた、ウェアキャットだにゃ」
「そう、トールの仲間なのね」
「……というのは、表向きの姿で、実は……」
ニヤリ、とチェロは口元を歪める。
「トゥナ様の使い魔なんだニャ」
「え⁉ トゥナさんの⁉」
「そうだニャ。命令を受けて、君に接触しに来たんだニャ」
「よかった! 私のことを探していてくれたのね!」
「こっちこそよかったニャ。君が無事で」
ユナはチェロに駆け寄ると、その手を取った。
「お願いがあるの! アーフリード様に、私の無事を伝えてほしいの!」
「うーん、それは必要ないニャ」
「どうして⁉」
「あたしがトールの下についたのは、トゥナ様に命じられたからだニャ。それは、つまり、君が無事であることをすでにトゥナ様は知っている、ということニャ。当然、それは、アーフリード団長にも伝わっているニャ」
「そうなのね……! それなら、よかった……」
「で、君は、何をしてるのニャ?」
チェロは急に冷たい眼差しを向けてきた。
「え? 困っている民のために、盗賊退治を手伝っているところだけど……」
「それって、ニハル一派を手助けすることになってるんじゃないかニャ」
「ニハルとは関係ないわ。これは、ガルズバル帝国の民を守るための……」
「言い訳にしか聞こえないニャあ」
ジャキッ、と鋭い音が聞こえてきた。
見れば、チェロの指先から、爪が伸びている。
「な、なんなの……? どういうつもり……?」
「ニハル一派にくみすることは、ガルズバル帝国へ弓引くことと同じことだニャ」
「私を襲うつもり⁉ アーフリード様が黙ってないわよ!」
「知らないニャあ。あたしは、トゥナ様に仕えている使い魔だニャ。アーフリード団長のことはどうでもいいニャ」
ジャッ! と空を裂き、チェロは爪でユナの顔を切り裂こうと攻撃を仕掛けてきた。
素早く体をさばき、ユナは爪攻撃をかわすと、腰の剣を抜いた。
「そっちがその気なら、こっちだっておとなしくしてないわ!」
「あたしと勝負するつもりかニャ。人間のくせに」
「あなたこそ、私とまともに戦えると思ってるの!」
ユナは地面を蹴り、一瞬で、チェロの懐へと潜りこんだ。
「ニャ⁉ 速い⁉」
チェロはすかさずカウンターで爪攻撃を繰り出そうとしたが、それよりも早く、ユナの肘打ちがみぞおちへと叩き込まれた。
「あぐっ!」
呻き、下がり、よろめく。
なんとか体勢を立て直したチェロだったが、さらに追い打ちで間合いを詰めてきたユナは剣の腹で攻撃を仕掛けてきた。
バキッ!
横っ面を剣の腹で叩かれて、チェロは吹っ飛ぶ。民家にぶつかったことで、壁が崩れて、中へと体がめり込む。
「もう一回!」
三撃目を入れようと、剣を振りかぶったユナだったが、その腹部に裂け目が走った。
わずかコンマ数秒で跳ね起きたチェロが、反撃の爪で切り裂いてきたのだ。
「くぅ!」
なんとか深手は免れたユナは、数歩後退し、構え直した。
ユナとチェロは向かい合い、互いに攻撃の機会を窺っている。
数秒後、二人は同時に地面を蹴って、激突した。
お互いの攻撃がぶつかった結果――吹き飛ばされたのは、まさかのユナだった。
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