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第83話 ルドルフ再び
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「くっくっく、俺を頼るとは、相当追い詰められているようだな」
相変わらずの肥満した腹を揺すり、ルドルフは地下牢の中で、楽しそうに笑った。
あまり見たくはなかったが、それでも、話をする必要があるので、ニハルは真正面から向かい合う。
「感謝してよね。こういうことでもなければ、あなたを頼ったりなんかしないんだから」
「汚れ仕事を俺に全て押しつけて、何か問題があれば切り捨てる……そういう考えなんだろう?」
「わかってるなら、話は早いわ」
「お前もだいぶ薄汚れてきたなあ、ニハル」
ルドルフは舌を出して、挑発するような表情を浮かべた。
それに対して、ニハルは嫌悪感をグッとこらえた。
(我慢……我慢しないと)
「で? もう一度説明してくれ。俺は何をすればいい」
「オークションを開催してほしいの。ただし、もちろん、表立ってはやらない。あくまでも闇の競売だから」
「なるほど、このカジノには地下空間がある。ちょうど、広間もあったな。そこでやればいいってことか」
「目玉としてドラゴンを連れてきたら、値がつかない場合でも、高値での買い取り保証をカジノ側がするわ」
「待て待て、そう焦るな。肝心の話をまだしてないぞ」
「肝心の話?」
「お前の頼みを聞いて、俺にどんなメリットがある」
ニハルは、ライカの顔を見た。こういう交渉事は苦手だから、ライカに任せるしかない。
ライカは、フンッと鼻を鳴らした。
「調子に乗らないでよね。牢から出してもらえるだけでもありがたく思いなさい」
「しかし、どちらにせよ、俺は地下に潜伏していないといけないわけだろ」
「肩書きは特別顧問よ」
「ハリボテだ。そんなもんに、何の意味も価値も無い」
ドッカと床に座り込み、ルドルフは腕組みをして、一歩も動かない姿勢を見せる。
「女だ、女をよこせ。とびきり上等の女を。長いこと抱いていないからな、そろそろじっくりねっとり、女の味を堪能したいところだ」
「あんたね……!」
ライカが怒りを露わにし、罵声を浴びせようとしかけたのを、サッとニハルは手を上げて阻止した。
「おねーさま、なんで……!」
「ねえ、ルドルフ。私とあなたと、いままでこういう交渉事で揉めた時は、いつも勝負していたよね」
ニハルは豊満な胸の谷間を寄せ、唇に指を当てると、とびきり色気溢れるポーズを取って、ルドルフに向かってウィンクした。
「私と勝負して、勝ったら、私のこと好きにさせてあげる」
「ほう!」
「だけど、もし私が勝ったら……無償で、見返りなしで、言うこと聞いてね」
「いいぞ、乗った! お前を抱けるのであれば、なんでもいい!」
「勝負の方法は――」
「おっと、待った。方法は俺に決めさせろ」
さすがにルドルフは、ニハルの側で勝負の方法を決めることには異を唱えた。
「そんなこと言うなら、この話は無かったことにするよ」
「こっちこそ、俺に決めさせないなら、協力はしないぞ」
しばし、両者睨み合う。
やがてニハルのほうが折れた。
「いいよ、わかった。勝負の方法を決めて」
「まず、賭け事は無しだ」
「え⁉」
「お前は異常にギャンブルに強いからな。何度煮え湯を飲まされたことか。今回はその手には乗らないぞ。俺が確実に勝つ方法でやらせてもらう」
「そんなの――」
「おっとぉ? 二言は無しだぞ。お前は言ったよな。勝負の方法を決めて、と。俺にその権利がある」
ルドルフはムキムキの腕を見せつつ、パキパキと指の骨を鳴らした。
「引っ張り合いだ。この鉄格子を挟んで、お互いに掴み、引っ張り合いをする。先に鉄格子に体が触れたほうの負けだ」
「ちょ! そんなの、おねーさまが圧倒的に不利じゃない!」
ライカが文句を言ったが、ニハルはまたもや彼女のことを「まあまあ」となだめた。
「しょうがないよ。約束は約束だし」
「でも、これじゃあ、おねーさまが負けちゃう!」
「『賭けてみよっか』」
「え? おねーさま、何を……」
「『私がルドルフを引っ張れたら私の勝ち、逆に引っ張られたらライカの勝ち』。賭けの報酬は、お酒を一杯おごること。どうかな」
「そんなの、勝負するまでも――」
「受けて」
真剣な眼差しで、ニハルはライカに顔を近付けた。
「お、おねーさま、近い……」
「受けて、この勝負」
でないと、ニハルのスキルが成立しなくなってしまう。「ギャンブル無敗」は、あくまでも、双方が合意の上でギャンブル勝負をしている中だからこそ有効になるのである。片方が断ったりしたら、効果は発揮されない。
そう、ニハルは、ライカと賭け事をすることによって、ルドルフとの力比べ勝負の結果をコントロールしようとしているのである。
「もしかして、おねーさま……勝算があるの?」
これはまずい流れになってきた。ライカは、ニハルが勝つかもしれない、という方向へ考えが傾いてきている様子である。
「勝算なんて、ないよー」
「でも、やけに自信たっぷりだから」
「途中で意見変えるの無しだよ。ライカは、ルドルフが勝つって思ってるんでしょ」
「……やっぱり、おねーさま、変」
ライカはジト目でニハルのことを見てくる。この幼女、聡明につき、そう簡単にはニハルの誘導に引っかからない。
「本当は勝つ自信があるんでしょ。だったら、私、賭けないよ。負けるってわかってる賭け事はしたくないもん」
とうとう、勝負を断ってきた。
「なーにをごちゃごちゃ話してるんだ。さっさと覚悟を決めて、勝負しろ」
グイッと鉄格子の向こうから、ルドルフは腕を伸ばしてきた。
仕方なく、ニハルは手を伸ばし、ルドルフの手を握った。自分の手の倍は大きなゴツゴツした手に対して、嫌悪の表情を浮かべる。
「さあ、始めるぞ!」
そう大声で宣言し、ルドルフは思いきり腕を引いた。
相変わらずの肥満した腹を揺すり、ルドルフは地下牢の中で、楽しそうに笑った。
あまり見たくはなかったが、それでも、話をする必要があるので、ニハルは真正面から向かい合う。
「感謝してよね。こういうことでもなければ、あなたを頼ったりなんかしないんだから」
「汚れ仕事を俺に全て押しつけて、何か問題があれば切り捨てる……そういう考えなんだろう?」
「わかってるなら、話は早いわ」
「お前もだいぶ薄汚れてきたなあ、ニハル」
ルドルフは舌を出して、挑発するような表情を浮かべた。
それに対して、ニハルは嫌悪感をグッとこらえた。
(我慢……我慢しないと)
「で? もう一度説明してくれ。俺は何をすればいい」
「オークションを開催してほしいの。ただし、もちろん、表立ってはやらない。あくまでも闇の競売だから」
「なるほど、このカジノには地下空間がある。ちょうど、広間もあったな。そこでやればいいってことか」
「目玉としてドラゴンを連れてきたら、値がつかない場合でも、高値での買い取り保証をカジノ側がするわ」
「待て待て、そう焦るな。肝心の話をまだしてないぞ」
「肝心の話?」
「お前の頼みを聞いて、俺にどんなメリットがある」
ニハルは、ライカの顔を見た。こういう交渉事は苦手だから、ライカに任せるしかない。
ライカは、フンッと鼻を鳴らした。
「調子に乗らないでよね。牢から出してもらえるだけでもありがたく思いなさい」
「しかし、どちらにせよ、俺は地下に潜伏していないといけないわけだろ」
「肩書きは特別顧問よ」
「ハリボテだ。そんなもんに、何の意味も価値も無い」
ドッカと床に座り込み、ルドルフは腕組みをして、一歩も動かない姿勢を見せる。
「女だ、女をよこせ。とびきり上等の女を。長いこと抱いていないからな、そろそろじっくりねっとり、女の味を堪能したいところだ」
「あんたね……!」
ライカが怒りを露わにし、罵声を浴びせようとしかけたのを、サッとニハルは手を上げて阻止した。
「おねーさま、なんで……!」
「ねえ、ルドルフ。私とあなたと、いままでこういう交渉事で揉めた時は、いつも勝負していたよね」
ニハルは豊満な胸の谷間を寄せ、唇に指を当てると、とびきり色気溢れるポーズを取って、ルドルフに向かってウィンクした。
「私と勝負して、勝ったら、私のこと好きにさせてあげる」
「ほう!」
「だけど、もし私が勝ったら……無償で、見返りなしで、言うこと聞いてね」
「いいぞ、乗った! お前を抱けるのであれば、なんでもいい!」
「勝負の方法は――」
「おっと、待った。方法は俺に決めさせろ」
さすがにルドルフは、ニハルの側で勝負の方法を決めることには異を唱えた。
「そんなこと言うなら、この話は無かったことにするよ」
「こっちこそ、俺に決めさせないなら、協力はしないぞ」
しばし、両者睨み合う。
やがてニハルのほうが折れた。
「いいよ、わかった。勝負の方法を決めて」
「まず、賭け事は無しだ」
「え⁉」
「お前は異常にギャンブルに強いからな。何度煮え湯を飲まされたことか。今回はその手には乗らないぞ。俺が確実に勝つ方法でやらせてもらう」
「そんなの――」
「おっとぉ? 二言は無しだぞ。お前は言ったよな。勝負の方法を決めて、と。俺にその権利がある」
ルドルフはムキムキの腕を見せつつ、パキパキと指の骨を鳴らした。
「引っ張り合いだ。この鉄格子を挟んで、お互いに掴み、引っ張り合いをする。先に鉄格子に体が触れたほうの負けだ」
「ちょ! そんなの、おねーさまが圧倒的に不利じゃない!」
ライカが文句を言ったが、ニハルはまたもや彼女のことを「まあまあ」となだめた。
「しょうがないよ。約束は約束だし」
「でも、これじゃあ、おねーさまが負けちゃう!」
「『賭けてみよっか』」
「え? おねーさま、何を……」
「『私がルドルフを引っ張れたら私の勝ち、逆に引っ張られたらライカの勝ち』。賭けの報酬は、お酒を一杯おごること。どうかな」
「そんなの、勝負するまでも――」
「受けて」
真剣な眼差しで、ニハルはライカに顔を近付けた。
「お、おねーさま、近い……」
「受けて、この勝負」
でないと、ニハルのスキルが成立しなくなってしまう。「ギャンブル無敗」は、あくまでも、双方が合意の上でギャンブル勝負をしている中だからこそ有効になるのである。片方が断ったりしたら、効果は発揮されない。
そう、ニハルは、ライカと賭け事をすることによって、ルドルフとの力比べ勝負の結果をコントロールしようとしているのである。
「もしかして、おねーさま……勝算があるの?」
これはまずい流れになってきた。ライカは、ニハルが勝つかもしれない、という方向へ考えが傾いてきている様子である。
「勝算なんて、ないよー」
「でも、やけに自信たっぷりだから」
「途中で意見変えるの無しだよ。ライカは、ルドルフが勝つって思ってるんでしょ」
「……やっぱり、おねーさま、変」
ライカはジト目でニハルのことを見てくる。この幼女、聡明につき、そう簡単にはニハルの誘導に引っかからない。
「本当は勝つ自信があるんでしょ。だったら、私、賭けないよ。負けるってわかってる賭け事はしたくないもん」
とうとう、勝負を断ってきた。
「なーにをごちゃごちゃ話してるんだ。さっさと覚悟を決めて、勝負しろ」
グイッと鉄格子の向こうから、ルドルフは腕を伸ばしてきた。
仕方なく、ニハルは手を伸ばし、ルドルフの手を握った。自分の手の倍は大きなゴツゴツした手に対して、嫌悪の表情を浮かべる。
「さあ、始めるぞ!」
そう大声で宣言し、ルドルフは思いきり腕を引いた。
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