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第88話 ドラゴンを取り返せ!
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「えええ⁉ ノワールを、ですか⁉」
ミカが驚きの声を上げるのと同時に、ニハルの後ろで、ライカも悲鳴を上げた。
「おねーさま⁉ 何を言ってるんですか⁉」
「あ、ライカ、いたんだ」
「さっきからずっとおねーさまの側にいましたよ!」
「全然喋らなかったから、てっきり、カジノの中にいるのかと思ってた」
「そんなことより、おねーさま! この黒いドラゴンだけはやめたほうがいいです! 私達の手に負えるものじゃないです!」
「やってみないとわからないでしょ」
脳天気なことを言うニハルに対して、ミカは首がもげそうなほどの勢いで、ブンブンと首を横に振った。
「ダメです! 絶対にダメ! ドラゴンライダーの血を引く私でも、制御が難しいのが、ノワールなんです! それを、素人のあなたがコントロール出来るとは思えません!」
「じゃあ、ミカちゃんも、私達の仲間になればいいよ」
「え?」
「そうだ、それがいい! ミカちゃんが、ノワールの面倒を見てくれたら、百人力だもんね!」
「えっと、待ってください⁉ 全然、話についてこれないんですけど⁉」
そこで、ニハルはドラゴンレースのことについて説明を始めた。
最初は真面目な顔でフムフムと聞いていたミカだったが、やがて、険しい表情になり、またもやブンブンと首を横に振った。
「そういう話だったら、なおのこと、ダメです! ノワールは気位が高いから、誰かの言いなりになって動かされるなんてことは、嫌がるはずですから!」
「そうしたら、ミカちゃんが操ればいいよ」
「わ、私が、ドラゴンレースに……⁉」
「だって、ドラゴンライダーの末裔なんでしょ。ドラゴンライダーってことは、ドラゴンを乗り回すのが得意なんでしょ。ピッタリじゃない」
「確かに、ドラゴンライダーの一族ではありますけど、私、ノワールを乗りこなしたことなんてないですから……」
などと砂漠の上で話していると、ザッ! ザッ! と乱暴に砂を踏みしめる音が聞こえてきた。
ボスコロフだ。
顔を真っ赤にして、怒っている。
「どういうことだ! わしが手に入れた白いドラゴンに、傷でもついたらどうしてくれる! なんなんだ、この黒いドラゴンは!」
「自分が競り落としたドラゴンの名前くらい憶えておいてよ。この子は、ブランっていうの」
「名前など、どうでもいい! 所詮は珍味でしかないのだからな!」
珍味、と聞いて、ミカは真っ青な顔になった。
「珍味⁉ どういうことですか⁉ ま、まさか、ブランを食べる気じゃ」
「何を言っておるか! ドラゴンなんぞ、食用以外の何の役に立つ!」
「そ、そういうことなら、ブランは売りません! この子は食べられるために生まれてきたんじゃないんです!」
「ふはははは! 馬鹿め! オークションでは、わしが全てのドラゴンを競り落とした! みんな、わしの所有物だ! そこに文句は言わせぬぞ!」
「ニハルさん、なんとかなりませんか⁉」
いまにも泣きそうな顔で、ミカはニハルにすがりついてくる。
うーん、と悩んだ末に、ニハルはライカのほうを向いた。
「ライカ、何か、いい手はない?」
「ちょっとお⁉ おねーさま、いきなり、私に振らないでよ!」
「だって、ライカなら頭がいいから、何か妙案が思い浮かぶかな、って思って」
「オークションでしっかり売買が成立してしまっているから、いまさら、それを覆すことなんて出来ませんよ! ボスコロフが、自分からその権利を放棄しない限りは!」
「それだ」
ニハルは何か閃いた様子で、目をキュピーンと光らせると、今度はボスコロフのほうへと顔を向けた。
「ねえねえ、ボスコロフさん、ひとつ賭けをしてみない?」
「なんだ? 急に」
「もし、あなたが勝ったら、ドラゴンはもちろん全部持ち帰れるのに加えて、私のことも持ち帰っていいよ。その代わり、私が勝ったら、ドラゴンを全部ちょーだい」
「ふざけるな。そんな条件で賭けになんて乗れるか。しかも、お前はカジノ側の人間じゃないか。自分に有利な賭けをけしかけてくるに決まっておる」
「えー、ショック。私、そんなに魅力ない?」
「わしは女には興味がない。ドラゴンだ。ドラゴンの肉を食べられれば、それで十分だ」
「変な人」
呆れたように肩をすくめてから、ニハルはうーんと考え込み始めた。賭け事さえ成立させればこっちのものだが、そこへ持っていくのが難しい。ボスコロフが食いつくようなネタは何かないか、と考えた末に、新たな条件を思いついた。
「そうしたら、あなたが勝ったら、このカジノと、コリドールの地を、全部あげちゃう! 賭け事の勝負内容も、あなたが決めていいよ。これでどう?」
「おねーさま⁉ 何を言い出すんですか⁉」
ライカが慌てて止めに入ろうとしたが、ニハルは無視した。ここが交渉の攻め時だ。
「そんなものをもらっても、わしには何のメリットもない」
「ところが、メリットは大ありよ。なんと言っても、カジノは、ガルズバル帝国から奪い取ったものだから。コリドールだって、いまとなっては、ガルズバル帝国としては奪取したい土地のはず。それを手に入れるということは、帝国に献上して、恩を売れる最大のチャンスじゃない?」
「ふむ……」
ここに至って、初めて、ボスコロフはニハルの提案に乗るかどうか、考え始めた。あと一押しだと悟ったニハルは、さらに畳みかける。
「ね? どうかな。どんな勝負でもいいよ。あなたが好きに決めてくれていいから」
「いいだろう。二言はないな」
ニヤリ、とボスコロフは笑った。よほど勝算のある賭け事の内容を思いついたのだろう。
「もちろん。ミカとライカも聞いていたから、この二人が証人ね。それで、どんな勝負をする?」
「いまから五分の間に、雨が降るか降らないか、を賭けようじゃないか。ちなみに、わしは、降らないほうに賭けるぞ」
一方的に宣言した後、ボスコロフは満悦顔でフフンと鼻を鳴らした。
「ちょっと待ってよ! そんな無茶苦茶な賭けってある⁉ どう考えても、雲ひとつないこの空模様で、雨なんて降るわけないじゃない!」
ライカは文句を言ったが、それを、ニハルは片手で制した。
「いいよ、それで。私は降るほうに賭ける。五分以内に」
「よし、成立だな」
ボスコロフは自信たっぷりに笑みを浮かべた。
その笑顔は――五分もしないで、あっという間に崩れ去ってしまった。
賭けが始まってから、約二分ほどで、急速な勢いで黒い雲が上空に滑り込んできて、雨をサーッと降らせてきたのだ。
ニハルの勝ちだった。
ミカが驚きの声を上げるのと同時に、ニハルの後ろで、ライカも悲鳴を上げた。
「おねーさま⁉ 何を言ってるんですか⁉」
「あ、ライカ、いたんだ」
「さっきからずっとおねーさまの側にいましたよ!」
「全然喋らなかったから、てっきり、カジノの中にいるのかと思ってた」
「そんなことより、おねーさま! この黒いドラゴンだけはやめたほうがいいです! 私達の手に負えるものじゃないです!」
「やってみないとわからないでしょ」
脳天気なことを言うニハルに対して、ミカは首がもげそうなほどの勢いで、ブンブンと首を横に振った。
「ダメです! 絶対にダメ! ドラゴンライダーの血を引く私でも、制御が難しいのが、ノワールなんです! それを、素人のあなたがコントロール出来るとは思えません!」
「じゃあ、ミカちゃんも、私達の仲間になればいいよ」
「え?」
「そうだ、それがいい! ミカちゃんが、ノワールの面倒を見てくれたら、百人力だもんね!」
「えっと、待ってください⁉ 全然、話についてこれないんですけど⁉」
そこで、ニハルはドラゴンレースのことについて説明を始めた。
最初は真面目な顔でフムフムと聞いていたミカだったが、やがて、険しい表情になり、またもやブンブンと首を横に振った。
「そういう話だったら、なおのこと、ダメです! ノワールは気位が高いから、誰かの言いなりになって動かされるなんてことは、嫌がるはずですから!」
「そうしたら、ミカちゃんが操ればいいよ」
「わ、私が、ドラゴンレースに……⁉」
「だって、ドラゴンライダーの末裔なんでしょ。ドラゴンライダーってことは、ドラゴンを乗り回すのが得意なんでしょ。ピッタリじゃない」
「確かに、ドラゴンライダーの一族ではありますけど、私、ノワールを乗りこなしたことなんてないですから……」
などと砂漠の上で話していると、ザッ! ザッ! と乱暴に砂を踏みしめる音が聞こえてきた。
ボスコロフだ。
顔を真っ赤にして、怒っている。
「どういうことだ! わしが手に入れた白いドラゴンに、傷でもついたらどうしてくれる! なんなんだ、この黒いドラゴンは!」
「自分が競り落としたドラゴンの名前くらい憶えておいてよ。この子は、ブランっていうの」
「名前など、どうでもいい! 所詮は珍味でしかないのだからな!」
珍味、と聞いて、ミカは真っ青な顔になった。
「珍味⁉ どういうことですか⁉ ま、まさか、ブランを食べる気じゃ」
「何を言っておるか! ドラゴンなんぞ、食用以外の何の役に立つ!」
「そ、そういうことなら、ブランは売りません! この子は食べられるために生まれてきたんじゃないんです!」
「ふはははは! 馬鹿め! オークションでは、わしが全てのドラゴンを競り落とした! みんな、わしの所有物だ! そこに文句は言わせぬぞ!」
「ニハルさん、なんとかなりませんか⁉」
いまにも泣きそうな顔で、ミカはニハルにすがりついてくる。
うーん、と悩んだ末に、ニハルはライカのほうを向いた。
「ライカ、何か、いい手はない?」
「ちょっとお⁉ おねーさま、いきなり、私に振らないでよ!」
「だって、ライカなら頭がいいから、何か妙案が思い浮かぶかな、って思って」
「オークションでしっかり売買が成立してしまっているから、いまさら、それを覆すことなんて出来ませんよ! ボスコロフが、自分からその権利を放棄しない限りは!」
「それだ」
ニハルは何か閃いた様子で、目をキュピーンと光らせると、今度はボスコロフのほうへと顔を向けた。
「ねえねえ、ボスコロフさん、ひとつ賭けをしてみない?」
「なんだ? 急に」
「もし、あなたが勝ったら、ドラゴンはもちろん全部持ち帰れるのに加えて、私のことも持ち帰っていいよ。その代わり、私が勝ったら、ドラゴンを全部ちょーだい」
「ふざけるな。そんな条件で賭けになんて乗れるか。しかも、お前はカジノ側の人間じゃないか。自分に有利な賭けをけしかけてくるに決まっておる」
「えー、ショック。私、そんなに魅力ない?」
「わしは女には興味がない。ドラゴンだ。ドラゴンの肉を食べられれば、それで十分だ」
「変な人」
呆れたように肩をすくめてから、ニハルはうーんと考え込み始めた。賭け事さえ成立させればこっちのものだが、そこへ持っていくのが難しい。ボスコロフが食いつくようなネタは何かないか、と考えた末に、新たな条件を思いついた。
「そうしたら、あなたが勝ったら、このカジノと、コリドールの地を、全部あげちゃう! 賭け事の勝負内容も、あなたが決めていいよ。これでどう?」
「おねーさま⁉ 何を言い出すんですか⁉」
ライカが慌てて止めに入ろうとしたが、ニハルは無視した。ここが交渉の攻め時だ。
「そんなものをもらっても、わしには何のメリットもない」
「ところが、メリットは大ありよ。なんと言っても、カジノは、ガルズバル帝国から奪い取ったものだから。コリドールだって、いまとなっては、ガルズバル帝国としては奪取したい土地のはず。それを手に入れるということは、帝国に献上して、恩を売れる最大のチャンスじゃない?」
「ふむ……」
ここに至って、初めて、ボスコロフはニハルの提案に乗るかどうか、考え始めた。あと一押しだと悟ったニハルは、さらに畳みかける。
「ね? どうかな。どんな勝負でもいいよ。あなたが好きに決めてくれていいから」
「いいだろう。二言はないな」
ニヤリ、とボスコロフは笑った。よほど勝算のある賭け事の内容を思いついたのだろう。
「もちろん。ミカとライカも聞いていたから、この二人が証人ね。それで、どんな勝負をする?」
「いまから五分の間に、雨が降るか降らないか、を賭けようじゃないか。ちなみに、わしは、降らないほうに賭けるぞ」
一方的に宣言した後、ボスコロフは満悦顔でフフンと鼻を鳴らした。
「ちょっと待ってよ! そんな無茶苦茶な賭けってある⁉ どう考えても、雲ひとつないこの空模様で、雨なんて降るわけないじゃない!」
ライカは文句を言ったが、それを、ニハルは片手で制した。
「いいよ、それで。私は降るほうに賭ける。五分以内に」
「よし、成立だな」
ボスコロフは自信たっぷりに笑みを浮かべた。
その笑顔は――五分もしないで、あっという間に崩れ去ってしまった。
賭けが始まってから、約二分ほどで、急速な勢いで黒い雲が上空に滑り込んできて、雨をサーッと降らせてきたのだ。
ニハルの勝ちだった。
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