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本編
25 喧嘩するほど①
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あれはだめ、これはだめ、とクラゲさんに命令することがある。クラゲさんは俺に従順というわけではない。気まぐれに従ったり従わなかったりする。特に風呂場での行為中は、それが酷くなる。
未だに口の中に触手を突っ込んでくるし、体液を飲まそうとしてくる。多分、ちょっと飲んじゃってるし。こっちはやめろって言ってんのにな。かと思えば、もっともっとと強請ると、こっちが爆発しそうなくらい焦らしてくることがある。俺はドMじゃないから、いじめられても嬉しくない。いや、それで気持ちよくなってる俺も悪いんだけど。
ペットじゃないんだから、指示を聞いてくれないのは仕方がない。しかしそろそろ堪忍袋の緒の切れどころだったのだ。一度ぷつんとキレてしまうと、なかなか怒りは収まらない。
「っもう、ダメだって言ってるだろ!ばか!」
尻の浅い部分をつぷつぷ撫でている触手を掴んで、声を張り上げた。
尻を触られるのは女みたいだし、ずっと触られると中が変な感覚がしくるから嫌だ。だからずっと断ってきていたのに、クラゲさんはそれを無視して手を入れてくる。最初は腕を叩いて止めていたが、高難度も続くといらいらしてくるもので。
珍しく大きな声を出す俺に、クラゲさんがフリーズしている。俺はいらいらを隠しきれないまま、風呂場から抜け出した。
思えば彼とこうして喧嘩するのは初めてだ。家中に置いてあった、クラゲさん用のコップは全て片付けた。これで彼はどこにも移動してこない。
布団に潜って目を閉じる。悪いのはクラゲさんの方であって俺じゃない。だけど、風呂場から聞こえてくる水音が虚しく聞こえてしまって、思わず耳を塞ぐ。
夜中、喉が渇いてふと目が覚めた。キッチンにお茶を取りに行くために体を起こす。薄暗い部屋の中で、床とぺたぺた歩いて冷蔵庫にたどり着くと、扉を開けた。作り置きしている麦茶が入ったポットを手に取り容器に注ごうとしたその時、麦茶に金色の目が浮かび上がった。
麦茶ポットを投げ出さなかった俺は偉い。仰天して麦茶を見つめると、よく見れば中の液体が麦茶の色ではなく透明であることに気づく。
「……クラゲさん。こんなところで何してるの」
静かな声が部屋に響いた。寒そうだ。冷蔵庫に入ってた水に乗り移ったんだもんな。きっと寒いだろう。
「おいで」
ポットの蓋を開けて手を差し伸べると、クラゲさんはおずおず手を伸ばしてきた。叱られるのを今か今かと待ちわびてる子供のようだ。そのまま冷たい体を抱きしめる。いつもと立場が逆だ。普段は寒くなってる俺を温めるのがクラゲさんだったのに。
指の隙間からクラゲさんの体がぽたぽた流れ落ちる。触れている頬が冷たい。クラゲさんを腕に抱きながら、グラスに水を注いで飲み干した。
いつもよりしおらしいクラゲさんが段々哀れに見えてきた。しっかり反省しているようだし、許してやろうかな。なんて、喧嘩してから数時間しか経って無いのにそう思ってしまう自分は、クラゲさんに甘いのだろう。
「……ごめん。俺も、怒りすぎたかも」
グラスを置き、金色の目に向かってそう言った。暗くて見え辛いが、よく見るとクラゲさんの目が僅かに戦慄いている。
どうにか泣き止ませたくて、その額に触れるだけのキスをした。
「そんなに俺に触りたいの?」
慰めるように、穏やかな声を努める。俺の胸に顔を埋めて動かないクラゲさんに、俺は困り果てた。
俺とクラゲさんでは、ものの見方が違うときがある。クラゲさんにとってえっちなことは、普通のコミュニケーションとなんら変わらないらしいということも、ついこの前知ったことだ。コミュニケーションが無いと、寂しくなるらしい。
だから俺の……し、しりとか触りたがるのも、俺が知らない意味があるのかもしれない。たぶん。わからないけど、でも。
「…………少しなら、触ってもいいよ」
あまりにも落ち込んでるクラゲさんを、どうにかして慰めたくなってしまった。
未だに口の中に触手を突っ込んでくるし、体液を飲まそうとしてくる。多分、ちょっと飲んじゃってるし。こっちはやめろって言ってんのにな。かと思えば、もっともっとと強請ると、こっちが爆発しそうなくらい焦らしてくることがある。俺はドMじゃないから、いじめられても嬉しくない。いや、それで気持ちよくなってる俺も悪いんだけど。
ペットじゃないんだから、指示を聞いてくれないのは仕方がない。しかしそろそろ堪忍袋の緒の切れどころだったのだ。一度ぷつんとキレてしまうと、なかなか怒りは収まらない。
「っもう、ダメだって言ってるだろ!ばか!」
尻の浅い部分をつぷつぷ撫でている触手を掴んで、声を張り上げた。
尻を触られるのは女みたいだし、ずっと触られると中が変な感覚がしくるから嫌だ。だからずっと断ってきていたのに、クラゲさんはそれを無視して手を入れてくる。最初は腕を叩いて止めていたが、高難度も続くといらいらしてくるもので。
珍しく大きな声を出す俺に、クラゲさんがフリーズしている。俺はいらいらを隠しきれないまま、風呂場から抜け出した。
思えば彼とこうして喧嘩するのは初めてだ。家中に置いてあった、クラゲさん用のコップは全て片付けた。これで彼はどこにも移動してこない。
布団に潜って目を閉じる。悪いのはクラゲさんの方であって俺じゃない。だけど、風呂場から聞こえてくる水音が虚しく聞こえてしまって、思わず耳を塞ぐ。
夜中、喉が渇いてふと目が覚めた。キッチンにお茶を取りに行くために体を起こす。薄暗い部屋の中で、床とぺたぺた歩いて冷蔵庫にたどり着くと、扉を開けた。作り置きしている麦茶が入ったポットを手に取り容器に注ごうとしたその時、麦茶に金色の目が浮かび上がった。
麦茶ポットを投げ出さなかった俺は偉い。仰天して麦茶を見つめると、よく見れば中の液体が麦茶の色ではなく透明であることに気づく。
「……クラゲさん。こんなところで何してるの」
静かな声が部屋に響いた。寒そうだ。冷蔵庫に入ってた水に乗り移ったんだもんな。きっと寒いだろう。
「おいで」
ポットの蓋を開けて手を差し伸べると、クラゲさんはおずおず手を伸ばしてきた。叱られるのを今か今かと待ちわびてる子供のようだ。そのまま冷たい体を抱きしめる。いつもと立場が逆だ。普段は寒くなってる俺を温めるのがクラゲさんだったのに。
指の隙間からクラゲさんの体がぽたぽた流れ落ちる。触れている頬が冷たい。クラゲさんを腕に抱きながら、グラスに水を注いで飲み干した。
いつもよりしおらしいクラゲさんが段々哀れに見えてきた。しっかり反省しているようだし、許してやろうかな。なんて、喧嘩してから数時間しか経って無いのにそう思ってしまう自分は、クラゲさんに甘いのだろう。
「……ごめん。俺も、怒りすぎたかも」
グラスを置き、金色の目に向かってそう言った。暗くて見え辛いが、よく見るとクラゲさんの目が僅かに戦慄いている。
どうにか泣き止ませたくて、その額に触れるだけのキスをした。
「そんなに俺に触りたいの?」
慰めるように、穏やかな声を努める。俺の胸に顔を埋めて動かないクラゲさんに、俺は困り果てた。
俺とクラゲさんでは、ものの見方が違うときがある。クラゲさんにとってえっちなことは、普通のコミュニケーションとなんら変わらないらしいということも、ついこの前知ったことだ。コミュニケーションが無いと、寂しくなるらしい。
だから俺の……し、しりとか触りたがるのも、俺が知らない意味があるのかもしれない。たぶん。わからないけど、でも。
「…………少しなら、触ってもいいよ」
あまりにも落ち込んでるクラゲさんを、どうにかして慰めたくなってしまった。
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