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神成
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ぴちゃりぴちゃりと、唾液が絡むはしたない水音が二人きりの研究室に響いている。
嫌なんだ、本当に。
大嫌いな男にこんなことをされて、嬉しい筈がない。今すぐ止めてほしいし逃げ出したいと思ってる。
これは嘘偽りない、紛れもない私の本心だ。その筈なのにーー
私の口の中を苦しい位に安田の舌がかき回す。
そう。思いきり歯を当てて、この舌を噛み切ってやればいい。無理やりキスされているのだから、それをされたとしても私に非はない筈だ。れっきとした正当防衛である。
確かにそう思っているのに、私は無理やり侵入し口内を蹂躙する安田の舌に自分のそれを絡めない様にするのに一杯一杯で、拒否する余裕は欠片もない。
それだけじゃない。
少しでも気を弛めると、安田の首に腕を回して縋り付いて、私の脚の間に入り込んだ安田の腿に下半身を押し付けてその先をはしたなく強請って、甘えて媚びるように安田の名前を何度も呼んでしまいそうでーー
そんな痴態を晒してしまいそうな自分が恐ろしくて、それを認めたくなくて、私は更にきつく目を閉じた。
唇が離されると、そのまま安田は体勢を入れ替え、私に覆いかぶさるように背中にピタリとくっついた。手早くブラのホックを外され、すかさず安田の手が服の中に侵入する。その手際の良さに反吐が出る。
ホックの外されたブラジャーからこぼれた胸を、安田が飽きもせずにまた揉み始める。もしかしてこの男は胸の感触よりも、それによる私の反応の方を面白がっているのかもしれない。その可能性に気付き、私はぎりっと奥歯を噛みしめた。
そんな悔しい思いも長くは続かない。
耳に軽いキスをされながら乳首を捏ねられらば身体は素直に反応し、床に崩れ落ちない様に私は目の前の壁にしがみついた。自然とお尻を突き出すような姿勢になり、当然のように安田のものが押し付けられる。私の窪みにちょうどはまる硬く突き出たその存在が、私の頭を更に沸騰させた。
「あ、っふう。んん!」
「声出せば?気持ちいいんだろ?」
そんな訳ないっ!
そう全力で否定したいのに、今口を開くと全く別の意図の声が漏れ出てしまいそうで、私はぎゅっと口を引き結んで、首を横に振った。閉じた視界の向こうに、厭らしく笑う安田が見える。
「んんんっ!っは」
「こーんなに気持ちよさそうによがってんのに、ねえ。あ、そーだ。オサムとナミちゃん、この後どこ行くか知ってるか?」
オサム?ナミ?
ぼやけた頭に二人の顔がうっすら浮かぶ。
「……そ、んなの。っふ、知るわけない」
両乳首を親指と人差し指でこりこりと摘ままれ、腰がもどかし気に揺れた。するとお尻に当てられた安田がさらに深く密着する様で、私の身体がぶるっと震えた。
お腹の奥が、熱くて、もどかしい。
「オサムん家。もちろんお泊りで」
「っつ、た」
耳元を舐めていた安田が首筋にきつく吸い付き、痛みが走る。安田はちゅっと触れるだけのキスをして、また吸い付いてを繰り返した。
「セックス覚えたてだからなー。色々試したくて仕方ない時期だよな、オサムも。まさか一回じゃあ終わらないだろ。もしかして帰るまで待ちきれなくて、構内でやってんじゃねえの?こうやって」
「ああっ!」
安田の指が胸の尖りをピンと弾き、そしてぎゅうっと絞る様に胸全体を掴んだ。
「ナミちゃんもさあ、オサムに胸揉まれると、そんな声で鳴くのかな。それとも、オサムくん気持ちいいよーって素直に言うんかな」
安田はくくっと可笑しそうにひとしきり笑って、「ま、どうでもいいけど」と興味なさげに言い捨てた。安田の言葉がじわじわと染み込んで、快楽でぼやけた頭の一部に黒い染みを作る。
オサム、ナミ、セックス。これらの単語が頭の中をぐるぐると 回る度に、染みは深く、濃くなった。
「なあ、また慰めてやろうか?」
「なに、いって」
そして、その染みに付け込むような安田の誘惑に、私の心が激しく揺さぶられる。
顎を捕まれ強引に後ろを向かされれば、鼻と鼻がくっつきそうな距離に安田の顔。そして、その顔はいつものにやついた笑みを消し、どこか不機嫌そうに私をじっと見つめていて。その普段見せる薄っぺらい表情とはかけ離れた、あの時に見たのと同じ瞳の色に、不覚にもどきんと大きく胸が跳ねた。
「ただし。もうオサムの代わりにはなるつもりはない」
「……え?」
「お前が俺に抱かれたいって言うなら、抱いてやるよ」
そう言って安田は、にいっと不敵に笑った。すーっと背筋が凍り付くのを感じ、私は安田の言葉の真意を考える前に、否定を口にしていた。
「……そんなの、頼んでない。二度と、あんなことはしない」
安田にそう告げたのか、自分に言い聞かせたのか。自分でもびっくりする程、弱々しい声が出た。
二度と、あんなことをしてはいけない。したら最後、戻ってこれなくなる。この男は危険だ。
そう心の奥でずっと警報が鳴り続けている。
「ふーん。お前の身体は、そうは言ってないけどな」
「……ああっ!んんっ」
唐突に胸の尖りを弾かれ、またしても身体が跳ねる。
「なあ、下どうなってんの?触って確かめてもいい?」
「ああ!っふ、うんんん!」
下を向いて必死に耐え、私は首を横に振った。そんな私の抵抗をあざ笑うかのように耳元で悪魔が囁く。
「びしょびしょなんじゃねえの?舐めとってやろうか?」
子供をあやす様な優しい安田の声に、お腹の奥がぎゅっと締まった。まさか、期待してる?そんな自分の一面に気付き、泣きたくなった。
「ほら、突っ込んでほしいんだろ?言えよ。俺のが欲しいって」
お尻に押し付けられた剛直を誘うように動かされ、思わず腰が揺れた。あの時の快感が思い起こされ、下腹部がもどかしい程に疼く。無意識のうちにごくりと喉を鳴らせば、安田がくっと耳元で笑った。
ーー欲しい、欲しい。
疼きが強くなって、刺激を求めて仕方ない。じんじんと痺れるそこを、思いきり突いてほしい。足りない。埋めて欲しい。
渇望にも似た強い思いがこみ上げてくる。
強烈な欲望と葛藤した挙句、それでも甘美な誘惑をねじ伏せ、声を絞り出した。
「……誰が、あんたなんか」
私の言葉に、私の身体を弄っていた安田の動きがピタリと止まる。一拍置いて、安田は私の首筋からあっさりと顔を離した。
「……ふーん。ま、いいけど」
密着していた身体も離れると、背中に押し付けられた温もりが一気に消え、寒気とともに得体のしれない謎の喪失感に襲われた。
「あ、そーだ。俺今日飲み会だったんだっけ。忘れてた」
「……は?」
緊張感の欠片もない人をおちょくった様なその話し方に、頭が軽く混乱する。振り返った先の安田は、ついさっきまでの情事の痕跡を一切感じさせない、いつも通りの薄っぺらい笑みを浮かべていた。
「じゃ、そういうことで。またな、神成」
「‥ちょ、どういう」
呆気なく帰ろうとする安田を思わず引き留めれば、安田はにいっと口角を上げ意味深に自分の股間に手を添えた。
「あー、めちゃくちゃやりたくなってきた。誰でもいいから適当にホテルに連れ込んで突っ込みてえ気分。今日の飲み会に可愛い子来てねえかな」
そのあからさまな下品な台詞に、思わず眉が寄る。
「はははっ!神成も誰でもいいから突っ込まれてえって顔してるぜ?」
「だ、れが!ふざけんなっ!そんなこと思ってる訳ないでしょ!あんたと一緒にしないでよ!」
「へえ、そう。ま、突っ込まれたくなかったら真っすぐ家に帰ることだな。なるべく顔隠してよ。ああ、あと。ちゃんとブラもしてけよ。お前のおっぱいはみ出たまんまだからな」
咄嗟に両手で胸を隠し、安田に背を向ける。そこでようやく自分の服が乱れまくっていることに気付き、羞恥で顔が熱くなった。
「死ね、変態」
「くくっ、じゃーな」
声と共にバタンと扉が閉まり、部屋がしんと静まり返る。
扉に背を向けたまま私はその場にしゃがみ込み、自分をきつく抱きしめた。頭の中は未だ混乱していて、考えが上手くまとまらない。とにかく中途半端に高められた身体が熱くて、もどかしくてたまらない。自分の顔がどんな顔をしているのかなんて分からないけど、確かに誰でもいいからこの疼きをどうにかしてほしいと思ってしまう自分がいた。
最悪すぎて、笑ってしまう。
何も考えたくなくて、見たくなくて。湧き上がる衝動を押さえつけるように、私はきつく自分自身を抱きしめた。
嫌なんだ、本当に。
大嫌いな男にこんなことをされて、嬉しい筈がない。今すぐ止めてほしいし逃げ出したいと思ってる。
これは嘘偽りない、紛れもない私の本心だ。その筈なのにーー
私の口の中を苦しい位に安田の舌がかき回す。
そう。思いきり歯を当てて、この舌を噛み切ってやればいい。無理やりキスされているのだから、それをされたとしても私に非はない筈だ。れっきとした正当防衛である。
確かにそう思っているのに、私は無理やり侵入し口内を蹂躙する安田の舌に自分のそれを絡めない様にするのに一杯一杯で、拒否する余裕は欠片もない。
それだけじゃない。
少しでも気を弛めると、安田の首に腕を回して縋り付いて、私の脚の間に入り込んだ安田の腿に下半身を押し付けてその先をはしたなく強請って、甘えて媚びるように安田の名前を何度も呼んでしまいそうでーー
そんな痴態を晒してしまいそうな自分が恐ろしくて、それを認めたくなくて、私は更にきつく目を閉じた。
唇が離されると、そのまま安田は体勢を入れ替え、私に覆いかぶさるように背中にピタリとくっついた。手早くブラのホックを外され、すかさず安田の手が服の中に侵入する。その手際の良さに反吐が出る。
ホックの外されたブラジャーからこぼれた胸を、安田が飽きもせずにまた揉み始める。もしかしてこの男は胸の感触よりも、それによる私の反応の方を面白がっているのかもしれない。その可能性に気付き、私はぎりっと奥歯を噛みしめた。
そんな悔しい思いも長くは続かない。
耳に軽いキスをされながら乳首を捏ねられらば身体は素直に反応し、床に崩れ落ちない様に私は目の前の壁にしがみついた。自然とお尻を突き出すような姿勢になり、当然のように安田のものが押し付けられる。私の窪みにちょうどはまる硬く突き出たその存在が、私の頭を更に沸騰させた。
「あ、っふう。んん!」
「声出せば?気持ちいいんだろ?」
そんな訳ないっ!
そう全力で否定したいのに、今口を開くと全く別の意図の声が漏れ出てしまいそうで、私はぎゅっと口を引き結んで、首を横に振った。閉じた視界の向こうに、厭らしく笑う安田が見える。
「んんんっ!っは」
「こーんなに気持ちよさそうによがってんのに、ねえ。あ、そーだ。オサムとナミちゃん、この後どこ行くか知ってるか?」
オサム?ナミ?
ぼやけた頭に二人の顔がうっすら浮かぶ。
「……そ、んなの。っふ、知るわけない」
両乳首を親指と人差し指でこりこりと摘ままれ、腰がもどかし気に揺れた。するとお尻に当てられた安田がさらに深く密着する様で、私の身体がぶるっと震えた。
お腹の奥が、熱くて、もどかしい。
「オサムん家。もちろんお泊りで」
「っつ、た」
耳元を舐めていた安田が首筋にきつく吸い付き、痛みが走る。安田はちゅっと触れるだけのキスをして、また吸い付いてを繰り返した。
「セックス覚えたてだからなー。色々試したくて仕方ない時期だよな、オサムも。まさか一回じゃあ終わらないだろ。もしかして帰るまで待ちきれなくて、構内でやってんじゃねえの?こうやって」
「ああっ!」
安田の指が胸の尖りをピンと弾き、そしてぎゅうっと絞る様に胸全体を掴んだ。
「ナミちゃんもさあ、オサムに胸揉まれると、そんな声で鳴くのかな。それとも、オサムくん気持ちいいよーって素直に言うんかな」
安田はくくっと可笑しそうにひとしきり笑って、「ま、どうでもいいけど」と興味なさげに言い捨てた。安田の言葉がじわじわと染み込んで、快楽でぼやけた頭の一部に黒い染みを作る。
オサム、ナミ、セックス。これらの単語が頭の中をぐるぐると 回る度に、染みは深く、濃くなった。
「なあ、また慰めてやろうか?」
「なに、いって」
そして、その染みに付け込むような安田の誘惑に、私の心が激しく揺さぶられる。
顎を捕まれ強引に後ろを向かされれば、鼻と鼻がくっつきそうな距離に安田の顔。そして、その顔はいつものにやついた笑みを消し、どこか不機嫌そうに私をじっと見つめていて。その普段見せる薄っぺらい表情とはかけ離れた、あの時に見たのと同じ瞳の色に、不覚にもどきんと大きく胸が跳ねた。
「ただし。もうオサムの代わりにはなるつもりはない」
「……え?」
「お前が俺に抱かれたいって言うなら、抱いてやるよ」
そう言って安田は、にいっと不敵に笑った。すーっと背筋が凍り付くのを感じ、私は安田の言葉の真意を考える前に、否定を口にしていた。
「……そんなの、頼んでない。二度と、あんなことはしない」
安田にそう告げたのか、自分に言い聞かせたのか。自分でもびっくりする程、弱々しい声が出た。
二度と、あんなことをしてはいけない。したら最後、戻ってこれなくなる。この男は危険だ。
そう心の奥でずっと警報が鳴り続けている。
「ふーん。お前の身体は、そうは言ってないけどな」
「……ああっ!んんっ」
唐突に胸の尖りを弾かれ、またしても身体が跳ねる。
「なあ、下どうなってんの?触って確かめてもいい?」
「ああ!っふ、うんんん!」
下を向いて必死に耐え、私は首を横に振った。そんな私の抵抗をあざ笑うかのように耳元で悪魔が囁く。
「びしょびしょなんじゃねえの?舐めとってやろうか?」
子供をあやす様な優しい安田の声に、お腹の奥がぎゅっと締まった。まさか、期待してる?そんな自分の一面に気付き、泣きたくなった。
「ほら、突っ込んでほしいんだろ?言えよ。俺のが欲しいって」
お尻に押し付けられた剛直を誘うように動かされ、思わず腰が揺れた。あの時の快感が思い起こされ、下腹部がもどかしい程に疼く。無意識のうちにごくりと喉を鳴らせば、安田がくっと耳元で笑った。
ーー欲しい、欲しい。
疼きが強くなって、刺激を求めて仕方ない。じんじんと痺れるそこを、思いきり突いてほしい。足りない。埋めて欲しい。
渇望にも似た強い思いがこみ上げてくる。
強烈な欲望と葛藤した挙句、それでも甘美な誘惑をねじ伏せ、声を絞り出した。
「……誰が、あんたなんか」
私の言葉に、私の身体を弄っていた安田の動きがピタリと止まる。一拍置いて、安田は私の首筋からあっさりと顔を離した。
「……ふーん。ま、いいけど」
密着していた身体も離れると、背中に押し付けられた温もりが一気に消え、寒気とともに得体のしれない謎の喪失感に襲われた。
「あ、そーだ。俺今日飲み会だったんだっけ。忘れてた」
「……は?」
緊張感の欠片もない人をおちょくった様なその話し方に、頭が軽く混乱する。振り返った先の安田は、ついさっきまでの情事の痕跡を一切感じさせない、いつも通りの薄っぺらい笑みを浮かべていた。
「じゃ、そういうことで。またな、神成」
「‥ちょ、どういう」
呆気なく帰ろうとする安田を思わず引き留めれば、安田はにいっと口角を上げ意味深に自分の股間に手を添えた。
「あー、めちゃくちゃやりたくなってきた。誰でもいいから適当にホテルに連れ込んで突っ込みてえ気分。今日の飲み会に可愛い子来てねえかな」
そのあからさまな下品な台詞に、思わず眉が寄る。
「はははっ!神成も誰でもいいから突っ込まれてえって顔してるぜ?」
「だ、れが!ふざけんなっ!そんなこと思ってる訳ないでしょ!あんたと一緒にしないでよ!」
「へえ、そう。ま、突っ込まれたくなかったら真っすぐ家に帰ることだな。なるべく顔隠してよ。ああ、あと。ちゃんとブラもしてけよ。お前のおっぱいはみ出たまんまだからな」
咄嗟に両手で胸を隠し、安田に背を向ける。そこでようやく自分の服が乱れまくっていることに気付き、羞恥で顔が熱くなった。
「死ね、変態」
「くくっ、じゃーな」
声と共にバタンと扉が閉まり、部屋がしんと静まり返る。
扉に背を向けたまま私はその場にしゃがみ込み、自分をきつく抱きしめた。頭の中は未だ混乱していて、考えが上手くまとまらない。とにかく中途半端に高められた身体が熱くて、もどかしくてたまらない。自分の顔がどんな顔をしているのかなんて分からないけど、確かに誰でもいいからこの疼きをどうにかしてほしいと思ってしまう自分がいた。
最悪すぎて、笑ってしまう。
何も考えたくなくて、見たくなくて。湧き上がる衝動を押さえつけるように、私はきつく自分自身を抱きしめた。
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