14 / 34
14 ヴィルヘルムの憂鬱
しおりを挟む公爵邸に行って数日後、ヴィルヘルムが子爵の家に婚約の挨拶に訪問した。最初の挨拶以外、特にエミリヤと会話はなかった。
それからエミリヤは愛しのおじさまと婚約出来ると勘違いして、舞い上がって聞いていなかった婚約の詳細を父親に聞いた。どうやら婚約期間は半年と短いらしい。エミリヤも早くギルベルトと一緒に暮らしたいのでそこは問題ない。婚約後は公爵夫人も公爵の母親もいない為屋敷の管理について公爵が直接指導するとの事で、すぐに公爵邸へ移る様にとの事だった。
「(嬉しいなーっっ♪ギルベルト様に指導して貰えるなら頑張れるよっ!!)」
そして今日はギルベルトと一緒にドレスを買いに出かける事になった。
「(いわゆるデートって感じよね♪)」
オシャレをして迎えに来たギルベルトと共に街へ馬車で向かった。馬車から降りてエスコートされるエミリヤは、ギルベルトをすれ違う人に自慢し見せつけたいと思う程格好良く見えた。ご婦人がギルベルトを見て振り返るとにやける顔が元になかなか戻らない。
ギルベルトもギルベルトでエミリヤに近づく不届き者が居ないか目を配りつつも、エミリヤは私のお姫様だと誇示する様に馬車や人がすれ違う度に肩を抱き寄せる。
側から見れば歳の差は親子程であれど美しい男女である事には変わりなく、周りの視線を集めているがそれに対しては気が付いていない。後ろを歩くスチュアートはそんな2人を観察しながらついて行く。
普段おしゃれに関心が無いエミリヤはドレスをギルベルトに任せた。このドレスは近々ある王妃様の誕生日祝いのパーティーに、婚約者であるヴィルヘルムが贈る体でギルベルトが贈ってくれる物である。婚約指輪もギルベルトが贈ってくれてた物をエミリヤは嵌めている。他の装飾も無事注文が済み、時間があるので2人でバラ園を散策する事にした。スチュアートは離れた場所で待機している。
「・・・父上?・・・婚約者殿・・・。」
ヴィルヘルムが本を片手に持って立っていた。
エミリヤにとって彼は今回が2回目の対面であり、予想外の場所で会った事に驚きに固まった。
「ーーあぁ、この先の王立図書館に行くのか。励むが良い。」
「・・・はい。ありがとうございます。」
「ヴィルヘルム様、ごきげんよう。」
何もエミリヤに返事をする事なくヴィルヘルムは無表情で去って行った。
「全く、子供か。」
「私と余程結婚したくないんでしょうね?」
「君とと言うより結婚そのものが嫌なのだろう。気にするな。」
「ふふっ♪気にしませんわ。あの方の愛が欲しい訳ではありませんし。」
「それは良かった。ここが外なのが残念でならんな。」
「何をする気なんですか?」
「外でできない事に決まっているだろう?」
2人が笑い合いながら話しているのを遠くでヴィルヘルムが見つめていた。それにスチュアートが気付いていた。
「羨ましいなら加われば良いでしょうに。難儀な・・・。」
スチュアートの呟きは誰にも聞かれる事なく消えた。
♢♢♢♢♢♢
王立図書館で借りていた本を返し、次読もうと思っていた本をひとけのない席に行って頁を捲る。気になっていた本が全く頭に入らない。ヴィルヘルムは先程見た光景が頭から離れないのだ。奥歯をぎりぎりと噛む。
「(あの女・・・他の女達の様に私に媚びないと思っていたが、まさか父上を籠絡していたとは!!そう言えば昔彼女は『イグリール公爵家の家族になれるなら、冷笑だろうと冷酷だろうと耐えられる』と言っていたな・・・。ーーそういう事か!!私が父上に代わってあの女からイグリール公爵家を何としてでも守らねば・・・。)」
しばらく頭に入って来ない本を開いたまま父親と婚約者の事を考えていたが、今日はもう集中して本が読めそうにないのでヴィルヘルムは持っていた本を借りて帰った。
屋敷に戻ったヴィルヘルムは部屋にすぐ向かおうと階段に向かったが、そこでスチュアートに声を掛けられた。
「ヴィルヘルム様、お帰りなさいませ。」
「・・・父上はすでに帰っていらっしゃるのか?」
「はい、本日ヴィルヘルム様の婚約者、エミリヤ様が王妃様のパーティーで婚約者の贈り物として着られるドレスやアクセサリーの注文に出向いた後はバラ園をお二人で巡られてから先程帰宅致しました。」
スチュアートはヴィルヘルムがバラ園に居たのを知っているにも関わらず、敢えて全て伝えた。ヴィルヘルムは眉間に皺を寄せ不機嫌さを露わにする。
「ーーフンッ。あの様な下位である身分の女に父上は何を考えていらっしゃるのだか。耄碌したのやも知れん。早めに爵位を私に譲って領地で畑でも耕せば良いものを・・・。」
「・・・ヴィルヘルム様?それは私共使用人に対する侮辱でもあるのですがお分かりでございますか?」
スチュアートは普段居るのか居ないのか分からないような雰囲気で佇んでいるのだが、今の彼は城の中でも会ったことのない様な異質な雰囲気を放っている。ヴィルヘルムは背中に嫌な汗が滲み本能的に一歩後ずさってしまう。
「ーー今回の事は聞かなかった事にしておきましょう。ヴィルヘルム様、勘違いしないで頂きたいのですが今いる使用人は全てギルベルト様の手足でございます。主を蔑む様な発言はお控え下さい。」
彼の笑顔は間違いなく笑顔なのだが明らかに雰囲気は真逆のものであった。ヴィルヘルムは思わず謝罪して急いで自室に逃げ込んだ。
「私を愛してくれる者に逢いたい・・・。」
ベッドに倒れ込んだヴィルヘルムは虚しさと哀しさでやる気を無くして、食事すら摂らず日を終えた。
♢♢♢♢♢♢♢
イグリール公爵からエミリヤの署名が必要な部分があったので本日中に城に来て欲しいという内容の連絡があり、エミリヤは城に行くとイグリール公爵がいるという部屋に案内された。
「エミリヤ嬢、急に呼び立ててすまなかったな。書類はこちらだ。」
部屋の中には他に文官がいた為淡白な言い方をしている。文官は署名された書類を確認後去って行った。
「ふぅ・・・。急で驚かせたな。どうも一枚抜けていたと出仕後言われてな。私はまだ帰られ無いからせめて立ち入り可能な庭園を見て帰ると良い。ーー今度の休日、一緒に王都近くにある綺麗な湖に行かないか?」
「嬉しい・・・楽しみにしておりますわ!でも、お疲れでしたらお屋敷でもどちらでも構いませんわ♪」
名残惜しいがそこで仕事の為に公爵とは別れエミリヤは来た道を引き返した。庭園の横の通路を歩いていると、庭園を挟んで反対側の通路を焦茶でサラサラ髪の美青年がいるのが見えた。
「(あら、婚約者様ではないの。んんん???あれは・・・。)」
1人でいると思っていたがどうやら誰かいる様で話している。誰と話しているのか少し通路を移動すると、可憐な美少女である。女性はコロコロと笑いながら何やら話しているが、ヴィルヘルムは無表情で返している様である。
「(へー女性嫌いって話だけど、話し相手になる女性いたんだ~。ま、どうでもいっかかえろ・・・え?どうでも良くないんじゃ無い!?ヴィルヘルム様との婚約解消されたらギルベルト様とお家イチャコラできないじゃ無いの!!ど、どうしよう・・・。彼女の家に婿に入ってくれたら良いけど・・・。彼女の内情調べなきゃ!!)」
庭園の花々にも目も暮れず一目散に帰宅したエミリヤは、お茶会で繋がった友人に連絡し彼女がどこの誰か家は婿を入れるのか自分が嫁ぐのかを調べた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。
南田 此仁
恋愛
ブラック企業を飛び出すように退職した日菜(ヒナ)は、家で一人祝杯を上げていた――はずなのに。
不意に落ちたペンダントトップへと手を伸ばし、気がつけばまったく見知らぬ場所にいた。
周囲を取り巻く巨大なぬいぐるみたち。
巨大化したペンダントトップ。
あれ?
もしかして私、ちっちゃくなっちゃった――!?
……なーんてね。夢でしょ、夢!
と思って過ごしていたものの、一向に目が覚める気配はなく。
空腹感も尿意もある異様にリアルな夢のなか、鬼のような形相の家主から隠れてドールハウスで暮らしてみたり、仮眠中の家主にこっそりと触れてみたり。
姿を見られたが最後、可愛いもの好きの家主からの溺愛が止まりません……!?
■一話 800~1000文字ほど
■濡れ場は後半、※マーク付き
■ご感想いただけるととっても嬉しいです( *´艸`)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる