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再会
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そこには寮生活をするにあたっての注意事項と、生活範囲の施設案内図が描かれていた。
オリヴィエの部屋は管理棟の2階が充てられていた。
ルーカスの態度は解せないし、憤りもある。
しかしそれだけではここを去る決心にまで及ばない。
それくらい強い想いがオリヴィエを動かしていた。聖女を志した時も、聖騎士団を目指した時も。
あんまりな態度を取られても、どうしてかオリヴィエはルーカスを嫌いになれない。
(どうして私、ルーカスにこんなに執着してるのかしら)
――とんでもない執着だ、と自分でもわかっていた。
いや、実はここ1年の間に、ようやく聖騎士団への道が確実になった頃、自覚し始めていた。
好きは、好きだし初恋でもある。
けれど10年以上会ってもいない男を一途に追い続けるこのエネルギーの源は何なのかと、自分でも不思議になる。
優しい声、愛らしい笑顔、幼い恋の甘い思い出。
それらを差し引いても、オリヴィエの執着は異常だ。
しかし、不思議ながら、どうしてもあの人の傍にありたい、気持ちが抑えられない。
それは残念ながら、今なお継続されていた。
同意もなしに、無理矢理に唇を奪われても……こうして落ち着いてみれば、ちょっとだけ嬉しかったりもする。
(待って! これって、とっても危ないわよね? 私って、マゾなのかしら??)
「はぁ……」
(溜息をついてる場合じゃない、ひとまず荷物の整理をしなきゃ。出て行ってなど、やるもんですか。私は、騎士団に人生を掛けてるんだから!)
オリヴィエは立ち上がって、執務室を後にした。
2Fへ上がると、ずらりと並んだ扉に番号が振られている。その内の2番目が自室だった。
鍵を開けて中に入ると、そこは5畳ほどの小さな部屋だった。
ベッドと、机、書棚にチェスト。その他には何もない。
クローゼット脇のチェストの引き出しを開けると、畳まれた制服が何着かと靴一足のみが支給されていた。
脇の僅かなスペースに、洗面とシャワー室が設置されている。
(男子寮しかないと言っていたものね。出店にも女性の衣類など扱わないでしょうから、下着の替えは後日ミユに持って来てもらいましょう)
ベッドに腰を下ろし、枕を、もふ・と抱きしめた。
そのままごろん、とオリヴィエはベッドに横になる。
今日は入団式のみで、この後には予定がない。
夕食まで、ゆっくりしていよう。
(はぁ……)
目を閉じると、瞼の裏にルーカスの顔が過ぎる。
兄や父、母も合格が決まってからは、騎士団の環境を酷く心配していた。
特にクリストファーは正気の沙汰でないくらい取り乱していた。
……どうやら皆、オリヴィエが道半ばで挫折するだろうと高を括っていたらしい。
いよいよ入団が迫ると一様に反対を始めた。
『入団を諦めるくらいなら、今すぐ死んだほうがまし』とゴリ押しを通したが、最大の要因は任務の危険性と併せて、この、環境にもあったのか。
「オリヴィエ、くれぐれも気をつけて。どうか生きて帰ってきて」
――なんて、母は泣くし、父は騎士団とオリヴィエの寿命を天秤に掛け、黙したままだった。
(兄様ったら、私の心配より自分のお見合いの心配でもすればいいのに)
クリストファーは次期当主の座についており、見合い話も引っ切り無しに舞い込んでいる。
当主になった暁には、早々に妻を迎え、子を成さねばならないのに、本人はまだまだ結婚など先だと考えている節がある。
オリヴィエは寝返りを打って天井を眺めた。
「わかっているわ。もう、油断はしないから……」
オリヴィエは、静かに目を閉じた。
オリヴィエの部屋は管理棟の2階が充てられていた。
ルーカスの態度は解せないし、憤りもある。
しかしそれだけではここを去る決心にまで及ばない。
それくらい強い想いがオリヴィエを動かしていた。聖女を志した時も、聖騎士団を目指した時も。
あんまりな態度を取られても、どうしてかオリヴィエはルーカスを嫌いになれない。
(どうして私、ルーカスにこんなに執着してるのかしら)
――とんでもない執着だ、と自分でもわかっていた。
いや、実はここ1年の間に、ようやく聖騎士団への道が確実になった頃、自覚し始めていた。
好きは、好きだし初恋でもある。
けれど10年以上会ってもいない男を一途に追い続けるこのエネルギーの源は何なのかと、自分でも不思議になる。
優しい声、愛らしい笑顔、幼い恋の甘い思い出。
それらを差し引いても、オリヴィエの執着は異常だ。
しかし、不思議ながら、どうしてもあの人の傍にありたい、気持ちが抑えられない。
それは残念ながら、今なお継続されていた。
同意もなしに、無理矢理に唇を奪われても……こうして落ち着いてみれば、ちょっとだけ嬉しかったりもする。
(待って! これって、とっても危ないわよね? 私って、マゾなのかしら??)
「はぁ……」
(溜息をついてる場合じゃない、ひとまず荷物の整理をしなきゃ。出て行ってなど、やるもんですか。私は、騎士団に人生を掛けてるんだから!)
オリヴィエは立ち上がって、執務室を後にした。
2Fへ上がると、ずらりと並んだ扉に番号が振られている。その内の2番目が自室だった。
鍵を開けて中に入ると、そこは5畳ほどの小さな部屋だった。
ベッドと、机、書棚にチェスト。その他には何もない。
クローゼット脇のチェストの引き出しを開けると、畳まれた制服が何着かと靴一足のみが支給されていた。
脇の僅かなスペースに、洗面とシャワー室が設置されている。
(男子寮しかないと言っていたものね。出店にも女性の衣類など扱わないでしょうから、下着の替えは後日ミユに持って来てもらいましょう)
ベッドに腰を下ろし、枕を、もふ・と抱きしめた。
そのままごろん、とオリヴィエはベッドに横になる。
今日は入団式のみで、この後には予定がない。
夕食まで、ゆっくりしていよう。
(はぁ……)
目を閉じると、瞼の裏にルーカスの顔が過ぎる。
兄や父、母も合格が決まってからは、騎士団の環境を酷く心配していた。
特にクリストファーは正気の沙汰でないくらい取り乱していた。
……どうやら皆、オリヴィエが道半ばで挫折するだろうと高を括っていたらしい。
いよいよ入団が迫ると一様に反対を始めた。
『入団を諦めるくらいなら、今すぐ死んだほうがまし』とゴリ押しを通したが、最大の要因は任務の危険性と併せて、この、環境にもあったのか。
「オリヴィエ、くれぐれも気をつけて。どうか生きて帰ってきて」
――なんて、母は泣くし、父は騎士団とオリヴィエの寿命を天秤に掛け、黙したままだった。
(兄様ったら、私の心配より自分のお見合いの心配でもすればいいのに)
クリストファーは次期当主の座についており、見合い話も引っ切り無しに舞い込んでいる。
当主になった暁には、早々に妻を迎え、子を成さねばならないのに、本人はまだまだ結婚など先だと考えている節がある。
オリヴィエは寝返りを打って天井を眺めた。
「わかっているわ。もう、油断はしないから……」
オリヴィエは、静かに目を閉じた。
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