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10.【SIDE:ティアナ】祈りの儀式、守護竜の怒りを買って大地が揺らぐ

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 慌てる私をよそに、ラフィーネは言葉を続けます。

「イリスちゃんの祈りで、守護竜は喜んでいました。だからダメーナ子爵家が、正式にティアナさんを聖女の後継に選んだときには驚いたのです。同時に感動しました――今代の聖女は、イリスちゃんを上回る才能の持ち主なのだと。ですが……この様子では――」
「そんな馬鹿な話はありません! お姉さまの祈りなんて、すべてウソっぱちです!!」

 お姉さまが祈りの真似事をしていたことは知っています。
 だからといって、それが守護竜に届いているなど、あるはずがありません。

 誰もがラフィーネの言うことを信じ始めていました。
 私はオスターを置いてきたことを後悔し始めました。

「そこまで言うのなら分かりました。私が『祈りの儀式』をお見せします!」

 なにも不安に思うことはありません。
 数年前にしていたことを、思い出せば良いだけです。
 私が聖女である以上、きっと守護竜は応えてくれることでしょう。


「この場でよろしいでしょうか?」

 私は許可を取るとその場に跪き、祈りのポーズを取りました。
 思えばこれまで聖女の役割や守護竜に対して、まともに向き合ったことはありませんでした。
 今このときも「この場さえ切り抜けられれば良い」と格好だけの祈りです。

 それだけでなく、祈りながらついつい愚痴のような感情まで湧き出てきます。
 すなわち「お姉さまが生贄としてすら役に立たないから、こんなことになったのよ」と。


 何が守護竜の怒りを買ったのは分かりません。

 しかし効果はてきめんでした。
 ――悪い方向に。

 まるで守護竜の怒りを表すように。
 これまでに無かったほど特大の『竜の息吹』が立ち昇りました。
 さらには激しい感情を吐き出すような、聞くものを恐れさせる咆哮が、国中に響き渡ります。

「な、なんだ!」
「何が起きているのだ!?」
「竜が、竜が怒っているんです!」

 集まった人々は、容易にパニックに陥りました。

 私も祈りのポーズのまま、呆然と辺りを見渡しました。
 守護竜の怒りは、それだけでは収まりませんでした。

 ――大地が揺らぎました
 その怒りの大きさを表すように。
 最初は小さく、やがては王宮全体が震えるほどに。
 ぐらぐら、ぐらぐらと。


「な、なによこれ――!?」
「あなた、なんてことを。止めなさい! 止めなさい!」
 
 呆然と固まった私を、ラフィーネが飛びつくようにして止めました。


 ――ある者は世界の終わりだと、頭を抑えました。
 ――ある者はただただ逃げ惑い、混乱に拍車をかけました
 ――ある者は守護竜の怒りを受け入れ、ただただ終わりの時を待ちました。
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