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第25話
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アカートを担いだまま森を駆けると、突然開けた場所に出た。
木でできた家がまとめて建っており、何かの集落のようだった。
「こんなところに、村が……」
「下ろしてくれ」
アカートに言われ、クエルチアは彼を地面に下ろす。アカートが近くの家に歩いていくのでその後ろをついていった。
「戸が開いてる」
アカートはそう言って中の様子を窺う。その顔はすぐに険しいものになった。
「どうしました」
「食われてる。あの魔法使いとスキュラだ。ここに住んでいる人間にも手を出したようなことを言ってただろう」
言いながらアカートは家から出てきた。その顔には怒りが滲んでいる。
「他の家も同じだろう。余所者が入り込んだのに誰も寄ってこない」
「村の人間を、全員殺したというんですか」
クエルチアは辺りに立ち並ぶ家を見回す。
隣の家の戸口には死体があった。
「死体から怪物を作って自慢するような奴だ。まともな感性なんか持ってねえよ」
アカートは自分の怒りをぶつける何かを探すように歩き出した。
一番大きな家の裏には入り口が狭くなった洞窟があり、そこに二人は滑り込んだ。
「これならあいつも入ってこれないだろう。少しは安心できる」
言ってアカートは外套のポケットから何かを取り出した。小さなガラス球を岩壁に叩きつけて割ると、中から光球が現れた。
ぼんやりとではあるが辺りが照らし出され、少しだけ気が楽になる。
「こ、れは……」
光に照らされ露わになった、空間の隅に積まれているそれを見て二人は言葉をなくした。
ばらばらになった人間の体が山と積まれていた。
まるでごみだとでも言うように。
体は血に染まらない箇所などなく、顔は苦痛に満ちたままで止まっていた。
周囲に目をやると何かの祭壇らしく、床には血で描かれた魔法陣が、壁を削って作った壁龕には装飾を施された数々の動物の骨が安置され、それに供えるように生首が置かれていた。
「何かの儀式をした跡ですか」
「元からある祭壇を利用してスキュラを治したんだろう。あいつがいる限りスキュラは何度でも蘇るってわけだ。……ん?」
アカートは何かを見つけたように声を上げた。
「おい、これ見てみろ」
アカートが示したのは人の右足だった。その足には大きな鳥の刺青が彫られている。細やかな文様はどこかで見たような気がした。
「これ、ディヒトの刺青に似てねえか」
クエルチアはディヒトバイの刺青を思い出す。形こそ違っているが、基本的な模様は同じものだった。
「こっちの手にもあるな。これは魚か?」
クエルチアは途中で目を背けたが、アカートは一通り死体を検分すると満足そうに唸った。
「なんとなく、わかってきた気がするな」
アカートは言うとため息を吐いた。
「本当ならあんたたちの作法に則って葬ってやりたいが、今は緊急事態だ。これで許してくれ」
そう言うとアカートは空中に指を走らせ何かを呟く。
するとどこからか炎が現れ、音もなく死体を燃やし灰にした。
「さあ、これで本当に安心だ」
アカートは灰から離れ、平らな場所を見つけて座る。
クエルチアもその向かいに座る。
足の力が抜けてへたり込むといったほうが近かった。
「ディヒトさんは、どうなるんです?」
独り言のようにクエルチアは零した。何が起こったのかも、今この場で自分に何ができるかもわからない。
ただ、困惑と不安だけが胸を占める。
「戻らなければこのままだろう。だがそれじゃこっちが困る。あいつを戻す方法を見つけなきゃな」
「でも、戻すって……」
「焦るな、冷静になれ。まず俺たちが知っていることは何か、だ」
「知っていることって、俺は、何も……」
「だから落ち着けって。俺たちは何も知らないってわけじゃないんだ」
クエルチアを宥めるようにアカートが言う。
「何から話したもんかな。そうだな、魔法使いの言ったことだ」
「魔法使いの言ったこと?」
クエルチアが鸚鵡返しに問うとアカートは頷いた。
「あいつは同士討ちさせてやる、と言った。あの魔法使いは、お前とディヒトを同士討ちさせるためにあいつの精神に干渉する魔法をかけた。しかしなぜかディヒトは狼に変わった。そしてその狼は俺たちではなくスキュラを襲った。今のあいつは魔法使いに操られているわけじゃない。目の前にあるものを襲っただけなんだろう」
アカートはそこで言葉を切ると、言葉を整理するように少し間を開けてから口を開いた。
「魔法において変化という現象は万能じゃない。変化させる対象が内包する要素を表出させる。これが変化の大前提だ。人を狼に変化させたり、鳥を魚に変化させることはできない。人は狼の要素を持っていないし、鳥は魚の要素を持っていないからだ。だが、あいつは狼に変化した。つまり……」
「ディヒトさんは狼の要素を持っていた?」
「そういうことになる。まあ、ミドルネームのウオルフ、狼の刺青、狼の鎧と、あいつの周りには狼を示すものが多いから、今更な話ではあるんだがね。伊達ではなかったということだ」
「もしかして、ディヒトさんは狼男なんですか?」
クエルチアの言葉に、アカートは静かに首を振った。
「それは俺も考えたんだが、別の理由でその線はなくなった。奴が魔鎧を持っているからだ」
「魔鎧が?」
「お前たちが持っている魔鎧、それが何を元に作られているか知ってるか? 水銀だ。狼男の弱点は銀。それを持ち歩くどころか身に纏って平気でいられることを考えると、あいつは狼男や魔に類するものではない、ただの人間なんだろう」
「ちょっと待ってください、でも、狼の要素を持っているって……」
「そうなんだ。状況からすると、あいつはただの人間でありながら狼の要素を持っていることになる。これは矛盾するように思えるが、さっきそのからくりがわかった」
「本当ですか」
クエルチアが問うと、アカートは先程燃やした死体の灰のほうを見やった。
「ディヒトは最初からフリースラントには来たくなかった。霧の森に行くとなると更に様子がおかしくなった。そしてさっきの戦いだ。あいつは隙を見せたスキュラに対し攻撃しなかった。クラーケンや賊に対して一も二もなく飛び出したあいつが、スキュラにだけは攻撃をためらった。そしてこの場所にあった死体の刺青と似たディヒトの刺青。ここまで揃えば大体わかる。あいつは自分で刺青を入れるような人間には思えないだろう。しかし事実として腹に大きな刺青がある。多分あいつはここで生まれ育ったんだ。そしてこの場所の風習に則り刺青を入れた。他の死体と模様が似ているのはそのためだ。では何のために刺青を入れるか。それは先祖――族霊を示すためだ。ここには族霊信仰が根付いていたんだ」
「族霊信仰?」
アカートはそうだと頷いた。
「自らの氏族の先祖、族霊を自然の内に見出し、それを信仰対象とする信仰のことだ。これは原始的な宗教の形で、姓の発端を族霊信仰に見る者もいる。ディヒトの氏族は狼を族霊としていたんだろう。あいつの先祖は人間であると同時に狼、その子孫であるディヒトも人間と狼が重ね合わせになったまま生きている。あいつにとって人間と狼は等価値なんだ。そこに精神に干渉する魔法をかけられ、人間と狼の境界が壊されてしまった」
「それが、ディヒトさんが狼に変わった理由なんですか?」
「細かいところは違っているかもしれないが、大筋はこの見方で合っているはずだ」
「変わった理由はわかりましたが、ディヒトさんを人間に戻す方法は……」
クエルチアの言葉にアカートは大きく息を吐いた。
「変化する、ということは同時に不安定ということでもある。変化したばかりのあいつはまだ不安定な部分があるはずだ。強く刺激をすれば人間の側に戻せるかもしれねえ」
「それは、一体どうやって……」
アカートは口に出すのをためらうように押し黙ったが、渋々といった様子で口を開いた。
「族霊信仰には大きな禁忌が二つある。それを犯した者は共同体からの追放、あるいは死を以て償うものとされる。一つは族霊を表すものへの禁忌。採取する、食べる、そして殺す。これらの行為を禁止する。だからディヒトはスキュラに対して攻撃しなかった。スキュラの腹には犬の頭があったからだ。狼を族霊とするあいつにとってあれは殺せないものだったんだろう。もう一つは、族霊が同じ人間と交わることを禁ずる禁忌。ディヒトはこのうちどちらかを破ったんだろう。だからここから追放された。ここに戻りたくなかった。それはディヒトの中でも強い記憶として刻まれているはずだ。それを刺激してやれば人間の側面を強く意識するだろう。禁忌を敷き、それを破るのは人間の特権だからだ」
「そんな……」
クエルチアは悔しそうに歯噛みする。
「それしか方法はないんですか、アカートさんの魔法や何かで元に戻すことはできないんですか」
「時間も手間もかけりゃもっと別の方法ができるのかもしれねえが、今俺たちにできることと言ったらそれ以外にない」
「そんな、そんなことをする資格が俺たちにありますか? ディヒトさんを元に戻すとためはいえ、心の中に土足で踏み込むような真似をするなんて……」
「優しいね、お前は。……俺がやろう、元からあいつには嫌われてるんだ。お前は時間を稼いでくれればいい」
アカートは岩の隙間から外を窺う。外の雨は止み、雲間から半月が覗いている。
「これを」
「鎖……?」
クエルチアはアカートから受け取ったものを眺める。
手のひらほどの鎖で、先には金属で作られた球がついていた。
その表面には複雑な彫刻が施されている。
「それを投げつけると魔法が展開されて動きを止められる。その間に俺がなんとかしよう。月も出ていることだし、何かがあってもあいつの確保くらいはできるだろう」
「……無理はしないでください」
言って、二人は外に出た。
早くしなければディヒトバイは二度と人間に戻らないかもしれない。
「幸運なことにあいつは強い魔力を帯びてる。場所を探すのは簡単だ」
アカートが歩き出すと、クエルチアも魔鎧を纏って歩き出した。
木でできた家がまとめて建っており、何かの集落のようだった。
「こんなところに、村が……」
「下ろしてくれ」
アカートに言われ、クエルチアは彼を地面に下ろす。アカートが近くの家に歩いていくのでその後ろをついていった。
「戸が開いてる」
アカートはそう言って中の様子を窺う。その顔はすぐに険しいものになった。
「どうしました」
「食われてる。あの魔法使いとスキュラだ。ここに住んでいる人間にも手を出したようなことを言ってただろう」
言いながらアカートは家から出てきた。その顔には怒りが滲んでいる。
「他の家も同じだろう。余所者が入り込んだのに誰も寄ってこない」
「村の人間を、全員殺したというんですか」
クエルチアは辺りに立ち並ぶ家を見回す。
隣の家の戸口には死体があった。
「死体から怪物を作って自慢するような奴だ。まともな感性なんか持ってねえよ」
アカートは自分の怒りをぶつける何かを探すように歩き出した。
一番大きな家の裏には入り口が狭くなった洞窟があり、そこに二人は滑り込んだ。
「これならあいつも入ってこれないだろう。少しは安心できる」
言ってアカートは外套のポケットから何かを取り出した。小さなガラス球を岩壁に叩きつけて割ると、中から光球が現れた。
ぼんやりとではあるが辺りが照らし出され、少しだけ気が楽になる。
「こ、れは……」
光に照らされ露わになった、空間の隅に積まれているそれを見て二人は言葉をなくした。
ばらばらになった人間の体が山と積まれていた。
まるでごみだとでも言うように。
体は血に染まらない箇所などなく、顔は苦痛に満ちたままで止まっていた。
周囲に目をやると何かの祭壇らしく、床には血で描かれた魔法陣が、壁を削って作った壁龕には装飾を施された数々の動物の骨が安置され、それに供えるように生首が置かれていた。
「何かの儀式をした跡ですか」
「元からある祭壇を利用してスキュラを治したんだろう。あいつがいる限りスキュラは何度でも蘇るってわけだ。……ん?」
アカートは何かを見つけたように声を上げた。
「おい、これ見てみろ」
アカートが示したのは人の右足だった。その足には大きな鳥の刺青が彫られている。細やかな文様はどこかで見たような気がした。
「これ、ディヒトの刺青に似てねえか」
クエルチアはディヒトバイの刺青を思い出す。形こそ違っているが、基本的な模様は同じものだった。
「こっちの手にもあるな。これは魚か?」
クエルチアは途中で目を背けたが、アカートは一通り死体を検分すると満足そうに唸った。
「なんとなく、わかってきた気がするな」
アカートは言うとため息を吐いた。
「本当ならあんたたちの作法に則って葬ってやりたいが、今は緊急事態だ。これで許してくれ」
そう言うとアカートは空中に指を走らせ何かを呟く。
するとどこからか炎が現れ、音もなく死体を燃やし灰にした。
「さあ、これで本当に安心だ」
アカートは灰から離れ、平らな場所を見つけて座る。
クエルチアもその向かいに座る。
足の力が抜けてへたり込むといったほうが近かった。
「ディヒトさんは、どうなるんです?」
独り言のようにクエルチアは零した。何が起こったのかも、今この場で自分に何ができるかもわからない。
ただ、困惑と不安だけが胸を占める。
「戻らなければこのままだろう。だがそれじゃこっちが困る。あいつを戻す方法を見つけなきゃな」
「でも、戻すって……」
「焦るな、冷静になれ。まず俺たちが知っていることは何か、だ」
「知っていることって、俺は、何も……」
「だから落ち着けって。俺たちは何も知らないってわけじゃないんだ」
クエルチアを宥めるようにアカートが言う。
「何から話したもんかな。そうだな、魔法使いの言ったことだ」
「魔法使いの言ったこと?」
クエルチアが鸚鵡返しに問うとアカートは頷いた。
「あいつは同士討ちさせてやる、と言った。あの魔法使いは、お前とディヒトを同士討ちさせるためにあいつの精神に干渉する魔法をかけた。しかしなぜかディヒトは狼に変わった。そしてその狼は俺たちではなくスキュラを襲った。今のあいつは魔法使いに操られているわけじゃない。目の前にあるものを襲っただけなんだろう」
アカートはそこで言葉を切ると、言葉を整理するように少し間を開けてから口を開いた。
「魔法において変化という現象は万能じゃない。変化させる対象が内包する要素を表出させる。これが変化の大前提だ。人を狼に変化させたり、鳥を魚に変化させることはできない。人は狼の要素を持っていないし、鳥は魚の要素を持っていないからだ。だが、あいつは狼に変化した。つまり……」
「ディヒトさんは狼の要素を持っていた?」
「そういうことになる。まあ、ミドルネームのウオルフ、狼の刺青、狼の鎧と、あいつの周りには狼を示すものが多いから、今更な話ではあるんだがね。伊達ではなかったということだ」
「もしかして、ディヒトさんは狼男なんですか?」
クエルチアの言葉に、アカートは静かに首を振った。
「それは俺も考えたんだが、別の理由でその線はなくなった。奴が魔鎧を持っているからだ」
「魔鎧が?」
「お前たちが持っている魔鎧、それが何を元に作られているか知ってるか? 水銀だ。狼男の弱点は銀。それを持ち歩くどころか身に纏って平気でいられることを考えると、あいつは狼男や魔に類するものではない、ただの人間なんだろう」
「ちょっと待ってください、でも、狼の要素を持っているって……」
「そうなんだ。状況からすると、あいつはただの人間でありながら狼の要素を持っていることになる。これは矛盾するように思えるが、さっきそのからくりがわかった」
「本当ですか」
クエルチアが問うと、アカートは先程燃やした死体の灰のほうを見やった。
「ディヒトは最初からフリースラントには来たくなかった。霧の森に行くとなると更に様子がおかしくなった。そしてさっきの戦いだ。あいつは隙を見せたスキュラに対し攻撃しなかった。クラーケンや賊に対して一も二もなく飛び出したあいつが、スキュラにだけは攻撃をためらった。そしてこの場所にあった死体の刺青と似たディヒトの刺青。ここまで揃えば大体わかる。あいつは自分で刺青を入れるような人間には思えないだろう。しかし事実として腹に大きな刺青がある。多分あいつはここで生まれ育ったんだ。そしてこの場所の風習に則り刺青を入れた。他の死体と模様が似ているのはそのためだ。では何のために刺青を入れるか。それは先祖――族霊を示すためだ。ここには族霊信仰が根付いていたんだ」
「族霊信仰?」
アカートはそうだと頷いた。
「自らの氏族の先祖、族霊を自然の内に見出し、それを信仰対象とする信仰のことだ。これは原始的な宗教の形で、姓の発端を族霊信仰に見る者もいる。ディヒトの氏族は狼を族霊としていたんだろう。あいつの先祖は人間であると同時に狼、その子孫であるディヒトも人間と狼が重ね合わせになったまま生きている。あいつにとって人間と狼は等価値なんだ。そこに精神に干渉する魔法をかけられ、人間と狼の境界が壊されてしまった」
「それが、ディヒトさんが狼に変わった理由なんですか?」
「細かいところは違っているかもしれないが、大筋はこの見方で合っているはずだ」
「変わった理由はわかりましたが、ディヒトさんを人間に戻す方法は……」
クエルチアの言葉にアカートは大きく息を吐いた。
「変化する、ということは同時に不安定ということでもある。変化したばかりのあいつはまだ不安定な部分があるはずだ。強く刺激をすれば人間の側に戻せるかもしれねえ」
「それは、一体どうやって……」
アカートは口に出すのをためらうように押し黙ったが、渋々といった様子で口を開いた。
「族霊信仰には大きな禁忌が二つある。それを犯した者は共同体からの追放、あるいは死を以て償うものとされる。一つは族霊を表すものへの禁忌。採取する、食べる、そして殺す。これらの行為を禁止する。だからディヒトはスキュラに対して攻撃しなかった。スキュラの腹には犬の頭があったからだ。狼を族霊とするあいつにとってあれは殺せないものだったんだろう。もう一つは、族霊が同じ人間と交わることを禁ずる禁忌。ディヒトはこのうちどちらかを破ったんだろう。だからここから追放された。ここに戻りたくなかった。それはディヒトの中でも強い記憶として刻まれているはずだ。それを刺激してやれば人間の側面を強く意識するだろう。禁忌を敷き、それを破るのは人間の特権だからだ」
「そんな……」
クエルチアは悔しそうに歯噛みする。
「それしか方法はないんですか、アカートさんの魔法や何かで元に戻すことはできないんですか」
「時間も手間もかけりゃもっと別の方法ができるのかもしれねえが、今俺たちにできることと言ったらそれ以外にない」
「そんな、そんなことをする資格が俺たちにありますか? ディヒトさんを元に戻すとためはいえ、心の中に土足で踏み込むような真似をするなんて……」
「優しいね、お前は。……俺がやろう、元からあいつには嫌われてるんだ。お前は時間を稼いでくれればいい」
アカートは岩の隙間から外を窺う。外の雨は止み、雲間から半月が覗いている。
「これを」
「鎖……?」
クエルチアはアカートから受け取ったものを眺める。
手のひらほどの鎖で、先には金属で作られた球がついていた。
その表面には複雑な彫刻が施されている。
「それを投げつけると魔法が展開されて動きを止められる。その間に俺がなんとかしよう。月も出ていることだし、何かがあってもあいつの確保くらいはできるだろう」
「……無理はしないでください」
言って、二人は外に出た。
早くしなければディヒトバイは二度と人間に戻らないかもしれない。
「幸運なことにあいつは強い魔力を帯びてる。場所を探すのは簡単だ」
アカートが歩き出すと、クエルチアも魔鎧を纏って歩き出した。
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