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「それと、シェリアとアリシアにはそれぞれ既に婚約者がいます」

「えっ、何それ知らない」

 思わず素で返してしまうと、「口調、なんとかなさい」とたしなめられてしまった。

「家がこのような状態なので、破棄になるか、それとも継続していけるか、微妙なラインではありますが、我が家が健在な頃から既にいますよ」

 ……っていうことは、最低でも、一年近く前から婚約者がいたってこと? 可愛いわたしの双子の妹に男がいたなんて。全然知らなかった。
 なんで言ってくれなかったんだろう、と文句を言いたかったのが、顔に出ていたのか、母は「意地悪するために黙っていたわけではありませんよ」と呆れたように溜息を吐いた。

「あの子たちなりの配慮です。姉である貴女の婚約がまだ決まっていないのに、既に自分たちだけ婚約が決まっていることに引け目を感じているようですよ。……当の本人が、お父様の縁談話を断っているとは知らずに」

「……ぐぅッ!」

 胸が痛かった。
 お母様が純粋な貴族であると同時に、妹たちも純粋な貴族令嬢なのだ。よい家に嫁ぎ、子供をもうけ、血を繋ぐことが重要で、素晴らしい自分の役目だと、そう思っているのだ。
 実際、貴族令嬢としてはわたしなんかより、妹たちの方が優秀だものな……。

「貴女が平民にまぎれて働き、家の助けをしてくれていることには感謝しています。……ですが、いつまでも平民としていられないこと、嫁がずに我が家にとどまることができないのは、分かりますね」

「――……」

 聞き分けのない子供を諭すような言い方。いや、実際に、母からしたら聞き分けのない子供だろう。本当だったら、父が持ってきた縁談の中のどれかで話をまとめなければいけなかったはずで、それどころか、既に嫁いでいてもおかしくないような年齢なのだ。我儘な子だろう。

 実際、わたしが、貴族令嬢として正しく行動できていれば、今頃、街に出て、はした金を稼ぐのではなく、婚家に援助を申し出て、いくばくかお金を貸すことができたはずなのだから。
 そうすれば、今頃、我が家はなんとか持ち直し始めていて、終わりの見えない貧乏伯爵家生活なんてしなくていいのだ。

 ――そう思うと、わたしはいつものように、適当なことを言って、放置することができなかった。

 貴族としての生活は息苦しくて嫌いだけど――新しくできた家族のことは、嫌いじゃないのだ。
 ……ここらが潮時だ。

「分かりました、お母様。実際によい運びとなるかは何とも言えませんが、参加させていただきます」

 わたしは母に、そう、告げた。
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