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 エストラント様に会場へと引き戻され、ダンスを踊ったはいいものの、ソルヴェース様とのダンス以上に注目を浴びた。ひそひそと何か話をしているのが、ちらちらと視界の端に写る。
 エストラント様は滅多に婚約者であるキャンシー嬢以外と踊らない。ソルヴェード様が女好きで、あちこちいろんな女性の手を取る人だとするならば、エストラント様はその真逆。一人の女性の手しかとらないようなお人だ。

 そんな彼が、婚約者のいない令嬢令息ばかりの会場にいるどころか、キャンシー嬢や、彼女の身内ではない女と踊っているのだから、注目度は段違いだろう。
 王族にも交流があるコメッタート家。だから、婚約者のいないソルヴェード様がいることは、なんの違和感もないけれど、エストラント様は違う。

 どうして彼がここにいて、名も知れぬ令嬢と踊っているのか。

 そんな疑問の視線がひしひしと伝わってきて、わたしは非常に居心地が悪い。先ほど、ソルヴェード様と踊ったとき以上に、逃げたいという気持ちで一杯だった。
 ソルヴェード様が相手ならば、『ソルヴェード様』としての交流がほとんどないとしても、それなりに気の知れた相手だから、多少の気まずさを感じながらもそれなりに楽しめたけれど、エストラント様は違う。
 本当に交流のない相手だし、普段いろんな女性と踊るソルヴェード様と違って、常に相手が一緒だからか変な癖がついているようで踊りにくい。ソルヴェード様ならパートナーとして何とかしてくれる、というある種の信頼があったが、彼にはそれがなくて気が抜けない。

 多方面から圧力を感じて、本当に生きた心地がしない数分間だった。
 無言のまま終わるダンス。気が知れた相手でなければ、黙って終わることもままあるけれど、その中でも桁違いに緊張した。多分、どんなに厳しい教師相手でもここまでガチガチになることはない。

「――兄上!」

 エストラント様に気が付いたのか、ソルヴェード様が顔色を変えてこちらに声をかけてきた。……ソルヴェード様も、エストラント様が参加することを知らなかったのか。
 いよいよ何故ここにエストラント様がいるのか分からなくて、わたしは困惑しっぱなしだった。

「……ソルヴェード。ここで話すのは邪魔になる。場所を移すぞ」

 そう言って、エストラント様は、ソルヴェード様の返事も待たずに歩き出す。――わたしの手を、掴んだまま。
 確かに、ダンスを踊る場所で話し出したら邪魔でしかないのだが、だからといって、何故わたしまで連れ出すんだ。
 ソルヴェード様もソルヴェード様で、状況が分かっていないのは同じなのか、わたしが連れていかれても何も言わない。

 いや、離してくれ!

 しかし、わたしの歩幅に配慮せず、つかつかと歩いて行ってしまうので、口を挟む暇もなく、転んで引きずられないようにするだけで一苦労だ。次から次へと予想外なことばかりで、頭の中で文句の一つもまとまらない。
 第三王子に引きずられ、第四王子と共に退出する、という、これ以上ないほどの噂の種になりそうな事態を引き起こしながら、わたしは会場を後にせざるを得ないのだった。
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