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 まあ、実際、エストラント様が女性受けしたのは事実だけど。あの顔である、女性受けしないわけがない。店長の『イケメン兄弟店員』という売り方が良かったのか、既にどちら派か、という話をする女性客グループを、ちらほらと見た。

 ソルヴェード様である『シル』は、きゃあきゃあ騒いで会話をしたい、という客が多いけれど、エストラント様である『トルト』はやっぱり圧と言うか、近寄りがたいものがあるようで、遠くからひっそりと眺めたい、という考えがある雰囲気を女性たちからは感じた。
 実際、王城のパーティーでの貴族令嬢の反応もそんな感じなので、この人たちは以外と場所が変わっても、周りの反応に変化はないんだな、と思ったのは内緒である。

「――他は?」

「え?」

 エストラント様の様子を伝えると、ソルヴェード様は少し心配そうな表情で、わたしを見てくる。
 澄んだ青い瞳が、わたしが逃げたことを見抜いているような気がして、思わず目をそらしたくなった。

「え、っと……ミスとかも、特にありませんし……」

「そうじゃなくて」

 思わず口ごもってしまったわたしに、ソルヴェード様は否定の言葉を投げかける。言葉こそバッサリしていたが、声音はとても優しいものだ。
 だからこそ、心に来るんだけど。

「何かあったでしょ? 君に言いにくいことなら、僕から言うし」

 言いにくいこと、というのは、やはり立場の問題を考えて、ということだろう。みなまで言うこともない。きっとそうだ。

 でも、エストラント様は何も悪くない。
 彼の有能さを目の当たりにして、わたしが勝手に自己嫌悪しているだけなのである。

 その、自己嫌悪で落ち込んでいるのを、見事にソルヴェード様に見抜かれたわけだ。
 彼は、エストラント様に何か非があるようなことがあった、と勘違いしているようだが、少なくとも、落ち込んでいることには気が付いた。

「兄さん、あの見た目で圧のある人だし、言い方も悪いから、どうしても怖がられやすいんだよね」

「――そう、では、ないんです」

 わたしは、否定の言葉を返した。

「わたしが、勝手に、落ち込んでいるだけで、エス――トルトさんは、何も悪くありません」

 言いたくない。
 ただ、エストラント様が誤解されるのもまずい。ソルヴェード様はソルヴェード様で遠慮なくエストラント様に「何かしたの?」と聞くだろうし。

「仕事がすごくできるので。シルくんも、そうでしたし――本来、そうあるべきなのかな、と。わたしは全然なので」

 『そうあるべき』と明確に言わなかったのは、悪あがきではなく、周りに配慮してである。
 それでも、彼には伝わったようだった。
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