人はそれを愛と呼び、彼は迷惑だと叫ぶ。

槇瀬陽翔

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さみしい

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菊池が入院して1日、2日と過ぎて行き、ふと沸く感情はさみしいだった。

記憶を取り戻す前の自分だったらこんな風に考えもしなかっただろう。記憶を取り戻してあいつに触れ、あいつの優しさに包まれて生活してきてふいにいなくなったらぽっかり穴が開いた感覚に落ちた。



さみしい。



あいつが傍にいない。たったそれだけでこんなにも自分は弱くなるんだと思い知らされる。



早く会いたい。でも会えない。さみしい。



こんな感情を持ってはいるが俺は生徒会長としての役目があるからそれはこなさなきゃいけない。

「梅村、少しは休憩しろよ」
ふいに幸永に声をかけられ顔を上げたら苦笑した幸永と目が合った。
「えっと…」
自分でよくわからない。
「菊池がいない分だけしっかりしないとってのはわかるんだけど、お前が倒れたら意味がない。だから休憩しろ!」
と、半ば無理やり書類を奪われ、強制的に休憩させられた。


変だな?無理してるわけじゃないんだが?


なんて休憩しながら考えていたら


「梅ちゃん大変!!委員ちょーが!!!」
なんて言いながら鍋谷が飛び込んできた。
「うるさいバカ谷。何の用だ」
そんな鍋谷を怒る幸永。
「菊池がどうかしたのか?」
あいつの口から委員ちょーが!!っていうのを俺は聞き逃さなかったぞ。

「うん、委員ちょーが、委員ちょーが…」
そこから話の続きを言わない鍋谷。一体何なんだよ。
「なんだよ!早く言えよ!」
きっと俺の顔は真っ蒼になってるかもしれない。

「はい、委員ちょーからのラブレター」
なんてにっこりと笑いながら白い紙を手渡された。
「はっ?」
意味が分からな過ぎて変な声が出た。
「うん、だから委員ちょーから梅ちゃんへのラブレター。きゃっ恥ずかしいっ」
なんてぶりっ子がするような仕草をする。


こいつを殴ってもいいだろうか?


「梅村、菊池が戻ってきたら好きなだけヤレばいいぞ」
なんて幸永から了解をもらった。


よし、そうしよう!


「はぁ?」
俺は手渡された紙を読んでまた変な声が出た。


『俺のいない1週間、風紀委員たちがトラブルを起こすからその対応よろしく!』


なんてふざけたことが書いてあった。1週間て言っても2日は過ぎてるわけで、残り5日間の間にこいつらが何かをやらかすってことだよな?

「ふざけてるだろお前ら」
って目の前にいる男に言うつもりがもう既にいなかった。
「さっさと逃げたぞ」
幸永があっさりと言う。
「クソが!なに考えてやがんだあいつらは!」
なんて文句を言ったところでどうしようもない。

諦めて溜め息をついた。対応するしかないのだと思いながら…。


そして、そんな俺を小さな笑みを浮かべて見てる幸永に気付いていなかった。



「会長!大変です!爆破予告がありました!」
「あるわけねぇだろ二村!」

「会長!大変です!誘拐事件です!」
「あってたまるか真島!」

「梅ちゃん大変!子犬が暴走してる!!!」
「いてたまるか鍋谷!!」

「会長!ひき逃げです!」
「校内に車がいるわけぇーだろ!このバカ風紀委員ども!!!」



と俺は本当に風紀の奴らに残り5日間を振り回されていた。


そして最終日になって気が付いた。


あれだけさみしいって思っていたのに、今までその感情をすっかり忘れていたことに…。


クソッ、菊池の奴…


俺のこと見越してこんなことしやがって…


バカやろ…


早く帰って来いよ…



Fin



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