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第7話 案ずるよりパンクが易し 1

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 佐山さやましょうは朝から面倒なモノを見てしまったなとその道に来た事を後悔していた。
 羽音町一丁目にあるアパートの自宅へと続く道、羽音町二丁目の外れ。
 二丁目に集中している学校区域から離れた道。
 そこに一人の女子高生と二人の若者が立っていた。

 黒髪ロングの見た目優等生な女子高生は、どこかで見た事がある顔だった。
 どこで見たのかははっきりと思い出せないが、何故だか嫌な予感が勝の頭に過る。
 そして、二人の若者。
 黒のニット帽を被り、黒のアーミージャケットを着て、カーゴパンツを腰で履いた長身の色白。
 長ったらしい濃茶のカーディガンに仏心をデザインした白いシャツ、まだ肌寒いのに膝上丈の薄緑のズボンと季節感がわからない服装の痩せ細った褐色。
 この特徴的な二人組には記憶があった。
 というよりも、昨日夜に会ったばかりだ。
 そして、捜していたところだった。

 しかし、面倒、である。
 時間で言えば、朝の八時。
 平日の朝の八時に女子高生は登校する事もなく、こんな人気の無い道で特徴的な二人組からあるモノを手渡されていた。
 遠目から見て大半の人間にはわからなくても、勝にはそれが何かわかった。
 
 何しろこの二人組、ドラッグの売人である。

 
「なになに、ちょっとズルいんじゃないのぉ」

 軽い口調で勝はその三人に近づいていった。
 声をかけられて、女子高生はビクッと肩をすくめ顔を見せない様に横目で勝を窺う。
 売人二人組は勝を警戒し睨んでいた。
 僅かに時間を置いて、二人組は勝のことに気づいた。
 昨日深夜にドラッグを売るのを断った客だ、と。

「何で俺には売ってくれなかったのに、この娘には売っちゃうわけぇ?」

「あぁ!? うっせぇよ、テメェ。誰に売ろうとオレらの勝手だろうがっ!」

 褐色肌の方が吠える。
 猛犬の様に、今にも噛みついてきそうだ。
 それを色白肌の方が手で制止した。
 クチャクチャとガムを口の中で転がしながら。

「やめろ、バカ。騒ぎになったら面倒だろうが」

「あぁ!? バカって言うんじゃねぇよ、すど……」

 褐色肌の方が言い終わる前に、その腹に拳が入った。

「……名前出してんじゃねぇよ、クソバカ」

 腹を抑え膝をつきむせかえる褐色肌の男。
 それを見下ろし、ガムを噛みクチャクチャと音をたてる色白肌の男。
 二人に怯えて一歩退がる女子高生の横に立った勝は、女子高生の肩に手を回し彼女の持つドラッグを摘まんだ。

「これぐらいでビビんだったら、コレ俺にちょーだい」

 ドラッグ、赤い錠剤が五錠入った小さなビニールパックを摘まんだ勝はそのまま取り上げて、濃赤のベロアジャケットのポケットに押し込んだ。

「ちょっ、返してよ。それ、私の……」

「いやいや、ヤバいって。コイツら、君にクスリ売ってハマらせてラリったとこでハメまくろうって腹だよ。女子高生相手に商売するなんて、下心見え見えじゃん」

 勝のジャケットのポケットに手を突っ込もうとする女子高生を抑える。
 前髪を綺麗に並び揃えてあるその髪型と、可愛らしい丸い顔立ちがその女子高生にまだ幼さを感じさせる。
 近くの高校指定の制服を着ていなければ、女子高生とも思えない幼さだ。
 そんな女子高生が必死にドラッグを求めている。
 勝は嫌な気分になったが、彼女の表情を見るにドラッグに飢えているという様子でもない。
 危険なモノへの好奇心か?
 いや、そういうモノとは違う何か使命感みたいなモノを彼女からは感じられる。
 どうやら、やはり面倒事の様だ。
 そう勝の考えが至った時には、ドラッグを取り返すのに躍起になっていた女子高生が何かを凝視していた。

 しまった、と勝は思った。
 勝の側頭部に衝撃、それに伴い激痛が走る。
 女子高生を巻き込んで倒さない様に勝は踏ん張ってみせた。
 勝の側頭部に、色白の男の上段蹴り。
 一瞬にしての衝撃、一瞬にしての足の引き。
 足を取られないようにと当てたら引く、色白の男の抜け目なさが勝にはわかった。

「さっきからごちゃごちゃと、営業妨害してんじゃねぇぞ、オイコラ」

 色白の男は大きく舌打ちをすると勝を睨み付けてきた。

「痛っ……俺も客だっつってんだろうが!?」

「テメェみてぇのが最近、オレらの営業を妨害してるって話挙がってっから、テメェには売らねぇ」

 オレら、というのはここにいる二人だけを指す言葉ではない。
 羽音町界隈を商売所としているグループの事だろう。
 勝もその人数については把握していない。
 把握しているのは、そのグループというのが一つや二つではないこと、という情報だ。
 数グループが、群雄割拠、魑魅魍魎、と溢れ好き勝手に羽音町にドラッグを売りさばいている。
 警察が取り締まろうにも次から次へと売人が現れるもので、いたちごっこの様な有り様だ。
 男二人も新顔であった。
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