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12.怖くて、出来ません ※微

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 家に帰れるのは、めちゃくちゃ嬉しい。けど、まったく感覚のないこの脚が問題だ。恐らく、もう歩けないだろう。
 なら、まずは手続きとかが必要になる。前に働いてたとこは無理だとして(多分、クビになってるだろうし)、新しい仕事を探さなきゃならない。本当、色々と先行きが怖い。
 でも、ここにいるよりはマシだ。
 また、いつキレるか分かんない奴の側にいなきゃいけないのは……竦み上がるくらい、恐ろしいことなのだ。

(今日、1日。我慢、我慢――)


『デルデール……』
「うぉっ、とおぃいっ!?」

 び、びっくりしたー!! いつ入って来た!? と思ったけど、シコ様はどこからでも出現できることを思い出す。まったくもって、心臓に悪すぎる。

「ど、どうしたん……?」
『…………』

(……? なんか、シコ様……元気ない?)

 シコ様は、俯き加減に俺の前に立っていて。悲しげな美女(下半身、除く)といった表情をしている。

(なんか、めちゃくちゃ可愛……――いや、いや、いやっ! んなわけあるか!! 下半身を見ろ! ナマコだ、ナマコ……ん? あれ? なんか、ナマコも元気ない?)

『デルデールは、女人がよいのか?』
「へ……?」

(にょ、にょにん? ……女ってこと、か?)

「ま、まぁ……。そりゃあ、俺……男だし。女の子、好きだけど……」

 普通に答えちゃったけど。こんなことで、キレたりしないよな……? と、ビクつきながら、シコ様の反応を伺う。

『……ならば、よいぞ』
「……? は? な、なにしてんの……?」

 シコ様は、纏っていた服を脱ぎ。
 馬鹿みたいに広い俺がいるベッドの上で、何故かうつ伏せになった。

『そなたも、したいのだろう? 我の穴を、使ってよいと言っている。我が背を向ければ、女とそう変わらん筈だ』
「え、は……? はぁっ!?」

 確かに、長くサラサラな艶のある髪、白くてスベスベな肌、腰周りの細いウエストとかは、女性のようにしか見えない。しかし、臀部辺りを見て、シコ様の後頭部の方に視線を戻した。
 一瞬みえたソコは、背を向けていてナマコが視界に入らないからか、とても綺麗で魅惑的に見えてしまったからだ。その考えを、首を振って打ち消す。

(……こうされる、意味が分からない。俺は、女の子とただヤりたいだけの、ケダモノだと思われているのか……?)

 けど、いつも恐怖や痛みを与える行動ばかりのシコ様が、しおらしくて……。何故か、かなりの色気を発しているようにも感じ。ドキドキと胸が高鳴る――。
 けど、グッと胸を強く押し、その鼓動を収めた。

 いくら、していいって言われたとしても。性処理するだけの道具のように扱えるわけがない。

「い、いや。それは、ちょっと……」
『我がよいと言っているのに、なぜ拒否をする!? 普通は、我を抱きたいなどと声に出した瞬間。頭と胴が離れてしまうことを、そなたには許すと言っておるのだ!!』
「ひ、ひぇえ~~!!?」

(い、言っただけで、首ちょんぱ!? 怖っ!! 余計に、怖くて無理だよ!)

『早く、せんか……っ! いつまで、我にこのような格好を……っ、……くっ!』

 シコ様は、シーツにグッと顔を埋め。髪の隙間から覗く耳が、じわじわと赤く染まりだしていた。

 それを見て。俺は無意識に、ゴクリと唾を飲み込み。下腹部が熱く……――。

(――ッ!! 違う! こんな奴に、興奮なんて……っ! し、してない! 絶対に、してない!)

「シ、シコ様! 止めてくれ!! マジで、そういうのいい、求めてないから……っ!」

 シコ様から視線を外し、深呼吸する。

(無心、無心だ。今は、何も考えるな……)


『……そうか』

 シコ様は、そう言ったきり黙り込み。暫くして、服を身に付けた。

 また何かされるかと思い、身構えていたが。シコ様は、そのまま扉の方に歩いて行き。でも、なんだか……その背中が寂しそうに見えて――。

「シ、シコ様っ! その代わり、俺のこと『デール』って呼んで欲しい」

(ん? なんで、俺……呼び止めたんだろ……?)

 自分でも、自分の言動がよく分からない。しかも、名前を『デール』と呼んで欲しいなんて……。どうして、あっちの世界の名前にしなかったのかと、自身が言ったことなのに不思議な気持ちになった。

『……デール?』

 振り返ったシコ様は、目を丸くしていて……。それから直ぐに、花が咲くような笑顔を浮かべた。

『デール、か……。懐かしいな』
「……?」
『……ふ、覚えておらぬか。まあ、よい……。明日から、一週間ほどは此処へ来られぬが――デール、待っていてくれるか?』

 明日……。カラフルさんとの、約束の日――。

「……うん」
『絶対に、忘れるでないぞ。これは――約束だ』
「…………っ、うん」

 シコ様に、突き刺すような目で見られ。視線を逸らしてしまった。
 それで、なにか言われるかと思ったが。特に何も言われず、シコ様が部屋を出て行く。

 パタンと、扉の閉まる音は。シコ様とした約束のように、乾いた軽いもので……。長く、耳の奥にへばり突いて離れなかった。


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