12 / 32
12.怖くて、出来ません ※微
しおりを挟む家に帰れるのは、めちゃくちゃ嬉しい。けど、まったく感覚のないこの脚が問題だ。恐らく、もう歩けないだろう。
なら、まずは手続きとかが必要になる。前に働いてたとこは無理だとして(多分、クビになってるだろうし)、新しい仕事を探さなきゃならない。本当、色々と先行きが怖い。
でも、ここにいるよりはマシだ。
また、いつキレるか分かんない奴の側にいなきゃいけないのは……竦み上がるくらい、恐ろしいことなのだ。
(今日、1日。我慢、我慢――)
『デルデール……』
「うぉっ、とおぃいっ!?」
び、びっくりしたー!! いつ入って来た!? と思ったけど、シコ様はどこからでも出現できることを思い出す。まったくもって、心臓に悪すぎる。
「ど、どうしたん……?」
『…………』
(……? なんか、シコ様……元気ない?)
シコ様は、俯き加減に俺の前に立っていて。悲しげな美女(下半身、除く)といった表情をしている。
(なんか、めちゃくちゃ可愛……――いや、いや、いやっ! んなわけあるか!! 下半身を見ろ! ナマコだ、ナマコ……ん? あれ? なんか、ナマコも元気ない?)
『デルデールは、女人がよいのか?』
「へ……?」
(にょ、にょにん? ……女ってこと、か?)
「ま、まぁ……。そりゃあ、俺……男だし。女の子、好きだけど……」
普通に答えちゃったけど。こんなことで、キレたりしないよな……? と、ビクつきながら、シコ様の反応を伺う。
『……ならば、よいぞ』
「……? は? な、なにしてんの……?」
シコ様は、纏っていた服を脱ぎ。
馬鹿みたいに広い俺がいるベッドの上で、何故かうつ伏せになった。
『そなたも、したいのだろう? 我の穴を、使ってよいと言っている。我が背を向ければ、女とそう変わらん筈だ』
「え、は……? はぁっ!?」
確かに、長くサラサラな艶のある髪、白くてスベスベな肌、腰周りの細いウエストとかは、女性のようにしか見えない。しかし、臀部辺りを見て、シコ様の後頭部の方に視線を戻した。
一瞬みえたソコは、背を向けていてナマコが視界に入らないからか、とても綺麗で魅惑的に見えてしまったからだ。その考えを、首を振って打ち消す。
(……こうされる、意味が分からない。俺は、女の子とただヤりたいだけの、ケダモノだと思われているのか……?)
けど、いつも恐怖や痛みを与える行動ばかりのシコ様が、しおらしくて……。何故か、かなりの色気を発しているようにも感じ。ドキドキと胸が高鳴る――。
けど、グッと胸を強く押し、その鼓動を収めた。
いくら、していいって言われたとしても。性処理するだけの道具のように扱えるわけがない。
「い、いや。それは、ちょっと……」
『我がよいと言っているのに、なぜ拒否をする!? 普通は、我を抱きたいなどと声に出した瞬間。頭と胴が離れてしまうことを、そなたには許すと言っておるのだ!!』
「ひ、ひぇえ~~!!?」
(い、言っただけで、首ちょんぱ!? 怖っ!! 余計に、怖くて無理だよ!)
『早く、せんか……っ! いつまで、我にこのような格好を……っ、……くっ!』
シコ様は、シーツにグッと顔を埋め。髪の隙間から覗く耳が、じわじわと赤く染まりだしていた。
それを見て。俺は無意識に、ゴクリと唾を飲み込み。下腹部が熱く……――。
(――ッ!! 違う! こんな奴に、興奮なんて……っ! し、してない! 絶対に、してない!)
「シ、シコ様! 止めてくれ!! マジで、そういうのいい、求めてないから……っ!」
シコ様から視線を外し、深呼吸する。
(無心、無心だ。今は、何も考えるな……)
『……そうか』
シコ様は、そう言ったきり黙り込み。暫くして、服を身に付けた。
また何かされるかと思い、身構えていたが。シコ様は、そのまま扉の方に歩いて行き。でも、なんだか……その背中が寂しそうに見えて――。
「シ、シコ様っ! その代わり、俺のこと『デール』って呼んで欲しい」
(ん? なんで、俺……呼び止めたんだろ……?)
自分でも、自分の言動がよく分からない。しかも、名前を『デール』と呼んで欲しいなんて……。どうして、あっちの世界の名前にしなかったのかと、自身が言ったことなのに不思議な気持ちになった。
『……デール?』
振り返ったシコ様は、目を丸くしていて……。それから直ぐに、花が咲くような笑顔を浮かべた。
『デール、か……。懐かしいな』
「……?」
『……ふ、覚えておらぬか。まあ、よい……。明日から、一週間ほどは此処へ来られぬが――デール、待っていてくれるか?』
明日……。カラフルさんとの、約束の日――。
「……うん」
『絶対に、忘れるでないぞ。これは――約束だ』
「…………っ、うん」
シコ様に、突き刺すような目で見られ。視線を逸らしてしまった。
それで、なにか言われるかと思ったが。特に何も言われず、シコ様が部屋を出て行く。
パタンと、扉の閉まる音は。シコ様とした約束のように、乾いた軽いもので……。長く、耳の奥にへばり突いて離れなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる