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ただひたすら剣を振る、リリアンと共に修行に励む。

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 同じ日の夜。
 俺とリリアンはハウゼン師匠の道場で向かい合っていた。


「本気でいくわよ、ギルバート!」


 引き絞るように片手半剣バスタードソードを構えるリリアンから、真紅の魔力が燃え上がる。


「ああ、いつでもかかってこい!」


 俺は半身になって重心を落とし、長剣ロングソードを腰だめに構える。たちまち黄金の魔力が立ち昇る。
 距離を取り、睨み合う俺たちの剣に魔力が集束していく。眩い魔光波オーラほとばしる。


「うむ。準備はできたようじゃな、弟子たちよ」


 その声に、俺とリリアンは頷きを返す。
 道場の奥――四畳ほどの小上こあがりで、ハウゼン師匠はあぐらをかいていた。


「「…………」」


 俺たちは呼吸を合わせ、集中力を極限まで高めていく。
 膨れ上がった闘気がせめぎ合い、ビリビリと空気を震わせた。


「では――はじめッ!」


 刹那、俺は爆ぜるように床を蹴り上げた。
 いつもはリリアンに先手を譲ることが多いが、今日は俺から攻めていく。


「はッ……!」


 剣を振りかぶり、小細工なしの一撃を叩きつける。
 だが、リリアンは顔色ひとつ変えずに受け流し、いなす。
 続く一合、剣閃が噛み合い、甲高い金属音を奏でた。


「――っ」


 リリアンの表情がわずかに歪む。真っ向勝負を嫌い、俺の側頭部に上段回し蹴りを放ってくる。
 俺は冷静に蹴りの軌道を見極め、頭を後ろに反らすことで躱す。

 しかし、その隙に逃げられてしまった。
 やはり正面からの斬り合いは俺に分がある。幼い頃よりただひたすら剣を振り続けてきた俺の斬撃は――疾く、重い。


「どうしたリリアン。休憩か? まだ始まったばかりだぞ」
「そうよ。悪い? 貴方のペースに合わせていたら、アタシに勝ち目なんてないもの」


 十分に距離を取ったところから、リリアンが剣の切っ先を向けてくる。
 一週間ほど前までは無理してでも俺に張り合おうとしてきたのに……お前、変わっちまったな。

 でも正しい判断だ。俺とリリアンでは戦闘スタイルが違う。
 俺は"剛の剣"、リリアンは"柔の剣"。わざわざ俺と同じ土俵で勝負しなくてもよかったんだ。


「じゃあ、仕切り直しといこうか。そろそろ行くぞ」


 俺は大きく息を吸い込み、ゆっくり吐きながら剣先をだらりと下げる――いい感じに脱力できた。
 これはハウゼン師匠を参考にして編み出した新しい構えだ。初速が出る。


「さっきは主導権を握られたけど、次はそう簡単に渡さないわよ」


 舞い踊るように剣を振り回し、その切っ先を俺の顔に突けつけて。
 不敵に笑ったリリアンは、片足を浮ける独特な構えを見せる。

 数舜すうしゅんの間が流れた。張り詰めた空気が道場内に立ち込める。
 そして――


「「ッ……!」」


 俺とリリアンは示し合わせたように床を蹴り、しのぎを削る剣戟けんげきに興じた。



 ◆◆◆



「いやぁ、リリちゃんはやっぱ才能あるのう」


 白い顎ひげを撫でながらハウゼン師匠が言う。

 リリアンが天才剣士であることはまぎれもない事実だ。彼女の剣を間近で見て、実際に剣を交えたからこそわかる。

 圧倒的な剣術センス、並外れた吸収力、飽くなき向上心、たゆまぬ努力、それに何より成長速度が並外れていた。


「そ、それは本当ですかっ!」


 リリアンは顔を上げ、目を輝かせた。
 俺たちは今、稽古後の柔軟体操をしている。


「ああ。まだ修行を始めたばかりじゃが、ギル坊との実力差が少し縮まったぞ。お主も成長を実感しているのではないか?」
「はいっ。それに最近ずっと調子がいいんです。これもハウゼン様が弟子にしてくれたおかげです」
「ほっほっほ、そう言われると嬉しいのう。よし決めた。今日からわしはリリちゃんの味方じゃ」
「ありがとうございます!」
「うむ。まずはギル坊に一矢報いることから始めよう。大丈夫、付け入る隙はあるぞ」
「……あの、それ俺がいる前で言わないでもらっていいですか?」


 柔軟体操を終えた俺は立ち上がり、ハウゼン師匠にジト目を向ける――そしたらすぐに目を逸らされた。


「さて、そろそろ儂は帰ろうかのう。お主らも身体が冷えないうちにはよう帰って休みなさい」


 ハウゼン師匠は口早にそう言って、俺に「戸締り頼む」と鍵だけ預けて帰ってしまった。


「待たせちゃってごめんね」
「気にするな。お前のペースでじっくりやればいい」
「ふふっ、ありがと」


 にこっと微笑んで、リリアンは柔軟体操に戻る。
 俺も見習って念入りにすべきだろうか。どうも苦手なんだよな。昔から身体も硬いし。


「……なんかエッチな視線を感じるわ」
「よーし鍵閉めて帰るかー」
「じょ、冗談よ!?」


 待っている間、暇だったので剣を振っていた。
 隙あらば素振りをする俺を見て、何故かリリアンは若干引いていた。
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