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仁ある所に全ての徳集まる(3)

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 まあ……、これは犬猿の仲というものかしら?

 サジェッツア伯爵家といえば、コルテジア家と並ぶ有力貴族のひとつ。

 その娘同士が仲が悪いって、どうしてなのかしら……。

 ジュスティーナ・サジェッツア様がムッとした顔を鼻息で払って、私に向き直った。



「ごきげんよう、ミラ様。ミラ様って呼んでもいいかしら?

 プレモロジータ家の華々しい躍進については耳にしていましてよ」

「もちろんですわ。私も父からサジェッツア伯爵家には大人も顔負けのとても優秀なご令嬢がいらっしゃると聞いておりました。

 ジュスティーナ・サジェッツア様、お会いできて光栄ですわ」

「んふっ、ジュスティーナで結構よ。まあ、自慢ではありませんが、私古今東西の本を読破するのが趣味なんですの。

 ミラ様も知りたいことがあったらなんでも私にお聞きになってね。どんなことでもお答えする自信がありますわ」

「それはすごいですわね……」

「頭がいいからって、鼻持ちならない女性は男性に敬遠されるだけですわ!

 五年後を見ていなさいな! きっとジュスティーナは誰からも見向きもされずにひとりで部屋に閉じこもって本にかじりついているに決まっているのよ!」

「あなたのように人の見てくれや礼儀作法の端から端まで針でつつくようにして眺めて批判するほうが、人として敬遠されると思いますけれど!?

 それに知識はどれだけあっても役に立つことはあれども、重荷になることなどありませんのよ。

 あなたもジェラルディ・バイロンの学問のすすめを一度お読みになったら?」

「まあ、懐かしい……。私も読みましたわ、学問のすすめ」

「まあ、ミラ様も!?」



 ジュスティーナがぱっと目を丸くした。

 とはいえ、私が読んだのは十五歳になってから。

 本格的に国土の歴史や経済、近隣諸との戦歴や外交を学び始めたころ。

 学問のすすめというタイトルからして、入門書のような体に思えるがとんでもない。

 セントライト国では王宮勤めの文官は、これに精通していないと昇進できないと言われているほどの超難問書。

 十三歳が読むにはかなり難しい本だったと思うけれど。



「まあ、あなたって大したものですわ! 私でも読み終えたのは最近ですのに……!」

「ええ、私はたまたま……。でも、なかなか難解な読み物でしたのに、ジュスティーナ様こそ、さすが噂にたがわぬ仙才ですわ」

「んふっ、仙才だなんて褒めすぎですわ! ねぇ、ミラ様! 一緒にいらっしゃらない? 私の家族を紹介するわ!」

「ちょっと! ミラは私の親友なのよ! その手を離しなさいよ!」

「親友!? さっき会ったばかりでしょ? その厚かましさこそマナー違反でしょ!」



 ――ちょ、ちょっと待って……!?

 両の手をそれぞれに引っ張られて、身動きが取れない……!

 いっ、いたたた……っ!



「ちょっと、いいかげん離しなさいよっ! ミラが痛がってるじゃないの!」

「あなたこそ離しなさい! 私が先にミラ様をお誘いしたのよ!」



 そのとき、離れたところから声が上がった。



「なにやってるんだ! アルベルティーナ、ジュスティーナ!」


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