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第一章<新しい世界と聖者の想い>
愛を求める人に向き合う
しおりを挟む目を開くと、グレゴールが覗き込んでいた。
俺は木暮が消えた事実を話した。
グレゴールは、真剣な目を俺に向けて問いかけてくる。
「コグレの想いは、伝わったかな?」
「うん、俺の心を守ろうとしてくれてた」
あのキスでいろんな想いが伝わってきて、一瞬、愛に包まれるってこんな状態なのかなと感じた程だ。
一方的に好きになったと言われたけど、俺の幸せを願っていてくれたのだから、答えたいと思った。
言葉で言えなかったけど、きっと見守ってくれているだろうから……。
「ステンと向き合ってくれるか?」
「うん」
ロベルト王子の問いかけに力強く頷く。
愛を求める人に、きちんと向き合う。
今度こそは。
グレゴールに手を引かれ、ステン王子の隣に寝転がった。
すうっと意識が落ちて、ステン王子の後ろ姿が見える。
「ステン王子!」
呼びかけると、ゆっくりと振り返ったステン王子が冷たい瞳で睨んでくる。
警戒はまったく解かれていない。
でも、怯むわけにはいかないのだ。
また吹っ飛ばされる前に進み出ると抱きついた。
正確には抱きしめたつもりだ。
ステン王子がびくっと震えたのを見逃さない。
――やっぱり。
「ステン王子、怖がらないでください」
「……怖いだって? なんで僕がお前なんかに」
「俺、わかるんです。俺とは違う怯え方だけど……誰かを受け入れたり、求めるのって怖いなって感じてるから」
脳裏には前世の記憶が蘇っていた。
ずっと孤独だったが、それは、勇気を持てずわざと人を遠ざけていたからだ。
それは、幼い頃、誰かに好意を拒絶されたのが原因かもしれない。
ステン王子は、母親の拒絶が辛すぎたんだろう。
だって、俺に愛してって言ってたんだから。
「お母さんが、異世界の魂を持ってたって言ってましたよね」
「だからなんだ! お前はお母様じゃない!」
「だったらなんで、俺に愛してっていったんですか?」
「そ、それは」
「壊れたステン王子が俺に愛してって言ったのは、魂のニオイにひかれて愛をもとめたんでしょう? お母さんの……」
「……っ」
ステン王子の瞳を見つめてさらに語りかける。
「俺でいいなら、甘えて下さい」
「!?」
「それで、少しでもステン王子が安心するなら、その魔力を誰かの為に使ってもいいって思えるなら……俺に甘えて八つ当たりしていいです」
「ナオキ、どうして」
「愛とか恋についてうとくて分からないけど、誰かを傷つけるのは……嫌なんです」
溢れる想いは全て吐き出した。
後は、ステン王子の心を信じるだけだ。
しばらく無言で見つめ合い、ステン王子が口を開く。
「兄上を苦しめないでくれるか?」
泣きそうな顔で聞かれて、どう答えるべきか躊躇する。
「よく考えて行動するから、心配しないでください」
「……約束だぞ」
ステン王子は俯くとそっと俺に抱きついた。
瞳を閉じて開いたら、今度はステン王子と共に目を覚ましていた。
ロベルト王子が、俺とステン王子を抱きしめて喜びを示す。
「よくやった! でかしたぞナオキ!」
「うぐぐぐ」
「兄上、ごめんなさい」
兄に抱きつくステン王子は、性格的に変化が見れなかった。
精神世界とは性格が違ったままだ。
だったらまだ壊れたままなのだろうか。
グレゴールがいうには別に特別な事ではないというが……心配にはなる。
双子の王子達はしばし抱きしめ合って、お互いに涙を流していた。
俺の言葉なんかで、ステン王子は救われたのだろうか。
やがて二人は笑顔となって楽しそうに笑っているのを見て、少しは役に立てたのだと感じて嬉しくなった。
「ナオキ、ありがとう。おかげでステンの精神が安定した」
「そっか良かった」
「これから婚姻の儀の準備をする。式を挙げたら騎士団を――」
「王子! それは全ての問題が解決してからにして下さい!」
グレゴールが語気を強めてロベルト王子ににじり寄る。
「な……」
「早く騎士団の出撃準備を整えて頂かないと、闇の国が滅んでしまう!」
「そ、そうか。それほどまでに危機を迎えているのだな」
「そ、そうです! エルフ王の手紙にも書いてあったと思いますけど」
「う、うむ」
「兄上、アンドリューを呼ぼう」
「……あ、ああ」
すっかりグレゴールのペースに巻き込まれたロベルト王子が、アンドリューという名を聞いた途端、暗い目になって顔を背けた。
それが少し気になった。
ほどなくして、騎士団長アンドリューは、王間に移った俺達の前に現れた。
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